ヒロイン絶対曇らせたくない転生者VS転生者の自己犠牲絶対止めたいヒロインズVS百合の間に挟まる男絶対殺す終末世界 作:すらいやー
轟音が轟いた。
荒野の戦場に土煙が舞って、そこから小さな人影が飛び出してくる。否、弾き飛ばされたのだ。自由の効かない状態のまま吹き飛ばされたそれは、地面に激突すると何度もバウンドしてから停止した。
その直後、煙を吹き飛ばして中から硬い甲殻を有した怪物が現れる。鉛色のそれはところどころに傷はあるものの致命傷と思えるそれはなく、高らかに吠えて吹き飛ばした人影に飛びかかった。
「さ、せるかあああああああああ!」
間に割って入るように、絶叫とともに一人の少女がそれを押し留めた。
――少女は、機械を身にまとっていた。
背には機械の翼、身体をぴっちりと覆うスーツに、腰には武装をいくつか身につけて、手には自身よりも巨大な大剣を手にしている。
栗色のショートボブ、齢は十七かそこら。年の割には貧相な体躯は今、自身の数倍はある巨体を正面から受け止めていた。
「先輩ッ!」
少女がかばった人影――こちらも機械の翼を身にまとう黒髪の少女が、心配と絶望がこもった悲痛な叫びを上げる。吹き飛ばされた彼女から見ても、その行動は無茶極まりなかったからだ。
受け止めた先輩と呼ばれた少女の手にした大剣は、もうまもなく破壊されるだろう。
「クロミに、なに、してんのよォッ!!」
叫びとともに、腰に備え付けられた銃身からとめどなく光の弾丸が発射される。だが、そのサイズ差もあってそれはもはや豆鉄砲としか言いようがなく、甲殻の怪物の気をそらすことすらできなかった。
「無茶です先輩! に、逃げてください!」
「――バカッ!」
明らかにジリ貧以前の状況に、思わず叫んだ黒髪の少女を先輩と呼ばれた少女が叱咤する。黒髪の少女は再び立ち上がり、手にしたナイフ――栗色の少女の大剣よりも更に頼りない――を構えて飛び込もうとして、そこでストップする。
「逃げるのはアンタの方よ! アタシはもうギアがもたない! ここで逃げたところで街にはたどり着けないの!!」
「で、でも!」
「アンタはまだ生きれるでしょ!? だったら、生きなくてどうすんのよ! アタシと一緒に死にたいってわけ!?」
まくし立てるような栗色の少女。
今にも吹き飛ばされそうになりながら、それでも必死に弾丸を放ち、剣に力を込め――そしてついに残弾が切れた。カチカチと、滑稽にも聞こえる音が何も放たない銃身から聞こえてくる。
――ここまでか、と覚悟を決めて。
それと同時に、これで良かったのだとも思う。
自分はこれまで多くの人に生かされてきた。そんな自分が、今は大切な後輩を生かすのだ。このクソみたいな世界で、先の見えない世界で。
生きたと言える証は、誰かに自分をつなげること以外に存在しない。
だから――
そう考えて、しかし。
直後、栗色の少女は絶句する。
「――させません。先輩には、生きてもらいます」
黒髪の少女が、ナイフを怪物に突き立てて栗色の少女の前に立ちはだかったのである。そして黒髪の少女は怪物の気を引くと、その場から離脱する。
「ちょ、クロミ、アンタ何を――!?」
「――先輩は、私より強いんです。今後のことを考えるなら生き残るべきは先輩です」
そして、狼狽する栗色少女の、ボロボロになった翼に、どこからかパーツが飛んできて装着される。それが、黒髪少女のギアから放たれたものであることは、すぐにわかった。
黒髪少女が自分のギアのパーツを使って、栗色少女の壊れたパーツを補完したのだ。これならば、無事に“街”へ帰還することができるだろう。
もちろん――
「そんな、認められるわけ無いでしょ、それじゃクロミが――!」
「――先輩」
そして、栗色少女は見た。甲殻の怪物に正面から殴られ吹き飛ばされる黒髪少女が、自分を見ていることを。そして、そして――
「私、先輩に傷つけられるより、先輩の傷になりたいんです」
――嬉しそうに、幸せそうに笑みを浮かべていることを、見た。
直後、すでに命令を受理していた黒髪少女のパーツが起動し、栗色少女を強制的にその場から離脱させるべく動き出す。栗色少女の操作を受け付けないそれは、一気に加速すると――
「く、ロミ……クロミぃぃぃいいいいいい!」
栗色少女を、その場から吹き飛ばした。
残るは、甲殻の怪物と、ボロボロになった黒髪の少女。
「……えへへ、ありがとうございます先輩。私……」
もはやここまで。
黒髪の少女は、もはや動くことすらできなくなっていた。目の前には甲殻の怪物の手――鋏の形をした死神の鎌が迫る。
聞こえることのない相手へ、黒髪少女――クロミは、ぽつりと。
「私、幸せでブッピガァアアアアアアアアン!
