悪ノ華【妖精の必要悪】   作:ギュスターヴ

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第七話:幽鬼、進行

 幽鬼の支配者(ファントムロード)の再戦は、マグノリアの街で迎えうつという形に決定した。相手の狙いが妖精の尻尾(フェアリーテイル)とルーシィである以上、現在進行形で妖精のギルドに迫っていることだろう。

 であれば、把握している地形で戦ったほうが有利──とジル・アイリスが提案した。だが、それに反対する声は少なくはなかった。

 自分たちの住む街を戦場にすれば、勝ったとしても多大な被害を被ることがひとつ。もうひとつは、マグノリアの街は特に複雑な造りになっていないため、果たして自分たちに有利に働くとは思えなかった。

 もっともな反対意見に対して、ジルは思いも寄らない返答をした。「なに、ギルダーツに力を借りるまでだ」と。

 妖精の全員が首を傾げた。この場にいない魔導士の名を突然出されれば当然であった。いったいどういう意味かと問うまえに、ジルは説明した。

 

 それを聞き終えたあと、反対していた者たち全員が口を噤んだ。

 

 

 幽鬼の支配者(ファントムロード)を迎えうつため、ジルが自分の工房から引っ張り出してきたのは爆弾魔水晶(ラクリマ)数十個と、魔動四輪車二台、一〇〇丁以上のライフル銃だった。

 

「これ、全部お前が作ったのか?」

 

 エルザが訊ねると、「全部ではない」とジルは首を振った。

 

「魔動四輪は購入したものだし、銃に関しては安値で売られてた粗悪品だよ。魔力の弾丸を撃てるよう魔水晶(ラクリマ)を取りつけて、色々と改良を重ねた。趣味で作ったものだから性能にばらつきがあるがな」

 

 こともなげに言ったジルに対して、エルザは驚きを禁じえなかった。

 この男──魔導士としては強いのか弱いのかはっきりしないが、ときおり、複数人いるのかと思うくらいに万能すぎる(・・・・・)

 

 寒気すら感じさせる喪服の男はくすりと笑う。

 

「まぁ、うつけ(・・・)にあやかってみるのも趣があろう」

「うつけ?」

 

 何のことなのかわからなかったエルザであったが、特に追及したりしなかった。

 患っている(・・・・・)故か、この男はたまに変なことを言いだすときがある。

 エルザは銃を一丁、手に取った。

 

「銃がそこまで便利とは思わん。攻撃は直線的だし。当たらなかったり、弾切れをおこして、敵に近付かれたときのことを考えるとな。やはり近接戦闘のほうが性に合う」

「君らしい答えだ。だが、誰もかれもが君のように豪傑ではない」

 

 ジルは長い前髪を払った。

 

「銃の最大の利点は、射程の長さではない。ひとを戦いやすく(・・・・・)することだ。引き金ひとつで、住民でさえも戦士に変えられるんだからな」

 

 エルザは嫌な予感がした。

 

「お前…まさか…」

「ファントムとの戦いに、マグノリアの住民も快く参加してくれることになった。もちろん、身の安全の保障を大前提にな」

「何を勝手に…!」

「まぁ、聞きたまえ。これからファントムの軍勢が押し寄せてくるんだ。住民たちに何の説明もしないわけにもいくまい」

 

 ‶喪服の悪魔(メフィスト)〟は無表情だった。

 

「事情を包み隠さず説明したうえで、ルーシィの名前を出したら‶自分たちも協力させてくれ〟と言ってくれてな。彼女はよほど人望に厚いようだ」

「お前と違ってな」

「私は住民たちには好かれている」

「お前が一流詐欺師だと知らないからな」

「まぁ、とにかくだ」

 

 矢継ぎ早に皮肉を言われても、ジルはまったく意に介してしない。

 

「いまは少しでも戦力がほしい。被害を最小限に抑えたうえで、果断速攻で勝利をしなければならない。マスターが戦線に復帰しないことを大前提にな」

「無茶を言うな。ただでさえ、勝てるかどうかもわからん状況なんだ。せめてラクサスがいれば…」

 

 エルザやミストガンの他にも、妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強候補のひとり──ラクサス・ドレアーという男がいる。彼はマカロフの実の孫で、人格に癖があるが、彼こそが最強と推す声は多い。

 そのラクサスに戻ってくるよう、ミラジェーンとカナが通信魔水晶(ラクリマ)を通して説得していた。

 だが、水晶の向こうで彼が何を言ったのか、普段穏やかな看板娘が突然魔水晶(ラクリマ)に拳を振りかぶった。甲高い音とともに粉々に砕け散る。

 

 ジルは肩をすくめた。

 

「やはりダメか。私は止めたんだがな?」

「そんなこと言ってないで慰めにいったらどうだ?」

 

 エルザがうながす。ミラジェーンの肩を抱いてるカナも、ジルのほうを見ながら ‶来い! 早く来い!〟 と口の動きだけで訴えている。

 

 水晶の残骸のまえで、ミラジェーンは泣いてはいなかった。拳を握ったまま身体を震わせている。

 それを一瞥したジルは冷めた反応をする。

 

