悪ノ華【妖精の必要悪】   作:ギュスターヴ

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第八話:ジークレイン参戦

 時間は、一時間ほど前までさかのぼる。

 

 アルザックは非常に歯切れ悪く答える。

 

「…評議院、だ」

「なに…!?」

 

 予想外な客人の名をだされ、エルザは目を見開いた。

 少し前まで幽鬼の支配者(ファントムロード)と一戦交えたばかりだ。もう嗅ぎつけたというのか?

 

「よし、間に合ったな」

 

 期待通りと言わんばかりに、ジルはつぶやいた。

 エルザがいったいどういうことかと問う前に、喪服の美青年は出迎えにさっさと歩きだしていた。

 

 

 マグノリアの街に入った魔動四輪六台から数十人の魔導士が続々と下りてきた。評議院傘下の強行検束部隊──ルーンナイトだ。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)をさらに驚かせたのは、ルーンナイトを率いている、ひとりの男の存在。

 青い髪、顔の右半分に刺青を入れた貴公子じみた美貌の持ち主。評議員のジークレインであった。

 

「ふっ…随分と派手にやられたものだな」

 

 半壊された妖精の建物(ギルド)を見上げ、美男子は冷笑を浮かべた。

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の面々は男の態度に腹を立てるよりも、困惑していた。何故、評議院がここに? まさか、規則を破って幽鬼の支配者(ファントムロード)と武力抗争したから捕らえにきたというのか?

 そんな彼らの心情を察したであろう、ジークレインは冷笑のまま否定する。

 

「ああ、安心しろ。おれたちはお前たちを拘束するためにきたわけではない。ジルはいるかな?」

「ここだ。意外と早かったな」

 

 雑踏の中からジルが姿を現す。彼の愛想のない言動に、ジークレインは苦笑した。

 

「もう少し労ってくれ。急に面倒ごとを押しつけられ、色々無茶して急いで来たんだぞ? 茶のひとつぐらい出してほしいものだ」

「ジェラ──ジークレイン…! 何故、お前がここに…!?」

 

 ジルのあとを追いかけてきたエルザが刺青の美貌を見るなり、露骨に嫌悪感をあらわす。彼女を見つけたジークレインは嬉しそうに唇の端を吊りあげた。

 

「魔導裁判以来だな、エルザ。元気そうで何よりだ」

「ジル…! どういうことか、説明しろ!」

 

 エルザは喪服の男を睨みつけた。

 ジルが評議院と繋がりをもっていることは知っていたが、まさかよりにもよってジークレインだったとは。

 エルザ・スカーレットにとって、ジルとジークレインは悪の象徴だった。そこに相違があるとすれば、同じギルドの紋章を刻んでいるか、そうでないかの違いでしかない。

 エルザがジルに説明を求めると、「いや、おれから説明したほうがいいな」とジークレインが制した。

 

「その様子だと、幽鬼の支配者(ファントムロード)に手を出してしまったようだが、安心しろ。緊急評議会を開いた結果、提出された証拠(・・)で、すべての罪はファントムに有り、と判断した。だから武力抗争に至ったとしても、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の罪は不問──まぁ、厳重注意は受けるだろうが、ただ聞き流せばいい。何人かの老人はダダをこねてはいたがな」

 

 その証拠(・・)とはいったい何なのか、知っているのはエルザとミラジェーン、そして提出した本人であるジルの三名だけだった。

 あとの者たちは罪を免れたという事実だけで安心し、特に気にしたりはしなかった。

 

 ジークレインとしては修羅場見たさで言ってやってもよかったが、周囲にバッシングされても‶喪服の悪魔(メフィスト)〟は顔色ひとつ変えないことは目に見えていた。それどころか、絶対零度の正論で言い負かして、黙らせることもできるであろう。

 それはそれで見てみたい気持ちにもなったが、愉快犯に浸れる状況ではない。

 

「だったら早くファントムの奴らを牢にぶち込んでくれ。もう二、三発ぶん殴ってやりたいがな」

 

 妖精の古株であるマカオが言った。だが、

 

「いや、無駄でしょう」

 

 ジルが即座に切り捨てた。

 

「ここまでのことをしておいて、今更おとなしく縄につくとは思えない。それにルーシィのこともあります。我々を潰すことと、ルーシィを奪うこと──評議院を敵に回してでも、彼らはこのふたつを完遂しようとするでしょう」

「闇ギルドに堕ちる気なのかね? 後先を考えない者ほど、おそろしいものはない」

 

 ジークレインが肩をすくめると、ジルは「まったくだ」と同意した。敵にも、味方にもな…と内心思いながら。

 

