TSして人生やり直すことになったのでVtuberやる 作:減塩醤油
「うぅ、頭が痛い...在職強要?契約年数?違約金?しかも勝手に追加されてた分の授業料が未払いになってる?」
いきなりだが、私はそれほど頭が良い人間ではない。
むしろ最低限の知識しか持っていないがために、前世では搾取されてきた側の人間だ。
ネットでレビューの高かった法律相談所に行ってみたは良いが、専門的な知識が全くない身では内容の半分ほどしか理解できなかった。
(む、無理...一応ボイスメモと向こうがその場で作った資料のコピーはもらったけど、見返しても分かんねぇ....)
現状では、英語を勉強したいのにアルファベットの内、ABCしか分からないような状態だ。
専門用語がじゃんじゃか飛び出して、きっと私は頭の悪い人やFXで有り金溶かした人の顔をしていたことだろう。
もちろん事前にある程度はネットで勉強したし、用意すべき給料明細のコピーも持っていったんだけど、これは酷い。
帰ってからちゃんとインターネットで調べねば。
今回は代理人として年上の私が出席したが、そのうち本人からも話を聞くことになると担当の方はおっしゃっていた。
一緒に行くとなるときに私が内容を理解していなければ面目も立たない。
(あぁ、でも、ちょっと頭痛が酷いかも...)
ここ最近はミラちゃんのリモデリングもあって寝不足が続いてたし、脳みそをフル回転させることが多かったからかな。脳みそ休ませなきゃ。
帰りの電車に乗って座席に座り、Utubeの動画を再生して目を閉じる。もちろんイヤホン付きで。
こんなときASMRとかあったらな...あっ、でも今度ASMRするのはアリだ。ネタ帳にメモしとかなきゃ。しかし電車の揺れと座席の沈み込みが心地よい。あかんこれ寝ちゃうやつだ。うごいてないから眠いよぉ~。
電車の揺れで、あの日々を再び思い出す。毎日仕事に追われて、家と会社を往復するだけの毎日。
それでも俺が、何とか明日も生きてみようと思えたのは、画面の向こうで笑っている彼女たちのおかげだった。
どれだけ疲れて帰ってきても、楽しそうに配信している姿を見ると、少しだけ心が軽くなった。
どんなに逆境でも。どんなに心ない言葉を浴びても。ひたむきに活動を続ける姿を見て、俺ももう一日だけ頑張ってみようと思えた。
だから今度は――私が、彼女の「もう一日」を支える番なのだ。
「バーチャル世界からこんにちは!初風サクラです!」
イヤホンから爆音の挨拶が聞こえ、ハッと目を覚まして勢いよく顔を上げる。対面の老夫婦が一瞬驚いた顔をしたが、すぐさま微笑ましいものを見る目でこちらを見つめた。
私は赤面しつつスマホへと顔を下ろす。画面には、自動再生機能で自分のチャンネルの動画が再生されたようだ。
…なんだろう。絶対そんなはずないのに、自分自身にたたき起こされた気分だ。
私はどうやら、思っていた以上に過去に囚われているらしい。
そうだよ、今の自分は初風サクラ。色々あったけど、沢山のファンが見てくれている。それほどまでに、私は魅力的で素晴らしいVtuberなんだ。
そしてそんな私が、私だけが、かつての恩人である彼女を助けることができる。時も空間をも超越した、最高の恩返しが出来る。いちファンとして、こんな幸せはない。
今日は、何を一緒に配信しよっかな。ミラちゃんは何がしたいかなぁ…
【#ペケットモンスターシンジュ】#1 きらめく日々はコンゴウかシンジュ【#コラボ併走企画】
チャンネル登録者数 44,872人
↓詳しくは概要欄から
「バーチャル世界からこんにちは!初風サクラと」
「皆さんどうもーこんにちは!サイミライです。今回はサクラさんとペケモンの併走企画です。二人でチャンピオンを倒すところまでやって、最後に対決しますよ~」
コンシは世代だなぁ
併走ってなに?
