悪ノ華【妖精の必要悪】   作:ギュスターヴ

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第二十六話:連合軍、集結

「メェーーーーーーン!!!!」

 

 エルザに殴り飛ばされた〝妖精女王(ティターニア)〟の花婿こと、青い天馬(ブルーペガサス)の異端児こと、ジルの恋のライバル【公式】こと、一夜=ヴァンダレイ=寿(ことぶき)(29)は奇妙な断末魔をあげていた。

 だが、意中の女性に殴られてもなお、その表情はどこか嬉しそうである。

 匂いを嗅げたうえに、愛する者から直々に鉄拳一発をもらえるならば、彼としてはむしろ望むところであった。

 

 彼は数メートル先にある、屋敷の入口まで面白いように吹き飛ばされ、そのまま外へ投げだされそうになった、そのときだった。

 ちょうど入り口から入ってきた男が、一夜の頭を受けとめた。

 

「こりゃあ、随分とご丁寧な挨拶だな」

 

 瞬間、一夜の頭が凍結された。

 一夜を氷漬けにしたその男は、精悍な顔つきをした青年だった。瞳は切れ長で、氷のような冷たい眼差しをしている。

 男の姿を見て、最初に驚いたのはグレイだった。

 

「リオン!?」

「グレイ…!?」

 

 向こうも向こうでグレイの存在に気がつくと、同じように驚愕した。

 グレイ・フルバスターとリオン・バスティア──このふたりは顔見知りだった。何を隠そう、ふたりは同じ師の元、氷の造形魔法を会得し、研鑽しあった──云わば兄弟子と弟弟子の関係なのだ。

 そして、リオンはギルド連合のひとつ──蛇姫の鱗(ラミアスケイル)に所属していたため、今回の作戦に加わったのだ。

 

「…お前、ギルドに入ってたのか」

 

 グレイは意外そうに、それでいてどこか安堵したようにつぶやいた。

 だが、弟弟子からの言葉に対し、リオンは鼻をひとつ鳴らすだけだった。

 一夜の凍結を解除するとともに、その小柄な身体をグレイたちに向かって投げすてた。

 受けとめる者は誰もおらず、グレイとルーシィが反射的にかわすと、一夜がボールのように跳ねた。

 

「何しやがる!?」

 

 グレイが怒りの声をあげた。

 それは一夜が言うべきセリフなのだが、リオンは「先にやったのはそっちだろ?」と冷笑を浮かべるだけだった。

 その態度に、今度は青い天馬(ブルーペガサス)の面々が不平を言いはじめた。

 

「つーか、うちの大将に何しやがる!?」

「ひどいや!」

「男は全員帰ってくれないかな?」

「あら、女性もいますのよ?」

 

 突如、女の声が響いた。

 すると、床に敷かれていた絨毯がまるで命が宿ったかのようにうねり、動き回り、何故かルーシィを狙って転ばせた。

 

「って、この魔法は!?」

 

 女の声と、物体を操作する魔法──ルーシィは覚えがあった。

 絨毯の陰から、ドレスを着た、派手な装いの少女が姿をあらわした。

 女の名前はシェリー・ブレンディ──リオンと同じ、蛇姫の鱗(ラミアスケイル)に所属する女性魔導士だ。

 

 ナツ、ルーシィ、グレイ、ハッピー、リオン、シェリー──この五人と一匹は面識があった。

 ナツたちがギルドの掟を破って、ガルナ島のS級クエストに参加した際に、リオンたちと交戦したことがあったため、浅からぬ因縁があったのだ。

 特に敵がい心をもっているわけでもないが、されど和解したわけでもない。

 

 グレイとリオンが睨みあう。ルーシィとシェリーの間に小さな火花が散る。

 トライメンズもトライメンズで、仲間以外の男たち──特にジル──と協調する気はないようだ。

 再び未来の花嫁の香り(パルファム)を嗅ごうする一夜と、逃げまどうエルザ。

 とりあえず全員まとめてかかってこいとひとりで闘争心をみなぎらせるナツ。

 

 苦笑するミラジェーンの横で、ジルは嘆息した。

 いったい何のために連合を組んだのか。各々が一癖も二癖もあるうえに、誰かと何かしらの因縁があるから早くも仲間割れを起こしているではないか。

 

「やめいッ!!!!」

 

 今度は、男の大音声(だいおんじょう)が響きわかった。

 一喝したのは、禿げあがった頭が特徴的な、大柄な男だった。

 

「ワシらは連合を組み、六魔将軍(オラシオンセイス)を倒すのだ!! 仲間うちで争っている場合か!!」

 

 皆が一斉に口を噤み、騒がしかった場がしんと静まりかえった。

 男の覇気、魔力、その存在感に圧倒されたのだ。

 

「ジュラさん」

 

 リオンが沈黙を破った。

 先程までの、氷のような冷たい態度とは打ってかわり、表情と声音に尊敬の念が見てとれた。

 男の名がわかると、妖精の尻尾(フェアリーテイル)青い天馬(ブルーペガサス)のほとんどの魔導士たちがどよめいた。

 

「…誰?」

 

 ナツだけが知らない様子だった。というより、興味なさそうだった。ハッピーでも知っているというのに。

 ナツが訝しげな表情(かお)をすると、エルザが叱責した。

 

「馬鹿者! 聖十大魔道(せいてんだいまどう)のひとりだぞ!」

 

 岩鉄のジュラ──蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のエースにし、マスター・マカロフと同じ、魔導士として最高の称号を与えられた実力者。リオンが敬服するのも無理はない。

 

「おお、エルザ殿ではないか! お主の噂は聞いている!」

 

