盲目の男は空を飛ぶ   作:とあるP

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IS 006学年別トーナメント

 

ピピピピ…目覚まし時計のアラーム音で目覚めた祐樹は、音の出る方向へと手を伸ばしてアラーム音を止めた。

時刻は午前6時。今日も朝練に向かう為、祐樹は同室にいる簪を起こさないように、まだ慣れない手付きでIS学園のジャージ姿に着替えて白杖を手に取りグランドを歩いていた。

 

「イチ・ニ・イチ・ニー!」

 

遠くで運動部の練習を行っている声を聞きながら、祐樹は木陰で屈伸や関節を伸ばす準備運動をしていた。そして、とんでもない行動をしでかしたのだ。

 

『よし、行くぞ!』

 

それは、いつも手に持っていた白杖を木に立てかけて歩き出したのだ。フラフラとおぼつかない足取りだが、一歩、一歩確実に歩き出した。これは、有事の際白杖を無くても歩く訓練である。

 

そして、10歩くらい歩いたところで尻餅をついてしまった。額には玉のような汗を掻いているが、祐樹は確かな手ごたえを感じている。

 

『ハァハァ…普通に歩くってことがこんなにも、辛いなんてね…アハハ』

 

けれども祐樹は達成感に満ち満ちていた。普通の人には簡単な事だが、障害者である祐樹にとっては、過酷な事なのだ。

 

目が見えない恐怖。他の物や人との距離。人や物の未来予測がわからないのだ。だからこそ余計に神経を使う。そんな事が今日分かったのだ。

 

『よし。今日はこれくらいにしようかな。そろそろ朝食の時間だし急いで戻らないと…』

 

祐樹は再び白杖を持って自室に戻るのであった。戻ると既にIS学園の制服に着替え終わっていた簪がいた。簪は、祐樹の額についている汗を見て驚いていた。

 

『ただいま戻りました~』

 

「おかえり…どうしたの?そんなに汗を掻いて?」

 

『…ちょっと今日の訓練で疲れちゃってね。直ぐにシャワーを浴びてきますね』

 

「うん…先に行っているね」

 

『わかりました』

 

そう言って、簪は先に出ていった。祐樹は特に気にする事無くシャワーを浴びて、これまた慣れない手付きでIS学園の制服に着替える。

 

そして、白杖を持って食堂に向かう。その途中で箒、セシリア、鈴、一夏と出会った。セシリアは祐樹を見つけるなり、ダッシュで駆け寄り腕を絡めてくる。

 

「祐樹~!お待ちしておりました!」

 

『おっと!危ないよセシリア』

 

「祐樹なら、確実に受け止めると信じておりましたわ」

 

『そうなの?』

 

「はい!」

 

『そうなんだ…それよりもだいぶ近い様に感じるんだけど?』

 

セシリアは祐樹が見えない事をいい事に腕を思いっきり絡めてくる。周りからは「あそこだけ暑い」と言っているが、そんなことお構いなしである。

 

「こうでもしないと、祐樹の世話ができませんからね。仕方ありませんわ」

 

『そうかなぁ?』

 

「そうですわ!」

 

これ以上このイチャイチャを見てられないと悟った鈴は箒と一夏を連れて、先に食堂に行くようにした。

 

「あ~セシリア。先に食堂に行っているわよ」

 

「はい。直ぐに行きますわね」

 

「いや、直ぐに来なくてもいいわよ。2時間くらい…」

 

「鈴さん?それでは、食事が終わってしまいますわ。さぁ祐樹行きますわよ。(わたくし)の手を取ってくださいな」

 

『はい、はい。わかったよ』

 

そう言って、祐樹は手探りでセシリアの手を取った。セシリアはその手を愛おしいそうに、見ていた。

そして、ルンルン気分で食堂に向かって行く。そんな2人を柱の陰から見ている影が2つ。

 

「ぐぎぎ~セシリアちゃんめ~うら違った…妬ましいわ~」

 

「お嬢様。今羨ましいと思っていたのですか?」

 

「そ、そんな事ないわよ虚ちゃん!てか、虚ちゃんこそ羨ましいじゃないの?大事な愛弟子を取られた気分何でしょう?」

 

「…黙秘します」

 

楯無と虚が羨ましがるのは他ならない、祐樹とセシリアの事である。同じ学年で同じクラスメイト同士であれば、公然とイチャイチャ出来るのだからだ。

 

楯無は生徒会長と対暗部用暗部「更識家」の当主であり、うかうかと一般生徒に手を出せないでいた。

 

虚も生徒会役員に楯無の世話。更には整備科の首席であるため、後輩への育成等で忙しい毎日を過ごしている。

 