最近二人よくコラボするね
第4世代だいすき
102
「なんで今コンゴウとシンジュ?ってなったかもだけど、これはミラちゃんがやりたいって言ったからね~」
「だって、このペンチャマって子、かわいいんですもん…」
あっ…
ペンチャマかわいいよね!
ペンチャマ…
普通はミラちゃん見たいな反応の方が多いから!
「じゃあさ、サクラは最初のペケモン、どれにしたら良いと思う?」
「え、この子とかどうです?この桜色のチビザルって子。かわいくて、サクラさんにそっくりです」
「だれがサルじゃい!」
「そういう意味で言ったわけじゃないですよ!」
草
仲良くてすこ
サクラわりと台パンするし似てる
この漫才感すき
翌日、死ぬほど頑張って調べたけどあまりにも限界を感じ、ミラちゃん本人に確認をとって一緒に法律相談所やってきた。
「え? 契約期限になってなくても、契約をなかったことにできるんですか?」
「はい。例えば、契約で定められた給与が適切に支払われていなかった場合などは、契約期間の満了を待たずに契約を解除できる可能性があります」
「ええと……これが給与明細です。それから、こっちが事務所から渡された契約書で……。どうでしょう?」
「少し確認しますね」
私はニコニコしながら、ミラちゃんと担当者さんのやり取りを眺めていた。
……うん。やっぱりこの子、私なんかより断然頭が良いみたいだ。私の方が年上なのに恥ずかしいことこの上ない。
先日一人で相談に来たときなんて、専門用語が出てくるたびに、FXで有り金とかした顔をしていたというのに。ミラちゃんは違った。担当者さんの説明を聞くたびに、自分の記憶と照らし合わせながら質問を返している。
しかも、書類もきちんと整理して持ってきている。私が一人で来たときより話が早い。
なんだろう。彼女の付き添いとして来たはずなのに、私要らなくね?
「…これ以降は、また後日詰めていきましょう」
「分かりました、次はレッスンで使われた資料なども持ってきますね」
「ボイスレコーダーなどはありませんか?それだけで、かなり有利になるんですが」
【#ペケットモンスターシンジュ】#2 一緒にペケモン進めるぞ!【#コラボ併走企画】
「はぁはぁ、サクラはようやく四つ目のバッジをゲットだぜ!…ん?ミラちゃんなんでそんな前のところにいるの?自転車で行ったり来たりして」
「ペケモンって、一匹ごとに性格が決まってるんですって。かわいいですねぇ」
「よくわかんないけど、サクラの方が先に行っちゃうもんねー!」
なんでそんなことしてるんやろなぁ…(白目)
ほんとBGMいいよな
併走してるのに厳選しだすとは思わんかった
誰だへんなこと教えたやつw
なんとこの子、自分で調べたんです
「ええと……つまり、この事務所の謳い文句だった『豪華声優が講師!』という部分についても、実際にはそうではなかったのであれば、詐称にあたる可能性がある、ということですか?」
「はい。もちろん具体的な事情によりますが、募集時の説明と実際のサービス内容に明確な差があり、それを裏付ける証拠があれば、問題になる可能性はあります」
「そうですか……」
次の日も、私は一応毎回付き添いで同行した。おいそこ、私のこと不要だとか無駄でしょとか思わない!
