悪ノ華【妖精の必要悪】   作:ギュスターヴ

45 / 45
離脱した読者さん、大正解です。

読み続けてくれる読者さん、本当にありがとうございます。

残酷な描写ばかりですが、ラストは必ずハッピーエンドにさせます。
人たくさん死ぬのにハッピーエンド?と思うかもしれませんが、察していただければ。


第二十八話:滅理魔導士(リーズンスレイヤー)

「ああ、そうだった。ごめん、母さん。()()()()()()()()()()()()()()んだ。うっかりしてた。ついつい楽しんじゃった。ごめんよ、ごめんよ。プリン抜きは勘弁して」

 

 〝僧衣の死神(マンスレイヤー)〟こと、人斬り包丁(ジェーン・ザ・リッパー)はぶつぶつと独り言を言いはじめた。

 

 すると、壁に突きささっていた長剣がひとりでに抜け、宙を浮遊した。まるで磁石が鉄を吸うかのように、女剣士の手元に舞いもどった。

 だが、人斬り包丁(リッパー)はそのまま誰かに斬りかかることはせず、なぜか誰かと会話するように独り言を繰り返していた。

 隙だらけのようには見えるが、彼女の恐ろしい戦闘力を目の当たりにしたため、ミラジェーンもエルザも迂闊に手を出せず、相手の出方をうかがうことしかできなかった。

 

──最悪の状況だ…。

 

 ジル・アイリスはかつてないほどの、危機的状況に立たされていた。

 13人いたギルド連合の魔導士たちが、作戦開始するまえに、たったの数分で二名が死亡。三名が戦闘不能。一名が戦意喪失。

 

──…待て。この女、最初なんて言った…?

 

 ジルは、〝僧衣の死神(マンスレイヤー)〟が言っていた言葉を思い出す──〝11人、か〟と。

 イヴを撃破したなら、残り12人のはず。数え間違いでなければ、誰をカウントしていない?

 

「ピーリ。ピーリ」

 

 奇妙な声が聞こえた。

 ジルが振り向くと、何と聖十(せいてん)のジュラが倒れていた。

 彼の近くに立っているのは、青い天馬(ブルーペガサス)の一夜。だが、どういうわけか、彼は香水の小瓶を開けており、香りの魔法でジュラを昏倒させたのだ。

 いったい何をしている…!? 一瞬、そう思ったジルであったが、一夜は()()()()()()()()誇り高い男だ。敵に寝返るような卑怯な真似はしない。

 では、何者かに操られている? それとも、変身魔法で擬態しているのか? ジルが判断に迷っていると、一夜──と思しき男が口を開く。

 

「一夜から見たジル。〝恋のライバル【公式】〟〝煙草を吸うクズ野郎〟‶甘いものと、酒が苦手〟〝見た目だけは憧れる〟‶マイスイートエンジェル・エルザさん、ちゅきちゅき♡〟──どうでもいい、情報ばっかりだな」

 

 ジルは魔法を発動した。

 仮に操られていたとて、迷うくらいなら攻撃したほうがいい。

 魔力弾を撃ちはなち、一夜を吹きとばした。

 

「ぎゃー! 不意打ちは卑怯だぞー!」

「仲間を撃つだなんてー!」

 

 爆煙の中で、声が()()()聞こえた。

 煙が晴れ、あらわれたのは同じ顔をした、二体の小人だった。

 変身魔法で一夜に化けていたようだ。しかも、口ぶりからして、擬態した人間の記憶まで模倣することができるらしい。

 

「まったく…噂通りの男だゾ。だけど、ふたり仕留めたから、まぁ、よしとするゾ」

 

 女の声が聞こえた。

 屋敷の中に潜んでいたのか、銀髪の少女が姿をあらわした。羽毛を集めたような派手なドレスを着ている。

 六魔将軍(オラシオンセイス)の紅一点──エンジェルだ。

 

──あの小人(ホビット)…! もうやられたのか…!

