畜生界で起こった異変の後、人間霊の管理体制を見直し、三組織で話し合って冬休みという名の定期的な停戦協定を結んだ。

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これはとある組織が秘密裏に開催している東方物書綴の第9回に出した作品です。

冬テーマの話を春に投稿していることはお気になさらず。


畜生界初めての冬休み

理性無き愚か者共が死後に行く所とされる畜生界。

究極の弱肉強食の世であったが、今は動物霊が徒党を組み、組織間で抗争が行われるようになっている。

畜生界で最弱の存在であった人間霊は、霊長園で動物霊に管理され、万能奴隷として散々な扱いを受けていた。

しかし、動物霊は埴安神袿姫による人間霊の暴徒化によって窮地に立たされる。

そこで、「鬼傑組」「勁牙組」「剛欲同盟」が一時的に手を組み、地上の人間の力を借りてこれを鎮圧させた。

これで元通りになる、と殆どの動物霊たちは安堵したが、鬼傑組の組長である吉弔八千慧は再発の可能性を考慮し、ある提案をした。

それは「年末年始の停戦期間を設けること」であった。

前までは毎日至る所で争っており、それに合わせて人間霊を使い倒していたのを、年末年始に休ませる事で暴徒化のリスクを軽減することが目的である。

初めは反発が強かったものの、停戦期間中は人間霊を働かさず、三組間の争いをしない代わりに「抗争や略奪が無ければ互いの縄張りで何をやってもいい」という条件で案が通った。

こうして畜生界の一部で初めて「冬休み」が制定されたのである。

これは、そんな畜生界の冬休みの一部始終である。

 

 

 

鬼傑組総本部。八千慧が主に指示を発する場所である。

冬休み中は軽い作業と定期報告のみで、下っ端も幹部も殆どの時間は自由にしている。

「本日も全班異常ありません」

「霊長園の様子は?」

「付近を通った者からは、目立った変化は無い、と」

「そうですか。御苦労、行って良し」

鬼傑組が所有する人間霊は働かせない間、霊長園に預けられている。

八千慧が袿姫を一方的に説得して、他の組織に奪われないように保護して貰うことになった。

あの一件の後、弱体化した袿姫を何とか利用できないか考えていたのだ。

「勁牙組は馬鹿の集団、剛欲同盟は統率がなっていない、停戦協定を結んでない小集団は弱体化した偶像で十分。この時間にたっぷり準備ができる分、この『冬休み』で一番得するのは我々、鬼傑組……」

 

バッターン!

 

不意に、扉が勢いよく開かれる。

「おい吉弔!いるか?」

そう言いながら入ってきたのは、カウガールのような服装で、漆黒の髪と背にある翼が目立つ女。

勁牙組の組長、驪駒早鬼だ。

「あなたが何故ここに?!」

「『抗争や略奪が無ければ互いの縄張りで何をやってもいい』ってことはよ、相手の本部に入るくらいはいいってことだろ?こんなチャンス滅多にないし、酒飲みながら話でもしようよ」

早鬼の手には酒瓶。

水音もあることから本当に飲みに来たのだろう。

八千慧は早鬼に他の目的が無いことを知ると、大きな音を聴いて様子を見に来たカワウソ霊達に説明し、解散させた。

その間早鬼が辺りを見回しながら杯が無いか聞くので、杯の代わりに湯呑を2つ出す。

早鬼は不服そうだったが、それぞれに酒を注ぐ。

そして各々が勝手に飲み始める。

「ここは炬燵が無いな。冬は炬燵に入りながらこいつを呷るのがいいんだけどなぁ」

片手でテーブルの下を仰ぎながら話す早鬼に八千慧が返す。

「ここは家じゃないのに、あるわけないでしょう」

それを聞いた早鬼はつまらなそうな顔をした。

「私はうちの本部の最上階をそういう場所にしてるぜ?」

些細なこととはいえ、相手に自陣のことを話すのは阿呆だ。

そう思った八千慧が煽るように訊ねる。

「そういうこと敵の前で言っちゃっていいんですか?」

「いいんだよ、どうせそこまでたどり着けないさ」

そう言って早鬼はその事で自慢話を始めた。

この展開は今に始まったことではない。

いつもならここで八千慧が言い返して口喧嘩が始まるのだが、もしこれを聞いた両者の部下達も混ざってきてしまったら収拾がつかなくなる。

そうなれば提案者である八千慧の鬼傑組がもうひとつの勢力に狙われて不利になるのは明確。

それは回避したかった八千慧は

 

ガンッ

 

とテーブルを鳴らして立ち上がって言った。

「表に出る。ついて来なさい」

早鬼の反応を待たずにその手を引っ張って部屋を出る。

そしてそのまま本部の建物を出た。

 

 

 

