実は僕……耳がすごくいいんです。   作:花河相

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『え?』

 

 父上はラクシル様の態度に少し戸惑っていた。

 

 昨日のお披露目会、息子の粗相を働いてしまった件で呼び出されていると思っていたのに何故か歓迎と言われた。

 僕は使用人のたちの会話から少し違和感を持っていたからそこまでではなかったが、何も知らなければ戸惑うだろう。

 

 でも、ラクシル様はこちらを見て微笑んでいる。

 

「どうかしたか?」

 

 部屋に入るやその場に立ち尽くす僕と父上を見てラクシル様から声をかけられる。

 

「……なんでもありません」

 

 父上はすぐに意識を切り替え、座るように言われていた席へ移動する。僕も父上に習い移動する。

 座るように促されていたソファーに掛けると、ラクシル様の後ろに控えていたリットがラクシル様、父上、僕の順に紅茶を入れてくれた。

 

 そして、ラクシル様は入れられた紅茶を飲み、それに倣い飲む。

 

 それからしばらく沈黙が続いたが、父上がそこへ斬り込む。

 

「ラクシル様、本日はお招きいただきありがとうございます」

「キアン殿、そんなに改める必要はないさ。今日は私たちだけ。もう少し楽にしてもらって構わない」

「はい」

 

 父上は恐る恐るラクシル様と話を始める。

 父上は声が少し震え、心拍数も普段よりも早かった。かなり緊張している。

 楽にしろと言われてもできるわけないと思うのだが……。

 

 申し訳ないと思うが、ここで僕の出番はない。

 こう言ったやりとりは大人たちの仕事だ。僕みたいな子供の出番はない。

 

「ふむ……。キアン殿は少し誤解されているようだ」

「……誤解ですか?」

「そうだ。……そういえば、お披露目会が終わってから変な噂が飛び交っていたな。なんと言っていたかな……確か、ユベール伯爵が我が家に粗相をしたという内容であったが?」

 

 ラクシル様がそう言った瞬間、父上は気を引き締める。

 まさか、噂になっているとは思ったが、ここまでとは。 

 確かに本当のことなのだが少し微妙にニュアンスがずれている。

 僕個人がやってしまったことなのが……いや、子供がやってしまったことは全て親の責任ということか。

 

「やはり、キアン殿は何か誤解しているな。……先に言っておくが、私は昨日の件は気にしていない。むしろ、良かったと思っているくらいだ」

「はい?」

 

 思わず、ラクシル様の想定外の展開に父上は疑問符をあげる。

 昨日の件はむしろプラスだったとはどういうことだろう?

 怒らせてしまったのではないのだろうか?

 

 ラクシル様は父上の反応を見るわいなや少し笑ってしまう。

 

「あははは。キアン殿は面白いな。だが、すぐに表情に出すのは貴族としては致命的ことだな……」

「は……はい」

 

 表情は元々ラクシル様はつり目なため、少し怖い印象があるが、どうやら怒ってはないらしい。

 

「あの、ラクシル様。昨日の件ではないのでしたら本日はどう言ったご用件で」

「それはだね。……いや、それは当事者が揃ってからの方が良いだろう。娘ももうすぐ準備を終わる頃だろうからな」

「承知しました」

 

 ラクシル様は何故か僕の方を見ながらそう言った。

 その視線を感じた僕や何故か嫌な予感がする。気のせいか?

 だが、今回呼ばれたのは昨日の粗相ではないことがわかり安心した。ただ、新たな疑問が生まれるが、娘の準備ということはアレイシアが来たら話が進むだろう。

 

 父上が思っていた不安要素もなくなり、後は新たに生まれた疑問だけ。

 言い方は少しずれているかもしれないが、第一関門突破というところだろうか。

 僕がこんな考えごとをしている最中にも、父上とラクシル様の会話は続いていたので耳を傾ける。

 

 内容はあまりなくただの世間話だ。

 自分達の領地について。最近の出来事などの話があった。僕にも自分の領地に関してラクシル様から質問をされることがあったが、答えられる範囲で率直に答えた。父上も話が進むにつれて緊張感もなくなり、少しリラックスしてきた。

 そして、話は進み、子育てについての話になる。

 

「これは一人の親としての質問なのだが、キアン殿は子育ては何に重点を置いている?」

「すいません、質問の意図がわからないのですが。……アレンの教育方針についてでしょうか?」

「そんなに深い意味はないが、そう捉えてもらって構わない。それに思ったことをそのまま話してくれればいい」

「承知しました」

 

 僕の教育について?

 そういえば、あまり興味を持ったことなかったけど。てか、特に何も言われてない。

 

「僕の個人的なものになりますが……僕は自主性を重んじるようにしています」

「ほう……それはどのように」

「アレン自身が自分からやり始めたこと、興味を持ったことは全てやらせるようにしています。基本は僕や妻、ユリアンからは必要最低限のことはやるように促しますが、それ以外はアレンには自由にやらせています」

「……ふむ。確かに自主性を重んじるというのはいいが、それでは無責任という捉え方もできるのではないか?」

「確かにそうです。事実ですのでそこは否定しません」

 

 父上の自由放任主義な教育方針。

 確かに今思えば僕には礼儀作法や教育とかはやるように言われたが、それ以外は基本自由だったな。

 ラクシル様の指摘も確かに無責任の部分もある。

 僕は父上の言葉に耳を傾ける。

 