ミラちゃんが持ってきた資料に目を落とす。
彼女自身が二年間かけて保存してきたメールや領収書、給与明細、事務所から渡された資料。弁護士さんはそれらを一つずつ確認していった。
私は分かってる雰囲気をだしつつ、うんうんと頷く。…だめだ、頭痛い。
【#ペケットモンスターコンゴウ】#3 そろそろ終盤戦!【#コラボ併走企画】
「ちょっと、このアフロの人回避率を上げて全部の攻撃避けてくる!ムッキー!」
「あはは、今のサクラちゃん、相棒にそっくりですよ!草ですね(笑)」
「いったな!誹謗中傷で罰金100万円だぞ!」
「今の私に罰金とか言います?」
このアフロ害悪すぎやろw
なんで担当タイプ使わないんですかね
草
ほのお少ないからしゃーない
「かなり出そろいましたね。これらの証拠をまとめれば、契約の解除だけでなく、場合によっては慰謝料などを請求できる可能性もあると思います」
「……慰謝料、ですか」
「はい。もちろん請求するかどうかは、みらいさん自身に決めていただくことになります」
ミラちゃんはしばらく黙って、机の上に並べられた書類を見つめていた。
「……やってやりたいです」
ぽつり、と呟いた。
「正直、すごく腹が立っています。私、何も知らなかったからって……ずっと我慢してきましたし」
そこで一度言葉を切る。
「でも……これ以上、あの事務所とは関わりたくないっていうのが本音です」
「……うん」
「私、そんなことより、やりたいことがありますから」
その言葉には、以前とは違う強さがあった。
初めて会ったときの、何をするにも怯えているような様子はもうない。
もちろん、まだ不安そうではある。
でも、自分がこれからどうしたいのか。そこだけは、もう決めているらしい。
【#ペケットモンスターシンジュ】#4 勝つのはどっちだ!ダブルバトル サクラvsミライ【#さくらミライ】
「わぁー、パチパチサンとトゲチクだなんて、かわいいペケモン選ぶね、ミラちゃん!」
「ムキホークを麻痺らせて、トラーレンをひるませます」
「ミラちゃん?」
どうしてこうなった
化け物?白い悪魔だぁ…
ミラちゃん今回が初ペケモンなんだよね?
サクラは技構成ガキすぎるw
「やったー!ハチマキ2回発動だ!喰らえ、デカザルのかえんこうげき!特性の効果も込みで大ダメージだ!」
「2連ハチマキ?そんな、ありえません!運ゲーでミラのASぶっぱ意地っ張りガブザメを落とすなんて!」
「ミラちゃん?嘘だよね?」
嘘じゃないんだよなぁ…
サクラのパーティーかわいい、旅パすぎ
マジです
なんでガブザメくん持ってるんですかね?
「それでは、事務所との交渉についてはこちらで進めることもできます。ご自身で事務所に行かれますか?」
「……すみません。できれば、お願いしたいです」
「分かりました。では、委任について必要な手続きをご説明しますね」
「はい。よろしくお願いします」
話は思った以上にあっさりと、ものの数日で進んだ。
もちろん、これですべて解決というわけではない。これから事務所との交渉もあるし、場合によってはさらに揉める可能性もある。
それでも。
少なくとも、もう「どうしたらいいのか分からない」という状態ではない。
帰り道、私の頭が完全にパンクしている一方で、隣を歩くミラちゃんはすっきりした表情をしていた。顔色も、初めて会ったときと比べれば随分と良くなっている…気がする。
あの頃は見るからに疲れ切っていて、ちゃんと食べているのか心配になるくらいだった。
私の家に泊まってからは、しっかりご飯も食べているし、よく眠れているとは思う。
「あの…」
「ん?なあに?」
「ありがとうございました」
突然そんなことを言われて、私は足を止めかける。
「私、一人だったら……たぶん、抜けようなんて思いもしなかったと思います」
「……うん」
「ずっと、仕方ないんだ、夢のためだって思ってましたから」
そりゃそうだ。上京したての子が、あれやこれや分かるはずもない。
