悪ノ華【妖精の必要悪】   作:ギュスターヴ

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第二十三話:幻想曲(ファンタジア)

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルド内で、ファンタジアの準備が進められていた。

 バトル・オブ・フェアリーテイルで多くの怪我人が出てしまったため、動ける人間は全員参加だそうだ。

 

 ちなみに、今回の戦いで無傷で完勝したジルはカウンター席で本を読んでいた。手伝いもしない。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)に入って最初の一、二年は参加していたが、喪服を着てから(・・・・・・・)参加しなくなった。

 ミラジェーンやマカロフが呼びかけても、頑なに拒否している。

 ただ、大多数のメンバーがジルを毛嫌いしているため、参加したらしたで迷惑であることも確かであった。

 

「なぁ、ジル。ちょっといいか?」

 

 話しかけられたジルは顔をあげると、ジェットとドロイが横に立っていた。彼らから話しかけてくるなどいつぶりだろうか?

 一瞬、そんなことを思ったジルであったが、ふたりとも何やら困り果てた顔をしていたのが気になった。

 

「どうした?」

「いや…その、レビィがさ。すっげぇ機嫌悪そうなんだよ」

 

 ジェットの言葉を受け、ジルはちらりとレビィのほうを見た。いつもだったら仲の良いルーシィたちと一緒にいるはずなのだが、ひとりで黙々と飾り付けをしている。

 ジェットの言う通り、見るからにむくれている。ルーシィもそれに気付いているようで、話しかけようか迷っている。

 

「聞いても〝別に〟って返されてよ。何か知らないか?」

 

 ドロイに訊ねられ、ジルは頭を巡らせた。いくつか予想を立てたが、どれも可能性が薄い。

 

「…いや、すまない。皆目見当もつかない」

「ジル、どうにかしてくれよ。これからファンタジアやるってのに、こんなんじゃ楽しめねーよ」

「お前、無駄に(・・・)女の扱い得意だろ?」

「むしろ君たちのほうが彼女のことをよく知っているし、扱いも心得ているんじゃないか? 幼馴染なのだろう?」

 

 ジルがそう言うと、ジェットとドロイは同時に返した。

 

「だったらおれたちも秒でフラれてねーんだよ!!」

 

 何とも悲しいことではないか。

 さすがに哀れに思ったジルはため息をつき、レビィの元へ向かった。

 

「レビィ」

 

 名を呼ぶと、レビィはじろりとジルを見たあと、作業をつづける。

 

「…なに?」

「何やら機嫌が悪そうだったから声をかけた。何かあったのか? ルーシィもジェットたちも心配している」

「嘘ついた」

「なに?」

 

 ジルは聞き返すと、レビィはふくれっ面で答えた。

 

「ジルが、私に、嘘ついた。ラクサスを説得するって言っておきながら、ジルは私を魔法で眠らせた」

 

 ジルはようやく合点がいった。

 

「そうか。私に怒っていたのか」

「他に何があるの!?」

 

 不機嫌の理由がわかったところで、ジルは静かな口調で説明する。

 

「あのときにも言ったが、ラクサスはもう後戻りできない状態だった。説得の余地はない。無闇に彼の前に立てば、君が怪我をする」

「私は別にいいの。やるだけやってみればよかったじゃん」

「やらずともわかる。無駄とわかっててやるのは時間と労力の浪費だ」

「無駄と決めつけたらそれまでじゃない! どうして可能性を潰そうとするの? ラクサスのこと、仲間と思ってないの!?」

 

 ジルとレビィの口論が徐々に激しくなっていき、何事かと周囲の視線が集まる。

 

「思っていないな。それどころか、私は他人に興味がない」

「じゃあ、何で妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいるの!? 何でミラと一緒にいるの!? 本当に興味がなかったら、とっくの昔にここからいなくなってるはずだよ!?」

「都合が良いからだ。このギルドに利用価値がある。ミラジェーンに関しては、我々の関係を利用してくる連中を逆に罠にかけるためだ。今回のことで大いに役に立てた。あとでフリードに訊いてみるといい」

「嘘ばっかり…!!」

「ちょっとふたりとも、やめてよ」

 

