ようこそ二度目の教室へ   作:石門 希望

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第5話 5月1日(前編)

 5月1日。

 教室に近づくとDクラスの様相はいつも以上に騒がしかった。けれど、その騒がしさは普段のただただはしゃぐだけの馬鹿騒ぎとは違って不安や落胆、はたまた怒りといった負の感情によってつくられたもの。ざわついているのはいつも変わらないけれど、教室に漂う雰囲気は昨日までとは比べ物にならないほど暗い。

 

 扉を開けて教室に入るとみんな一斉に私に注目する。

 

「堀北さん!」

 

 真っ先に私に声をかけてきたのは櫛田さんだった。

 

「ポイント、堀北さんの言うとおりだったね」

「ええ、そのようね」

 

 振り込まれたポイントは39000ポイント。クラスポイントは390ポイントになると推察できる。

 みんなは落胆している様子だけれど、前回の0ポイントを知っている身としてはこれでも十分なほうだと思えてしまう。ただ前回と違って私がみんなに呼びかけをしたため、みんな原因を自覚している。前回では困惑が大部分を占めていたのに対し、今回はポイントが減少した心当たりに不満や怒りを向けている人が多い。

 耳を澄ませると「これって池たちのせいだよね」「やっぱり須藤君と同じクラスだから」「山内のやつが初日に調子のってゲームなんて買うから」など原因と思われる生徒への不満や悪口がきこえてくる。

 池くんと山内くんは所在なさげに縮こまっていて、須藤くんは周囲に苛立った様子で威圧している。

 

「とりあえずみんな落ち着きなさい。

 まずは私の仮説が本当に正しいのか先生に確認を取りましょう。

 騒ぐのはそのあとでもいくらでもできるわ」

 

 そうして全員を席に着くように平田くんや櫛田さんにも促すように手伝ってもらう。

 それでも不満を須藤くんたちに向ける生徒はいるようだけれど、あからさまに彼らを落としめる雰囲気からは脱却できた。

 あとは茶柱先生から来るのを待つだけだ。

 

 しばらくすると、茶柱先生が教室に現れる。

 先生は心底呆れた様子で私たちを一瞥すると………

 

「おまえら、堀北が2日目にこの学校の核心をつく説明をしたのにこの有様か。

 その後も何度も堀北から注意を受けていたのにこの様子だと、堀北がいなければ0もありえたぞ………」

 

 ………本当は0だったことを考えると、何も言えなくなってしまう。

 

 確かにこれは呆れるのも仕方がないわね。

 茶柱先生の発言に私の仮説が正しかったことが証明される。

 その後も2日目に私がみんなに説明したことにつけ加えて卒業後の特典がAクラスにしか適用されないことや、クラスの実力がA、B、C、Dの序列に並んでいることも説明される。櫛田さん以外には根拠が足りないためクラス間で競争することは説明していなかったから、数人はわかりやすいほどの動揺を見せていた。

 茶柱先生が各クラスのクラスポイントを掲示する。

 

 Aクラス―――940CP

 

 Bクラス―――680CP

 

 Cクラス―――490CP

 

 Dクラス―――390CP

 

 Dクラスは当然としてBクラスのポイントにもほんの少しだけ変化があるようね。前回に記録していたノートの記憶を探ると、この時点のBクラスのクラスポイントは元々650ポイントだったはず。原因として考えられるのは、他のクラスのポイントに変化がない以上Dクラスの誰かが情報を漏らしたのだろう。人の口に戸は立てられないというし仕方がないと割り切ることにする。

 Bクラスだけポイントを増やすに至れたのは他の2クラスより交友関係と団結力に優れていたからだろう。この先、この学校のシステムの関係上困難に立たされることの多いBクラスだけど、今回は一之瀬さんたちの特性が活きたようね。

 

「次に残念な知らせがある」

 

 そう言って茶柱先生は黒板に先日行われた小テストの結果を張り付ける。

 

「これから定期テストで一科目でも赤点を取ったら退学して貰うことになる」

 

 この発言で、何人かの生徒には緊張が走る。

 しかし、相変わらず厄介なことに池くん、山内くんの二人はまだ本気だと受け止められていないらしい。須藤くんに関してはさらに苛立った様子を見せている。ただ、全体的な動揺は前回よりは少ない。それは度々、私が退学をほのめかしながら勉強をするように注意した甲斐があったことも影響しているのかもしれない。

