悪ノ華【妖精の必要悪】   作:ギュスターヴ

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第九話:開戦

「部隊をふたつに分ける?」

 

 幽鬼の支配者(ファントムロード)を迎えうつ準備が進められている中、ジル、ジークレイン、エルザ、他数名で作戦会議が行われていた。

 エルザのオウム返しに、ジルは小さく頷いた。

 

「戦端が開いたら、ジョゼは必ず幽兵(シェイド)を使ってくる」

 

 幽兵(シェイド)とは、ジョゼの魔力から作り出される幽鬼の兵士だ。恐怖も痛みも感じず、何度撃破しても術者の魔力が尽きぬかぎり、無限に湧いて出てくる厄介な魔法だ。

 

「…確かに、幽兵(シェイド)ごと‶ジュピター〟撃っても、ファントムにとっては痛くも痒くもないからね」

 

 カナの言葉に、ジルは「然り」と返した。

 

「エレメント4や鉄竜(くろがね)のガジルを城内に配置して守りを固め、幽兵(シェイド)だけ進軍させつつ、‶ジュピター〟で砲撃してくるだろう」

「堅実な手だが、もしそうしてきたらちょっとオレたちをナメ過ぎじゃねーか?」

 

 グレイが鼻白む。当たり前のように上半身裸である。

 

「マスターがいねぇオレたちは幽兵(シェイド)で十分ってか?」

「結構なことじゃないか」

 

 戦闘力に関してだけ、同胞から軽んじられている男はあっけらかんと言う。

 

「私はナメられたほうが都合がいい。隙をつけれるからな。あと、グレイ君。せめて下着は穿いてくれ」

 

 ジルは話を戻す。

 

「城へ乗り込む部隊は少数精鋭でいく。エレメント4といっても、開眼した(・・・・)アリア以外は大したことはない。せいぜいナツ君やグレイ君と同レベルか、それ以下だ」

「誰が言ってんだッ!!!!」

 

 仲が悪いふたりの声が同時に重なった。

 ジルとしては、ナツとグレイをけなしている気はない。

 エレメント4を、妖精の尻尾(フェアリーテイル)でいうところのS級魔導士と同格に考えなくてもよいという意味で言ったのだが、拳打一発で倒されるような男に言われると、少々癪にさわる。

 

「構成は?」

 

 ジークレインが問うと、ジルは無表情のまま少しだけ悩んでいる様子だった。

 

「私、ジークレイン、エルザ、ナツ君、グレイ君は確定。もうひとり欲しいところだが──」

「待ってくれ、ジル。おれにも行かせてくれ」

 

 ジルの言葉を遮り、攻城部隊に志願する者があらわれた。

 筋肉質で、大柄な身体が特徴的な男──エルフマン・ストラウス。彼が名乗り出ると、真っ先に反応したのは姉のミラジェーンだった。

 

「ダメよ、エルフマン! あなた、片腕しか(・・・・)しか使えないじゃない!」

 

 幽兵(シェイド)や、兵隊と戦うだけなら、彼女はここまで強く反対しなかったであろう。だが、相手がエレメント4や鉄竜(くろがね)のガジルなら、話が変わってくる。

 姉が猛反対するが、エルフマンは大きく首を振った。

 

「いや、おれは戦えるよ、姉ちゃん。ファントムの支部に攻めこんだときも、それなりにやれた」

 

 弟が聞く耳を持たないと見るや、ミラジェーンはジルに懇願した。

 

「お願い、ジル! やめさせてあげて!」

「………」

 

 喪服の青年は無視し、黙ってエルフマンの表情(かお)を見た。

 今回の戦いで役に立ちたいのであろう。有無を言わさぬ強い意志が宿ってはいた。だが、瞳に若干の、焦りと不安の色も見え隠れしていた。

 それに気付いたジルだったが、

 

「…いいだろう。君も来たまえ」

 

 何か思うことがあったのだろう。参加を許可した。

 ミラジェーンは愕然とした。それでもなお、参加させないことを説得しようとしたが「それ以上は弟への侮辱になる」と取り付く島もなく、会議を終了させた。

 