「僕はアレンに自主的に考えて行動できるようになってほしいと思っています。自分から行動し、実行に移す。その過程で経験や失敗を繰り返し、その教訓を次に活かせるようになってほしい。それをできる大人になってもらいたいという願いから、妻、ユリアンと話し合い決めました」

 

 ああ、そんな思いがあったのか……。

 そういえばウェルの件もすぐに許された。僕自身が始めることを否定せずになんでもやらせてくれた。

 まぁ、今まで失敗していないため、その教訓を活かす機会はないが、それでも、自分の得意分野や苦手なこともわかる。

 そこまで考えられていたなんて。

 

「勿論、勿論間違った方向へ進んでしまいそうになった時はそこを咎めます。自由にさせすぎると我が強く、わがままな人間になってしまいますから……?!」

 

 ふと、父上は自分の子供の教育に関して語り終わってから気がついた。

 目上の人相手に生意気を言いすぎたと思った。

 父上はすぐにラクシル様に謝罪をしようとするが、それはしなかった。

 ラクシル様が笑い声を上げたからだ。

 

「がはははは!……キアン殿、貴殿の意見はとても参考になった!アレン君がどのように育ったかが、知りたかっただけなのだが、珍しい考えを聞けた!」

「……はい」

 

 この部屋の空間は困惑。 

 僕自身もそうだが、使用人のリットを始めこの場にいる者は沈黙をする。

 そして、父上は訳が分からず質問をする。

 

「あの……どう言うことですか?」

「ああ、すまなかったな。順を追って説明しよう。…実を言うと、娘のアレイシアが未だに準備をしているのはキアン殿とアレン君と会話の場を設けるため。そして、アレン君自身を見極めるためだったんだよ」

「アレン見極める?」

 

 未だに困惑するもラクシル様は話を続ける。

 

「試すようなことをして申し訳ないが、どうしても必要なことだったんだ。娘は少々……いや、かなり小難しい性格をしていてね。そんな娘に相応しいか試させてもらった」

「アレイシア嬢にふさわしい?……あ、なるほど」

 

 ラクシル様と父上はどうやら共通の認識をしているらしい。

 

 え……娘に相応しいって何?僕試されてたの?

 訳がわからないがどうやらラクシル様の態度を見る限り僕は認められたらしい。

 とりあえず訳が分からないため、父上に聞く。

 

「あの、父上、どう言うことでしょうか?」

「それはだね「キアン殿」……なんでしょう?」

「もうすぐアレイシアも来る時間だ。詳しい内容は当人たちが揃ってから話そうか。アレン君、もう少し待ってもらおう」

「……承知しました」

「承知しました」

 

 父上、僕と返答をした。

 ラクシル様は何故か父上の話を遮った。

 どうやら教えてくれないらしい。

 まぁ、もうすぐアレイシア来るらしいし、少し経てばわかるかな?

 

 ふと、本当に時間ピッタリなんだろう。

 廊下から二人の足跡が聞こえる。 

 一人は大人、もう一人は子供か。

 おそらく、アレイシアだろう。扉との距離はあまりない。

 もうすぐ来るのだろう。

 

『スゥーハースゥーハー』

 

 扉の前にいる人物は大きく深呼吸をしている。

 

 これで当事者は揃う。

 僕は気を引き締めて深呼吸し、アレイシアのノックに備える。

 ……が、足跡が止まってから数秒が経過してもノックする気配がない。

 一応、ラクシル様との会話は先ほどの言葉で途切れたので、今は静寂。

 いや、遅すぎるよ。扉の前で何してんだよ。

 僕は気になり、ドアを見たいのを我慢する。

 すると、ドアの外から二人の会話が聞こえてきた。

 

 

 

『……あの、アレイシア様』

『何かしら?』

『早く入らないのですか?』

『入りますよ。今は深呼吸をしているのです』

『もう扉の前で10秒は経ってますよね?それに深呼吸はそれで何回目ですか?』

『いや、でもまだ緊張してしまって』

『別に緊張することはないと思いますが?』

『リタ、緊張しない方がおかしいわよ。だって相手は昨日わたくしを褒めてくださったアレン様なのですよ!緊張しない方がおかしいわ』

『昨日嫌と言うほど聞かされましたそれは……気になる殿方に会えるから嬉しいんですよね?では、急いではいかがですか?』

『な、何を言っているのですかリタ?あ、アレン様は別に気になる殿方ではありません。ただ、わたくしを初めて褒めて下さった人ってだけで……その……』

『ああもうわかりました。それでいいです。では行きますよ』

『え?……待ってリタ……あ』

 

 すると、会話が途切れたと思ったらすぐにドアがノックされた。

 

 いや、アレイシアの反応めっちゃかわええーやん。ゲームとは別人じゃん!

 

 落ち着け僕!ここで取り乱してはいけない。

 とりあえず、落ち着け。

 

 僕は落ち着くため、小さく深呼吸し、アレイシアとリタと呼ばれた女性が入って来るのを待った

 

 もちろん期待して。

 

「失礼致します。準備のため遅刻をしてしまいました。大変申し訳ありません」

 

 そこには先ほどとは別人に成り果てた綺麗なドレスに身を包んだアレイシアの姿とため息を小さくため息をしながら後ろに控える銀髪碧眼が特徴のリタと呼ばれた女性。

 

 そして、アレイシアは僕と目が合うなり、表情が少し険しくなり、真顔で睨んでいた。

 

 

 …………あれ?




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