「で、だ。ファントムの通信魔水晶(ラクリマ)に何度も連絡を入れたが、奴らは無視しやがった。しょうがないから本部に直接おもむいてもみたが、ギルドごといなくなっていた(・・・・・・・・)

 

 ジークレインの言葉に、いったいどういう意味だと妖精の面々は首を傾げた。男は続ける。

 

(ギルド)を移動させたんだよ。目撃した部下の話では蜘蛛みたいな脚を動かして、河を渡っていったらしい。どうだ、最悪な乗り心地だと思わないか?」

 

 乗り物全般が大の苦手なナツだけが顔を歪ませた。ジルは変わらず、無表情。他の者たちは表情を青くさせた。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)建物(ギルド)のすぐ目の前に、巨大な河がある。その話が本当なら、河の向こう側から幽鬼の支配者(ファントムロード)(ギルド)がやってくるではないか!

 

「…ジル、どう見る?」

 

 険しい顔でエルザが問う。何故、奴らはわざわざ(ギルド)を動かした?

 以前から幽鬼の支配者(ファントムロード)について、ある程度の情報を入手していたジルは簡潔に答える。

 

「ファントムの(ギルド)に‶ジュピター〟が積んである」

 

 何人かの人間が顔面を蒼白させた。

 ‶ジュピター〟とは、大量破壊兵器の代名詞ともいえる魔導集束砲だ。

 

「ふざけんな、ファントムの奴ら! そこまでするか!?」

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)は怒りの声をあげた。もし仮に‶ジュピター〟に砲撃されれば、今度こそ建物(ギルド)が木っ端みじんにされてしまうではないか。

 何としてでも阻止しなければと、妖精たちは作戦を練ろうとしたとき、ジルが驚くべき発言をした。

 

「ちょうどいい。ならば、一度撃たせてしまえ」

 

 と。

 全員が言葉を失い、耳を疑った。いま、この男は何と言った?

 そんな同胞たちの心情など気にかけることなく、喪服の青年は続けた。

 

「‶ジュピター〟にかぎった話ではないが、魔水晶(ラクリマ)を媒介にした魔導兵器は威力が高い分、エネルギーを集束するのに時間がかかる。第一射を撃たれた後、次の装填までに魔水晶(ラクリマ)を迅速に破壊する」

「…タイムラグは?」

 

 嫌な予感にかられながら、エルザが確認する。

 

「おおよそ、15分から20分」

「では、その第一射はお前が防ぐのだな? この中で砲撃を難なく防げるのはお前だけだ。魔法の馬鹿力(・・・・・・)だけは得意だろ?」

 

 ルーシィ以外の他のメンバーも同じように思った。だが、

 

「いや、防ぐ気はない」

 

 ジルは臆面もなく言った。

 

「私はジョゼを討ち取ることに全力を注ぐ。無駄なこと(・・・・・)に魔力を浪費するわけにはいかない」

 

 わかっていたことだが、エルザは舌打ちした。

 

「だったら私が防ごう。金剛の鎧を使えば何とかなるはずだ」

「却下だ」

 

 またしてもジルは否定した。

 

「そんなことをすれば、奴らの思う壺だ。確かに金剛の鎧ならば、建物(ギルド)は守れるだろう。だが、君自身がただではすまん。この中で唯一のS級魔導士だ。ジョゼと戦う前に負傷することも、魔力を浪費することも許さん」

 

 唯一のS級魔導士──その言葉に表情を曇らせたのは看板娘のミラジェーンだった。それに気付いていないエルザはついに声を荒げた。

 

「だったらどうする気だ!?」

「何もしなければいい」

 

 ジルは無表情に言い放った。

 

「どのみち修復は不可能、取り壊しは確定だ。ファントムがどうしても我々の建物(ギルド)を壊したいのであれば好きにさせるといい。半壊した建物ひとつで魔導砲一発、無駄撃ちさせられるなら安いものだ」

 

 ジル・アイリスの異名のひとつ──‶首無し妖精(デュラハン)〟と呼ばれる由縁は、ここにあった。

 妖精と呼ぶには禍々しく、知恵をひねり出す(あたま)に血が通っていない。

 

「ふざけるんじゃないよ!!」

 

 怒号をあげたのはカナ・アルベローナだった。

 

「あんたはギルドに入って四年しかたってないから、そんなことが言えるんだろうけどね! ここにはあんたよりもずっと長くいる奴らが大勢いるんだ! 建物(ギルド)を、ギルドの思い出を見捨てろっていうのかい!?」

 