――へ?」
直後、それを遮るように鋼鉄の腕が甲殻の怪物を叩いていた。
⇛
――セーフ! ギリギリ間に合った!
超高速で飛ばしてきたせいで、すでに下半身は汚染に飲み込まれているが、汚染率自体はまだ五割、三分程度なら全力戦闘が可能。このあたりにこいつ以外の“MONSTER”はいないので、こいつさえ倒してしまえば後のことは気にしなくても良い。
俺は、目の前に立つ怪物と相対しながら、ギリギリで守った少女へと意識を向ける。
まず、生きている。それで最低限はクリア。次に装備がボロボロだが原型を保っていることをみてラッキーと小躍りする。そして最後にその少女が、「ハードフルステージ」のクロミ・タテハタであることに気付いて少し驚いた。
ということは、さっき閃光になって俺とすれ違ったのはフラナ・ハイドロッドで、ここはハードフルステージの最終盤である。
それまで多くの人の意思を継いで戦ってきたフラナに対し、そんなフラナに憧れと嫉妬の感情を抱いていたクロミが、フラナの前で犠牲となることで傷として永遠になろうとするシーン。
どこか破滅的で美しいシーンだが――フラナにとっては溜まったものではないトラウマである。防げたことは実に重畳。
眼の前の甲殻怪獣は、これまで何度か確認されてきた大型MONSTERの一種、となれば死闘は必至だが――眼の前で曇らせフラグを折ることのできた俺は――無敵だ。
「よおし、行くぞツクヨミ! あのふざけたMONSTERの顔にありったけ拳を打ち込んでやれ!」
俺は、巨大ロボット“ツクヨミ”のコックピット内で叫びながら、勢いよくツクヨミを前進させる。そこからは、怪獣とロボットの泥臭い格闘戦が始まった。
ハッキリ言って、動きの俊敏さ、攻撃の苛烈さは間違いなく甲殻怪獣の方が上だ。そりゃそうだ、ツクヨミはもう百年は前に使われなくなった骨董品の量産型。対して相手は今の時代の最新ギアを纏うプリンセスを二人相手にして戦える怪物。
普通にやれば、騎馬隊を殲滅する機関銃のような圧倒的な武器としての世代格差が俺のツクヨミをねじ伏せるだろう。
だが――ツクヨミには二つの利点がある。
一つは。
「ぐ、おおおおおおおおおおお!」
俺は、自身にまとわりつく汚染を更に強めて、同時にツクヨミへとその汚染を浸透させる。途端に先程と比べて俊敏極まりない動きで甲殻怪獣の後ろに回り込み、拳を連続して叩き込んだ。
一つは、リスク付き強化。トラ○ザムだの、界○拳だの、そういった感じの使えば自身を危険に晒すパワーアップ技である。
これのおかげで、数世代の差があるスペックをひっくり返すことが可能。
そしてもう一つの利点は――
「つかまえ、たぞ、くそったれぇ!」
俺は甲殻怪獣がふらついたところに組み付いて、動きを阻害する。
スペック差が埋まれば、後に残るのはお互いの体格差。俺のツクヨミは全長が50mを超える超巨体。その半分程度しかない甲殻怪獣など簡単に組み伏せることができる。
そしてそのまま、甲殻怪獣の動きを抑えた俺は。
「お、おおおおおおお!」
更に汚染を進めて、最大パワーで甲殻怪獣を引きちぎりにかかる!
