実は僕……耳がすごくいいんです。   作:花河相

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短編
【短編】実は僕……耳がすごくいいんです〜乙女ゲームで「無愛想」と言われ最も嫌われていた悪役令嬢。だが、そんな彼女の素が可愛すぎるのは僕だけしか知らない。


 僕は生まれつき、普通の人と比べて優れていることがある。

 

 実は僕は耳がすごくいい。

 では、どのくらい優れているかだが、

 

『今日、アレン様の婚約者が来るんだろう?』

『あぁ、あの怖い人か』

『アレン様もよく婚約を結ばれたよな?』

『それはある。俺じゃ無理だわ』

 

 とまぁ、こんな失礼な会話が聞こえて来る。

 この会話は僕の近くで行われてはいない。

 壁の向こう側、部屋の外で。

 僕の聴力は壁越しに小声で話しても聞こえる。

 何もない空間なら百メートル離れても聞こえる。

 それほど優れているのだ。

 

 ちなみにこの特異能力は誰にも言っていない。

 理由はいろいろあるが、主な理由は異端視されるから、そして、前世の記憶があるからだ。

 

「あの……聞いているのですか?」

 

 おっと、いけない。

 考えごとをしていた。

 今は彼女との、会話に集中せねば。

 

「ごめんごめん。僕の立ち振る舞いに関する話だったよね」

「……聞いていらっしゃるのならいいです。もっと、わたくしの婚約者というのを自覚してくださいませ!あなたの態度一つ、わたくしの評価につながるのですよ」

 

 そう僕に棘のある言い方で注意を促してるのは綺麗な青髪を腰まで伸ばし、吊り目が特徴の女性、婚約者のアレイシア。

 

 彼女は名門家の息女らしく周りの目を気にし、常に自分を高め、何が最良な選択かを考え行動している。

 僕に対してもそれ相応の態度をする様に言ってくる。

 本当に努力家である。

 

「ごめんて……」

「あなたは謝罪しかできないのですか?毎回それしか言っていませんよね?それに、あなたのわたくしに対する態度、言葉遣い。正した方が宜しいのでは?」

「そうかな?僕は君の前では素で接したいし、婚約者、将来家庭を築き支え合う夫婦になるんだよ?僕は君に対して心を許しあえる関係を築いた方がいいと思うんだ。それに、君と接している時以外はちゃんとした態度で接していると思うけど?」

「それはそうですが……」

 

 僕の言い分にアレイシアは少し考え始める。

 まぁ、僕自身本音を言ってしまえば彼女の本質を知らなければこのような態度は取っていない。

 では、何故そのような態度を僕がとっているかだが、それは彼女が今、近くで控えている専属メイドのリタと一緒にいる時の会話を僕が聞いてしまっているからだ。

 ま、とりあえず今日はお開きにしようかな。

 もう会ってから一時間くらい経ってるし。

 僕自身もう少し一緒に居たいと思うが、これから別の先約があるためここまでにしよう。

 

「アレイシア嬢、先ほどまでの態度、謝罪いたします。今後はあなたの婚約者に相応しい立ち振る舞いをしていきたいと思います。本当に申し訳ありませんでした」

「………え?」

 

 僕はアレイシアに丁寧な言葉遣いでこれまでの態度を謝罪する。

 ま、冗談なのだが……。 

 アレイシアは本音で自分の前で僕にそのような態度を求めているわけではない。

 ここで一つ彼女の性格をバラすとすれば、彼女は重度のあがり症。

 ただ、これが面倒なことに、重度なあがり症に加えて自分の生家の評判を落とさないようにするため、自分が他者からみくびられない為、そのようなことを意識してしまってか、常に周りに相応しい態度を取ろうとしてしまうのだ。

 そして、緊張して表情がこわばってしまっているため、目つきが少し鋭くなり、心を許した人以外の前では一切表情を変えない。

 一応僕に対しても心を許しているのだが、僕に対して好意を抱いてしまっているため、緊張しすぎて逆に緊張してしまっている。

 本当に面倒くさい性格をしている。

 でも、そんなところがかわいい。

 

 ちなみにだが、僕が言った発言のあと、アレイシアは少し悲しそうな表情をした。

 わかっていても素直になれない。

 僕に対しても緊張しすぎてきつい態度をとってしまう。

 僕はそんな彼女を愛おしく思っている。

 アレイシアはよっぽどのことがない限り、表情を変えない。

 今もなお、無表情だが、よく見れば悲しい顔をしている。

 ……流石に可哀想になってきた。

 

「冗談だよ!今さら態度は変えないよ」

「?!」

 