 エルザの存在に気がつくと、ジュラが興味を示してきた。〝妖精女王(ティターニア)〟の武勇は、聖十(せいてん)にまで届いているらしい。

 

「たったひとりで、あのマスター・ジョゼを倒したのだろう? その若さで、尊敬に値する」

「ひ、ひとりで…? いえ、それは誤解です…!」

 

 突然、聖十大魔道(せいてんだいまどう)のひとりに話しかけられ、緊張しつつもエルザは慌てて否定した。

 仲間たちが死力を尽くして、ジョゼを消耗させ、たまたま自分がとどめを刺したにすぎない──ジルがそうさせるように誘導したわけだが──。

 だが、ジュラは「謙遜しなくともよい」と首を振り、信じようとしなかった。

 

「何でも、今回の作戦が成功したら、聖十(せいてん)に抜擢されるのではないかという話も聞き及んでいる。エルザ殿のことだから、わし以上の位を与えられるはずだ」

「ほ~う、そうなのですか? どこの誰でしょうか、そんな噂を流している奴は」

 

 エルザがじろりと喪服の男を一瞥した。だが、当の本人は素知らぬ顔で紫煙を吐きだしているだけだった。

 

 何はともあれ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)、以上三つのギルドが揃った。残るは、化猫の宿(ケット・シェルター)だけである。

 だが、まだ到着する気配がないため、痺れをきらしてジルは提案する。

 

「ミスター・一夜。何もせず、ただ待っているのは性にあわない。今からでも情報交換しませんか?」

 

 一夜は優雅に前髪をはらった。

 

「ふん。やれやれ。よほど、エルザさんに良いところを見せたいようだな」

「なぜ、そうなります?」

「いいだろう。どちらにしろ、フィニッシュをきめるのはこの私だ」

「何のフィニッシュ? 命のフィニッシュですか?」

「だが、その前にトイレの香り(パルファム)にいかせてもらう。そろそろ、フィニッシュ(大)をきめそうなのでな」

「………どうぞ」

 

 一夜は一旦姿を消した。

 程なくして戻ってきたが、化猫の宿(ケット・シェルター)の魔導士がまだ姿を見せないため、一夜は情報を開示した。

 まずひとつが、六魔将軍(オラシオンセイス)六名それぞれのコードネームと容姿。

 もうひとつが、ここから北へ進んだところにワース樹海と呼ばれる場所があり、そこにはかつて古代人が封印したとされるニルヴァーナという超魔法が眠っており、六魔将軍(オラシオンセイス)がそれを手に入れようとしていること。

 そして、最後に、六魔将軍(オラシオンセイス)傘下のギルドを次々と襲っている謎の剣士──〝僧衣の死神(マンスレイヤー)〟についても紹介されたが、目的と所属が不明なため味方とも言えず、下手をすれば三つ巴になる可能性がある。注意が必要だ。

 

「それで作戦についてなんだが、化猫の宿(ケット・シェルター)が到着してから説明しようと思ったのだが…」

 

 一夜がちらりと時計を見た。指定された時刻を過ぎても、まだあらわれそうにない。

 

「本当に遅いね。道に迷っているのかな?」

 

 イヴが様子を見に、屋敷の外に出る。一瞥して、グレイが口を開く。

 

化猫の宿(ケット・シェルター)の奴ら、どこ道草食ってんだ? ちゃんと場所知ってんだろうな?」

奴ら(・・)というより、ひとりだけと聞いている」

 

 一夜の返答に、何人かがざわついた。

 

「こ、この作戦にひとりだけって…どんだけ()()()()が来るのよ~…」

 

 味方だというのに、ルーシィは身体を震わせた。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)だけでも六名、聖十(ジュラ)がいる蛇姫の鱗(ラミアスケイル)でも三名なのだ。

 一名だけを選出した化猫の宿(ケット・シェルター)から、いったいどんな怪物が出てくるというのだ?

 

 そのときだった。

 

 ジルが顔色を変えて、ばっと自分の腰を見下ろした。

 〝エルの書〟──ホルスターに収められている悪魔の魔導書が()()()()()()()()()()()()

 

 

「待て!!! 外に出るな!!!!」

 

 

 〝首無し妖精(デュラハン)〟が叫んだ。

 屋敷の外に出ていたイヴが振りかえろうとした、その瞬間。

 

 真紅の大花が咲きみだれた。

 

 美少年の身体が大きく吹きとび、床のうえを転がった。

 呻き声ひとつあげることなく、それっきりイヴは動かなくなった。

 イヴ・ティルムという名前だった肉体が袈裟懸けに斬り裂かれており、傷口からとめどなく血が溢れ、辺りが血の海と化した。

 いったい何が起こった…!?──あまりにも突然な出来事に、ギルド連合の魔導士たちは顔面を蒼白させた。

 すると、

 

「チッ…両断できなかったか」

 

 屋敷の入口から女の声が聞こえた。

 

「やっぱり()()()調()()()()()()

 

 尼僧服を着た、その女は、

 

(ひい)(ふう)(みい)──11人、か」

 

 一介のシスターと呼ぶには、

 

「ああ…()()()()

 

 あまりにも異様な出で立ちだった。

 

「可哀想だね、()()()

 

 両目を覆う革の眼帯、屍人のような白い髪、十字架を模したような血錆びの長剣。

 

「オレが全員、救ってあげないと」

 

 その姿は、まさに死神だった。

一番面白いのは?

  • 幽鬼の支配者編
  • バトル・オブ・フェアリーテイル編
  • 過去編①x780年
  • 過去編②x782年 喪に服す
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