何とか二人っきりの時間を作れないかと画策していた。そして、ある提案を虚に持ち掛けたのであった。

 

「…ねぇ虚ちゃん。アタシイイ事思いついたんだけど…」

 

「物凄く嫌な予感がしますが…何でしょう」

 

「実はね…」

 

 

 

時間が進み放課後。今日の授業も実りのある内容だった。空間での間合いの取り方。武器の特性。近接攻撃や遠距離攻撃のメリットデメリット。

 

祐樹はいち早く自室に戻って復習をしたいと考えていたが、校内放送が鳴り始めた。

 

『1年1組高柳祐樹。1年1組高柳祐樹。至急生徒会まで来て下さい。繰り返し連絡します…』

 

『何だろう?』

 

「何でしょうか…祐樹1人で大丈夫ですか?何なら、一緒に行きましょうか?」

 

『大丈夫だよ。それよりもセシリアは部活に行かなくてもいいの?』

 

セシリアは入学後にテニス部へ所属している。自身がイギリス本国にいた頃かやっていたので、IS学園にきても続けている。

 

「むぅ~わかりましたわ。祐樹がそう言うのであれば…」

 

そう言って、セシリアはトボトボと教室を出て行った。祐樹は、放送していた生徒会を目指していた。

 

途中で女子生徒に聞きながら、生徒会室の場所を聞き出し遂にたどり着いた。そして、ノックをして、部屋の中に入って行く。

 

コンコン

『失礼します。1年1組高柳祐樹です』

 

「どうぞ」

 

ドアを開けると、正面に楯無。左に空白の席。右に虚が座っている。もう一つの席もあり、まだ座っていない。

 

祐樹はどうすればいいのか立ち尽くすと、楯無が座る様に促して、虚はお茶の準備をしていた。

 

「いらっしゃい。とりあえず適当に座って…ああ、そうだったわね。見えなかったのね」

 

『大丈夫ですよ』

 

「それじゃあ、こっちへいらっしゃい」

 

そう言って、楯無は祐樹の手をとり、ソファへと案内した。そして、ちゃっかり隣りに座っている。これには、虚もムッとしたが、ここは我慢である。

 

祐樹はここ(生徒会室)へ呼び出した理由を楯無に聞いてみる事にした。

 

『それで、ここに呼ばれた理由って…』

 

「それはね…うん?」

 

楯無が理由を話そうとした瞬間、生徒会室のドアが勢い良く開いて誰かがやって来た。

 

「お、遅れました~」

 

「本音…あれほど大事な話しがあるから、遅れ無い様に言っておいたのに…」

 

「えへへ~ごめんなさい」

 

そこに現れたのは、祐樹と同じクラスの本音だった。虚と話していると、どうやら本音も生徒会のメンバーのようだ。

 

本音は祐樹の存在に気が付くと、楯無とは反対側の席に座った。

 

「あ!ユウユウだ!どうしたの?」

 

『本音さん?どうしてここに居るんですか?』

 

「あれ?言ってなかったけ?私は生徒会役員なんだよ」

 

『え?そうなんですか』

 

「うん。だから、お姉ちゃんと一緒にここに居るんだぁ」

 

普段からポヤポヤとしている本音だが、やる時はやるのだと思った祐樹であった。そして、改めて楯無から、祐樹を生徒会室に呼んだ理由が聞かされた。

 

「役者は揃たわね。では、改めて祐樹君を呼んだ理由を話すわね。ズバリ、祐樹君を生徒会室役員と勧誘してきたのよ」

 

『へ?』

 

最初、何を言っているのか分からなかった。祐樹を生徒会に入れる?更に、楯無はとんでもない事まで言い出してきた。

 

「祐樹君には『生徒会副会長』を担当してもらうわ」

 

『え!?』

 

生徒会副会長。それは、実質的に楯無の次に偉いとなる。祐樹は、そこまでの実力はないと思っている。

 

『ちょっと待ってください!』

 

「え?副会長じゃ不満なの?」

 

『いや、不満っていうか…僕には早すぎるかと…』

 

確かに実力はそんなに高い方ではない。クラス代表決定戦でもセシリアには負けてしまったし、一夏には、戦術的には勝利したが実力では勝てていない。

 

そんな彼をいきなり副会長の職に抜擢する楯無。これには裏があるかもしれない。祐樹はとりあえず保留する考えでいた。

 

『えっと…とりあえず保留って形でいいですか?いきなり言われたので、心の整理がついていないというか…』

 

「あらそう。私としては、今すぐにでもOKなんだけどね」

 

「私も同じ考えですね。祐樹さんが傍に居れば、お嬢様のサボり癖が治りそうなので」

 

