「オギャバブゥゥゥ!冴えない陰キャ高校生の俺が転生した先であらゆる能力をコピーするチートを使ってモテモテハーレムを作れた話ィーッ!」
「ウ、ウワーッ!異世界転生者だーッ!!!!」
冬があけ、厳しい寒さが和らいだ、長閑な風景が広がるとある地にて、ひとつの産声が上がった。
生命の営み、それの芽吹きが繰り返される春において、その光景はありふれている。
しかし今日、神聖ハツガリ帝国リスキル病院にあって、少し特異な様子が認められた。
疲れ果てた母の介抱を続けながら、医者がおびえた様子で続けて口を開いた。
「不味いぞォォォ!今にこいつはゲンダイ=チシキとやらを使って俺たちの文化性を破壊するつもりだ!この国の観光資源である一年に一度のドチャクソ=シシャガデル生贄祭りも規制されてしまうんだァーッ!!!!」
叫び、それは恐慌の表出である。泣き声、それは萎縮の現身である。
通常それらは、昏き母体から生まれ落ちた子だけが、病院の中で発するものだ。
生誕を祝われない子とは、いったい何を抱えているのだろうか。
それにはまず、この国の背景から説明しなければならない。
神聖ハツガリ帝国は、ドチャクソ=シシャガデル神の威光の下に成立した神権政治国家である。
ドチャクソ=シシャヲダスの18代に及ぶ治世の下、この国は存在する大陸の悉くを蹂躙し、撃破し、支配し、そして侵攻先の神を神話に加えるとかそういうことはせず普通に物理的にぶち殺し回っていた。
この国は文化や娯楽にも優れ、一年に一度はドチャクソ=シシャガデルに捧げる祭りが催され、謀反は日常茶飯事、隣人は殺してその隣の家も燃やせの博愛精神により美しい人間関係が構築されてきた。
ちなみに、国歌はデスメタルである。デスボを出せない国民は、しかし見捨てられることはなく楽器に加工され、平和を謳う。
だが、平和は長く続かないものだ。
この世界を自らの望む形に変えようと画策する不埒なものどもが現れたのだ。ドチャクソ=シシャガデルとは別の、まつろわぬ神である。
それらはまず、自らの力を分け与えた凄まじき英雄たちをこの世界へと送り込んできた。
周囲の数倍の腕力が出せる、魔力が大量に湧き出す、反射神経が鋭い、皮膚の硬度が高い────
それらはすべて、差異はあれどこの国の歴史が変わるほどのものだらけだった。
彼らは例外なく英雄となり、よって影響力を保持し、最後には”異教”を植え付けようとしている。
すなわちそれは、彼らの”理”そのものであった。事実彼らはドチャクソ=シシャガデル生贄祭りにも参加せず、自らに近しいものどものみで政界での闘争に励んでいるのだ。
現帝王は若き時分に、神託*1により真実を知った時、こう宣言した。
「新生児の中に紛れた、転生者らしきものは皆殺しにせよ」と。
「オギャギャギャギャ!何を怯えている!俺がお前らをこの蛮習から救ってやろうというのだ!」
赤子が嗤う。結構かわいい。
すべての能力をコピーする能力というのは言葉の単純さからは想像がつかないほど便利なもので、この赤子は既に日本語とは別の体系であるドチャクソ=シシャガデル語を完全に、謙遜するとしても99割は理解していた。医者の国語力が低いわけがない。
「抜かすな!たかがちょっと喋れるくらいで我らの文化を侵略するなど────ッ!?」
「あんよも上手ァーッ!!!!」
完璧なコンタクト、次に衝撃が医者を襲う。
そう、見たものすべての能力を奪うことが出来るこのおぞましき赤子は、哀れな小市民である医者が青春と生贄を捧げ手に入れた医療の知識を見ただけですべて入手していた。結論として彼は、人体構造に対する高度な理解を得ていたのだ。それならば、生まれたばかりだろうがあんよが上手なのは当然であるし、あんよが上手になりすぎて回し蹴りを放っても道理であるのだ。
医者は全てを悟った。自らの死を、新しい時代の幕開けを。
当然が崩れるのはかくもあっけないものなのか、そう目を閉じながら……考えていた。
「神よ……」
その時彼は遠くに、大人のあんよ音を聞いた。
「リスキルァーッ!!!!!!」
衝撃、そしてエネルギーの奔流が病室を飲み込む。もちろん医者も母親も消し飛んだし、完全に視界の外から攻撃されたので能力をコピーすることが出来なかった赤子は、あっけなく死んだ。享年0歳である。
崩壊した病室を苦々しく踏みしめるのは、国家に仕える”転生者狩り”の烙印を背負った壮年の男。
そしてその後ろに控える、新入りらしき青年の二人だった。