実は僕……耳がすごくいいんです。   作:花河相

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学園編です。
よろしくお願いします。


学園編
1


 月日が経つのは早いことで、アレイシアとの出会いから五年が経ち成人、ハルム学園の入学を控えている。

 

 

 今日は入学前の最後のアレイシアとの定期的なお茶会の日、僕はいつも通り、彼女とお茶会をしている。

 

 

『今日、アレン様の婚約者が来るんだろう?』

『あぁ、あの怖い人か』

『アレン様もよく婚約を結ばれたよな?』

『それはある。俺じゃ無理だわ』

 

 とまぁ、こんな失礼な会話が聞こえて来る。

 別に咎めることはしない。

 耳が良すぎることは他人にバレるような行動はしないよう心がけている。

 

 

「あの……聞いているのですか?」

 

 おっと、いけない。

 考えごとをしていた。

 今は彼女との、会話に集中せねば。

 

「ごめんごめん。僕の立ち振る舞いに関する話だったのね」

「……聞いていらっしゃるのならいいです。もっと、わたくしの婚約者というのを自覚してくださいませ!あなたの態度一つ、わたくしの評価につながるのですよ」

 

 まぁ、いつも通りだなぁと内心思うも咎めることをしない。いつものことだし、ただ緊張しているだけなのだから。

 

 彼女は名門家の息女らしく周りの目を気にし、常に自分を高め、何が最良な選択かを考え行動している。

 僕に対してもそれ相応の態度をする様に言ってくる。

 本当に努力家である。

 でも、婚約者になって数年……そろそろ素で接して欲しいものだ。

 

「ごめんて……」

「あなたは謝罪しかできないのですか?毎回それしか言っていませんよね?それに、あなたのわたくしに対する態度、言葉遣い。正した方が宜しいのでは?」

「そうかな?僕は君の前では素で接したいし、婚約者、将来家庭を築き支え合う夫婦になるんだよ?僕は君に対して心を許しあえる関係を築いた方がいいと思うんだ。それに、君と接している時以外はちゃんとした態度で接していると思うけど?」

「それはそうですが……」

 

 僕の言い分にアレイシアは少し考え始める。

 

 とりあえず今日はお開きにしようかな。

 午後から外せない用事があるし。

 それに……。

 

『ドク…ドク…ドク』

 

 鼓動が早くなって来ているからそろそろ落ち着かせてあげない。

 こういうのはリタに任せるのが一番である。

 それに、ここで少しだけイタズラを仕掛ける。

 

「アレイシア嬢、先ほどまでの態度、謝罪いたします。今後はあなたの婚約者に相応しい立ち振る舞いをしていきたいと思います。本当に申し訳ありませんでした」

「………え?」

 

 僕はアレイシアに丁寧な言葉遣いでこれまでの態度を謝罪する。

 ま、冗談なのだが……。 

 そういうと、アレイシアは少し悲しそうな表情をした。

 わかっていても素直になれない。

 僕に対しても緊張しすぎてきつい態度をとってしまう。

 僕はそんな彼女が愛おしい。

 アレイシアはよっぽどのことがない限り、表情は変えない。

 まー、緊張が限界に達したらフリーズしてしまうが。

 今もなお、無表情だが、よく見れば悲しい顔をしている。

 最近、細かすぎるけど、そういう判断がつくようになってきた。

 僕も成長しているってことかな?

 ……流石に可哀想になってきたな。そろそろネタバラシするか。

 

「冗談だよ!今さら態度は変えないよ」

「?!」

 

 僕が笑いながらそう言うと、アレイシアは顔を真っ赤にしながら驚く。

 あ、やべ……。

 相当怒らせてしまったらしい。

 

「今のあなたの態度、とても不快です!今日は帰らせていただきます。行きますよリタ!」

「……わかりました」

 

 アレイシアは怒りながら、控えていたメイドのリタにそう言い、退席した。

 そして、リタはその跡を追うように去っていった。

 立ち去る際、リタは僕の方を向き、一礼した。

 その時、少し睨まれたが、意味としては「面倒くさいことしないでください」というような感じだ。

 僕とアレイシアがお茶会をするときは半分はこういう形で終わる。

 いや、僕が終わらせている。

 理由はアレイシアの態度が面白いからだ。

 悪い癖だ。

 

 さて、アレイシアを見送らなくては、僕はそう思い怒るアレイシアを追うため、部屋を退室した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「またお越しください。いつでも歓迎いたします」

「……わかりました」

 

 僕の言葉に、アレイシアはそう返し、馬車に乗って帰っていった。

 それからアレイシアが乗った馬車が動き始めて十秒ほど時間が経ち、ある会話が聞こえてきた。

 

『どうしようリタ……アレン様に嫌われてしまいました』

『大丈夫ですよ、アレイシア様。アレン様は嫌ってなんていませんよ』

『でも……」

『毎回言っていますが、アレン様はアレイシア様を好いていますから、今更あのような態度をとったところで、嫌ったりしませんよ』

『それでも……こんなわたくしを好いているなんて、あり得ないわ。今度こそ嫌われてしまったわ』

『大丈夫ですって……。そんなにお気になさるなら今度、お詫びを兼ねて訪れてはいかがですか?』

『でも……。もしもそれで図々しい女だなんて思われたら……どうしましょう?』

『大丈夫ですって、もぉ、あなたは全然変わりませんね。アレン様とは何年の付き合いになると思ってるんですか?5年ですよ。今更遠慮するような関係でもありません。それにアレン様なら喜んで時間を作ってくれますよ。毎回そうですし』

『リタ……。うん、そうよね。そうするわ』

 

 

「うん、いつも通りだね」

「相変わらずですね」

 

 いつも通りのこの反応。後ろに控えているウェルも呆れている模様。

 少し不安だったけど、これでよかった。

 

 それにもうすぐハルム学園に入学しなければならない。

 乙女ゲームも始まるし、ヒロインがどのような行動をするかもわからない。

 

 色々とわからないことが多い。

 

 でも、僕は彼女を幸せにすることを第一に考える。

 だから、乙女ゲームのような結末にはさせない。

 それが僕のできることであるのだから。

 




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