「う、虚ちゃん…」

 

ジト目で楯無を見る虚。確かに楯無にとっても、虚にとってもプラスになる出来事である。

 

『あはは…』

 

苦笑いになる祐樹。けど、そんな自分を必要としていると思っていると、少しだけ嬉しい自分がいた。

 

「わかったわ。祐樹君の考えを尊重するわ」

 

『ありがとうございます』

 

「それじゃあ、お茶にしましょう。虚ちゃんが入れる紅茶は格別なのよ♪」

 

「わかりました。本音、運ぶのを手伝ってちょうだい」

 

「は~い」

 

こうして、祐樹は生徒会副会長の職を保留とした。そして、虚が淹れた絶品の紅茶をみんなで楽しんだ。

 

 

生徒会室でお茶会を楽しんだ祐樹は、自室に帰ろうとしていた。ところが中庭に差し掛かった時に、何処からすすり泣きが聞こえた。

 

微かな音を聴きながら、音のする方へと向かうとそこには、鈴がベンチに座って泣いていた。

 

「ひっぐ…ひっぐ…アンタは確か、祐樹だったかしら?」

 

『凰さん?どうしたんですか?』

 

「別に…何でも…ないわよ」

 

『そうですか…』

 

「ええ、そうよ…」

 

『…』

 

「…」

 

数秒の沈黙。それを破ったのは鈴だった。如何やら訳ありのようだった。

 

「…やっぱり…ちょっと…聞いてほしい…かな」

 

『ええ、いいですよ。僕で良ければ』

 

鈴から話しを聞くと、以下の通りだった。

 

・今日の訓練後珍しく一夏と2人っきりになり、小学校時代の話しになった。

・鈴は転校する時にある約束をした。それは、「大きくなったら毎日酢豚を作ってあげる(・・・・・・)」と言った。それは、鈴曰く日本の「毎日味噌汁作ってあげる」と同じ意味だったらしい

・しかし、一夏は何処をどう間違ったのか「毎日酢豚を奢る(・・)」と勘違いしていた。

・それに怒った鈴は「馬鹿!」と言って、一夏に平手打ちをして逃げてきた。

 

それを聞いた祐樹は、苦笑いをしてどうすればいいのか考えていた。

 

『それは…何とも言えないね』

 

「でしょ!まったくもう…本当に一夏は唐変木なんだから」

 

鈴はプリプリと怒っているが、祐樹は策を見出していた。

 

『それなら、もうすぐでクラス対抗戦があるじゃないですか」

 

「そうね」

 

『その時に、一夏君に勝って何か約束とかしてみたらいいんじゃないですか?』

 

「例えばどんなの?」

 

『そうですね…一緒に出掛けるとか、お昼休みを一緒に過ごすとか』

 

「ほうほう」

 

『いきなり、本命(告白)をするよりも、段階を踏んで行った方がいいですよ』

 

「そうなの?…何だか、実際に体験した様な言い方ね」

 

『…そんなことないですよ』

 

「そうね…分かったわ。それじゃあ、私は行くわね」

 

『ええ、頑張ってくださいね!』

 

「ありがとうね。それとごめんなさいね」

 

『え?』

 

「アンタの事何だか頼りなさそうに見えたけど、そんなことなかったわね」

 

『あはは…よく言われるから大丈夫ですよ』

 

「それと、アタシの事は鈴でいいわ。皆言っているんだし。アンタの事も祐樹って呼ばせてもらわね」

 

『はい!』

 

そう言って、鈴は笑顔で帰って行った。それを見届けた祐樹も自室に戻った。

 

 

 

 

次の日。朝早くからトレーニングをして自室に戻ると、簪が朝食に、一緒に行こうと言い出してきた。

 

『ただいま戻りました』

 

「…おかえり。その…今日の朝食…い、一緒に行かない?」

 

『ええ、いいですよ』

 

簪と一緒に食堂へと向かった。そのシーンをバッチリとセシリアに見られていた。

 

「ぐぬぬぬ!祐樹~私という者が居ながら、他の女狐と食事に行くなんて~!」

 

「何をやっているんだセシリア」

 

「箒さん!私の祐樹が他の人と一緒に朝食を食べに行ったんですよ!どうしましょう!」

 

「落ち着け。あれは、ルームメイトだろ。大丈夫だ」

 

「ですけど…」

 

そんな事を尻目に祐樹は簪と朝食を楽しむのであった。そして、セシリアの枕が濡れる日々が続いた。

 

月日は流れてクラス対抗戦当日。結局一夏は鈴に謝る事もせず今日を迎えてしまった。

 

そんな中での抽選結果は…

 

第一試合

織斑 一夏 VS 凰 鈴音

 

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