ナツたちと共にS級クエストを達成した報酬として、金の鍵を手に入れたからだ。
ただの鍵ではない。黄道十二門という強力な星霊を呼び出せる代物だ。世界に十二本しかないため、星霊魔導士にとっては喉から手が出るほどの珍品。
これでさらに戦闘の幅が広がるだろう。
「だが、掟を破った罰はちゃんと受けてもらうからな?」
「はい…」
鮮やかな緋色の髪が特徴的な鎧女──エルザ・スカーレットに水を差され、ルーシィはしゅんとする。
いったいどんな罰が待っているのだろうか?
「まぁ、どんな罰を下すかは決めるのはマスターだ。だが、そうだなぁ…もし、執行人に
「ジル?」
聞き慣れない名に対して、ルーシィは首を傾げた。
名前からして恐らく女性だろう。だが、それなりに覚悟しておけとはどういう意味だ?
「ま、まさか、
「ふざけんな!! ジルだったら絶対
「
ハッピーと、グレイ・フルバスターがひどく怯えはじめ、ルーシィの不安は一気に大きくなる。具体的に言ってくれないものだから尚更だ。
「大丈夫だって!」
そんな中、掟破りの主犯──ナツ・ドラグニルだけが楽観的に笑った。
「どうせ、ジルのことだから仕事で帰ってきてねぇだろ? とりあえず
「いや、ミラの話が本当なら昨日帰って来てるはずだ」
エルザに即否定された瞬間、ナツの笑顔が凍りついた。
「いやだぁあぁあぁあぁあーーー!!!
「だから
ルーシィは泣きじゃくった。
いったい何をされるというのだ? 全裸で街中を歩かされるのか? 耳の中に生きたムカデを入れられるのか? はたまた死体洗いでもやらされるのか?
さまざまな憶測が巡る中、ジルという人間に関して
「ザコ」
「タバコくさーい」
「おっかねぇ」
「顔だけのクズ」
「とりあえず良い人ではないってことね…!!」
ナツ、ハッピーの意見は全く参考にならないが、グレイ、エルザの言葉だけでもそう評価せざるをえなかった。
他人の噂で判断するのは人道的に正しいとは言えないが、どうしても身構えてしまう。
そして、
「気にする必要はない。人道的など、奴にもっともふさわしくない」
先ほどからエルザの言葉は辛辣だった。
「アイツは仲間でさえもどうでもいいと思っている奴だ。倫理や感情よりも、効率性を最優先する。言っていることに一理あるから、尚更
「普段は悪い奴じゃないんだがな。何考えてるかわかんねぇけど」
グレイが肩をすくめながら、せめてものフォローをした。
ふたりの言葉を聞いて、ルーシィは曖昧に相槌を打つことしかできなかった。
自分とて、自ら生まれ育った家を出ていった身だ。後悔はしてないが、他人のことをどうこう言えるほど清く、正しく生きてはいない。
そのときだった。
「やあ、エルザたち。無事帰ってきたようだね」
背後から、
いったい誰だ? ルーシィは振り返る。
その瞬間、〝彼〟と初めて
その男は、何故か礼服を着用し、左手だけ手袋をはめていた。漆黒の髪を腰まで伸ばし、特徴的な外見をしている。
だが、女性のルーシィがもっとも注目したのは、
──な、ななな、何この人!!? 超イケメンーーーーーーーーッ!!!!!
その圧倒的な相貌であった。
ナツやグレイも非常に整った、男らしい顔立ちをしている。だが、中性的な美をたたえた、目の前の男とは全く系統が違う。
女でも嫉妬してしまうほどの、半神じみた美貌を有していた。
──背たっか!! 肌めっちゃ綺麗!! でも、目死んでるッ! ほっそ!! 髪つやっつや!! でも、目死んでるッ!!
唯一欠点をあげるとすれば、濁った灰色の瞳に生気が感じられないところだった。だが、それでも世の女性を喜ばせるのに十分な容姿であった。
「出たな、一流詐欺師」
男の美貌に見惚れるルーシィとは対照的に、エルザは露骨に嫌な顔をした。
「ちょうどお前の悪口を言っていたところだ」
「いつものことではないか」
真っ向から
すると、「ああ、そうだ」と何かを思い出して、指を鳴らした。
「君の顔を見て、思い出したよ、エルザ。この間、オシバナ駅で駅員数名に暴行を振るったそうじゃないか。それだけでなく、レンタルした魔道四輪を破壊しては、別のものを盗難。あまつさえ、定例会の会場まで全壊──まぁ、そのことに関してだけは君ひとりの責任ではないが、たった一日でよくもここまでギルドの名を汚してくれたものだ。呆れを通りこして、涙が溢れそうだ」
「うっ…!!」
何らまぎれもない事実を突きつけられ、‶
「い、いや、あのときは
「当然、その事情を込みで話している。それと…」
──す、すごい…!! エルザ相手に真っ向から批判する人がいたなんて…!!!
なおも、エルザに言葉の追い打ちをかける美青年を見ながら、ルーシィは仰天した。
彼女が初めてエルザ・スカーレットを目にしたときは、
それは決して悪意で言っているのではなく、エルザ自身が間違ったことが嫌いなだけでなく、何より世話焼きなところがあるため、仲間たちひとりひとりに愛情をもって言っているのだ。
だが、彼女も彼女で、やはり‶
正しさにこだわっていても、感情の抑えが利かないところがあり、そのうえ強引で、暴力的だ。
それを批判しようにも、相手は
だが、喪服の青年だけはエルザに対して全く怖れていない。次から次へと紙のない罪状を読み上げている。
「君は素晴らしい魔導士だが、もう少し感情と魔法をコントロールできるようになりたまえ。君は誰よりも、正しくあらねばならない」
「ええい、わかっている…!!」
──もしかして、この人がジルさん?