まあ正直、ちょっとだけ無防備すぎるとは思わなくもないが、世の中がこんなに悪意にまみれてるのが悪いとも思う。
「縋る思いで連絡して、さくらさんが優しくしてくれて、相談にも付き合ってくれて、家にも泊めてくれて……」
ミラちゃんがこちらを見る。やっぱり、モデルでも通用しそうな綺麗な子だ。
対象に私は、スタイルも身長も全然違う、ただの一般女性。なんだか悲しくなってきた。なきそう。
「東京で私に、こんなに優しくしてくれた人は初めてです。本当に、ありがとうございました」
そんなまっすぐな言葉になんだか照れくさくなって、私は頭を掻く。
「もう、さくらって呼んでよ」
「え?」
「『さん』付けとか堅苦しいし。これからも一緒に配信するんだしさ」
「……いいんですか?」
「もちろん。配信でもね」
「……はい」
ミラちゃんが小さく笑った。その笑顔を見ていると、今日ここまで来た甲斐があったなと思う。
……まあ、私の頭は今日も法律用語でボコボコにされたけど。
「それと……今回の件でかかったお金なんですけど」
「ん?」
「本当にごめんなさい。今はまだ返せません」
ミラちゃんが申し訳なさそうに俯く。
「でも、絶対に返しますから」
「おっけー!」
「……軽いですね」
「だって今から返す方法考えたって仕方ないじゃん。それに私はずっと前からミラちゃんのファンだったの!貴方のためならなんだってするよ!」
私は笑って、ミラちゃんの肩を軽く叩く。
「私、最近Vtuberになったばっかりですよ。そんな変に、口説いてるみたいな」
やば、私にとっては前世からの縁だけど、彼女的にはあって間もないんだった。反省反省。
なんとかして誤魔化さなきゃ(使命感)
「それより、今日は気晴らししよっか!映画でも見に行こうよ!」
「気晴らし?映画……私、東京で初めて見ます」
「私が出すからさ、最近話題の『君の縄』なんてどう?」
「なんですかその危なそうなタイトル」
つい最近世に出された名作を提案する。実はこの作品、死ぬほどヒットするって配信でも視聴者たちに言っていた名作だ。
自分も前世でみた。でも、なんか内容が曖昧になっていたのだ。
「きっと名作だよ!」
「本当ですか……?まあ、そうですね」
ミラちゃんが少しだけ考えてから、頷いた。
「行きましょうか」
「よし、決まりだ!一緒に行くぞー!」
そのまま二人で駅へ向かう。
……と、その途中。
「そういえば」
ミラちゃんが、ふと思い出したように口を開いた。
「私の名前なんですけど」
「え?」
「町中では、こっちで呼んでください」
そう言って、彼女は少しだけ照れくさそうに笑った。
「私の名前は――才田みらいです」
「……才田、みらい」
私は頷く。Vtuberとして活動するときの名前でもない、彼女自身の名前。
「改めて、よろしくね。みらいちゃん……あ」
そういえば、私もまだ本当の名前を教えていなかった。
「私も自己紹介しとこうかな私の名前は――」
少しだけ間を置いてから、笑う。
「
「はい。よろしくお願いします、さくらさん」
「だから、さくらでいいんだよ!」
「あ……すみません」
そんなやり取りをしながら、私たちは映画館へ向かって歩いていった。
おまけ
「そういえば、さくらさ…さくらって何歳なんですか?私は20です。前にも言った気がしますが、一応」
「私24だよ」
すると彼女は私の頭からつま先から見下ろし、申し訳なさそうな顔で、
「すみません、さくらには迷惑をかけました。もう大人ぶらなくて良いので、本当の年齢を教えてください。15だったとしても驚きません」
「え?なんで?そんなに幼くないよ?…もしかして、お世辞のつもり?」
その後、頑なに認めようとしなかった彼女に、身分証明書をしっかりと見せた。
…しばらく、呼び方が「さくらさん」に戻ってしまった。
お久しぶりです。
最近、久々に好きだった方の配信をみました。やっぱり、Vの者は良いですね。
もはや自己満足ですが、のんびり書いてゆるりと連載再開をしようと思います。