 

 茶柱先生は説明を終えるとさっさと教室から去ってしまう。

 残された生徒はやはり大半が納得しきれてはいない様子らしく、不満は私や平田くんが何度も忠告してもはっきり態度を変えなかった須藤くん、池くん、山内くんに改めて向けられる。

 

 これ以上彼らの立場が悪くなる前に私は席を立ってみんなに声をかける。

 

「みんなきいて。

 各々思うところはあるでしょうけれど、これは誰か一人を責められるような話ではないわ。そもそも2日目に私が注意しなければ、あなたたちはどうしていたかしら。みんな毎月10万ポイントをもらえると思いこんでほとんどの人は散財していたんじゃないかしら」

 

 そういうと思うところがある生徒は黙り自省する様子をみせる。けれど、事前に呼び掛けたおかげで結局は起こらなかったこと。自覚がない人もまだまだ多い。

 

「そんなわけない! 池たちじゃあるまいし、勝手に決めつけないでくれる!」

 

 そう怒った様子を見せたのは篠原さん。

 真っ先に名前があがるあたり現在の彼女はひどく池くんを嫌っている様子。この様子なのに将来彼女と池くんの2人が交際をはじめるなんて誰かに言ってもきっと信じてもらえないだろう。

 

「別に決めつけているわけじゃないわ。

 私が言いたかったのは、特定の誰かを責めるべきじゃないということ。

 クラスの雰囲気は悪くなってしまうし、それがクラスポイントの減額にもつながってしまうかもしれない。

 だから、みんなで協力しましょう。

 いまは不良品の烙印を学校から押されてしまっているかもしれないけれど、不良品は少し手を加えると良品に変わると私は信じてる。

 私たちがこれから先成長していけば、Aクラスになれるのは現実的な話よ」

「そうだね。堀北さんの言うとおりだよ。

 みんなで協力していけば、きっとAクラスにだってなれるはずだよ」

 

 平田くんが私の発言を援護してくれて、櫛田さんはみんなの雰囲気を明るくやる気が出るようなものに塗り替えてくれる。

 

 私は確信する。

 

 きっと今度こそ――――――みんなでAクラスとして卒業できると

 

 

***********************

 

 放課後。

 平田くんの提案した対策会議に参加していると………

 

『一年D組綾小路くん、堀北さん。担任の茶柱先生がお呼びです。職員室に来て下さい』

 

 これは思いのほかはっきりと覚えている。

前回と同様、綾小路くんは茶柱先生から呼び出されたようだ。それに加えて今回は私も呼び出された。前回と違って私も一緒に呼び出されたのは、きっと私がDクラスに配属されたことに抗議していないからだろう。

 

「堀北、オレには心当たりがないんだがおまえにはあるか?」

 

 どうせ彼に嘘を言っても見破られる。

 だから素直に「あるわ」と答えた。

 

***********************

 

 職員室に到着する。

 綾小路くんがなぜかそわそわしながら扉を開くと、中から多くの視線を感じる。

 

「茶柱先生に呼ばれました。

 どこにいらっしゃるかわかりますか?」

 

 そう私が尋ねると真っ先に姿を現したのは星乃宮先生だった。

 

「え? サエちゃん?

んー、さっきまでは居たんだけど……ちょっと席を外してるみたい。

応接間で待ってる? お茶くらいは出すわよ?」

「いえ。廊下で待っています。綾小路くんもそれでいいわね?」

「ああ」

 

 煙草を吸っている可能性も高いし、なるべく早く合流できるように廊下で待つことを選択する。

 すると、星之宮先生は廊下に出てきて私たちに接近してきた。

 

「私は一年B組の担任、星乃宮知恵っていうの。

佐枝とは高校からの親友でね。サエちゃん、チエちゃんって呼び合う仲なんだ〜。

凄いでしょ〜」

 

 ………これはどう返せばいいのかしら?

 少なくても私の記憶には茶柱先生が星乃宮先生をチエちゃんと呼んでいた記憶はない。そのせいで余計に返答に困ってしまう。

 

「ねぇねぇ、どうしてサエちゃんに呼ばれたの?

