人間一度ミスをするとそれを取り戻すのは至難の技だ。
僕、アレン=ユベールは今世で人生が終わった。
そう錯覚してもおかしくないほど、この凍りついた空間に救いを求める。
頭が真っ白でまともに思考ができない。
やばい、なにをしなければいけないんだっけ?
今の僕は初歩的なことすらも、わからなくなってしまっていた。
「………」
この静まり返ったび空間の中、僕は未だにアレイシアと視線があったままであった。
そして、パーティ会場はざわめきが増していく。
周りが話している内容はおそらくこの状況についてだとおもうだが、話している人数が多すぎて声を拾えない。
だが、今はそんなこと気にしている場合ではない。
落ち着こう。
わかる範囲で状況を整理しよう。
まずは僕の視線の先にいるアレイシア。
彼女は僕がいきなり声を上げてしまったことで驚いているのか、はたまた困惑しているのか分からないが、つり目で睨まれている。
感情が読めず、怒っているだけに見える。
どんなことを思っているのかわからない。
なるほど。これが感情のない人形と呼ばれな由来か。
………いや、こんなことを考えている場合じゃない。
早くこの状況をどうにかしなければ。
アレイシアに関する現実逃避のお陰でどうにか思考が回るようになってきた。
ありがとうアレイシア。そしてごめん悪口言ってごめん。
さて、まずは……そう!謝罪をすべきだろう。
悪いことをやってしまったらまず最初にやるべきことは謝罪だ。
子供がやってしまったことだ。
素直に許してくれるだろう。
許してくれるよね?
許してください!
「アレイシア嬢、大変申し訳ありませんでした」
僕は頭を下げて謝罪をする。
この後どうしよう。何をすれば良いのだろう。
誰か……僕に助け船をください。
僕はそう期待するが、世の中そんなに甘くなかった。
「まずは、頭を上げなさい」
「はい」
「あの、ソブール公爵、息子の粗相を「ユベール伯爵」……はい」
「すまないが、少し黙っていてくれないか?」
僕に話しかけてきたのこの会場で最も位の高い人物。ラクシル様だった。そして、父上も僕を助けるため、話しかけたがバッサリと切られてしまった。
だめだ。父上の助けも期待できない。
僕は身体中から冷や汗がでる。
ラクシル様と目が合うと特徴的なつり目で品定めをするかのように睨んでくる。
……その視線、10歳児にしていいものではないと思うのですが。
「何に対する謝罪だ?それと名はなんと言う?」
圧迫面接のように、逃げ道を塞ぐようにラクシル様は僕に質問してくる。
「大変失礼致しました。私はアレン=ユベールと申します」
「そうか、アレン君か。……で、何に対する謝罪だ?」
「……アレイシア嬢の話を遮ってしまったことです」
「では、何故あのような反応を示した?」
「それは」
素直に言って良いものか。いや、だめだ。
ここはそれなりの答えを言おう。
アレイシアの鼓動にびっくりした。理由はこれだが、もっと明確に言うなら、ギャップに驚いたと言うことだ。
アレイシアはめちゃくちゃ緊張している。あの早い鼓動が何よりの証拠だろう。
あんなにも緊張しているにも関わらず、完璧な所作を行なっていたことに驚いた。
が、これを言うわけにはいかない。
それなりの理由で……怪しまれないもの。
「その……アレイシア嬢に見惚れてしまいまして」
「え……」
「ふむ……」
僕はラクシル様の様子を伺いながら話した。
僕は自分で言った言葉を後悔した。もっと他に言いようがあったはずだ。
こんなの失礼極まりない。
でも、残念ながら一度してしまった失言は取り消せない。
僕の発言にアレイシアは少し声を発して表情がこわばり、ラクシル様からは睨まれる。
……どうすれば良いのだろう。
そして、また沈黙が支配する。
「アレン君」
「はい」
「私は昔から嘘をつく人間が嫌いでね。口先から出た言葉を並べる人間は大体わかるんだ」
あ、バレてらぁ。
ラクシル様は二度目は無いぞと言わんばかりに威圧をしてくる。
これ、変な言い訳したらあかんやつだ。
どうしよう。
「そんなに言えない理由なのかな?」
ラクシル様はどんどん表情が険しくなる。
僕は覚悟を決めた。
ただでさえ今の僕の立ち位置はかなりやばい。
この場で引いたら人生が終わる。覚悟をきめるしかない!
思考は刹那。
本当の理由に嘘を混ぜながら理由をまとめ、話始める。
「……アレイシア嬢に見惚れてしまったのは本当です」
僕は前置きとして、先ほどの発言は嘘ではありませんと言うアピールをする。これを話さないと……初めの発言を嘘と言ってしまったら後から指摘されかねない。
僕は言葉を続ける。
「ただ、アレイシア嬢の洗練された所作を見て驚いたのですが、その反面とても緊張されていたので、驚き、思わず声を出してしまいました」
嘘に真実を混ぜると良いと聞いたことがある。
嘘はついていない。実際に緊張していたことは分かっていたし、それに驚いてしまったことは真実だ。
それにアレイシアの容姿を綺麗と思ったのも真実。
僕の発言は真実を隠した本心だ。
ラクシル様は僕の言葉を聞いて小さくため息をした。
「ユベール伯爵」
「はい」
「後日、私の屋敷に来なさい。……今回の件についての話がしたい」
「……承知しました。失礼します」
今回のやりとりは最後にラクシル様から屋敷への招待をされた。
地獄への紹介状かな?
「……はぁ。アレイシア、行くよ」
「……はい、お父様」
ラクシル様はアレイシアを見ながら何故かため息し、近くにいたアレイシアの背中を軽く叩くと、急に動き出すように返答してラクシル様についていった。
少しアレイシアの反応に疑問が残るが、一つわかることは僕は相当ラクシル様の怒りを買ってしまったらしい。
アレイシアはその場を移動するときも僕を睨んでいた。
これからなにがあるのやら。
その後、ラクシル様はアレイシアと奥さんを連れて会場から出て行っていった。
今後なにが起こるかわからない。ただ、わかることが僕のデビューは大失敗で終わってしまったこと。そして、我がユベール一家はその日はお通夜のようであった。
どうしてこうなった。
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