本部を出ると八千慧は真っ直ぐ目的地に向かって飛び出した。

それについて行く早鬼。

「おい、何処に行くつもりだ?」

「あなたの家自慢が煩いので場所を変えます」

飛んでる途中、鬼傑組の勢力圏だというのに所々にオオカミ霊の群が見える。

それについて八千慧が早鬼に追求すると、オオカミ霊達はやることが無いので勝手に色んな所に遊びに行っているらしい。

八千慧は偵察を怪しんだが、部下達の前で堂々と馬鹿騒ぎしているところを見るに、悪くて悪戯程度だろう。

何かあればホームは鬼傑組の方。

いつでも隣の阿呆を闇討ちできる。

その余裕があってか、それ以上は追求しなかった。

そんなことをしている内に目的地に近づき、細い隙間のような道になり、数多の分かれ道をジグザグに進んだ。

その先にポツンと建っている店、そこが目的地だった。

「ここは私の行きつけの居酒屋です」

窮屈な道を進んだため、早鬼は大きく伸びをしながら

「はぁーめんどくさい所に店があるなぁ」

と言って八千慧より先に店に入っていった。

「お、結構広いじゃん」

先程までの道からは考えられない開放感のある店内はまるで仙人の住む空間のよう。

天井が高く、余裕を持って配置されたテーブルと席は客ひとりひとりに配慮した設計なのだろう。

早鬼は広いテーブル席には目もくれず、カウンター席に座る。

その隣に八千慧が座ると、早鬼が椅子を詰めて来た。

それに八千慧が眉をひそめていると、店員らしき動物霊が奥から出てきた。

「あ、いらっしゃいませ姐さん!やっと来てくれたんすね!アレ?!これはこれは勁牙組の組長さんまで?!これはどういう……」

出てきたのはアシカ霊。

この居酒屋を彼一匹が切り盛りしている。

早鬼が来たことに驚いていたが、直ぐに切りかえて注文を取る。

2人が注文を済ませると酒の用意と料理を始めた。

「それにしても、こんなに広いのに客いないのね」

「だって、まだ準備中ですもん」

「そうかい。なら普段はどうなの?」

「まあまあ来ますよ。準備中だったからまだあそこしか道開けてませんが、営業中はすぐそこに道を開けるんで。実はなかなか良い立地なんすよ」

そんな話をしていると料理がでてきた。青魚の切り身を軽く炙り、赤黒いタレをかけたもの。

八千慧が先に一口いただく。

身の控えめな旨みに炙られた皮の香ばしさ、タレの酸味と舌を少しヒリつかせる辛味が次々に飛び込んでくる。

「やはり、ここに来たらこれですね。酒が進みます」

それを見た早鬼が奪う様に同じものを取って口に入れる。

「確かに酒は進むが……なかなか独特な味だな」

早鬼にとってはあまり馴染みのない味付け。

それも当然、組織によって構成員の種が違うので、それぞれ好みの味が違うのだ。

「私はやっぱりこういうシンプルのがいいわ」

早鬼は次に出てきた魚の揚げ物を食べ始めた。

 

 

 

飲み始めてからしばらく経って、早鬼は店が出した酒で酔っていた。

「おうおう、うちのモンが世話になったってーのはおめーかぁ?」

「あっしか? アシカだけにあっしかってな?」

「「あっははははははは!」」

こんな調子のやり取りが続いている。

酔っている素振りの無い八千慧は窓の外を見る。

店に入った時とは違い、動物霊が多く通りがかっている。

「コホン、そろそろ開店時間では?」

「ああ! もうこんな時間でしたか! ということはもうお開きですかね?」

「はい、もう出ます。ほら! 行きますよ!」

八千慧が早鬼を引っ張って出口へ誘導する。

その後にアシカ霊の方を向き、

「アレはもうできてますかね?」

と訊く。

「もちろんできてますぜ」

アシカ霊は奥の方に入っていき、1つの水筒を持って出てきた。

八千慧が中身を確認する。

「では、来月分はこれでチャラにしましょう」

「ありがとうございます!」

その水筒を持って、アシカ霊に見送られながら八千慧は店の外に出て行った。

 

 

 

「二軒目に行くんだろ? 早くいこうぜ」

「行きません。もう用は済んだのでどっか行きなさい」

八千慧が拒否しても早鬼は着いてくる。

それどころか水筒に興味を示した。

「なあ、その水筒の中身はなに?」

「話を聞いてました? ……これは味噌汁……ということにしましょうか」

調子に乗った早鬼がその「味噌汁」を奪おうとするが、八千慧は反対側に水筒を持った手を伸ばし、取られまいとする。

その時、八千慧の手から水筒が消える。

八千慧が振り向くと、そこには饕餮文の入った水色が基調のワンピースのような服に、白髪と青いリボンを巻いた真っ赤な角が特徴的な少女、饕餮尤魔がいた。

「水筒を持ってるなんて珍しいなぁ。特別な酒かなんかか?」

尤魔はすぐさま水筒の中身を一口飲む。

尤魔の顔が引きつる。

「なんだこの不味い飲み物は?」

口直ししたくなった尤魔はちょうど早鬼が持っていた酒瓶を奪い、ラッパ飲みした。

「ああ! 私の酒ぇ!」

「ぷはぁ! まあまあ驪駒よ、飲みの帰りだろ? もう一軒行けばよかろう。折角敵地で自由にできるんだからなぁ」

2人の敵の長が集まってしまい、呆れてしまった八千慧だが、このまま2人を放っておくわけにもいかず、二軒目、三軒目と酒場を一緒に回ることになってしまった。

 

 

 

更にしばらく経った後、3人は路地裏に座っていた。

早鬼はかなり酔っており、自分の組を自慢し続けている。

尤魔はその話を聞いて笑っている。

八千慧はその様子を見てため息をついていた。

 

ガシャーン!