浅薄(せんぱく)な言葉をかけるだけなら誰でもできる。放っておいたほうがましだ」

「お前な…」

 

 怒りを通り越して、エルザは呆れはてた。

 自分の女くらい優しくできないものか。この男は良くも悪くも、他人に対して非常に平等なのだ。

 何故、こんなドライな男をミラジェーンは愛しつづけることができるのか不思議でならない。自分だったら、五万回殺している。

 

「ジル、報告したいことが…!」

 

 声をかけてきたのは銃弾魔法(ガンズマジック)の使い手──アルザック・コネルであった。急いできたのか、少々息を切らしている。

 

「どうした?」

「ビスカがこちらに向かってくる集団があると」

 

 ビスカ・ムーラン──アルザックと同じく銃器を使った魔法を得意とする女性魔導士だ。彼女と、他数名に高台から見張りを頼んでおいたのだ。

 アルザックの報告に、ジルより先にエルザが反応した。

 

「ファントム…! もう来たのか…!?」

「い、いや…それが…」

 

 このときのアルザックは非常に歯切れが悪かった。

 

 

 

 川底(・・)を踏みしめるたびに、地響きを立てた。

 

 

 幽鬼の支配者(ファントムロード)のマスター──ジョゼ・ポーラは怒り心頭だった。

 目的のひとつ──ルーシィ・ハートフィリアを一度は確保したものの、隙を突かれて逃げられてしまったからだ。

 しかも、あろうことか背後からおもいっきり股間を蹴りあげるという卑劣な手を使って。

 

 両手を拘束していたため、油断していたのもあろう。だが、うら若き少女がバケツに排泄するところまで監視するわけにはいかず、小娘の言葉を信じて背を向けたにも関わらず、まさか金的攻撃をするとは。

 

 閑話休題。

 

 ルーシィ・ハートフィリアは、金のなる木だ。幸運にも、その父親から娘を連れ戻すよう依頼されたが、ただで返すわけにはいかない。

 大財閥ハートフィリア家の財産を全て、根こそぎ奪ってやろう。巨額の富を築くことができれば、幽鬼の支配者(ファントムロード)妖精の尻尾(フェアリーテイル)を大きく超える最上位のギルドとなろう。

 

 そのためにもルーシィを再度奪取する。そして、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドと、それに群がる小虫共を完膚なきまでに全滅させてくれよう。

 

 

 地響きが再度鳴りひびく。

 

 

 ジョゼは今、エレメント4と鉄竜(くろがね)のガジルを引き連れて、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドに向かっていた──己の城ごと(・・・・・)

 どうやって? 幽鬼の支配者(ファントムロード)(ギルド)は、あらゆる機能を隠し持っている。そのひとつが、城壁の側面に備えつけられている、歩行可能な六本の多脚。

 その多脚を稼働させて地上を歩き、河を渡り、じわりじわりと妖精の住処に進行していた。

 

「──マスター・ジョゼ」

 

 通信魔水晶(ラクリマ)で連絡を受けた魔導士のひとりがジョゼに報告する。

 

「支部の至るところから救難要請が…。突然あらわれた謎の男に支部を次々と壊滅されています。いかがなさいますか?」

「捨ておけ」

 

 ジョゼはにべもなく言い放った。いちいち支部など助けにいってる暇などない。

 

 謎の男というのは相当な腕利き──ギルダーツか、ラクサスか、ミストガンの誰かだ。包囲と人海戦術をおそれてのことだろうが、特に問題はない。

 いかにS級魔導士といえど、すべての支部を潰したときには疲弊しきっている。そこを叩くのはたやすい。

 

 行動に支障はない。

 

 六本の多脚が前へ、前へ、と進む。獲物を捕食しようとする蜘蛛のように、小虫が群がる巣窟に前進する。

 

 見えてきた──鉄竜(くろがね)のガジルに半壊された妖精のギルドが。

 何とも無様な姿か。応急措置のつもりか、申し訳程度にベニヤ板で補強し、いまにも崩れそうではないか。未練がましいハエ共が。

 その未練ごと、ことごとく粉砕してくれる。

 

「魔導集束砲──‶ジュピター〟用意…!!」

 

 ジョゼが部下たちに指示を出した。

 (ギルド)の外壁が開く。金属の擦れる音とともに長く、太い砲身が顔を出す。(ギルド)内に設置されている巨大魔水晶(ラクリマ)が魔力を生成し、高濃度に圧縮。

 破壊だけをもたらす魔力の砲弾を作りあげ──

 

「…ん?」

 

 その瞬間、何かを発見したジョゼが訝しげな顔をした。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドの前に、ひとりの男が立っていたからだ。

 

 鮮やかな青い髪、眉目秀麗な顔の右半分に刺青を入れた美男子。そして、男が身につけているのは魔導士を統括する者のみ与えられた白い制服。

 

──馬鹿な…。何故、()がここに…?

