ヒロイン絶対曇らせたくない転生者VS転生者の自己犠牲絶対止めたいヒロインズVS百合の間に挟まる男絶対殺す終末世界 作:すらいやー
大変感謝です。ありがとうございます。
俺は曇らせが嫌いだ。
というより、曇らせで発生しがちなキャラの死亡が苦手だ。叶うなら生きていて欲しい。全員生存なら言うことなしだ。
その点において、プリギアはあまり優しいタイプではない。
まずゲーム本編でもグランドエンドを迎えても生き残れるキャラは少ない。アカネ博士は生き残るが、ワカバは生き残れないくらいの塩梅だ。
また、外伝作が多く、外伝作が出るたびに新キャラが死ぬので、新キャラは死亡フラグなんて言葉も生まれた。
先日救出した「ハードフルステージ」は別の“街”を舞台にした外伝作なのだが、本編でも登場するヒロイン以外は全滅する。
クロミ・タテハタは言うに及ばず。あそこで生き残ったフラナ・ハイドロッドも終盤には死亡してしまう。幸いにはハドステが始まるのはもう少し先の話なので、今はクロミ・タテハタを救出するだけで十分だが。
しかし、そうは言っても俺一人にできることは限られている。
何より俺は自分が生き残ることすらも手一杯なのだ。戦場に出れば、いつMONSTERに負けるかわかったもんじゃないし、俺の場合は汚染による自滅のリスクは常に付きまとう。
ああ、でもしかし。
それは、俺以外にも同じことが言えるやつがいるのだ。
一人は原作主人公ちゃん。目覚めるのはもう少し先の話だが、彼女もロボットの汚染強化モードを多用して戦ってはワカバに浄化してもらうことで何とか戦闘についていくタイプだ。
そしてもうひとり――俺や主人公ちゃんは必要だからそうしているのに、
わざわざやりたいから汚染されている、とんでもない稀有かつヤバイやつが、この世には一人いるのであった。
そして厄介なことに、そいつは俺が救いたい――言ってしまえばこのゲームにおける推しでもあった。
⇛
汚染が身体を襲う。右足の感覚がなくなって、俺は苦痛にうめきながらもMONSTERの顔を拳でぶち抜いた。相手はD級MONSTER、物の数ではない。
MONSTERにはEランクからAランクまでのランクがあり、当然Eランクの方が弱い。なお今だ確認されていないがS級MONSTERというのも理論上存在する。
といってもそんなもの、そうそう現れるわけないのだが(フラグ)。
実は確認されてはいないが既に二体のS級が地上に出現しており、もうすぐ三体目が現れるのはここだけの秘密。
とまれ、今日に関しては単なる雑魚狩りといったところ。街から街への荷物の輸送中――ロボットはこういう時に便利だ――襲われているプリンセスを見つけて、救援に入った形。
相手が小さいこともあり――それでも10mはあるが――倒すことは難しくなかった。そして、今ので最後の一体である。
プリンセスは俺が所属する“街”のプリンセスだったため、特に事情を話す必要もなかった上に、武装は街に帰るまで持ちそうだったのは朗報だ。
こういうとき、俺のことを知らないプリンセス相手だと、そのまま第二ラウンドに突入してしまうこともある。
まぁ――
「ひーむーくーん! あっそびましょおおおおお!」
――たまに、見知ったプリンセスに襲撃されることもあるが。
プリンセスを街に返した直後、仕事に戻ろうとした瞬間。突如頭上から声がしたかと思えば、俺のツクヨミの左腕が吹き飛ばされていた。
「なっ――」
一瞬のこと、ツクヨミには一切汚染強化を行っておらず、不意を付けば即座にでくのぼうにできる状態だった。油断しているといえばそのとおりだが、わざわざ友軍の識別反応を殺してレーダーをかいくぐりながら、プリンセス特有の小柄さを利用して奇襲を仕掛けてくる相手に対応できるのは普通に考えて異常な方に入る。
俺は努めて普通のオタク男子であるからして、そんなことは出来ないのだ。
「おおっとおー、ヒムちゃんがまたおかしなことを考えている気がするぞぉ」
見上げた先に、女が立っていた。
金髪の、細身の女だ。心配になるほど細い枯れ枝のような――けれども、どこか妖しい美貌を誇る不可思議で魔性の女。
プリンセス特有のちょっとスケベなスーツをマントで覆い、腰にも武装ではなくスカートのような布を巻いている彼女は、どちらかというと美しさよりもかっこよさが先にくる。
異質。けれども思わず見入ってしまうような美少女だった。
「……イェスタ・デイブレイク」
そして――この世界でもっとも危険なプリンセスの名を、俺は呼んだ。
「……俺は今、何度目かわからない命の危機から脱出するための方策を考えてるよ」
「ええ!? ボクのことを愛してるってぇ!? こまるにゃあん!」
自身の得物である純白の鎌を振り回しながら、愉しげに女――イェスタは回転する。縦に、横に、縦横無尽だ。
イェスタ・デイブレイク。
