「部隊をふたつに分ける?」
エルザのオウム返しに、ジルは小さく頷いた。
「戦端が開いたら、ジョゼは必ず
「…確かに、
カナの言葉に、ジルは「然り」と返した。
「エレメント4や
「堅実な手だが、もしそうしてきたらちょっとオレたちをナメ過ぎじゃねーか?」
グレイが鼻白む。当たり前のように上半身裸である。
「マスターがいねぇオレたちは
「結構なことじゃないか」
戦闘力に関してだけ、同胞から軽んじられている男はあっけらかんと言う。
「私はナメられたほうが都合がいい。隙をつけれるからな。あと、グレイ君。せめて下着は穿いてくれ」
ジルは話を戻す。
「城へ乗り込む部隊は少数精鋭でいく。エレメント4といっても、
「誰が言ってんだッ!!!!」
仲が悪いふたりの声が同時に重なった。
ジルとしては、ナツとグレイをけなしている気はない。
エレメント4を、
「構成は?」
ジークレインが問うと、ジルは無表情のまま少しだけ悩んでいる様子だった。
「私、ジークレイン、エルザ、ナツ君、グレイ君は確定。もうひとり欲しいところだが──」
「待ってくれ、ジル。おれにも行かせてくれ」
ジルの言葉を遮り、攻城部隊に志願する者があらわれた。
筋肉質で、大柄な身体が特徴的な男──エルフマン・ストラウス。彼が名乗り出ると、真っ先に反応したのは姉のミラジェーンだった。
「ダメよ、エルフマン! あなた、
姉が猛反対するが、エルフマンは大きく首を振った。
「いや、おれは戦えるよ、姉ちゃん。ファントムの支部に攻めこんだときも、それなりにやれた」
弟が聞く耳を持たないと見るや、ミラジェーンはジルに懇願した。
「お願い、ジル! やめさせてあげて!」
「………」
喪服の青年は無視し、黙ってエルフマンの
今回の戦いで役に立ちたいのであろう。有無を言わさぬ強い意志が宿ってはいた。だが、瞳に若干の、焦りと不安の色も見え隠れしていた。
それに気付いたジルだったが、
「…いいだろう。君も来たまえ」
何か思うことがあったのだろう。参加を許可した。
ミラジェーンは愕然とした。それでもなお、参加させないことを説得しようとしたが「それ以上は弟への侮辱になる」と取り付く島もなく、会議を終了させた。
「大丈夫だよ、ミラ」
各々が持ち場へ移動する中、カナとエルザがミラジェーンに寄り添った。
「エルフマンも言っていたけどさ。カチコミのときだって、あいつはちゃんと活躍してた。あんたの弟なんだ、信じてやんな」
「きっと、奴なりに
ふたりの友人の言葉が、ミラジェーンの胸にすっとおさまった。
それでもなお、唯一残された最後の肉親を失いたくない恐怖心が残ってはいたが、過去のトラウマを乗り越えようとする弟のためと思い、私情を抑えこんだ。
──エルフマンは、前へ進もうとしている…。だけど、私は…。
ミラジェーンは、自分を
弟は戦いという形で乗り越えようとしているが、自分はどうだ? 力を持っているくせに、戦おうとしない。
これでは、ギルドの危機に助けにこようとしなかったラクサスと、何ら変わりがないではないか。
だが、妹の死のトラウマと、自分自身への恐怖から、戦いへあと一歩踏みだすことができなかった。
──戦えなくても…何か、私にできることは…。
震える手を見つめながら、元‶魔人〟は自分の役目を模索しはじめた。
そして、それはルーシィ・ハートフィリアも同じ気持ちであった。
彼女は一度エレメント4に拉致された際、星霊を召喚するための鍵を紛失してしまったのだ。
未だに見つけられず、そのうえ下手に出歩くことも禁止されていた。
鍵のない星霊魔導士は無力と言っても過言ではない。だが、仲間たちが戦うのを黙って見ているわけにもいかなった。
彼女は前を歩くジルに追いつき、端正な横顔に話しかける。
「ジルさん。あたしに何かできることはありますか?」
「ないな」
「あの、せめて、考える素振りくらいはしてくれません?」
改めて、昨日とは別人なくらいに不愛想な態度に、ルーシィはショックを受ける。
「そもそも、今回のことは父のせいかもしれないですけど、事の発端はあたしなんです。あたしが皆を巻き込んで、傷付けたようなものなので…」
「一理ある」
ジルは否定しなかった。
「だが、我々が生まれる以前から
──もしかして、ジルさん…あたしを慰めてくれてる?
一瞬そう思ったルーシィであったが、巻き込まれたことを否定しないあたり、ただ客観的事実を述べているようにも思えた。
先ほどまで
問いただそうとした彼女だったが、その前にジルが指を鳴らした。
「そうだ、
どうあっても
──この人…良い人なのか、悪い人なのか、わからない…。
非常に合理的で、言っていることに間違いはないのだが、やたら取捨選択しようとする考えが、どうも好きになれなかった。
どうして二択でなければいけないのだろう? どうして何かを捨てなければいけないのだろう?
