病んデンリング   作:猫驚愕豆腐

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ラニ

ブライヴに小脇に抱えられるようにして運ばれる褪せ人はべイルム教会を抜け、さらに進んだ先の突出した岩へと飛び移った先にある大きな建物の前に着くと動きが止まる。

「さて、このカーリアの城館の先にラニがいる・・・が俺が連れて行けるのはここまでだ、ここから先へはお前の実力で切り抜けろ」

そう告げてから褪せ人を下ろしたブライヴは城壁に一息で飛び乗るとそのまま姿を消し、それを見送った褪せ人は祝福に触れてから城館の入口から中を覗き見る。

薄っすらと広がる霧で薄暗い雰囲気を纏う光景に少しだけ尻込みしていた褪せ人だが、何時ぞやの教会で見たラニの表情を思い出して意を決した様子で足を踏み入れる。

「まさかあの魔女に会いに行くの?どうして?別に会う必要ない、貴方には私がいるんだから。それとも私に飽きたの?捨てる気なの?ヤリ捨てるの?」

突然姿を現して褪せ人の腕を引きながら人聞きの悪い言い方をするメリナに、困惑した様子を見せながら否定の言葉を口にした褪せ人は咄嗟にメリナは大事だと告げる。

「――っ・・・!そ、そう・・・改まってそう言われると、少し照れる・・・っ」

恥じらったように頬を朱に染めて顔を逸らすメリナにホッと安堵の息を吐く褪せ人だが、一向に自身の腕に抱き着いたまま離れようとしないメリナへと視線を向ける。

「? どうかした?」

これから城館内を進むと声をかける褪せ人にメリナは渋々頷きを返すが、やはり腕に抱き着いたまま動こうとしないことを指摘する。

「・・・なら、攻略が進んだら抱き締めてほしい。貴方から、強く強く私を手放さないという意思を込めて」

ジッと逸らすことを許さない強い想いの籠った視線にあてられた褪せ人は、少しだけ悩む素振りを見せてからゆっくりとぎこちない頷きを返す。

「言質、取ったから」

口角を上げて微笑みを浮かべるメリナに早計だったかと思い直すも、先に進むには必要なことだったのだと自身に言い聞かせながら・・・気を取り直して城館を進むために足を踏み入れるのだった。

 

 

 

巨大な手に追い回されたり小さな手に纏わりつかれたりしながらもめげずに先へと進み、道中に突然現れるカーリアの兵士を退けながら進む褪せ人。

鎧を身に纏った巨人と取り巻きのような魔術師に苦戦しながらも勝利を収めると、その先に広がる椅子を円形に並べた広場に足を踏み入れると同時に霊体の騎乗騎士が姿を現す。

すぐさま遺灰を取り出して鈴を鳴らした褪せ人は、自身の武器を手に取ると臨戦態勢を取った。

 

 

 

戦闘が始まってから、褪せ人はその場から一歩も動けずにいた。

っといっても戦いは続いており、鉄同士がぶつかり合う音が広場に幾度目かわからないほど木霊する。

褪せ人の視線の先では先程姿を見せた騎乗騎士こと『親衛騎士 ローレッタ』が薙刀を振るって目の前の敵を斬り倒さんとし、その薙刀を盾で受けながら槍で反撃する『首なし騎士 ルーテル』の両者の放つ気迫は凄まじいものである。

そのことも相まって手を出せずにいた褪せ人は、事の成り行きを見守ることしかできなかった。

 

ちなみに褪せ人が召喚しようとした遺灰は『失地騎士 オレグ』なのだが、何故か掲げていないルーテルが現れたことに大きな驚きを抱くのだった。

 

 

 

大きく振り下ろされた薙刀を盾で受け流したルーテルの突き出した鋭い槍の突きによって、ローレッタの体力を削り切るに至った。

乗っていた馬が地に伏す間にも戦意を滾らせていたローレッタだが、薄れゆく身体を認識すると褪せ人へと顔を向けて手を伸ばす。

無論その手が褪せ人に届くことはなく、どこか強い意志を宿した瞳を携えながらローレッタは光の粒子となって消える。

それを見送った褪せ人は特に何の役にも立てなかったなと落ち込んだ思考で考えながら、自身に褒めて褒めてと見えるはずのない耳と尻尾を幻視するような視線を向けるルーテルを労うために歩み寄る。