 僕が笑いながらそう言うと、アレイシアは顔を真っ赤にしながら驚く。

 あ、やべ……。

 相当怒らせてしまったらしい。

 

「今のあなたの態度、とても不快です!今日は帰らせていただきます。行きますよリタ!」

「……わかりました」

 

 アレイシアは怒りながら、控えていたメイドのリタにそう言い、退席した。

 そして、リタはその跡を追うように去っていった。

 立ち去る際、リタは僕の方を向き、一礼した。

 その時、少し睨まれたが、意味としては「面倒くさいことしないでください」というような感じだ。

 僕とアレイシアがお茶会をするときは半分はこういう形で終わる。

 いや、僕が終わらせている。

 理由はアレイシアの態度が面白いからだ。

 悪い癖である。

 

 おっと、アレイシアを見送らなくては、僕はそう思い怒るアレイシアを追うため、部屋を退室した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「またお越しください。いつでも歓迎いたします」

「……わかりました」

 

 僕の言葉に、アレイシアはそう返し、馬車に乗って帰っていった。

 それからアレイシアが乗った馬車が動き始めて十秒ほど時間が経ち、ある会話が聞こえてきた。

 

『どうしようリタ……アレン様に嫌われてしまいました』

『大丈夫ですよ、アレイシア様。アレン様は嫌ってなんていませんよ』

『でも……」

『毎回言っていますが、アレン様はアレイシア様を好いていますから、今更あのような態度をとったところで、嫌ったりしませんよ』

『それでも……こんなわたくしを好いているなんて、あり得ないわ。今度こそ嫌われてしまったわ』

『大丈夫ですって……。そんなにお気になさるなら今度、お詫びを兼ねて訪れてはいかがですか?』

『でも……。もしもそれで図々しい女だなんて思われたら……どうしましょう?』

『大丈夫ですって、もぉ、あなたは全然変わりませんね。アレン様とは何年の付き合いになると思ってるんですか?十年ですよ。今更遠慮するような関係でもありません。それにアレン様なら喜んで時間を作ってくれますよ。毎回そうですし』

『リタ……。うん、そうよね。そうするわ』

 

 

「うん、いつも通りだね」

「何がですか?」

 

 アレイシアとリタの会話を聞いていると、ついそう呟いてしまった。

 それを聞いてから後ろに控えている専属執事、シンが話しかけてきた。

 

「いや、いつも通りだなって思っただけだよ」

「はぁ、確かにその通りですな」

 

 僕の言葉にシンはため息をつきながらそう言う。

 そう言ったシンは何か僕に何か言いたげな表情をしていた。

 

「そんな顔しないで、毎回言っているけど、アレイシア嬢は素直に慣れていないだけだよ。その証拠に毎回会うときは前回のことは気にしていないように接するでしょ?」

「まぁ、確かにそうですね」

 

 シンはそう言いながらも納得した。

 本当に毎回変わらずこんな感じだ。

 シンは始めの方は「考え直すべきでは?」とか「アレン様は何故平気なのですか?」とか言ってきたけど、何回も僕と彼女のやりとりを見て、慣れたのか何も言わなくなった。

 

「とりあえず、次の約束の準備をしようか。次は……えっと」

「ご友人とのお食事です」

「そうだね。いつも悪いね」

「いえ、仕事ですので」

 

 僕はそう言いながら部屋へと戻り友人との約束のための準備を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは乙女ゲームの世界。

 僕はそんな世界の攻略対象へと転生をしてしまった。

 しかも、他の人とは違う能力を持って。

 アレイシアは乙女ゲームの悪役令嬢で、ユーザーから「心のない人形」「氷結令嬢」と言われ嫌われているキャラクターであった。

 

 僕はそんな彼女と婚約関係を結んでいる。

 僕も始め、この話を聞いた時、婚約はしたくなかった。

 でも、僕の耳で彼女の本音、素の性格、口調を聞いて全てが誤解であったことがわかった。

 今ではそんな彼女を愛おしく思う。

 

 

 

 

 

 もうすぐ、乙女ゲームが始まる。

 これからヒロインや他の攻略対象たちがどのような行動を取るかはわからない。

 

 でも、僕はそんなの気にせずに彼女と幸せになるため、全力を尽くそう。

 

 

 

 

 これは耳が良すぎる僕、そして面倒な性格をしている悪役令嬢の彼女の恋の物語。

 




読んでいただきありがとうございます。


次の連載をどうしようか考えていて、この物語の連載版が読んでみたいと少しでも思って頂けましたら差支えなければブックマークや高評価、いいねを頂ければ幸いです。

ポイントはモチベーションになります。

よろしくお願いいたします。
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