悪ノ華【妖精の必要悪】   作:ギュスターヴ

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第二十五話:妖精王(オベロン)

「趣味の悪いところね」

 

 ギルド連合の集合場所に到着して早々、ルーシィが正直な感想を口にした。

 大きくて立派な屋敷だが、建物のあちこちに派手なハートの装飾が施されており、お世辞にもしゃれた場所とは言えない。

 

「マスター・ボブの別荘だそうだ」

「あいつか…」

 

 エルザの言葉に、グレイは露骨に嫌な顔をした。禿げで、太ったオカマの顔を思い出し、吐き気をもよおした。ナツもナツで、別の意味で吐き気をもよおしている。

 すると、

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の皆さん、お待ちしておりました」

 

 爽やかな男たちの声が響きわたった。

 

「我ら!」

青い天馬(ブルーペガサス)より選出されし!」

「トライメンズ!」

 

 あらわれたのは、スーツを着用した三人の男たち──いずれも個性が分かれてて、整った顔をしている。パフォーマンスも交えて、三人は自己紹介した。

 

 長身の美男子──百夜のヒビキ。

 幼い顔立ちの金髪の少年──聖夜のイヴ。

 硬派な顔立ちの、褐色の男──空夜のレン。

 美貌と、魔力と、高い戦闘力をあわせもった、青い天馬(ブルーペガサス)の魔導士たちである。

 

「カ、カッコイイ…! しかも、あのヒビキって人、彼氏にしたい魔導士ランキングの上位ランカーの人だ!」

 

 面食いのルーシィは、美男子たちの顔立ちと立ち振る舞いに早くも胸をときめかせた。

 

「うおっ!? 服が消えてる!?」

「うっぷ…」

「こら、ジル! 吸うんだったら外で吸いなさい!」

「普段使われていないんだろ? 数日たったら匂いも消えているさ」

「こっちはダメだぁ…」

 

 無自覚なる露出狂グレイ、まだ乗り物酔いから覚めないナツ、ひとさまの別荘で煙草を吸おうとするジル──顔は良くてもいまいち締まらない男三人組を見て、ルーシィはげんなりした。

 すると、華麗に自己紹介を済ませたはずの青い天馬(ブルーペガサス)のトライメンズが妖精の尻尾(フェアリーテイル)の顔ぶれを見て、突如顔色を変えた。

 

「な!? お前は! ジル・アイリス!?」

「さ、最悪だぁ~!!」

「よりにもよって、何でお前が来るんだよ!?」

 

 ジルの存在に気付いた瞬間、青い天馬(ブルーペガサス)の面々が紳士の仮面をかなぐり捨て、一斉に悪態をつきはじめた。

 ルーシィは呆れはてた。

 

「えー…ジルさん、他のギルドでも嫌われてるんですか…? さすがに引くんですけど…」

青い天馬(ブルーペガサス)だけだ。しかも、逆恨みだよ」

「何が逆恨みだ!」

「ぼくたちのお客さんを取ったくせに!」

 

 何やら因縁があるようだ。

 しかし、いったい何があったというのだ?

 ジルの性格からして嫌うのはしょうがないのかもしれないが、彼は表の顔と裏の顔を使い分けられる男だということはルーシィも知っている。

 したたかなジルが、無闇に外部の人間を敵に回すようなことはしないはずだが…。

 

「ちょっとこれには色々と複雑な事情があってね」

 

 苦笑いしながら話に入ってきたのは、ミラジェーンだった。

 

 話は昨年にまでさかのぼる。

 青い天馬(ブルーペガサス)はホストクラブを経営している特殊な魔導士ギルドで、フィオーレ王国の各地から多くの女性客が足を運ぶほど人気が高い。

 だが、そんなある日、接客員が風邪をこじらせたり、身内に不幸があったりと、多くのホストが出勤できず、長い期間店を開けられないという危機的状況に陥ってしまった。

 そこでマスター・ボブが、マカロフに顔が良くて、ある程度の接客ができる人間をしばらく貸してくれないかとお願いしたのだ。

 鼻クソをほじりながら話を聞いていたマカロフはあっさりと了承し、条件に当てはまる人間を選んだのが──

 

「ジルさん、というわけですか」

「そう。ロキも選ばれたんだけどね。でね、ヒビキたちを見て、わかると思うんだけど──」

「あー…向こうのお客さんを寝取っちゃったんですね」

「いや、寝てはないのよ?」

 