このゲーム――プリギアには原作主人公ちゃんを始め、外伝作品に様々な主人公が存在する。中でも特別な存在が、原作主人公ちゃん以外ではじめてロボットに乗った「ギアーズゼロ」の主人公と――現状唯一原作以外でアニメ化を果たしている作品。
「黄金の死鎌人形」主人公――イェスタ・デイブレイクである。
イェスタが特別なのはアニメ化もそうだが――
「っていうかヒムちゃん、全然汚染されてないよぉ! ボクとおそろいになろうよぉ!」
彼女もまた汚染による強化を行うからだ。
そんな戦い方をするプリンセスはこの世に一人しかいない。狂った死鎌人形の異名を持つイェスタ・デイブレイクただ一人だ。
見ての通り、こいつは頭がおかしい。幼い頃から他人とは違った彼女はプリンセスになってからは常に一人、他人へ意識を向けること無く自由気ままにMONSTERを狩って生きてきた。
その実力は本物で、プリギアにおけるプリンセス最強議論においては必ず名前が上がる強者である。
「んなことしてると、いずれお前がMONSTERに成り果てるぞ」
とはいえ、ゲームにおける出番はそんな最強プリンセスとしてではなく――敵。それも作中における最大クラスの強敵として登場する。
そう、ゲーム時点でイェスタは汚染の影響でMONSTERとなってしまっているのである。
これがまた、ゲームでは厄介極まりない存在であった。重要な場面では必ずと行っていいほど現れるMONSTERであり、文句なしのS級MONSTER。
多くのプレイヤーが、こいつのエフェクトがかかった絶叫を聞くとトラウマを思い出すという――
ただ、そんなイェスタだが、ゲームにおいてはヒロイン以外だと間違いなくもっとも人気のある存在である。トラウマになるということはそれだけ作品内で印象に残る出番を与えられているということであり、何よりMONSTERイェスタの立ち位置は、単純な敵のそれとは違う。
プリギアにはMONSTERの他に敵対する相手がいるのだが、MONSTERイェスタはそいつらすら攻撃するのだ。時には主人公ちゃんたちのピンチを救い、最後には良い感じの見せ場とともに退場する。美味しい立ち位置と言える。
結果が、彼女を主人公とした前日譚のアニメ化だった。
そして、
「あはー。……如何にヒムちゃんでも言っていいことと悪いことがあるかんな?」
イェスタ・デイブレイクは主人公になる以上、それなりの矜持と言うか、主人公らしさというものがある。
俺の挑発めいた言葉に反応したイェスタは、一瞬で俺の目前に潜り込んできた。
あっという間のことで、視界からイェスタが一瞬消えていた。メインカメラがある顔の部分に、不機嫌そうなイェスタが立っている。
「ヒムちゃん。ボクねぇMONSTERがこの世界で何よりも嫌いなの知ってるでしょ? 汚染されすぎるとMONSTERになる? ――それはね、ヒムちゃんたち人間が弱いからそうなっちゃうだけなんだ」
直後、イェスタの顔に紫の“影”がまとわりついた。汚染である。
――俺は、即座に操縦桿を動かし、同時にツクヨミへ汚染を浸透させる。
「う、おおおおっ!」
回避。
高速で振るわれた鎌が、空気を切り裂き――後方の岩肌を真っ二つにした。俺は、ギリギリで態勢を崩してそれを回避、そのまま何とか距離を取る。
体中に激痛。そりゃそうだ、文字通り俺の身体は現在進行系で汚染されて使い物にならなくなっているのだから。
そしてそれは、イェスタも同じのハズ。
だが、
「あは――おそろい♡」
イェスタは、笑っていた。
体中に紫の模様を奔らせながら、まるでそれを勲章のように振り回す。俺のように激痛を我慢している様子もなく、かと言って汚染に飲み込まれているようにも見えず。
「汚染っていうのはねぇ、そもそも何かを外から取り込んだ時点でそれは汚染なの! 食事も! 呼吸も! 生命活動も、そもそも全部汚染で汚濁。正しくなんか、これっぽっちもないんだ!!」
振るう、振るう。鎌を振るう。
イェスタの必死の一撃が俺に見舞われる。一つでもかすめればそのまま機体ごと俺が消滅するほどの威力だ。こればかりは、どれだけ汚染で強化しても意味はない。
なにせ相手の方がより強い汚染で強化されているのだから。
「ねぇねぇねぇねぇ! ヒムちゃんもボクと同じになろうよぉ! 体中が汚染まみれになって、ゾンビみたいにぐずぐずになって、ボクと一緒に溶けちゃおうよぉ!」
「……断る!」
俺は何歩かそれを下がって回避した。幸いといっては何だが、イェスタが初撃でツクヨミの腕を吹き飛ばしてくれたお陰で、被弾の面積が小さくなっている。
回避はいつもより容易だった。
ならば、と俺は一気にバックステップで距離を取り、機体の腰を落として構える。
「あはぁ! やる気になってくれたねぇ!」
そしてそのまま――
「なってないっての、バカ!」
俺は、最高速でイェスタの横を抜けて、その場を離脱した。
バックステップで距離をとったのは、助走をつけるため、決してイェスタに飛びかかるためではない。こんなやべーやつに、直接戦闘なんかやってられるかっての!