 

 ジルは心の中で悪態をついた。

 状況がさらに悪化した。連合上位クラスのジュラと一夜が撃破され、今の戦力で六魔将軍(オラシオンセイス)と〝僧衣の死神(マンスレイヤー)〟を同時に相手にするのは難しい。

 いったいどう切りぬけようかとジルが考えていると、

 

「ああ~! お前、()()()だったのか!」

 

 突然、ぶつぶつと独り言を言っていた人斬り包丁(ジェーン・ザ・リッパー)がジルに話しかけてきた。

 

滅理魔導士(リーズンスレイヤー)! 滅理魔導士(リーズンスレイヤー)だ! 滅理魔導士(リーズンスレイヤー)だろ、お前!? マジスター・テンプリ!」

「…滅理魔導士(リーズンスレイヤー)? ()()()?」

 

 意味のわからない固有名詞を言われ、ジルは訝しんだ。

 滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)なら知っている。滅神魔導士(ゴッドスレイヤー)は実際会ったことはないが、存在が確認されている。

 滅理魔導士(リーズンスレイヤー)とは、いったい何だ? 聞いたことすらない。

 ただ、見たところ、あの〝僧衣の死神(マンスレイヤー)〟は戦闘能力は恐ろしいが、やや知性が乏しいように思える。時おり、意味不明なことを言っている。

 気にする必要はないのでは? と思っていると、人斬り包丁(リッパー)が剣先で、ジルの持っている魔導書を指ししめした。

 

「それ。〝エルの書(Liber AL)〟ってんだろ?」

「…なぜ、知っている?」

「母さんが教えてくれた」

「母さん? お前の雇い主か、何かか?」

「ぶっぶー! オレの剣──人類救済の滅人奇剣(めつじんきけん)、〝抉リ出サレタ子宮(アイアンメイデン)〟のことだよ」

 

 十字架を模したような、血錆びた魔剣が鈍い輝きを放つ。

 

「お前の持っている〝エルの書〟──一番の駄作らしいぜ。()()にも適合しなかった、出来の悪い弟くんなんだとよ。ちなみに、母さんは長女だ。怒ると、閻魔様みたいにものすごく怖いんだ。だけど、ものすごく愛情深い。閻魔様みたいに」

 

 〝エルの書〟は、〝僧衣の死神(マンスレイヤー)〟の剣に共鳴していたようだ。詳細はわからないが、〝エルの書〟と同じ系統の、悪質な呪具であることは間違いない。

 

「おい、人斬り包丁(リッパー)。さっきから何敵と仲良く話しこんでる?」

 

 それまで、黙って見ていたエンジェルが痺れをきらして、口を開いた。

 

「私たちの目的、ブレインからの命令を忘れたか?」

「おいおい、()()()エン(・・)()()()。そんなに焦んなよ」

 

 眼帯女はギリギリと歯ぎしりさせた。

 

「今、地獄のセールストークの最中なんだ。邪魔すんなよ」

「なんだ、そのバンド名みたいなあだ名は。…もういい、勝手にしろ」

 

 エンジェルは不満げに押しだまった。

 まともな会話ができないというのも、ひとつの理由ではあるが、彼女もまた、〝僧衣の死神(マンスレイヤー)〟の強さと恐ろしさを目の当たりにしたため、強くは言えなかった。

 

──奴らは仲間同士なのか?