 いても立ってもいられず、ミラジェーンが仲裁に入る。ファンタジアの準備があるというのにいったい何をしているのか。

 だが、レビィとジルの口論はつづく。

 

「いっつもそうやって他人に興味なさそうにしているけど、本当は興味を持たないようにしてるんじゃないの!!? 自分の心を守るために!!」

「自分の心を守る? 意味がわからない。もっと具体的に──」

「どうして!? どうして、そんな風に(・・・・・)なっちゃったの!!?」

 

 レビィの瞳から涙がこぼれた。

 そして、かつて仲間たちに囲まれていた男に対して、痛烈な一言を発した。

 

「ジルだって、本当は…! 誰かを傷付けるようなことしたくないくせに…!!」

 

 バキリッ!!! とどこかで何かが壊れるような音がした。

 

「もういい!! ジルのバカ!!!」

 

 吐き捨てるように言いはなったレビィはその場から走り去っていった。それを見て、ルーシィが慌てて追いかける。

 

 あっという間の出来事で、場はしんと静まりかえっていた。

 残されたジルは無表情でその場にとどまってはいたが、しばらくすると荷物をさっさとまとめてギルドから出ていった。

 

 その光景を見ながら、ミラジェーンはただ黙って立ち尽くしている。

 

「あ、あの〜、ミラ、さん…?」

 

 カナの声が、ミラジェーンの意識を現実に引き戻された。

 気付けば、右手が接収(テイクオーバー)していた。異形の手が、椅子の背もたれを握り潰している。

 

 恋人の言葉に怒りを覚えたんだろうと、カナが(おのの)きながらフォローする。

 

「その、さ…。ジルの言ったこと、あんまり気にしないでよ。今更じゃん? 多分ね、ジルなりのジョークだと思うんだよね? センス最悪で、全然笑えないよね〜? あいつ、天然で笑い取るタイプなのにさぁ」

「…ああ。そうだな…」

 

 適当に返答したミラジェーンは(きびす)を返した。そのまま部屋の奥へ引っ込んでいき、しばらく姿を現さなかった。

 

 

 ルーシィが外へ出ると、レビィをすぐに見つけることができた。道端にしゃがみこみ、顔を伏せながらすすり泣いている。

 ルーシィは悲しげに表情(かお)を曇らせ、静かに隣に寄り添う。

 

「レビィちゃん…」

「最初ギルドに来たとき…あんな人じゃなった…」

 

 顔を上げぬまま、レビィは語る。

 

「いっつもひとりで本読んでて、自分から輪に入ることはなかったけど、誘えば毎回来てくれたの。皆と一緒に、その辺でボール遊びだってしたんだよ? 運動神経最悪だったんだけど、チェスとかトランプとかはめっちゃ強くて…ジルがいないと、何かつまんないよねって皆で言ってた」

 

 ルーシィとしては意外な話だった。

 あのジル(・・・・)が、ギルドの仲間たちと遊んでいたなど、想像もできない。

 

「私は、今でも…ジルの態度が変わっても、心までは変わってないと思ってる。きっと…何かが(・・・)あったんだと思う。ミラまで変わっちゃったから。それなのに皆してジルの悪口ばっか言ってて、ミラのことまで悪く言う人だっているの…」

 

 そこでようやくレビィは顔をあげた。瞳から大粒の涙が溢れさせ、歯を食いしばっていた。

 

「私は…それがとても悔しい…!」

 

 ガジルやラクサスに対して恨み言ひとつ言わなかったレビィがここまで悲しそうに、涙を流している。

 ルーシィは思った──この子は他人のために泣いて、他人の代わりに怒る人間なんだと。

 

「ルーちゃんは…? ルーちゃんも、ジルのこと酷い人だって思う…?」

「そ、それは…」

 

 ルーシィは何とも言えなかった。

 ジルと出会って数ヶ月しか経っていないし、過去のジルを知らない。

 

 話を聞くかぎり、ジルが変わってしまったから、彼を見る周りの目も変わってしまったのだろう。

 レビィの言うようにきっと理由(わけ)があるんだろうが、半壊したギルドを見捨てろと発言したことといい、反対意見に対して血生臭いと痛烈に批判したこといい、いくら正論であろうとそれを快く受け入れることはできなかった。