ルーシィは凛々しい横顔を見た。エルザの口ぶりからして、目の前にいる男が
名前からして女性かと思いきや、まさか男性だったとは。だが、不思議と違和感がない。ルーシィが驚いていると、灰色の瞳を向けられた。
「…君、もしかして新人のルーシィ、ではないかね?」
「…えっ、は、はい。そうです」
突然美男子に話しかけられたものだから動転しつつも、かしこまって首肯した。すると、相手は柔らかい微笑を浮かべた。
「そうか。初めまして、私はジル・アイリス。よろしく」
「あ、はい、ルーシィです。よろしくお願いします」
丁寧な所作で挨拶され、ルーシィも深々とお辞儀した。
ジルという人間がどんな人かと思いきや、皆が言うほど意外と良い人では? と彼女は思った。
礼儀正しく、人当たりの良い笑顔を浮かべている。グレイも普段は悪い奴じゃないと言っていたから少し安心した。
だが、このときルーシィは気付いていなかった。彼女を見るジルの瞳が、何かを探るような鋭い目つきになっていることを。
しかし、それは一瞬のことで、彼はすぐに作り笑いに切り替え、初対面の新人とにこやかにコミュニケーションをはかる。
「君のことはミラジェーンから聞いているよ」
「え、ミラさんから? いったいどんな…」
ルーシィは期待半分、懸念半分の気持ちで聞いてみる。
するとジルはこめかみに指を当て、「少ししか聞いてないが…」と前置きしたうえで昨夜の会話を反芻する。
「とても良い子であると」
「い、いえ、そんな──」
「あと、ギルドの掟を破ったと」
──ダメだ、印象最悪だッ!!!
頭を抱えたくなった。〝とても良い子〟が掟を破るわけがない。
元凶はナツとハッピーではあるが、報酬欲しさにホイホイついていった自分も同罪だ。しかも、新人という立場だから余計に印象が悪い。
だが、ジルは気にしてないとばかりに首を振った。
「大方、ナツ君たちに巻き込まれたとみた。起きてしまったことは仕方あるまい。対策なり、S級クエストの参加条件を見直すなり、マスターたちと交えて協議するとしよう」
「はい…すみませんでした…」
「いや、謝らなくていい。罰は受けてもらうことになるだろうが、
「どういう意味だ?」
エルザが疑問を投げかける。
もしや、ギルドに何かあったのではないかと剣呑な顔つきになる。
「ああ、それは──」
ジルが昨夜の出来事を話そうとした、そのときだった。
「ジル!!!! 勝負だーーーーーーーー!!!!!」
それはまさに、
ほぼ不意打ちという形で
ジルはやれやれと言った表情で、腰のホルスターから魔導書を引き抜いた。
「あー、ナツ君? 少し待ってくれ。いつも言っているだろう。私は決闘などしな──」
喪服に包まれた長身が面白いように吹き飛んだ。ナツに殴り飛ばされたジルの身体はそのまま家屋の外壁に叩き付けられ、ぴくりとも動かなくなった。
シンプルで、アナーキーで、純粋な暴力のもと──ジルをたった一撃で撃破したナツはルーシィに振り返って、一言。
「な? 弱いだろ?」
「それだけの理由ーーーーー!!?」
何も今ここで証明しなくてもいいものを。
一瞬、〝え、強キャラ感出しておきながら弱っ…〟とは思ってしまったが、戦闘能力の高い
そんな中、
「ナツ!!!!」
女の怒号が響き渡った。
規律と誠実の鎧を着込んだ美女──エルザ・スカーレットが鬼の形相を浮かべている。
ジルのことを批判していた彼女とて、さすがにナツの行動はやり過ぎと思ったのだろう。
彼女は続ける。
「いいぞ、もっとやれ!!!!」
「いや、どんだけ嫌いなの!!?」
まさか激励するとは思わず、ルーシィはツッコまずにはいられなかった。
ジルと会ったばかりのため、まだ好きか嫌いかの判断ができないが、あまりにも酷い仕打ちではないか。
それほどまでの邪悪さが、ジルにはあるということなのだろうが…。
「ノビてる」
美青年の肩をゆすりながらハッピーがつぶやいた。
それを横目で見ながら「まぁ、ご覧通りだ」とエルザが説明する。
「こいつは基本的に一対一の戦いは苦手。特に肉弾戦は最弱レベルだ。不意打ちするか、仲間に囮になってもらわないとろくに能力を発揮できない」
「状況によっては、かなり
グレイがジルを肩に担ぐ。
「とりあえずナツはあとでミラちゃんにマジギレされんな。あーあ、俺しーらね。ざまぁ」
「い、いや、ちょっと待ってくれ!!
「自業自得よ…」
ルーシィは呆れるしかなかった。
いつもニコニコしているミラジェーンが怒っている姿は想像もできないが、
結局、ジルの口からギルドに何があったのか聞きだせないまま、ルーシィたちは再び歩きだした。
だが、程なくしてその答えが明らかになる。
鋼鉄の大柱に貫かれた
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