 それを皮切りに、他のメンバーも一斉にジルを非難し始めた。元々、ギルドメンバーのほとんどが彼のことを嫌っているため、徒党を組み、その口撃に容赦がなかった。

 だが、ジルの表情は変わらない。顔の筋肉ひとつ動かない。それどころか、複数人相手でも、彼は冷静に反論する。

 

「あなたたちの論法はいつも血生臭い(・・・・)

 

 静かだが、鋭利をきわめた。

 

「そもそも、私は、仇討ちのためだけに支部に攻め入ることは反対だったのだ。それで勝利できれば文句はなかったが、まんまと敵の挑発に乗り、多くの怪我人を出し、マスターを重傷に陥れた。しかもジョゼどころか、鉄竜(くろがね)のガジルも、エレメント4をひとりも撃破できていないではないか」

 

 何ら相違ない事実に非難していた者たちが口を噤んだ。そこへ、ジルはさらに追い打ちをかける。

 

「思い出とやらに浸るのは大いに結構。否定するつもりはない。だが、半壊した建物を守ることにこだわり、今度こそ我々の中から死者を出したら、戻ってきたマスターにどう弁明するつもりだ? まさかとは思うが…」

 

 一旦()を置き、‶喪服の悪魔(メフィスト)〟は絶対零度の剣で切り捨てる。

 

「同胞の魂ですら、‶思い出〟に浸るつもりか?」

 

 ジルが口を閉ざしたとき、鉛を気体化したような重い沈黙に支配された。弱点をつかれた面々は絶句することしかできなかった。何名かは、血の気まで失っている者までいる。

 

──あなたがそんなんだから、皆に嫌われるんじゃない…。

 

 ミラジェーンは胸中につぶやいた。主張は確かに正しい。だが、その正しさゆえに、仲間から憎悪を買っている。当の本人はまったく意に介していないが…。

 

「──やるぞ、皆」

 

 そんな中、沈黙を破ってジルの案に同意する者があらわれた。火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)──ナツ・ドラグニルだった。

 

「オレは、奴らを潰せればそれでいい…!!」

 

 拳を強く握り、灼熱の炎がにじみ出る。その感情は幽鬼の支配者(ファントムロード)への怒りだけではないことを、仲間たちは察した。

 

「誰も死なせねぇ、ルーシィも渡さねぇ、じっちゃんとレビィたちの仇も取る…!! それだけは絶対に譲らねぇ…!!!」

 

 そこでナツは声と感情を一旦抑え、喪服の青年に強い眼差しを向けた。

 

「…ジル。お前の言う通りにすれば、勝てるんだよな?」

 

 念を押すようにナツが睨む。それに対して、ジルは簡潔に答える。

 

「少なくとも我々の勝率も、味方の生存率も格段に上がる」

「だったら乗った。建物(ギルド)を攻撃されても、じっちゃんは我慢したんだ。だったらオレたちも我慢するのが筋だろ?」

 

 まさかナツが同意するとは思わず、反対していた者たちの間に動揺が走る。その中のひとりがエルザに助けを求めたが、

 

「いや、気に入らんが、私もジルの案に賛成する。気に入らんがな」

 

 ‶喪服の悪魔(メフィスト)〟と‶火竜(サラマンダー)〟の言葉で状況を冷静に捉えられるようになったのか、‶妖精女王(ティターニア)〟まで賛同した。

 

「こうしている間にも、ミストガンも必死になって戦ってくれている。彼の努力を無駄にするわけにはいかない。…代案があるなら訊こう。何かあるか?」

 

 エルザは周りを見渡した。それでも不服そうな顔をした仲間が何名かいたが、発言する者はいなかった。

 

「議論はまとまったようだな」

 

 なりゆきを楽しげに眺めていたジークレインが口を開く。

 

「おれもルーンナイトも参戦しよう。ファントムが投降する気がないなら妖精の尻尾(フェアリーテイル)と共同戦線を張って鎮圧しろと言われたからな」

「だったらもう少し多く戦力をよこしてほしいものだがな」

「仕方ないだろ。バラム同盟のこともあるし、予算やら何やらで意外と大変なんだよ、うちは」

 

 ジルの言葉に、ジークレインは苦笑した。

 

「どうする、一応武装解除を勧めてみようか?」

「…そうだな」

 

 ジルは指先でこめかみを叩いてから、提案する。

 

「挑発するような感じで頼む。魔導砲を撃ちたくなるほどに、な」

「わかった。煽るのは上手いほうだ」

 

 ジークレインはこれ以上ないほどに、意地の悪い笑みを浮かべた。

 

一番面白いのは?

  • 幽鬼の支配者編
  • バトル・オブ・フェアリーテイル編
  • 過去編①x780年
  • 過去編②x782年 喪に服す
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