助かったと告げてルーテルの肩を叩くと嬉しそうな雰囲気を放ちながら、無いはずの尻尾を大きく揺らしているように感じて褪せ人は少し口元を緩ませ――もはや恒例となった消えない遺灰の現象からは目を逸らしつつ――祝福へと手を伸ばしたがそれは空を切って何も触れることができなかった。

何故なら気付くと褪せ人は背を地面に着けており、服に浸透する水の冷たさにハッと意識をはっきりさせて視線を元凶へと向ける。

 

――ッ♡

 

視線を受けた褪せ人を押し倒して馬乗りになったルーテルは、嬉しそうな雰囲気を出しながら褪せ人の衣服を脱がし始める。

咄嗟に抵抗しようとした褪せ人だったがルーテルはそれを意にも介さずに手を動かし続け、素肌が見えるところまで脱がせたルーテルは生唾で喉を鳴らして息を荒くする・・・首が無いのに何処から鳴っているのかと、貞操の危機にも拘らずボンヤリと考えていた。

しかしそんな思考を巡らせていた褪せ人だが下半身を守る衣服に手をかけられては、傍観しているわけにもいかずにどうにか逃れようと藻掻(もが)く。

それをものともせず目的を遂行しようと動くルーテルだったが、途中でその動きを止めるような横槍を受ける。

自身にかかっていた重みが無くなったことに驚いた褪せ人が顔を上げると、左右からルーテルを羽交い絞めにするオレグと『失地騎士 イングヴァル』の姿があり・・・二人の目配せを受けた褪せ人はすぐさま身体を起こすと一直線に祝福へと駆け抜ける。

 

――ッ!!

 

そのことに気付いたルーテルはオレグの腹部に肘打ちとイングヴァルの顔面に裏拳を叩き付け、拘束が緩んだところで抜け出すと褪せ人を止めるべく手を伸ばして地面を蹴り上げる。

しかしそれは距離を詰めるだけに留まり、祝福に触れた褪せ人によって三人は光と共にその場から消える。

オレグとイングヴァルの助けに感謝の思いを抱きながら、最後に目にしたルーテルの諦めていない様子に次に遺灰を呼ぶ時は用心しようと考え、深く息を吐いてその場に座り込むのだった。

 

 

 

 

 

一息ついた褪せ人がカーリアの城館を抜け、スリーシスターズに足を踏み入れると同時に声がかけられる。

「どうやら実力は本物のようだな、ラニの選択だから間違いはないだろうが・・・っと、とにかくここからは俺が案内をしよう。まぁ、そこまで複雑な道ではないがラニの指示だからな」

着いて来いと告げて歩き出すブライヴにどこか安心感を覚えた褪せ人は、小走りで駆け寄ると並び立つようにして礼を口にしながらも歩を進める。

「礼を言われるようなことはしていない、ラニの命でもあるが・・・お前はどこか放っておけない印象だからな、ただ気にかけているだけっ「彼は渡さないっ・・・!」―――なんだ、いきなり?」

ブライヴが言い終える前に二人の間に割って入るように姿を見せたメリナは、褪せ人の腕に抱き着きながら威嚇するように頬を膨らませながら鋭い視線で牽制する。

「安心しろ、俺にそっちの趣味はない。それに俺にはラニがいる、忠義を尽くす相手がな・・・いや、お前がラニと添い遂げるのなら当てはまるのか?」

「彼は私と添い遂げるからその心配はない・・・っ!」

少し考える素振りを見せながら悩ましげに眉を顰めるブライヴに対して、メリナは有り得ない未来だと断じて褪せ人を守るように抱き寄せる。

そんなやり取りを見つめながら乾いた笑い声を漏らす褪せ人は、見えてきた魔術師塔へと見上げるようにして視線を向ける。

「―――っ!・・・っ、っ!」

その先では自身の到着を待ちわびていた魔女の姿があり、彼と視線が交わると嬉しそうに手を振る姿を見せるのだった。

 

 

 