 

 正直、レビィは優しすぎるからジルに対して盲目になっているのではと思ってる自分もいた。

 だが、とにもかくにも、判断材料が少なすぎる。

 

 そんなルーシィの心情を察したレビィは自嘲するように再び顔を伏せた。

 

「…ごめん。こんな言い方、ズルいよね。どう思うかは自由なのに…」

「ううん、そんなことない。レビィちゃんは間違ってない、絶対に」

 

 ルーシィはそのくらいのことしか言えなかった。

 

 

 ファンタジア──妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちが織りなす饗宴を、群衆にまぎれてラクサス・ドレアーが眺めていた。

 

 彼は祖父のマスター・マカロフから直々に破門を言い渡された。

 何とも思わないと言えば、嘘になる。ただ、思いのほか、素直に受け止めることができた。

 自分はそれだけのことをしてしまったのだ。

 それもこれも、ジル・アイリスの思い通りだったというのだろうか?

 

「チッ…あの野郎…」

 

 思わず、悪態をついた。

 

 ラクサスはジルのことが嫌いだった。

 彼はすべてのものを持っていた。

 半神じみた美貌、不死身の魔法、何より彼が何もしなくてもたくさんの仲間に囲まれて、愛されていた。

 

 彼はすべてのものを持っていた。

 すべてのものを持っていたくせに、幸薄そうな顔をしていたのが余計に気に食わなかった。

 そして、その男に完膚なきまでに敗北した。

 ナツたちと戦って消耗していただとか、ジルがトリッキーな魔法を使ってきただとか、そんなものは言い訳でしかない。

 負けは、負けである。

 

──あいつ…何で魔水晶(ラクリマ)を取り出さなかった?

 

 薬で眠らされていたラクサスだったが、実はかすかに意識が残っていた。

 

 ジルが何かしらの魔法を使い、体内にある魔水晶(ラクリマ)を掴まれるのを感じた。

 取りだされると思った。それもそうだろう。滅竜魔法の有用性は、ラクサス自身よく知っている。それを敵から奪えるのであれば、奪う以外の選択肢はない。

 

 奪われたあとはどうなるのだろうか? 子どもの頃と同じように、身体が弱り、戦えなくなるのだろうか? 魔力はどうなる? そもそも、魔法はまともに使えるのか?

 

 

 ‶嫌だ…!!!!〟──と思った。

 

 

 魔導士として力を示すことで、自分の存在を証明してきた。

 自分が最強だと思っていた。自分以外の人間は全員クズだと思っていた。

 今までどれだけの人間を、どれだけの仲間を傷付けた?

 魔水晶(ラクリマ)を失ったあとは、考えるまでもなくみじめな人生が待っている。侮辱した人間から逆に侮辱され、ギルドからも追いやられ、そして最後には存在すら忘れ去られ、ベッドのうえで若くして死んでいく。

 

 何と愚かなのだろう。自分を慕う部下たちですら蔑ろにした自分が、常に他人の目を気にし、他人の目を怖れている。

 そのことにようやく、ラクサスは気付くことができた。

 

 その瞬間、ジルは手を引き抜いた。だが、どういうわけか、彼は魔水晶(ラクリマ)を取りださなかった。

 ラクサスは安堵するとともに、妙に思った。何故だ? 合理主義者の典型的ともいえるジルが何故、突然魔水晶(ラクリマ)を取りだすことをやめたのか。

 

 情けをかけたのか? まだ利用価値があると思ったのか? それとも、慈悲だったのだろうか?