 

「何事ですか……?」

ガラスの割れる音に気づいた八千慧は通りに出た。

そこには辺りのものを強奪して回るオオカミ霊の群が居た。

八千慧は路地裏に戻って早鬼の胸ぐらを掴み

「ちょっと来なさい」

と言い、返事を待たずに水筒の中身を無理やり早鬼の口に一口分流し込む。

「ぐっ!?」カクンッ

一瞬苦しみ、気絶した早鬼を八千慧が現場まで引きずり、平手打ちで叩き起して脅す。

「これはどういうことでしょうか?」

酔いが覚めた早鬼が返す。

「……最強のウチらがこんな卑怯なことするはずねぇよ」

「こんな時も自慢ですか、そうですか。ならぶち殺しても文句はありませんね」

返答を聞いた八千慧はオオカミ霊の群に向かっていった。

「待て……しょうがねぇな!」

早鬼も続いた。

出る時に路地裏を振り返ったが、尤魔はいつの間にかいなくなっていた。

 

 

 

八千慧は近くに居たカワウソ霊たちを呼び集め、多方向からオオカミ霊の群を攻める。

早鬼は正面から飛び蹴りで突っ込む。

オオカミ霊が怯む様子も無く反撃してくる。

「おらぁ! 根性叩き直してやらぁ!」

早鬼の飛び膝蹴りで1匹、着地して後ろへの回し蹴りで1匹とオオカミ霊が吹き飛ばされる。

また四方八方からくるカワウソ霊たちの猛攻で数匹のオオカミ霊が組み伏せられる。

しかし、傷も気にせずオオカミ霊たちは反撃してくる。

「あれ? なんかいつもよりタフじゃね?」

「組長! アイツらいつもより面倒ですよ! それにあっちは何で仲間割れしてるんですか?」

「……私が焚き付けたからですよ。私も攻撃に入るので撹乱しなさい」

戸惑うカワウソ霊にもう一度指示し、孤立したオオカミ霊たちを片っ端から殴り、蹴り、尻尾で叩きつけた。

早鬼もオオカミ霊たちを蹴り続け、何匹かは動かなくなった。

すると、オオカミ霊から小さな粒状のものが出ては消えていった。

「なるほど。そういう事ですか。奴らがやりそうな事ですね」

奴ら、それは鬼傑組、勁牙組、剛欲同盟に続く大勢力である正体不明の組織である。

そこは卑怯なやり方を得意としており、その隠密さ故に全貌が未だに不明だ。

八千慧はその組織の関与を直感した。

「まあ、分かったところでやれることは変わりませんが」

引き続きオオカミ霊たちをしばき回り、やっと事態が終息した。

カワウソ霊たちが雄叫びを上げる。

「これで貸しができましたね」

「いやいや、私もやったからノーカンだろう」

「元はと言えばあなたの組が──」

2人が余韻に浸っている所に尤魔がやって来た。

「ここから少し離れたところでこいつを捕まえてきたぞ」

そう言って放り出されたのは目が大きく、奇妙な形状をした蜥蜴のような動物霊であった。

「こいつ、なかなか口割らないからよ、どうしてくれようか?」

「それなら、丁度いいものが」

八千慧があの水筒を持って来てその動物霊にチラつかせる。

「毒か? 死んでも口を割る気はないと言っているだろう」

しかし、水筒の中身を一口飲まされると

「不味ぅぅぅぅ! なんだこれはぁ!」

「どんな者が飲んでも不味いと感じる魔法のスープですよ」

そして、二口、三口、少しずつ飲まされていくと、その動物霊は悶え苦しみ

「ぐぅ……殺……せ……」ガクッ

あまりの不味さに気絶してしまった。

「ふむ、もう少し薄めて使うべきでしたかね」

「用は済んだな。じゃあこいつは貰ってくな」

その隙に尤魔が素早く気絶した動物霊を連れて帰っていってしまった。

八千慧は反応が遅れて連れ戻すことが出来なかった。

「しまった! あいつ……!」

しかし、後悔する暇もなく

「ああ、すっかり覚めちまったな。吉弔! もう一軒行くぞ!」

「はぁ?! まだここで飲むんですか!」

残った早鬼にまたしばらく付き合う羽目になった──


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