 ロキもロキで軽薄そうに見えるのが玉にきずだが、気さくで、女性の扱いがとても上手い男だ。

 だが、ジルの場合、人間の心理を巧みに利用し、どうすれば相手に好かれるかを熟知している。

 何よりあの美貌である。ジル本人の意思関係なく、他の接客員の顧客を奪ってしまうのは無理もないことであった。

 

「さすがにマスター・ボブもこれはだめだと思って、〝ジルちゃん。今までにないくらい、不愛想にやりなさい〟って指示してね」

「あの…接客業ですよね…?」

「で、そのタイミングで私とエルザとカナの三人で遊びに行ったのよ。エルザったら、自分がお客さんでジルが店員さんなものだからここぞとばかりにコキ使ってやろうと張りきっちゃって」

「今では後悔している」

 

 エルザは苦々しくつぶやいた。

 

 そのときのジルの接客は酷いものだったという。

 煙草に火をつけながら登場し、指名してくれた礼も言わずに、さっさと高い酒を注文して帰ってくれと言ったり。

 訊いてもいないのに、原始時代にまでさかのぼって、人体における砂糖の有害性について長ったらしく語ったり。

 当然のごとくエルザがイライラしはじめると、生理か? とセクハラ発言したり、煽りに煽りまくったらしい。

 

「あの…ジルさんは何でそんなにエルザにケンカ売りたいんですか…? ケンカ弱いくせに」

「ちなみにね。ジルがエルザを煽るとき、煙草の持ち方変えるのよ? こう、親指と人差し指で挟む感じで」

「いや、知らないです、そんな細かいところ…」

 

 そして、最終的にジルがエルザの顔に煙を吹きかけたところで、我慢の限界を越えた〝妖精女王(ティターニア)〟が修羅と化した。

 怒りのままに魔力を全開にした彼女は大剣を振り回し、窓を割り、床を砕き、壁を貫き、青い天馬(ブルーペガサス)のギルドを半壊させたという。

 

「ジル! お前に巻きこまれるとろくなことがない! 他の男どもと一緒にとっと帰れ!」

「そうだそうだ!」

「帰れクズ野郎!」

「すでに済んだことではないですか。…というか、エルザ。君まで加わるか」

 

 〝帰れクズ野郎!〟と言ったエルザを一瞥し、ジルは冷静に反論する。

 

「ギルドに迷惑かけてしまったことは〝妖精女王(ティターニア)〟に代わって謝りましょう。ですが、建物の修繕費はこちらで全額負担した。そもそも、()()()()で、それも()()()()()で過去最高の売上を出しました。あなたたちの顧客についても、手間暇かけて()()()()()()()()はずです。それでもなお、終わったことを蒸しかえされるのは心外です」

「なんだと!?」

 

 まったく反省の色を見せていないジルにヒビキたちが怒りをあらわにすると、

 

「やめないか、お前たち!!」

 

 突如響いた美声が、ヒビキたちを一喝した。

 

「な、なに…!? この甘い声は…!?」

 

 女性を虜にさせるような低い男性の声が耳朶を打ち、それだけでもルーシィは再度胸をときめかせた。

 声からして、きっとジルと勝るとも劣らない美形であるに違いない!

 ルーシィは期待しながら、声がした方へ顔を向けた。だが、つぎの瞬間、その期待が困惑へ変わり、最終的に絶望へと変わった。

 

 小鬼(インプ)? ドワーフ? 悪魔の猿?

 

 香水の香りとともにあらわれた、その男はルーシィの肩ほどしかない低身長だった。それなのに、顔が無駄に大きい。輪郭が岩のように角張っており、青髭が濃い。

 数えあげればきりがないが、とにかく顔のパーツの一つひとつが壊滅的である。

 正直、ジルとの共通点といったら性別と、美声と、人体のパーツの個数(・・)だけである。

 

「一夜様…!」

 

 レンが言った。

 ヒビキもイヴも緊張で表情(かお)を強張らせた。姿はどうあれ、どうやらトライメンズにとっては目上の人間らしい。

 男──一夜は叫んだ。

 

「ジルは過去のミスを清算した! そもそも顧客を奪われたからといって、みずからを反省せず、相手を非難することに終始するなど言語道断! それを逆恨みというのだ! 女性の前で無様な醜態をさらすことを、私はお前たちに教えたか!!」

「し、失礼しました!!」

 

 一夜の叱責に、トライメンズは声を揃えながら頭を下げた。

 