――三分の全力戦闘が可能なら、それを十秒に凝縮すれば更にパワーアップができる。単純極まりない理屈だった。
しかし、
「ちょ、おま!? ビームはやめろビームは!」
引き千切ろうとした甲殻怪獣の口から、すごい勢いでビームが発射されようとしている。ピポポポポと集まるエネルギーに、俺は慌てながら力を込め――甲殻怪獣を真っ二つに引き裂くのだった。
⇛
――人が科学の叡智を解明し、霊長類の頂点となってから数世紀。人はその頂点の座を追われようとしていた。今から二百年ほど前、突如として現れた怪物“MONSTER”。
それらは人類をあっという間に駆逐し、その生存圏を奪おうとしていた。
対する人類は、様々な試行錯誤を経て対MONSTER決戦兵器、「プリンセスギア」を開発。以来、何とかギリギリのところで滅亡を免れ、今に至っていた。
しかし、日に日に激化する戦闘と、強力になっていくMONSTERによって人類は追い詰められることとなる。プリンセスギアは強力だが、無敵の兵装というわけではない。
戦闘のたびにギアとプリンセス――プリンセスギアの装着者をそう呼称する――は消耗し、一説には人類の抵抗は三年後には概ね停止するだろうという見方すら出ていた。
それでも、人類の明日を守るためにプリンセスは戦う。たとえ最後の一人になったとしても、だ。
ワカバ・アオハルはそんなプリンセスを
そんな彼女は今、空中を移動するトラック――エアトラックに乗って、戦場へと向かっていた。このエアトラック、武装もなければ装甲だって紙っペラ、明らかにこんな場所を走行するには向かない代物なのだが、そもそも戦闘は先程終了し、辺りにMONSTERの反応はないためワカバは構わず最高速で目的地へ向かっていた。
それもそのはず。
彼女は焦っていたのだから。
「もー! ヒムくんはいつもそうなんだから! 私が無茶しないでって言った途端に無茶するのやめてよぉ!」
文句を零しながらも、彼女はようやく見えてきた目的地を見て、更にアクセルを踏み込む。意味は薄いが、気分の問題だ。
――そこには、一体の巨大ロボットが横たわっていた。
無骨な黒いボディの、武者のようなロボットである。月明かりに照らされて、薄く反射する金色の模様がどこか幻想的ですらあった。
綺麗だと、毎度のことながら思うものの今は見惚れている場合ではない。
急いでワカバはエアトラックを地面に下ろすと、扉を開けっ放しのママ飛び出して、機体のコックピットへと向かう。
「あ、あなた!」
ふと、声をかけられる。見れば黒髪のプリンセスが、ボロボロになりながらもロボットの下からこちらを見上げていた。
「はぁい、なんでしょう。申し訳ありませんが急いでますので、手短に……」
「手短って言っても……その、そもそもこれは一体なんなのですか!? 突然現れて、一瞬でA級MONSTERを駆逐してしまったのですが」
――一瞬。その言葉に胸がチクリと痛む。
それは、すなわち“彼”がそれだけむちゃをしたという証。そして彼女は、彼が誰なのかを知らないらしい。おそらく別の“街”を守るプリンセスなのだろう。
ワカバも彼女のことを見たことがないので、おそらくその推測は当たっているはずだ。
「えっと……すいません、説明している時間は惜しいのです! ただ危ないものではありませんので、お気になさらず!」
「そんなこと言われても……」
「あ、あの。もしギアが壊れそうなのでしたら、エアトラックの中は浄化が済んでおりますので、そちらでお休みいただければ……」
納得しない様子のプリンセスに、致し方ないとは思いつつもワカバは手短な説得を試みる。
見れば向こうはもはや限界の様子、ここで立っていることすら辛いだろう。下手をすると、すでに汚染が始まってしまっている可能性すらあるのだから、安全な場所に避難するに越したことはない。
「そういうわけにも行きません! いくらこの身が朽ち果てようと、メイドに後を任せて引き下がるプリンセスはプリンセス失格です!」
言いながら、プリンセスは翼に残った限界ギリギリの飛行機能でこちらへと向かってくる。今にもガス欠を起こしそうだが、ワカバの見たところ見た目よりは余力が残っていそうだった。