「大丈夫だよ、ミラ」

 

 各々が持ち場へ移動する中、カナとエルザがミラジェーンに寄り添った。

 

「エルフマンも言っていたけどさ。カチコミのときだって、あいつはちゃんと活躍してた。あんたの弟なんだ、信じてやんな」

「きっと、奴なりに過去のこと(・・・・・)を悔やみながらも前へ進もうとしているのだろう。ジルもそれを察したのかもしれん、実際はどうか知らんがな」

 

 ふたりの友人の言葉が、ミラジェーンの胸にすっとおさまった。

 それでもなお、唯一残された最後の肉親を失いたくない恐怖心が残ってはいたが、過去のトラウマを乗り越えようとする弟のためと思い、私情を抑えこんだ。

 

──エルフマンは、前へ進もうとしている…。だけど、私は…。

 

 ミラジェーンは、自分を(かえり)みた。

 

 弟は戦いという形で乗り越えようとしているが、自分はどうだ? 力を持っているくせに、戦おうとしない。

 これでは、ギルドの危機に助けにこようとしなかったラクサスと、何ら変わりがないではないか。

 だが、妹の死のトラウマと、自分自身への恐怖から、戦いへあと一歩踏みだすことができなかった。

 

──戦えなくても…何か、私にできることは…。

 

 震える手を見つめながら、元‶魔人〟は自分の役目を模索しはじめた。

 

 そして、それはルーシィ・ハートフィリアも同じ気持ちであった。

 彼女は一度エレメント4に拉致された際、星霊を召喚するための鍵を紛失してしまったのだ。

 未だに見つけられず、そのうえ下手に出歩くことも禁止されていた。

 鍵のない星霊魔導士は無力と言っても過言ではない。だが、仲間たちが戦うのを黙って見ているわけにもいかなった。

 

 彼女は前を歩くジルに追いつき、端正な横顔に話しかける。

 

「ジルさん。あたしに何かできることはありますか?」

「ないな」

「あの、せめて、考える素振りくらいはしてくれません?」

 

 改めて、昨日とは別人なくらいに不愛想な態度に、ルーシィはショックを受ける。

 

「そもそも、今回のことは父のせいかもしれないですけど、事の発端はあたしなんです。あたしが皆を巻き込んで、傷付けたようなものなので…」

「一理ある」

 

 ジルは否定しなかった。

 

「だが、我々が生まれる以前から妖精の尻尾(フェアリーテイル)幽鬼の支配者(ファントムロード)の間に大きな確執があった。今回のタイミングに関しては、君たち親子のせいかもしれんが、遅かれ早かれ全面戦争避けられなかったであろう。たまたま、今だった(・・・・)だけのこと。それに妖精の尻尾(フェアリーテイル)の誰もが、君のせいだとは思ってはいないようだ。仲間意識の強さだけなら他のギルドよりまさっているからな」

 

──もしかして、ジルさん…あたしを慰めてくれてる?

 

 一瞬そう思ったルーシィであったが、巻き込まれたことを否定しないあたり、ただ客観的事実を述べているようにも思えた。

 先ほどまで建物(ギルド)を見捨てるよう発言したことや、仲間たちを痛烈に批判していたこともあって、ルーシィは目の前の男の真意が読み取れなかった。

 問いただそうとした彼女だったが、その前にジルが指を鳴らした。

 

「そうだ、建物(ギルド)の中で待機しててくれ。ファントムが到着し、ジークレインが挑発し始めたら外に出てほしい。ちゃんとジョゼの視界に入るように──されど、さりげなくな。でないと、安心して‶ジュピター〟を撃てないからな」

 

 どうあっても建物(ギルド)を犠牲にして、魔導砲を無駄撃ちにさせたいジルに対して、ルーシィは何とも言えない気持ちになった。

 

──この人…良い人なのか、悪い人なのか、わからない…。

 

 非常に合理的で、言っていることに間違いはないのだが、やたら取捨選択しようとする考えが、どうも好きになれなかった。

 どうして二択でなければいけないのだろう? どうして何かを捨てなければいけないのだろう?

