その日ゴードンは夕食時、大広間に集まる生徒達が思い思いの場所で友人と食事を取っている中でサラ、ローシャ、ルカの姿を確認した後、彼らに思念を飛ばした。
「なぁ、やっぱ懸念当たってたわ」
「やはり、そうですか」
「まぁ…そうだろうなとは、思っていたが」
「でも…そんなに困ることある?」
ルカの不思議そうな思念に、ゴードンはオートミールを掬っていたスプーンをがじがじと噛む。
「困るってか…そりゃ、力はあった方がいいだろ」
「…そうですね。この後検証してみますか?」
「じゃあ場所は必要の部屋だね」
「わかった。じゃあ…8時にしようか」
サラの提案にちらりとゴードンは視線をサラ達に向ければ、皆無言で頷いていた。
いつもならジェームズ達とグリフィンドール寮へ戻るゴードンは1人廊下を歩き、目的地である必要の部屋まで向かう。
何度も行き来する事なく、ゴードンはとある廊下の壁に右手を突き出し、そのままそっと壁を撫でる。
手は湖面のように波だった壁の中につぷりと入り、そしてそのままゴードンは身を壁の中へと沈めた。
「よぉ」
そこはがらんとした広い部屋だった。
壁に1つ本棚があるがそれ以外は何もない、ゴードン──ゴドリックが戦闘訓練用として作り上げた必要の部屋の、一つである。
ゴードンが手を上げて既に揃っていたサラ達の元へ寄れば、ローシャは腕組みをして「遅いですよ」とぶつぶつと文句を言った。
「ごめんって、マクゴナガル先生にちょっと声かけられてさー」
「言い訳は結構です」
「はぁ?言い訳じゃねーよ。事実だ」
「遅れたのも事実です」
「…ほんっと!生まれ変わってもかわいくねーな!」
「あなたに可愛いと言われたら鳥肌が立つので、結構です」
「もう、ローシャ?先生に止められたら仕方がないよー」
「…ふん、…次はありませんからね」
ルカがゴードンを庇えば、ローシャは怪訝な顔をしたがそれ以上は何も言わなかった。
「それで?…本当に力が半減しているのか?」
サラはいつものゴードンとローシャの言い合いにため息をつきながら本題を切り出す。
ゴードンはローシャを睨んでいたが、頭をがしがしと掻きながらサラに向き合い、「ああ」と頷いた。
「半減…いや、半減じゃあ済まないかもな。…全盛期の…4分の1…いや、もっとか」
「ええ?そんなに?…あんまり、わからないけどなぁ」
ルカは驚愕の声を上げ、うーんと眉を顰めていたが、ポケットから杖を取り出すと軽い動作で床に向かって杖を振るった。
「…あ、本当だね」
「……ルカ。その魔法を使うのなら、あらかじめ言ってくれませんか?」
ルカは
ゴードン達はふっと踏み締めていた床が消えた感覚に直ぐに自分自身を浮遊させたが、何の前触れもなくそれをされて──流石のローシャもルカに対しちくりと小言を言った。
「あはは、ごめんごめん」
ルカはぐるりと周りを見渡す。すると暫くして足元のぽっかりと広がる闇がぼやけ、先程と同じ床が現れた。
とん、と小さな足音が響きルカ達はしっかりと床を踏み締める。
「うーん。本当なら床だけじゃなくて…この部屋の存在を消すつもりだったのになぁ。それに、解呪してないのに勝手に魔法が消えちゃったし…」
「おいおい、部屋消えた後でまた作るの面倒だろ!」
ゴードンはつい咎めるようにルカを見たが、ルカは舌をぺろりと出して「ごめーん」と軽く言うだけだった。
暫く考え込んでいたサラは杖を何も無いところに向けて振るう。
杖から煌々とした紅蓮の炎が上がり、その炎は大蛇やドラゴン、キメラの形を作り壁へと向かう。「あっち!!」と後ろにいながらも熱風を感じたゴードンはすぐに自分の周りに防壁を貼った。
その炎は、悪霊の火とも謂われる呪われた火であったが、サラは首を傾げたまま──杖を一振りし、火を消した。
「…本当だな。本来ならこの部屋全体が炎に包まれるはずなのだが、威力が激減している」
「…本当に激減してましたね。…それなら…」
今度はローシャが杖を振るい、目の前に分厚い本を出現させる。本はペラペラと1人でにページを捲り、真ん中あたりで止まった。
ローシャは杖を複雑に動かしながら、歌うように長い詠唱を唱え──その魔法を知っているゴードン、サラ、ルカはすぐに壁際まで姿表しで離れた後防壁を張った。
ローシャの足元の床に巨大な魔法陣が現れ、ローシャの呟きによりそれは怪しく光り──そして黒々とした闇が津波のように広がった。
その黒い津波は部屋の端まで到達し、広い部屋の中を埋め尽くしたが──次第に霞のようになり、拡散した。