……その割にはずいぶんとボロボロなのだが、彼女は一体どうしてそこまで機体をボロボロにしてしまったのだろう。
「で、では護衛をお願いしますプリンセス。こっちです!」
言いながらワカバはロボットのコックピット――胸のあたりを目指した。プリンセスはワカバの言葉を素直に聞き入れてくれて、文句も言わずついてきてくれる。
中にはメイドの言うことなんて、という傲慢なプリンセスもいるのだが、彼女が善良で聞き分けがよくて助かった。これなら、この後の話も冷静に聞き入れてくれるだろう。
「このロボットは今から百年以上前、MONSTERが出現した当初、人類が反抗に使っていた兵器です」
「ひゃ、百……!? プリンセスギアが登場する以前の!? 骨董品じゃないですか、そんなものでどうしてA級のMONSTERを!?」
ハッキリ言って、異常であった。
先程の戦闘を見ていたが、このロボットはプリンセスもかくやという速度で動き回り、一瞬でMONSTERを撃退してしまった。あの動きが百年前から可能だったなら、人類はここまで追い詰められてはいないはずである。
「イェスタ・デイブレイクをご存知ですか?」
「……あの、汚染を取り込みプリンセス以上の力を発揮する怪物プリンセス!?」
「はい……このロボットは、それと同じ機能を有しています」
――現在、この世界はMONSTERによって環境を激しく汚染されている。そのため、生身で行動するためにはメイドの作業服であるメイド服か、プリンセスのプリンセスギアを纏わなければ活動はできない状況にあった。
なぜなら汚染された動植物は急激に凶暴化し、MONSTERとなってしまうからである。
逆に言えば――
「――汚染は、人の身に取り込めば自滅の危険を孕む強化エネルギーとなります」
「……!」
ワカバは、辿り着いたコックピットで手慣れた様子で操作を行い、ハッチを開ける。
「それが、この前世代ギア“ツクヨミ”の特殊機能であり――彼こそが」
そして、開かれたコックピットで眠りにつく一人の“男”を見た。
思わずプリンセスは口元を抑えて吐き気を抑えた。なにせ、彼の身体はそのほとんどが汚染に蝕まれて変色しているのだから。
怪しく光る黒色の汚濁は、どこか幻想的とすら言える光景だが、汚染を嫌悪するプリンセスにとってその光景は耐えられるものではない。
何より――
「ヒムくん。この世界唯一の“男性”です」
――それが人であると、一瞬プリンセスは認識できなかった。
「だん……せい?」
ワカバは、そんな疑問に構うこと無く中へと飛び込む。これほど汚染されている人間に触れればどうなるかわかったものではない、プリンセスは止めるべきだったができなかった。
それだけ、目の前の見たことのない人らしき存在は、プリンセスには衝撃的だったのだ。
「はい、今から百年前、プリンセスギアの登場とともに絶滅したとされる――“男性”と呼ばれる種族の、唯一の生き残りです」
いいながら、ワカバはその“男”へ――口付けをした。
「なっ――」
驚くプリンセスを前に、変化は一瞬だった。男を覆う汚染が、まるで身体の中に引っ込むように消えていく。気がつけば、汚染など最初からなかったかのように元の状態へ戻ってしまった。
よし、とワカバは安堵する。とりあえずこれで、最低限は問題ない。
「あ、あなた達は――」
「私は――ヒムくんのメイドであり、ヒムくんは――」
眠りにつく男性。
それに寄り添うように、幼い少女は三日月のような笑みを浮かべた。
「――救世主。この世界を救い、私達人類に未来を照らしてくれる“神様”なんです」
⇛
「おー、手を出す暇もない残虐ファイトだったにゃあ」
んふふ、と金髪の少女が戦場を見下ろしながら舌なめずりをして笑みを浮かべる。
獣の本能を全開にした狩人、といった様子である。
「ヒムちゃん、今回も容赦ないんだからー、鬼畜ぅ」
楽しげに、愉しげ、樂しげに。
空中をくるくると回転しながら少女は真っ二つに引き裂かれたMONSTERを見下ろして、
「イェスタちゃんも、あんなふうにヒムちゃんをぐっちゃぐちゃにして上げたいにゃん♡」
死神のごとき少女は、楽しそうに、愉しそうに、樂しそうに笑っていた――
女の子しかいない世界で唯一人の男とかそういうやつです。
よろしくおねがいします。