「か、()()()()だけど、ジルさんをかばうなんて、ものすごく良い人じゃないですか」

 

 ルーシィが感心していると、ジルが辟易した顔で煙草をくわえた。

 

「いや、彼が一番()()()()()()

「えっ?」

「だが、()()()()()()()()()()

 

 一夜は喪服の美青年に向けて、ビシッ☆とポーズをとった。

 

「過去の遺恨は水に流し、今は協力しあおうと言いたいところだが、その前にだ、ジル・アイリス。お前にビシッ☆、一言ビシッ☆、物申すビシッ☆

「うかがおう、ミスター・一夜」

 

 ジルは煙草に火をつけた。

 

「ただし手みじかに、かつ理論的に願います」

「くっ…!」

 

 早速皮肉を言われ、一夜は一瞬かっとなったが、何とかこらえて声を押しだした。

 

「相も変わらず、まだそんなもの(・・・・・)を吸っているのか」

 

 一夜はジルの口元をじろりと見た。

 

「煙草などという醜悪な香り(パルファム)──いや、もはや香り(パルファム)と呼ぶに値しない。超遅効性の猛毒ガスに過ぎない。何より最悪なのは、煙草の有害物質が吸っている本人よりも、周りにいる人間のほうが数倍悪影響を及ぼす点にある」

 

 嫌煙家のエルザが大きくうなずいた。一夜はつづける。

 

「お前が病魔に苦しみたいのでならば、好きにするといい。自業自得だ。だが、その周囲──特にエルザさんにまで被害を拡大させるのだけは許すまじ!!」

 

 優雅なポーズをきめ、一夜はジルに衝撃的な一言を発した。

 

「貴様、それでも! 〝妖精女王(ティターニア)〟の花婿──〝妖精王(オベロン)〟の座を奪いあう、私の恋のライバル【公式】のつもりか!!!」

「はいぃ!!?」

 

 この言葉に、一番驚いたのはエルザであった。

 片や、煙草の異臭を漂わす美貌の男、片や香水の匂いを漂わす醜男──どちらも嫌いな男たちである。

 何が恋のライバル【公式】だ。まったくもって、寝耳に水である。

 

「あ、あのー、エルザ…?」

 

 ルーシィが何とも言えない眼差しを向けた。その後ろでグレイが引いた顔をしている。

 エルザは全力で否定した。

 

「ち、違う! 違うぞ! こいつが勝手に言っているだけだ! そもそも妖精でもないやつが、何が〝妖精王(オベロン)〟だ!!」

「いや、だって──」

「ふざけるなぁッ!!!」

 

 ルーシィの肩を掴みながら、エルザは血の涙を流した。

 

「何で私の意思を無視して、世界一性格の悪い男と世界一ブサイクな男の間に挟まれなきゃならないんだ!! 究極の選択だぞ!!」

「いや、言いすぎでしょ」

「ミラ! お前からも何か言ってやれ!」

 

 他人事だと思っているルーシィを無視し、エルザはミラジェーンに話を振る。

 すると、看板娘が顔を覆って泣いていた。

 

「あー…違うんだ、ミラ。私とジルの間には何もない、そのくらい知ってるだろ?」

「よかった…本当によかった…」

 

 涙を流しながら、ミラジェーンは何故か安堵していた。

 

「ジルが…()()ジルが…エルザ以外のお友達がいたなんて…」

「いや、ちょっと待て!! 色々ツッコみたいが、少なくとも私とジルはお友達ではない!!」

 

 勝手に嫌いな男と友人関係を結ばれたエルザはまたも全力で否定した。

 すると、すぐ耳元で息遣いが聞こえた。

 

「ふんすふんす…エルザさん。相変わらず、素敵な香り(パルファム)だね」

 

 一夜である。

 何と彼はエルザの首筋に顔を寄せ、髪や体臭の匂いを嗅いできたのだ。

 エルザの鳥肌が立った。

 

「近寄るなぁッ!!!!」

 

 〝妖精女王(ティターニア)〟は絶叫した。

 もし、ジルと一夜の心が逆だったならば、自分はどれだけ幸せだったことだろう。

 そんなことを思いながら、自称花婿候補の一夜を殴り飛ばした。

一番面白いのは?

  • 幽鬼の支配者編
  • バトル・オブ・フェアリーテイル編
  • 過去編①x780年
  • 過去編②x782年 喪に服す
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