 

 魔法評議員にして、聖十大魔道(せいてんだいまどう)のひとり──天才・ジークレインそのひとだった。

 

『おやおやおやおや、これはこれは。ジークレイン殿』

 

 ジョゼは拡声器を使い、わざとらしく声をあげた。

 

『いったい…評議員である、あなたが何故ここに?』

「それはこちらのセリフだ、マスター・ジョゼ。何をしている? わざわざギルドを動かしてまで散歩をしにきたわけでもあるまい?」

 

 ジークレインはにやりと笑っている。

 相も変わらず、人を食った態度だ──ジョゼの苛立ちが募る。だが、評議員がいるなら、それはそれで好都合だ。

 

『ジークレイン殿…私はいま、非常にはらわたが煮えくり返っているのだ。何故だか、わかるかね? 妖精の尻尾(フェアリーテイル)だよ。あいつらはあろうことか、突然私のギルドの支部を攻撃してきたのだよ。建物だけではない…私の愛する多くの部下までもが、奴らの餌食になった。今すぐ確認をとってみてくれ。私は、理不尽な暴力を振るう彼らを許すわけにはいかない。あなたもそう思うであろう? これは重大な規定違反──即刻、審議会で弾劾するべきだ』

 

 できれば建物(ギルド)を全壊してやりたかったが、何もそこまでこだわる必要はない。

 ギルド間の抗争禁止の規則を先に破ったのは妖精の尻尾(フェアリーテイル)だ。それは紛れもない事実──ただでさえ普段から素行の悪さが目立つギルドだ。

 今度こそ、解散は確実だ。老いぼれの沈鬱な表情が目に浮か──

 

「いいや、ジョゼ。審議会に行くのはお前の方だ」

『………あ?』

 

 美男子の口から出た言葉は、少なくともジョゼにとっては予想外で、まともな返答ができなかった。

 ジークレインは続ける。

 

「お前のところの魔導士──鉄竜(くろがね)のガジル、だったか? そいつが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士三名に暴行をくわえているところを録画された魔水晶(ラクリマ)が評議院に届けられてな。いったいこれはどういうことなのか、マスターのお前に詳しく訊きたいのだよ」

 

 わざとらしく、大きく肩をすくめる。

 

「お前のような男だ。何故、こんなつまらんことをしたのか、想像するまでもない。まぁ。とりあえず。その。なんだ。お前の負け(・・・・・)だ」

 

 ミシリ…ッ、と空気が軋む音を立てたような気がした。

 それに気付いているジークレインは、わざと気付かぬふりをして、冷笑を浮かべる。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)は完全な被害者であることが証明されたからお咎めなし。お前は聖十大魔道(せいてんだいまどう)の称号を剥奪──これは確定している」

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)建物(ギルド)から、金髪の少女と他数名が出ていくのを、ジョゼはちらりと見た。

 

「ただ、闇ギルドをいくつか潰した実績があるから、今後のお前の態度によっては多少罰を軽くすることもできる──というのがジジイたちの意見なんだが、おれはとっととギルドを解散させたほうがいいと思うがな?」

『お前、さっきから──』

「ま だ お れ が し ゃ べ っ て い る だ ろ ?」

 

 (ギルド)を仰ぎみる青髪の男は、さぞ楽しそうに唇の端をつり上げた。

 

「ここのところ、幽鬼の支配者(ファントムロード)の素行の悪さが目立っててな。人数だけ(・・)無駄に(・・・)多いから、うまく管理できてないんじゃないか? 叩けばいくらでも埃が出てきそうだからなぁ、お前のギルドは。妖精の尻尾(フェアリーテイル)への逆恨みにうつつを抜かすからだ、老害(ボケナス)聖十(せいてん)だからって、あまり自信をつけるなよ。さっさとその、糞をひねり出すだけの(きった)ねぇケツをどかして、もっと有益で若い世代に座を譲り渡してや──」

 

 ジークレインの背後で爆音が鳴りひびいた。

 

 発射された魔導砲の砲弾が妖精の建物(ギルド)を破壊したのだ。屋根が、壁が、骨組みが破裂するように四散する。

 

『さっきから誰に向かって、ものを言ってやがる青二才がッ!!!!!』

 

 建物が倒壊していく非音楽的な轟音が響くなか、ジョゼの怒号が空気を割る。

 

『私の邪魔をするようなら、てめぇも妖精(ハエ)共と一緒に八つ裂きにするぞ!!!』

 

 異形の城からにじみ出る強烈な殺気。あらゆる死線をくぐり抜けてきた歴戦の猛者でないかぎり、それだけでも腰を抜かして戦意喪失するであろう。

 だが、ジョゼと同じ、聖十大魔道(せいてんだいまどう)のジークレインは嘆くように首を振るだけだった。

 そして、

 

()そうだ(・・・)妖精の尻尾(フェアリーテイル)の諸君」

 

 その瞬間、街の陰から色とりどりの閃光が迸った。

 一〇〇本にもおよぶ光条が幽鬼の城に虹色の橋をかけ、包みこむように襲いかかった。

一番面白いのは?

  • 幽鬼の支配者編
  • バトル・オブ・フェアリーテイル編
  • 過去編①x780年
  • 過去編②x782年 喪に服す
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