読み続けてくれる読者さん、本当にありがとうございます。
残酷な描写ばかりですが、ラストは必ずハッピーエンドにさせます。
人たくさん死ぬのにハッピーエンド?と思うかもしれませんが、察していただければ。
「ああ、そうだった。ごめん、母さん。
〝
すると、壁に突きささっていた長剣がひとりでに抜け、宙を浮遊した。まるで磁石が鉄を吸うかのように、女剣士の手元に舞いもどった。
だが、
隙だらけのようには見えるが、彼女の恐ろしい戦闘力を目の当たりにしたため、ミラジェーンもエルザも迂闊に手を出せず、相手の出方をうかがうことしかできなかった。
──最悪の状況だ…。
ジル・アイリスはかつてないほどの、危機的状況に立たされていた。
13人いたギルド連合の魔導士たちが、作戦開始するまえに、たったの数分で二名が死亡。三名が戦闘不能。一名が戦意喪失。
──…待て。この女、最初なんて言った…?
ジルは、〝
イヴを撃破したなら、残り12人のはず。数え間違いでなければ、誰をカウントしていない?
「ピーリ。ピーリ」
奇妙な声が聞こえた。
ジルが振り向くと、何と
彼の近くに立っているのは、
いったい何をしている…!? 一瞬、そう思ったジルであったが、一夜は
では、何者かに操られている? それとも、変身魔法で擬態しているのか? ジルが判断に迷っていると、一夜──と思しき男が口を開く。
「一夜から見たジル。〝恋のライバル【公式】〟〝煙草を吸うクズ野郎〟‶甘いものと、酒が苦手〟〝見た目だけは憧れる〟‶マイスイートエンジェル・エルザさん、ちゅきちゅき♡〟──どうでもいい、情報ばっかりだな」
ジルは魔法を発動した。
仮に操られていたとて、迷うくらいなら攻撃したほうがいい。
魔力弾を撃ちはなち、一夜を吹きとばした。
「ぎゃー! 不意打ちは卑怯だぞー!」
「仲間を撃つだなんてー!」
爆煙の中で、声が
煙が晴れ、あらわれたのは同じ顔をした、二体の小人だった。
変身魔法で一夜に化けていたようだ。しかも、口ぶりからして、擬態した人間の記憶まで模倣することができるらしい。
「まったく…噂通りの男だゾ。だけど、ふたり仕留めたから、まぁ、よしとするゾ」
女の声が聞こえた。
屋敷の中に潜んでいたのか、銀髪の少女が姿をあらわした。羽毛を集めたような派手なドレスを着ている。
──あの
ジルは心の中で悪態をついた。
状況がさらに悪化した。連合上位クラスのジュラと一夜が撃破され、今の戦力で
いったいどう切りぬけようかとジルが考えていると、
「ああ~! お前、
突然、ぶつぶつと独り言を言っていた
「
「…
意味のわからない固有名詞を言われ、ジルは訝しんだ。
ただ、見たところ、あの〝
気にする必要はないのでは? と思っていると、
「それ。〝
「…なぜ、知っている?」
「母さんが教えてくれた」
「母さん? お前の雇い主か、何かか?」
「ぶっぶー! オレの剣──人類救済の
十字架を模したような、血錆びた魔剣が鈍い輝きを放つ。
「お前の持っている〝エルの書〟──一番の駄作らしいぜ。
〝エルの書〟は、〝
「おい、
それまで、黙って見ていたエンジェルが痺れをきらして、口を開いた。
「私たちの目的、ブレインからの命令を忘れたか?」
「おいおい、
眼帯女はギリギリと歯ぎしりさせた。
「今、地獄のセールストークの最中なんだ。邪魔すんなよ」
「なんだ、そのバンド名みたいなあだ名は。…もういい、勝手にしろ」
エンジェルは不満げに押しだまった。
まともな会話ができないというのも、ひとつの理由ではあるが、彼女もまた、〝
──奴らは仲間同士なのか?
女ふたりのやり取りを見て、ジルは密かに思った。
なぜ
潰しあってくれればよかったのだが、そう都合よくはいかないようだ。
「まぁ、そんなわけだ! どこまで話したっけかなー? そうだ! あれ! あれあれあれあれ! メイガス、メイガス! お前も所有者だったら、
「何をだ?」
何のことかわからず、〝
それに対し、尼僧服の剣鬼が歯を剥きだして、笑った。
「あるんだろ?
その瞬間、ジルの目がほんのわずかに
「…何の話だ?」
「表情変わってなくても、脈拍までは誤魔化せねーぞ? 動揺しているな。制約か? 魔力不足か? こだわりか? まぁ、なんだっていい」
女剣士は手の中で、長剣をくるくると回す。
「なぁなぁ、見せてくれてもいいだろ?
魔剣の柄を強く握り、
「早くしねぇと、されば、うっかり殺しちまうぞ?」
瞬間、ミシリ…と空気が軋む音を立てた。
「そんなに戦いたいなら、私が相手してあげよっか?」
穏やかな声で言いながら、
女剣士は興味なさそうに手を振った。
「ああ、悪いな、オレは女と喧嘩する趣味はないんだわ。残念だったな。それよりも、それよりもだよ。
「ケーキ屋さんだよ。ケーキ屋さん。わかるか? 闇市、花通りの三丁目の角をずっ〜〜と行ったところに、船大工さんの爆発を突き当たりの左右を左に上がると、お竹さんっていう松ぼっくりを笑いをこらえながら踏み潰していった先になかったりあったり、結局あったりしつな。でな、あそこのデミグラスハンバーグがそんなにうまくないんだよ。一緒に殴りにいかないか?」
ニコニコと笑顔を浮かべる妖精の看板娘に、眼帯の女剣士が意味不明な言葉を羅列する。
ジルとエルザが同時につぶやいた。
「
ジルは魔導書のページを開き、床にへたりこんでいるルーシィに声をかける。
「ルーシィ。少し離れていろ」
「そ、そうですよ、まずいですよ…! ミ、ミラさん、殺されちゃいます…!」
ルーシィは今にも泣きだしそうな顔をしていた。目の前で仲間をふたりを殺され、ナツたちも重傷を負わされたのだから無理もない。
だが、彼女の言葉に対し、またしても〝
「いや、殺されるのは──」
「──奴のほうだ」
爆音が鳴りひびいた。
いつの間にか、屋敷の壁に人ひとり通れるほどの大きな穴が開いていた。
「お前、誰の男に向かって〝殺す〟とかヌかしてんだ?」
醜くも、美しい女の魔が、拳を前に突きだしていた。
獅子の
両腕にびっしりと生えそろった爬虫類の鱗に、長く鋭い爪。
竜の尻尾と、巨大な蝙蝠の翼を生やした、その姿は──あまりにも、人とかけ離れていた。
ゆえに、
「立て。戦うことが嫌になるくらいに半殺しにしてやる」
一番面白いのは?
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幽鬼の支配者編
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バトル・オブ・フェアリーテイル編
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過去編①x780年
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過去編②x782年 喪に服す