 

 家出したばかりのうら若い少女には、現実主義者の考えを理解できなかった。否、仮に理解はできても納得まではできなかった。

 

 もし、ジルがレビィたちを見捨てた事実を知れば、どんな理由があろうとルーシィは決して彼を許さなかったであろう。

 だが、幸か不幸か、その事実を知ることはない。

 故に、彼女は最期まで、ジル・アイリスという人間の心の内を理解することができなかった。

 

 

 そして、今にいたる。

 

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)建物(ギルド)はもぬけの殻だった。

 

 その周囲にある建物や、障害物の陰から一〇〇以上の光条が飛び交う。

 ある者は遠距離魔法を行使し、ある者はジルが用意した魔水晶(ラクリマ)付きライフルの引き金をひき、幽鬼の城へ向けて魔弾の雨を降りそそぐ。

 

「こいつら…初めから自分たちの建物(ギルド)を放棄する気だったのか…!?」

 

 ジョゼは妖精からの反撃に驚きつつも、違和感を覚えた。

 

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)は非合理的な連中の集まりだ。

 仲間を磔にしただけで簡単に挑発に乗ってくれる。

 マカロフでさえも、目の前でルーシィを刺し殺す真似事をしたら、激しく動揺し、アリアの不意打ちをくらったのだ。

 

 その無駄なまでの仲間意識の強さが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の大きな弱点だ。だから不思議でならないのだ。

 半壊しているとはいえ、自分たちの建物(ギルド)をそう簡単に捨て駒にするはずがない。

 

 ジークレインの入れ知恵か? いや、外部からの言葉を素直に耳を貸す連中ではない。

 では、誰だ(・・)? 誰の案だ? こちらの裏をかこうとする人間が、妖精の中にいるというのか?

 

──まぁいい。

 

 名を思い出しかけたジョゼは途中で思案にふけるのをやめた。

 

 依然、形勢は有利。評議院が加勢してようと、マカロフやギルダーツたちのいない、妖精の尻尾(フェアリーテイル)など烏合の衆にすぎん。

 

『まだ我々に勝てるとでも思っているのか、ハエ共が…!!』

 

 拡声器を通して、ジョゼの声が木霊した。

 

 幽鬼の支配者(ファントムロード)(ギルド)からローブをまとった兵士、数十人が一斉に降りたつ。

 幽兵(シェイド)だ。手に刀剣をたずさえている。

 

『さっさとルーシィ・ハートフィリアを渡せ…! でなくば、選択肢はふたつだ!! 我が兵士に殺されるか、それとも──』

 

 ジョゼの声は爆音によって、かき消えた。

 

 幽兵(シェイド)が進軍を開始しようした瞬間、突如近くにあった樽が大爆発を起こしたのだ。

 中に大量の爆弾魔水晶(ラクリマ)が詰め込まれていたらしく、魔水晶(ラクリマ)が一個起爆すれば隣接した他の魔水晶(ラクリマ)も誘爆し、巻き起こった大爆風によって少なくとも幽兵(シェイド)10体以上は吹き飛ばされた。

 

 だが、おそろしいことに、爆弾魔水晶(ラクリマ)の入った樽はひとつだけではなかった。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)建物(ギルド)と、ジークレインの存在のせいでジョゼは気にもとめなかったが、すでに川岸にいくつもの樽が設置されていた。不自然なほどに。

 

 ひとつ、またひとつと、樽が爆発する。そのたびに耳をつんざくような爆音が鳴り響き、あちこちで爆炎と爆風が炸裂した。

 

 ひとりでに爆発しているかに見えたが、起爆する直前、魔力の弾丸が走るのをジョゼは見逃さなかった。

 

──狙撃手か…!

