であれば、把握している地形で戦ったほうが有利──とジル・アイリスが提案した。だが、それに反対する声は少なくはなかった。
自分たちの住む街を戦場にすれば、勝ったとしても多大な被害を被ることがひとつ。もうひとつは、マグノリアの街は特に複雑な造りになっていないため、果たして自分たちに有利に働くとは思えなかった。
もっともな反対意見に対して、ジルは思いも寄らない返答をした。「なに、ギルダーツに力を借りるまでだ」と。
妖精の全員が首を傾げた。この場にいない魔導士の名を突然出されれば当然であった。いったいどういう意味かと問うまえに、ジルは説明した。
それを聞き終えたあと、反対していた者たち全員が口を噤んだ。
◇
「これ、全部お前が作ったのか?」
エルザが訊ねると、「全部ではない」とジルは首を振った。
「魔動四輪は購入したものだし、銃に関しては安値で売られてた粗悪品だよ。魔力の弾丸を撃てるよう
こともなげに言ったジルに対して、エルザは驚きを禁じえなかった。
この男──魔導士としては強いのか弱いのかはっきりしないが、ときおり、複数人いるのかと思うくらいに
寒気すら感じさせる喪服の男はくすりと笑う。
「まぁ、
「うつけ?」
何のことなのかわからなかったエルザであったが、特に追及したりしなかった。
エルザは銃を一丁、手に取った。
「銃がそこまで便利とは思わん。攻撃は直線的だし。当たらなかったり、弾切れをおこして、敵に近付かれたときのことを考えるとな。やはり近接戦闘のほうが性に合う」
「君らしい答えだ。だが、誰もかれもが君のように豪傑ではない」
ジルは長い前髪を払った。
「銃の最大の利点は、射程の長さではない。ひとを
エルザは嫌な予感がした。
「お前…まさか…」
「ファントムとの戦いに、マグノリアの住民も快く参加してくれることになった。もちろん、身の安全の保障を大前提にな」
「何を勝手に…!」
「まぁ、聞きたまえ。これからファントムの軍勢が押し寄せてくるんだ。住民たちに何の説明もしないわけにもいくまい」
‶
「事情を包み隠さず説明したうえで、ルーシィの名前を出したら‶自分たちも協力させてくれ〟と言ってくれてな。彼女はよほど人望に厚いようだ」
「お前と違ってな」
「私は住民たちには好かれている」
「お前が一流詐欺師だと知らないからな」
「まぁ、とにかくだ」
矢継ぎ早に皮肉を言われても、ジルはまったく意に介してしない。
「いまは少しでも戦力がほしい。被害を最小限に抑えたうえで、果断速攻で勝利をしなければならない。マスターが戦線に復帰しないことを大前提にな」
「無茶を言うな。ただでさえ、勝てるかどうかもわからん状況なんだ。せめてラクサスがいれば…」
エルザやミストガンの他にも、
そのラクサスに戻ってくるよう、ミラジェーンとカナが通信
だが、水晶の向こうで彼が何を言ったのか、普段穏やかな看板娘が突然
ジルは肩をすくめた。
「やはりダメか。私は止めたんだがな?」
「そんなこと言ってないで慰めにいったらどうだ?」
エルザがうながす。ミラジェーンの肩を抱いてるカナも、ジルのほうを見ながら ‶来い! 早く来い!〟 と口の動きだけで訴えている。
水晶の残骸のまえで、ミラジェーンは泣いてはいなかった。拳を握ったまま身体を震わせている。
それを一瞥したジルは冷めた反応をする。
「
「お前な…」
怒りを通り越して、エルザは呆れはてた。
自分の女くらい優しくできないものか。この男は良くも悪くも、他人に対して非常に平等なのだ。
何故、こんなドライな男をミラジェーンは愛しつづけることができるのか不思議でならない。自分だったら、五万回殺している。
「ジル、報告したいことが…!」
声をかけてきたのは
「どうした?」
「ビスカがこちらに向かってくる集団があると」
ビスカ・ムーラン──アルザックと同じく銃器を使った魔法を得意とする女性魔導士だ。彼女と、他数名に高台から見張りを頼んでおいたのだ。
アルザックの報告に、ジルより先にエルザが反応した。
「ファントム…! もう来たのか…!?」
「い、いや…それが…」
このときのアルザックは非常に歯切れが悪かった。
◇
目的のひとつ──ルーシィ・ハートフィリアを一度は確保したものの、隙を突かれて逃げられてしまったからだ。
しかも、あろうことか背後からおもいっきり股間を蹴りあげるという卑劣な手を使って。
両手を拘束していたため、油断していたのもあろう。だが、うら若き少女がバケツに排泄するところまで監視するわけにはいかず、小娘の言葉を信じて背を向けたにも関わらず、まさか金的攻撃をするとは。
閑話休題。
ルーシィ・ハートフィリアは、金のなる木だ。幸運にも、その父親から娘を連れ戻すよう依頼されたが、ただで返すわけにはいかない。
大財閥ハートフィリア家の財産を全て、根こそぎ奪ってやろう。巨額の富を築くことができれば、
そのためにもルーシィを再度奪取する。そして、
地響きが再度鳴りひびく。
ジョゼは今、エレメント4と
どうやって?