 

 答えはわからない。だからといって、わざわざ尋ねるつもりもないが。

 

 

「…どこまでもムカつく野郎だ」

 

 

 ラクサスはもう一度悪態をついた。

 ジルのことを好きになることはない。だが、以前と比べて、憎悪と嫉妬が和らいでいた。

 ラクサスはそれを認めるまで、少しだけ時間がかかった。

 

 

 その頃、ジル・アイリスもまた、自宅のアパートの屋上からパレードを眺めていた。

 

 グレイとジュビアが息の合ったコンビネーションで氷と水の造形(まほう)で見る者を魅了し、エルザが華麗な剣舞を披露している。

 途中でラクサスとの戦いで大怪我を負っていたナツがまともに炎の息(ブレス)を吐けずにむせていたり、ファンシーな衣装に身を飾ったマカロフがコミカルなダンスを踊って、観客たちを笑わせてはいたが、妖精の尻尾(フェアリーテイル)らしいといえば妖精の尻尾(フェアリーテイル)らしい。

 

 だが、どこにもミラジェーンの姿が見当たらない。そのことに気付いたジルだったが、特にそれ以上考えず、煙草を吸おうと胸元からシガレットケースを取りだした。

 だが、ケースを開けると、中身は(から)だった。今日の分は吸いきってしまったようだ。

 

 すると、

 

「吸う?」

 

 横から、煙草の箱を差しだされた。

 いつの間にか、横にミラジェーンが立っていた。

 

「…いいのか?」

 

 ジルが訊ねると、看板娘は小さく頷いた。

 

「入院生活で少しだけ禁煙してたからね。今日だけ特別」

「そうか。じゃあ、十日分を──」

「ダメ。一本だけ」

「………」

 

 ジルは無表情のまま、どこか釈然としなかったが、一応感謝する。

 箱から一本取りだし、口にくわえ、ライターで火をつける。

 ゆっくりと紫煙を吸いだし、たっぷりと吐きだす。煙状の有害物質が肺と精神に染みわたる。

 

「…ジル。火、ちょうだい」

 

 再度横を見ると、ミラジェーンも煙草をくわえていた。

 ジルは黙ってライターで火をつけようとすると、

 

「違う。こっち(・・・)

 

 あごを掴まれた。

 煙草と煙草が、口付けのように触れ合った。

 濁った灰色の瞳と、蒼氷色(アイス・ブルー)の瞳が見つめ合う。

 

 自分の煙草に火がつくと、ミラジェーンはようやく細いあごから手を放した。

 屋上の手すりに寄りかかり、顔を背けてから紫煙を吐く。妖精の看板娘を知る者からすれば、ぎょっとする光景だ。まさかミラジェーンが煙草を吸うなどと。

 だが、彼女は日常的に吸っているわけではない。週に一本程度である。

 

 ジルとミラジェーン──美しい男女が煙草を吸いながら、パレードを観覧する。

 

「…参加しなくて良かったのか?」

 

 ジルが携帯灰皿を差しだすと、ミラジェーンは灰を落とした。

 

「体調悪くてね。フリードとちょっと戦っただけで、あちこち筋肉痛よ。一応、身体鍛えてはいたんだけど、戦い用(・・・)じゃないとダメね」

 

 もう一度顔を背けて、紫煙を吐く。

 (うち)に悪魔を宿している彼女は煙草の有害物質を分解する。むしろ、身体に良いくらいだ。香りも、味も、甘く感じる。

 だからこそ、

 

「…ひっどい味。やめたほうが良いわよ、こんなもの」

「喫煙者は皆、それを承知で吸っている。身体に悪いからとやめられたら苦労はしないさ」

 

 それもそうね…とミラジェーンは珍しく反論できなかった。

 

 そうこうしているうちにパレードはクライマックスに差しかかった。

 魔法を源泉とした花火が夜空を美しく、華々しく彩ると妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士たちは一斉に同じポーズを取った。

 

 親指人差し指を立て、相手に手の甲を向けながら何かを指し示すように高々く掲げる。

 誰かに居場所を伝えるように、誰かに気持ちを伝えるように。

 

 それを見て、ただひとり涙ぐみ人物がいた。ラクサスだ。このジェスチャーを見て、彼は何を思ったのだろうか?