ラニの魔術師等へと足を踏み入れた褪せ人は最上階を目指して昇降機に乗り、ブライヴはその途中にある祝福のある部屋で待っていると告げて彼を見送り、メリナは褪せ人の腰に抱き着く形で引き摺られながら同行する。

「我が王っ!再会できて嬉しっ―――んんっ・・・!遅かったではないか、私を待たせるとは我が夫としての自覚が足りないのではないか?まぁいい、それよりも・・・も、もっと側に来てはくれぬか?」

魔術師等の最上階の部屋へと姿を見せた褪せ人にラニは日が差したような明るい笑みを浮かべて迎えるが、すぐにハッとした表情をすると咳払いを挟んでから取り繕うが願望は抑えきれずに口から漏れ出る。

「ダメに決まってる、彼は私の伴侶なんだから・・・っ!」

「ただ一度出し抜いただけで勝った気でおるのか?随分と浅はかだな、我が王が慈悲をかけてくれてるとは思わぬのか?・・・愚かな女狐がっ」

褪せ人の手を取って自身の方へと引き寄せようとするラニに対して、腰に腕を回して抱き着きながらそれを阻止しようとするメリナに挟まれる当の本人は・・・前後から放たれる圧から意識を逸らすように天を仰ぐのだった。

 

メリナとラニの一歩も引かぬ攻防が数十分続き・・・さすがにそろそろ止めたほうが(自身の胃の為に)いいかと考えて声をかけると、睨み合いを続けながらも彼を引っ張り合うのはやめて一息つくように息を吐く。

「我が王に免じて小娘のことは一旦置いておこう、さて・・・実は我が王に一つ、頼みがあるのだ」

「聞く価値無い、早くここから離れよう?」

ラニの言葉ににべもなくそう言い切ったメリナは彼を引っ張って部屋を後にしようとするが、ラニもまた彼の手を握っているために動かすことができずに鋭い視線を向ける。

「貴様には聞いていない、それで我が王。どうだろうか?もちろんお礼はしよう、この身はすでに我が王のモノだからな・・・それ以外で、ってどうしたのだ?我が王?」

当然のように自身の身体を差し出そうとするラニに、少し遠い目をしてしまった褪せ人に不思議そうに首を傾げながら声を上げる。

「貴女のその、フッ・・・身体には興味ないってことじゃない?貧相だし」

褪せ人の背中に顔を押し付けていたメリナがそう声を漏らして嘲笑を浮かべる姿を目にしたラニはその顔から感情が抜け落ち、またも空気がピシッと張り詰めたことに焦った褪せ人がラニに話の続きを促す。

「・・・むっ、我が王がそう言うなら致し方あるまい・・・が、次はないぞ?」

「次に貴女と会うことがあればね、その時には・・・うぅん、もう既に彼の心は私のモノだけど・・・っ」

人を射殺せそうなほど鋭い視線を交差させる二人に、内心で冷や汗を大量に流しながら早くこの場を切り抜けたい一心で続きを急かす褪せ人であった。

 

ラニの頼みとは簡単に言えば自身の運命の流れを止めている自身の血縁である『星砕きのラダーン』を倒してほしいというもので、破砕戦争時最強の英雄は『ケイリッド』にいると告げられた褪せ人は二つ返事で了承の意を返す。

「我が王の勇気に感謝しよう、あぁそれと・・・下の階にいるブライヴにも同行するように伝えている、あと私の配下である残りの二人もいるはずだ。必要であれば二人の協力を仰ぐといい、また暫しの別れだが・・・浮気は許さぬ、よいな?」

有無を言わさぬ視線を向けられた褪せ人は頷きを返すことしかできず、それに満足そうに頷いたラニは最後に自身を抱き締めるように懇願する。

「んっ・・・やはり我が王は暖かいな、ふふっ」

先程の圧を思い出した褪せ人は抵抗することなく優しくラニを抱き締め、それに対抗するように腰に回されたメリナの腕に力がこもる。

それからなかなかラニが離してくれないことで褪せ人は困惑しながらも振り解こうとはせず、そのことでメリナの不満度が上がっているのだが・・・褪せ人はどうすることもできずに時間が過ぎるのを待つのだった。

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