その多脚を稼働させて地上を歩き、河を渡り、じわりじわりと妖精の住処に進行していた。
「──マスター・ジョゼ」
通信
「支部の至るところから救難要請が…。突然あらわれた謎の男に支部を次々と壊滅されています。いかがなさいますか?」
「捨ておけ」
ジョゼはにべもなく言い放った。いちいち支部など助けにいってる暇などない。
謎の男というのは相当な腕利き──ギルダーツか、ラクサスか、ミストガンの誰かだ。包囲と人海戦術をおそれてのことだろうが、特に問題はない。
いかにS級魔導士といえど、すべての支部を潰したときには疲弊しきっている。そこを叩くのはたやすい。
行動に支障はない。
六本の多脚が前へ、前へ、と進む。獲物を捕食しようとする蜘蛛のように、小虫が群がる巣窟に前進する。
見えてきた──
何とも無様な姿か。応急措置のつもりか、申し訳程度にベニヤ板で補強し、いまにも崩れそうではないか。未練がましいハエ共が。
その未練ごと、ことごとく粉砕してくれる。
「魔導集束砲──‶ジュピター〟用意…!!」
ジョゼが部下たちに指示を出した。
破壊だけをもたらす魔力の砲弾を作りあげ──
「…ん?」
その瞬間、何かを発見したジョゼが訝しげな顔をした。
鮮やかな青い髪、眉目秀麗な顔の右半分に刺青を入れた美男子。そして、男が身につけているのは魔導士を統括する者のみ与えられた白い制服。
──馬鹿な…。何故、
魔法評議員にして、
『おやおやおやおや、これはこれは。ジークレイン殿』
ジョゼは拡声器を使い、わざとらしく声をあげた。
『いったい…評議員である、あなたが何故ここに?』
「それはこちらのセリフだ、マスター・ジョゼ。何をしている? わざわざギルドを動かしてまで散歩をしにきたわけでもあるまい?」
ジークレインはにやりと笑っている。
相も変わらず、人を食った態度だ──ジョゼの苛立ちが募る。だが、評議員がいるなら、それはそれで好都合だ。
『ジークレイン殿…私はいま、非常にはらわたが煮えくり返っているのだ。何故だか、わかるかね?
できれば
ギルド間の抗争禁止の規則を先に破ったのは
今度こそ、解散は確実だ。老いぼれの沈鬱な表情が目に浮か──
「いいや、ジョゼ。審議会に行くのはお前の方だ」
『………あ?』
美男子の口から出た言葉は、少なくともジョゼにとっては予想外で、まともな返答ができなかった。
ジークレインは続ける。
「お前のところの魔導士──
わざとらしく、大きく肩をすくめる。
「お前のような男だ。何故、こんなつまらんことをしたのか、想像するまでもない。まぁ。とりあえず。その。なんだ。
ミシリ…ッ、と空気が軋む音を立てたような気がした。
それに気付いているジークレインは、わざと気付かぬふりをして、冷笑を浮かべる。
「
「ただ、闇ギルドをいくつか潰した実績があるから、今後のお前の態度によっては多少罰を軽くすることもできる──というのがジジイたちの意見なんだが、おれはとっととギルドを解散させたほうがいいと思うがな?」
『お前、さっきから──』
「ま だ お れ が し ゃ べ っ て い る だ ろ ?」
「ここのところ、
ジークレインの背後で爆音が鳴りひびいた。
発射された魔導砲の砲弾が妖精の
『さっきから誰に向かって、ものを言ってやがる青二才がッ!!!!!』
建物が倒壊していく非音楽的な轟音が響くなか、ジョゼの怒号が空気を割る。
『私の邪魔をするようなら、てめぇも
異形の城からにじみ出る強烈な殺気。あらゆる死線をくぐり抜けてきた歴戦の猛者でないかぎり、それだけでも腰を抜かして戦意喪失するであろう。
だが、ジョゼと同じ、
そして、
「
その瞬間、街の陰から色とりどりの閃光が迸った。
一〇〇本にもおよぶ光条が幽鬼の城に虹色の橋をかけ、包みこむように襲いかかった。
一番面白いのは?
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幽鬼の支配者編
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バトル・オブ・フェアリーテイル編
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過去編①x780年
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過去編②x782年 喪に服す