 

 ジョゼは射線を追って、敵の位置を探ろうとしたが、すでに狙撃手(ビスカ)は次の狙撃ポイントへ移動していた。

 苛烈な爆撃によって、ジョゼが最初に召喚した幽兵(シェイド)があっという間に全滅した。

 だが、彼の魔力はまだ余裕がある──すぐに新たな兵士を生みだしていく。

 

『無駄な抵抗を続けたければ、そうしていろ!! 幽兵(シェイド)をいくら倒しても、‶ジュピター〟がある!! 装填までの15分、せいぜい恐怖の中であがけ!!!』

 

 そんなジョゼの物騒な言葉を聞きながら、

 

「ナツ君、ハッピー。準備は?」

「万端だ!!」

「あいさー!」

 

 ジルの呼びかけに、少年と青猫が力強く応えた。

 

 火の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)──ナツ・ドラグニルの専売特許は、破壊と果断速攻。魔導砲制圧に適任である。

 S級魔導士でないにせよ、瞬発力のある彼は切り込み隊長としても非常に優秀で、彼がいるかいないかで序盤の戦況が大きく変わってくる。

 

 そんなナツをサポートするのが人語を解する青猫──ハッピー。

 戦闘力は乏しいが、飛行能力を有しており、本気を出したときのトップスピードは妖精の尻尾(フェアリーテイル)最速。人ひとり抱えていてもだ。

 彼とナツが組めば、鬼に金棒。幽兵(シェイド)の群れを飛び越して、一気に幽鬼(ファントム)の城内へ潜り込むことができる。

 

 ハッピーには、城へ攻めこむ精鋭メンバーを搬送させるという重大な役割を与えたわけだが、

 

「ジルはタバコくさいからやだ」

 

 と無情にも拒否されてしまった。このときばかりはジークレインもさすがに吹きだし、エルザもざまぁみろと言わんばかりにほくそ笑んでいた。

 ジルとしては他のメンバーを運んでくれればそれでかまわないし、煙草をやめる気もない。

 

「15分だろ? やってやる!!」

 

 ナツが戦意をみなぎらせる一方で、ジルが冷静に告げる。

 

「いや、ナツ君。10分で破壊するつもりでやってくれ」

「は? 15分から20分って、お前も言ってただろ?」

「とはいえ、技術も常に進歩しているからな。あと、敵の言葉を素直に受け取るな。15分と言って、本当は10分かもしれない。私がジョゼの立場だったらそうする」

「いや、お前本当に性格悪いな!!!」

「念のためだ。早く制圧しておいて、損はなかろう」

 

 爆音が鳴り響いた。

 

 ビスカが樽を狙撃して、爆弾魔水晶(ラクリマ)を爆発させたのだ。それを合図とし、騒ぎに乗じてナツとハッピーは飛びだした。

 あっという間に城へ肉薄し、‶ジュピター〟の砲口から城内へ進入していった。それを確認したところで喪服の男はジークレインに声をかける。

 

「ジークレイン。城までの道中、私を護衛してくれ。ボディガード役がいないのでな」

「随分と可愛げがないお姫様だな。頼りになるのかならんのか、わからん男だ」

 

 いつものように皮肉を言ってから、ジークレインは他の人間に聞こえぬよう声を潜める。

 

「‶喪服の悪魔(メフィスト)〟。お前はとっくに気付いているだろうが、おれは思念体(・・・)だ。まぁ、だからといって、あんな俗物にただでやられるつもりはないが、あんまり期待するなよ?」

「もちろん。君はジョゼを弱らせる程度まで働いてくれればいい。トドメは別の人間にやらせる」

 

 男の作り笑いを見ながら、何か企んでいるなとジークレインは察した。少なくとも、自分で手柄を取る気はないようだ。

 ただでさえ、仲間内から嫌われているのだ。結果を残して、自分の立場を強固にさせても損はないだろうに。

 

 この男に、私欲というものがないのだろうか? 大した功績も立てず、同胞から憎まれ、その先にいったい何を望む?

 

 ジークレインは、ジルへの興味が尽きなかった。

 

一番面白いのは?

  • 幽鬼の支配者編
  • バトル・オブ・フェアリーテイル編
  • 過去編①x780年
  • 過去編②x782年 喪に服す
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