中央に立っていたローシャは、ため息を零し「10分の1もありませんね」と残念そうに呟いた。
「…お前ら!!好き勝手しすぎだろ!ルカは部屋消そうとするし、サラは悪霊の火使うし!ローシャはあれ、死の誘い魔法だろ!」
「いやーわかりやすいかなぁって思って」
「そうだ。検証の為だ」
「10分の1ですもの。死にはしませんよ」
あっけらかんという3人に、ゴードンは痛む頭を抑えた。
「…多分、杖が本当の杖じゃないのと…この体が成熟しきってないからだな」
ゴードンは杖を振り椅子を四つと机を出し、そのうちの一つに座りながらため息をつく。
サラとローシャとルカも空いている椅子に腰掛け──ルカが紅茶と洋菓子を出した──賛同するように頷いた。
「この体は幼いです。…無意識に、ブレーキをかけているのでしょう。──あら、このクッキー美味しいですね」
「うーん。そうだろうね、じゃないと…多分、壊れちゃうかなぁ?──それ、パパの新作なの!」
「強すぎる力に、耐えられないだろう。──フィナンシェも、なかなか美味だ」
「……お前ら……。…おっ!アップルパイうめぇな!」
「そうでしょ?シナモン少なめにしたけどどう?それは私がつくったの!」
「最高!俺、シナモンそんな得意じゃねーし!」
真剣な話をしていた筈が、いつの間にやらただのティータイムとなっていたのだが、4人は全く気にせず美味しい洋菓子を次々と食べていた。
「あ、そういやアニメーガスには成れたから、魔法が魂と結びついてるっていう説は正しかったんだな!」
もぐもぐと二切れ目のアップルパイを手掴みで食べていたゴードンが思い出したように言う。3人はそういえばアニメーガスを習得していた事を思い出した。
「アニメーガスかぁ、あれ、結局そんなに使わなかったよね」
「まぁ…正直苦労の割には…潜入調査をする時くらいしか使えませんもの」
「僕はそもそも蛇とも話せたからな。…やはり、魔法は魂に起因するのか…ふむ、これだけで論文が書けそうだ」
サラはプリンを食べながら上機嫌で笑い、ローシャも「いいですね、共同で出しませんか?」と楽しげに提案した。元々研究者気質である2人はよく共に研究室に篭り討論し、沢山の説を世に広めて行った。
「私の杖は…多分、死んだ後に家族が棺に入れた…とは思うけど。うーん…1000年前だし…」
「杖選び、かなり難航したのは本当の杖が無かったからですもの。…私、何時間無駄に試した事か…」
「ああ…僕は1日では決められず…結局、次の日までかかったな」
4人はオリバンダーの杖屋で杖を購入していたが、4人ともとんでもない時間がかかった。それも、今思えば当然の事だったのだ。今彼らが持っているのは、謂わば──2番目に自分に合う杖である。
その時に既に自分が生まれ変わったのだと理解していた彼らは、自分に合う杖が見つかるとは思っていなかった為、魔法さえ使うことができればどんな杖でもよかったのだが──オリバンダーがすぐに妥協しなかったのだ。
「俺…杖、探しに行こうかな」
「そうだな。…僕も、駄目元で探してみるか。…墓荒らしになるのは少々嫌だが」
「まぁ、自分のお墓だし、いいんじゃない?…死体を見るのは嫌だけどね」
「…1000年経ってるんだ。もう塵になってるだろ」
彼らは自分の墓を暴き──塵芥しか残っていない棺の中に、ぽつりと置かれている杖を想像し、なんとも言えない気持ちになった。
骨が残っていたとしても、そこにあるのは自分の肉体の一部である。自分の死体だった物を自分の目で見る。あまり、気持ちのいい物ではない。
「あ!そうそう、秘密の部屋いつ探すの?」
私、早くみんなに見せたいの!とルカはドーナツを食べながら楽しそうに笑う。
スリザリンの秘密の部屋だけではなく、このホグワーツには誰にも明かされていないグリフィンドール、レイブンクロー、ハッフルパフの秘密の部屋が存在する。
探しに行くのならみんなで一緒に、と約束したわけではないが、彼らは同じ事を思っていた。
せっかくだ、他の創立者達にも自慢の秘密の部屋を見せびらかしたい。と。
「そうですね…クリスマス休暇中にしますか?人も少なくなりますし、探しやすいでしょう」
「そうしようか。…ふむ、両親に帰らないと手紙を送らないといけないな」
「えー俺、帰る気満々だったんだけど…ま、いいか」
「決まり!じゃあクリスマス休暇に!」
ルカは嬉しそうに笑い、ゴードン達も顔を見合わせて笑った。