 

 女ふたりのやり取りを見て、ジルは密かに思った。

 なぜ六魔将軍(オラシオンセイス)と、その傘下ギルドを潰してまわった女が手を組むことになったのか。

 潰しあってくれればよかったのだが、そう都合よくはいかないようだ。

 

「まぁ、そんなわけだ! どこまで話したっけかなー? そうだ! あれ! あれあれあれあれ! メイガス、メイガス! お前も所有者だったら、使()()()()()!?」

「何をだ?」

 

 何のことかわからず、〝喪服の悪魔(メフィスト)〟がまた訝しむ。

 それに対し、尼僧服の剣鬼が歯を剥きだして、笑った。

 

「あるんだろ? ()()()()()()()()()ってやつがよ」

 

 その瞬間、ジルの目がほんのわずかに()()()

 

「…何の話だ?」

「表情変わってなくても、脈拍までは誤魔化せねーぞ? 動揺しているな。制約か? 魔力不足か? こだわりか? まぁ、なんだっていい」

 

 女剣士は手の中で、長剣をくるくると回す。

 

「なぁなぁ、見せてくれてもいいだろ? ()()()()()()()()ってやつだ。もうすでに、葬式ははじまってんだよ。喧嘩の作法も知らねぇのか? 封建制度の博愛主義者か?」

 

 魔剣の柄を強く握り、人斬り包丁(リッパー)は殺意をみなぎらせた。

 

「早くしねぇと、されば、うっかり殺しちまうぞ?」

 

 瞬間、ミシリ…と空気が軋む音を立てた。

 

「そんなに戦いたいなら、私が相手してあげよっか?」

 

 穏やかな声で言いながら、人斬り包丁(リッパー)の前に立つ者がいた。

 妖精の尻尾(フェアリーテイル)最強候補のひとり、ミラジェーンである。なぜか、笑顔を浮かべている。

 女剣士は興味なさそうに手を振った。

 

「ああ、悪いな、オレは女と喧嘩する趣味はないんだわ。残念だったな。それよりも、それよりもだよ。()()()()()があるんだ」

 

 人斬り包丁(リッパー)は邪悪な笑みを浮かべ、()()()()()()を口にした。

 

「ケーキ屋さんだよ。ケーキ屋さん。わかるか? 闇市、花通りの三丁目の角をずっ〜〜と行ったところに、船大工さんの爆発を突き当たりの左右を左に上がると、お竹さんっていう松ぼっくりを笑いをこらえながら踏み潰していった先になかったりあったり、結局あったりしつな。でな、あそこのデミグラスハンバーグがそんなにうまくないんだよ。一緒に殴りにいかないか?」

 

 ニコニコと笑顔を浮かべる妖精の看板娘に、眼帯の女剣士が意味不明な言葉を羅列する。

 ジルとエルザが同時につぶやいた。

 

()()()()…」

 

 ジルは魔導書のページを開き、床にへたりこんでいるルーシィに声をかける。

 

「ルーシィ。少し離れていろ」

「そ、そうですよ、まずいですよ…! ミ、ミラさん、殺されちゃいます…!」

 

 ルーシィは今にも泣きだしそうな顔をしていた。目の前で仲間をふたりを殺され、ナツたちも重傷を負わされたのだから無理もない。

 だが、彼女の言葉に対し、またしても〝首無し妖精(デュラハン)〟と〝妖精女王(ティターニア)〟が声を揃えて返した。

 

「いや、殺されるのは──」

「──奴のほうだ」

 

 爆音が鳴りひびいた。

 人斬り包丁(リッパー)の姿が──()()()

 いつの間にか、屋敷の壁に人ひとり通れるほどの大きな穴が開いていた。

 

「お前、誰の男に向かって〝殺す〟とかヌかしてんだ?」

 

 醜くも、美しい女の魔が、拳を前に突きだしていた。

 

 獅子の(たてがみ)のように逆立った、銀色の髪。

 両腕にびっしりと生えそろった爬虫類の鱗に、長く鋭い爪。

 竜の尻尾と、巨大な蝙蝠の翼を生やした、その姿は──あまりにも、人とかけ離れていた。

 

 ゆえに、魔人(・・)

 

「立て。戦うことが嫌になるくらいに半殺しにしてやる」

一番面白いのは?

  • 幽鬼の支配者編
  • バトル・オブ・フェアリーテイル編
  • 過去編①x780年
  • 過去編②x782年 喪に服す

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。