家出したばかりのうら若い少女には、現実主義者の考えを理解できなかった。否、仮に理解はできても納得まではできなかった。
もし、ジルがレビィたちを見捨てた事実を知れば、どんな理由があろうとルーシィは決して彼を許さなかったであろう。
だが、幸か不幸か、その事実を知ることはない。
故に、彼女は最期まで、ジル・アイリスという人間の心の内を理解することができなかった。
◇
そして、今にいたる。
その周囲にある建物や、障害物の陰から一〇〇以上の光条が飛び交う。
ある者は遠距離魔法を行使し、ある者はジルが用意した
「こいつら…初めから自分たちの
ジョゼは妖精からの反撃に驚きつつも、違和感を覚えた。
仲間を磔にしただけで簡単に挑発に乗ってくれる。
マカロフでさえも、目の前でルーシィを刺し殺す真似事をしたら、激しく動揺し、アリアの不意打ちをくらったのだ。
その無駄なまでの仲間意識の強さが、
半壊しているとはいえ、自分たちの
ジークレインの入れ知恵か? いや、外部からの言葉を素直に耳を貸す連中ではない。
では、
──まぁいい。
名を思い出しかけたジョゼは途中で思案にふけるのをやめた。
依然、形勢は有利。評議院が加勢してようと、マカロフやギルダーツたちのいない、
『まだ我々に勝てるとでも思っているのか、ハエ共が…!!』
拡声器を通して、ジョゼの声が木霊した。
『さっさとルーシィ・ハートフィリアを渡せ…! でなくば、選択肢はふたつだ!! 我が兵士に殺されるか、それとも──』
ジョゼの声は爆音によって、かき消えた。
中に大量の爆弾
だが、おそろしいことに、爆弾
ひとつ、またひとつと、樽が爆発する。そのたびに耳をつんざくような爆音が鳴り響き、あちこちで爆炎と爆風が炸裂した。
ひとりでに爆発しているかに見えたが、起爆する直前、魔力の弾丸が走るのをジョゼは見逃さなかった。
──狙撃手か…!
ジョゼは射線を追って、敵の位置を探ろうとしたが、すでに
苛烈な爆撃によって、ジョゼが最初に召喚した
だが、彼の魔力はまだ余裕がある──すぐに新たな兵士を生みだしていく。
『無駄な抵抗を続けたければ、そうしていろ!!
そんなジョゼの物騒な言葉を聞きながら、
「ナツ君、ハッピー。準備は?」
「万端だ!!」
「あいさー!」
ジルの呼びかけに、少年と青猫が力強く応えた。
火の
S級魔導士でないにせよ、瞬発力のある彼は切り込み隊長としても非常に優秀で、彼がいるかいないかで序盤の戦況が大きく変わってくる。
そんなナツをサポートするのが人語を解する青猫──ハッピー。
戦闘力は乏しいが、飛行能力を有しており、本気を出したときのトップスピードは
彼とナツが組めば、鬼に金棒。
ハッピーには、城へ攻めこむ精鋭メンバーを搬送させるという重大な役割を与えたわけだが、
「ジルはタバコくさいからやだ」
と無情にも拒否されてしまった。このときばかりはジークレインもさすがに吹きだし、エルザもざまぁみろと言わんばかりにほくそ笑んでいた。
ジルとしては他のメンバーを運んでくれればそれでかまわないし、煙草をやめる気もない。
「15分だろ? やってやる!!」
ナツが戦意をみなぎらせる一方で、ジルが冷静に告げる。
「いや、ナツ君。10分で破壊するつもりでやってくれ」
「は? 15分から20分って、お前も言ってただろ?」
「とはいえ、技術も常に進歩しているからな。あと、敵の言葉を素直に受け取るな。15分と言って、本当は10分かもしれない。私がジョゼの立場だったらそうする」
「いや、お前本当に性格悪いな!!!」
「念のためだ。早く制圧しておいて、損はなかろう」
爆音が鳴り響いた。
ビスカが樽を狙撃して、爆弾
あっという間に城へ肉薄し、‶ジュピター〟の砲口から城内へ進入していった。それを確認したところで喪服の男はジークレインに声をかける。
「ジークレイン。城までの道中、私を護衛してくれ。ボディガード役がいないのでな」
「随分と可愛げがないお姫様だな。頼りになるのかならんのか、わからん男だ」
いつものように皮肉を言ってから、ジークレインは他の人間に聞こえぬよう声を潜める。
「‶
「もちろん。君はジョゼを弱らせる程度まで働いてくれればいい。トドメは別の人間にやらせる」
男の作り笑いを見ながら、何か企んでいるなとジークレインは察した。少なくとも、自分で手柄を取る気はないようだ。
ただでさえ、仲間内から嫌われているのだ。結果を残して、自分の立場を強固にさせても損はないだろうに。
この男に、私欲というものがないのだろうか? 大した功績も立てず、同胞から憎まれ、その先にいったい何を望む?
ジークレインは、ジルへの興味が尽きなかった。
一番面白いのは?
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