「へぁ」
――驚いたイェスタを横目に、俺はその場からの離脱に成功するのだった。
⇛
一瞬呆けていたイェスタは、正気を取り戻すと去っていってしまったヒムとそのロボットへ視線を向けた。ぽつんと一人、イェスタは取り残されてしまったのである。
「…………」
するすると、イェスタにまとわりついていた汚染が消えていく。
イェスタの汚染は、ヒムや原作主人公のそれとは少し異なる。そもそも、イェスタにとって汚染はされている方が自然なのだ。
培養ポッドの中から生まれてくる時に、不具合があったのだとイェスタは聞いている。
そんなこと、彼女にとってはどうでもいいが。
大事なのは、今あの男にされたことだ。
――逃げられた。
これまでもそうだったけれど、それにしたって。
「あそこまで逃げることしか考えてない人は、君だけだよぉヒムちゃぁん」
イェスタを前にして逃げるプリンセスは山ほどいる。流石にメイドは襲う意味が薄いから襲わないけれど、きっとメイドだってイェスタを前にすれば逃げるだろう。
なぜなら、イェスタが怖いから。
自分とイェスタは違うから。イェスタがプリンセスすら襲うほどに野蛮だから。
そういう、自分との違いをプリンセスたちは畏れているのだ。対して、ヒムは違う。彼はイェスタを恐れていない。彼の場合は怖いから逃げ出すのではなく、相手にしたくないから逃げ出しているのだ。
当然と言えば当然だろう。ヒムは長時間の全力戦闘ができない。無駄にイェスタにかまけていたら最悪死んでしまうのだ。だったら最初から全力で逃げたほうがマシというもので、合理的に考えれば自然なことである。
だが、そこに恐怖が混じらないのは普通ではないのだ。
「ああ、だからヒムちゃん」
ヒム。
この世界において、唯一の男性と呼ばれる存在。イェスタたちとは違う野太い声に、がっしりとした体躯。そして見た目もさることながら、彼は戦場で恐れない。
イェスタを前にしても、MONSTERを前にしても揺らがない。
ツクヨミというロボットに乗り込んで、プリンセスとは違う戦い方をする彼は――
「――ねぇ、ボクと一緒になろうよぉ」
イェスタという、他者とは違う生き方しかできない怪物にとって。
きっと、世界で唯一の“同類”になれるかもしれない相手だったのだ。
――とはいえ、すでにそこにヒムの姿はないのだけれど。
「……はぁ」
イェスタは、沈黙に満ちた周囲を見渡し、自分が一人であるということを思い出し――ため息を付いた。
⇛
俺のプリギアにおける推しは、実はイェスタ・デイブレイクだ。
だったらどうして逃げるのか? 推しだからっていって今のキチガイ状態のイェスタ相手にまともなコミュニケーションは無茶。意味がないとは言わないが、やはりイェスタには原作と同じ経験をしてもらわないと。
その狂気に似合わず、イェスタは寂しがり屋だ。プリンセスに絡むのも結局は寂しいからが理由であり、彼女が主役となるアニメではそんな寂しがり屋なイェスタの姿が描かれる。
仮にも主役となる存在なのだから、決してイェスタが悪辣かというとそういうわけでもない。たしかにプリンセスを無駄に襲撃したりはするが、だからといってプリンセスを殺したりすることはないし、プリンセスとMONSTERが争っていたら優先するのはMONSTERである。
どころか弱った相手には優しい部分があり、守護対象であるメイドや“街”で暮らす非戦闘員が襲われていたら彼女はそれを守るのだ。
そんな彼女は、アニメの中で少しずつ人間性を獲得していく。最後にはその人間性から限界を越えた汚染を受けて、大切なものを守るために力尽きるのだ。
その姿は感動的で、俺がプリギアにハマるきっかけにもなったのだが。それはそれとしてアニメのイェスタはとある愛称がある。
ある意味イェスタをバカにしているとも言えるが、ファンの付けた愛称が故、そこはイェスタの愛嬌とも言える。
狂気っぽい行動をして、他人の気を引きながらやがては人間性を獲得してその狂気は鳴りを潜めていくさまから彼女は――
ファッションキチガイ中二病卒業姉さん。
そう、呼ばれていた――
主人公の目標は色々ありますが、ファキ卒姉さんの生存も目標の一つです。