彼女、面倒事はかなり嫌いだから生徒を職員室に呼ぶなんて珍しいんだ〜。

ねぇねぇ、どうして?」

 

 詰め寄ってくる星之宮先生に綾小路くんはタジタジになる。

 4月から一緒に過ごしてきて思うけれど、いまの綾小路くんは前回の2年生以降から特に感じるようになった冷徹な雰囲気がかなり薄く感じる。

 そこに、彼の裏切りを封じる、あるいは今度こそ彼を本当の意味での仲間にできる鍵があるのかもしれない。

 

 そんなことを星之宮先生から迫られている彼を傍目に見ながら考えていると、今度は私のほうにも視線を向けてきた。

 嫌な予感を感じていると

 

「あなた、名前はなんていうの?」

「堀北鈴音です」

「へぇ~。綾小路くんも堀北さんも美男美女よねぇ~。

 あ! もしかして2人って付き合ってるの?」

「違います」

 

 前回も聞かれたことがあったけれど、みんなどうして揃いも揃ってそう思うのかしら。

 慣れたように即座に否定すると、傍らにいた綾小路くんがなぜか落ち込んだ。

 星之宮先生から「私は綾小路くんは魅力的だと思うよ。だから、そんなに落ち込まないで」と励まされている。

 落ち込む理由がわからないと不思議に思う一方で、彼が随分と人間的な反応を示したことに驚いてしまう。

 

 私はなんとなく、いまの彼を失わせてはいけないと思った。

 

 そこに………

 

「何やってるんだ、星乃宮」

 

 ようやく茶柱先生が現れる。登場と同時に星之宮先生をはたく茶柱先生。

 

「いったぁ! 何するのサエちゃん!」

「お前がうちの生徒に絡んでいるからだろ。

悪いな堀北、綾小路。こいつはこういう奴なんだ、諦めてくれ」

「なによ。サエちゃんが不在だから応対していただけじゃない」

「放っておけば良いだろ。堀北、綾小路、生徒指導室まで来てもらおうか」

 

 おおよそ前回と同じことが起きるのだろう。

 私は綾小路くんと一緒におとなしく茶柱先生についていく。

 

「お前は付いてくるな」

 

 しばらくは星之宮先生が強引に付きまとって茶柱先生の下剋上を匂わせる発言をしたり、仲がいいと言っていたにも関わらず険悪な雰囲気を漂わせていたりしたけれど、一之瀬さんの登場によってそれも終わる。

 

 

 

「堀北。おまえはAクラスに上がりたいと思うか?」

 

 生徒指導室。

 いまこの瞬間に行う選択が私たちの今後を大きく分ける。

 

――――私はそう直観した。

 

 




 久しぶりに光の二次創作を投稿できました。

 ところで話は変わりますが『よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート』の番外編で本作と同じく2周目堀北さんを題材にした番外編が始まりましたね。
 本作を初投稿した数日後に同じ題材の番外編が自分も愛読している作品から投稿される予定だと後書きに書かれた投稿がされて非常に驚いた記憶があります。
 『よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート』は私がよう実の二次創作に挑戦してみようと思うきっかけになった作品の1つでもあります。アイデアを被らせるつもりは全くなかったのですが、無意識の内に多大な影響を受けるあまり発想が似通ってしまったのかもしれません。少し申し訳ない気持ちになります。
 本作は原作時空の堀北さんが卒業式から逆行しているのに対して、先方の作品はあくまでも『よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート』の時空にて卒業を迎えた堀北さんが逆行しているので、そこを起点に大きく展開は違っていくかなと思っています。なにより本作にはれずちゃんがいませんしね。
 『よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート』は本当に面白い作品なので、機会があればぜひ一読してみることをお勧めします。下の作品名を押していただけるととぶことができます。

よう実 最速Aクラス卒業RTA Aクラス綾小路籠絡ルート

 それと、最近私のほうでよう実の二次創作をもう一作品投稿しました。
 こちらはなんだか闇が詰まったような展開になってしまっていますが、よろしければぜひご覧ください。

 平穏な日々は遥か遠く



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