 答えを知る者はいない。彼は涙しながら、その場をあとにする。

 力を欲し、力を示し、周囲の人間たちを侮辱してきた男の姿などどこにもなく、あまりにも弱々しく、小さな背中であった。

 

 そして、そんな男の後ろ姿を、ジルただひとり、無感情な瞳で眺めていた。

 

「…ねぇ、誰が最初に考えたと思う?」

 

 同じ手振りをしたミラジェーンが、自分の手を見下ろしながら訊ねた。

 ジルは「さぁ…?」と小さく肩をすくめた。知らないし、特に興味もない。

 話を振ったミラジェーンも、それ以上広げず、吸い終わった煙草を灰皿に入れた。

 

「…パレード終わったし。私、そろそろ行くね。打ち上げの準備しないとだから。ジルも参加する?」

「いや、もう眠る」

 

 ジルは即答した。

 実はラクサスたちの戦いのために、数日間身を隠しながらろくに寝らずに魔法の儀式の準備をしていた。

 あのラクサスに無傷で完全勝利した代償である。いい加減、惰眠を貪りたい。

 

「…そっか」

 

 小さくつぶやいたミラジェーンは(きびす)を返して、歩きだす。だが、もう一度振り返り、恋人を後ろから抱きしめた。

 大きな背中。だけど、細くて、どこか儚さを感じる。

 

 

「…どんなことがあっても、私だけは──あなたを許す」

 

 

 女は、これから待っているであろう数々の未来に対して宣言するように、言葉を紡いだ。

 

 まるで神のような言い草だと、ミラジェーンは自嘲する。

 

 

 

『あなた、女神にでもなったつもりなのかしら?』

 

 

 

 悪魔の言葉が頭の中を反芻する。

 悪魔に言われた数々の言葉は、ミラジェーンが心のどこかで思っていることだった。

 

 悪魔を宿している自分に自信がなく、周りの女に嫉妬していたし、ジルのすべてを理解することができない自分を憎んでいたし、もしかしたら自分は愛されていないのではと不安になっていた。

 

 だが、ミラジェーンはそれでもよかった。

 自分は、ジルのすべてを受け止める(そんざい)

 たとえ愛されていなくてもいい。好きな人に愛されることよりも、好きな人を愛することに幸せを見い出したのだから。

 

「………」

 

 ジルは何も答えなかった。

 否定も、肯定もしない。いったい何を考えているのか、ミラジェーンでさえもわからなかった。

 

 一方的な抱擁は、しばらくつづいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死体の山が広がっていた。

 

 場所は、とある闇ギルドのアジト。

 そこにたむろしていた魔導士たちがひとり残らず惨殺されたのだ。

 刀剣で斬り殺されたのか、どの死体も真っ二つに両断されている。

 

 血の海の中、ただひとり佇んでいる者がいた。

 その者は尼僧服を着用していた。ボサボサに乱れた白髪が肩まである。

 

 どこかの教会のシスターだろうか?

 殺された者たちを哀れみ、神の御許まで送り届けるために祈りを捧げに来たのか?

 

 否、彼女が主犯だ。

 女の手には、血にまみれた長剣が握られていた。手入れをしていないのか、血錆が色濃く浮いており、刃先が刃こぼれしている。

 だが、どういうわけか、遺体の傷は非常に鮮やかな(・・・・)切り口だった。

 しかも、女の体型は細身で小柄だというのに、どこに大の大人を両断できる膂力があるのか?

 

 女は眼帯をしていた。だが、片目ではない、両目だ。

 茶革の大きな眼帯を両目で覆い隠している。しかし、それでも歩行どころか、戦いにも支障はないようだ。

 

 尼僧服、眼帯、血錆の長剣、白髪──奇妙な組み合わせのその姿は、まるで死神を彷彿とさせた。

 

「もう十分に使いこなせたようだな、ジェーン(・・・・)

 

 男が現れた。

 髑髏の杖を持った巨漢だ。男は口の端を吊りあげ、我が子に語りかけるような穏やかな口調で話しかけた。

 ただ、女を見る目が──まるで何かに憑りつかれたような、狂気の色を孕んでいた。

 

 ジェーンと呼ばれた尼僧服の女剣士は歯を剥きだして、(わら)った。

 合わさった歯に、六マの刻印が血の色で刻まれていた。




次章、過去編②x782年:喪に服す

一番面白いのは?

  • 幽鬼の支配者編
  • バトル・オブ・フェアリーテイル編
  • 過去編①x780年
  • 過去編②x782年 喪に服す
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