ヒロイン絶対曇らせたくない転生者VS転生者の自己犠牲絶対止めたいヒロインズVS百合の間に挟まる男絶対殺す終末世界 作:すらいやー
俺の戦い方は、自滅が常に付きまとう危険な戦い方だ。
だが、それ以前に基本的に一度身体を汚染されれば、人間はそのまま汚染によってMONSTERに成り果てるのが普通である。実はツクヨミにはそうなる前に内部のパイロットを自爆させる機能がついていたりするので、ツクヨミが汚染でMONSTERになることはないのだが。
それはそれとして、俺のそんな戦い方を成立させてくれる重要な存在、それがワカバ・アオハルである。
ゲームにおいても重要なポジション――というか、俺と同じく汚染によって一度戦えば死を迎えるゲーム主人公の汚染を取り除く役割を持つ少女である。
なぜそんなことができるかといと、メイドの能力――
プリンセスギアが開発された際に、副産物として遺伝子操作技術が向上したというのは前にも話したが、それによって人類は旧来の人類から、一つ上の存在へと進化した……と言われている。
その進化した力の一つが支援の力だ。
この力は、言ってしまえば超能力の類なのだが、その内容は主に直接的な攻撃能力ではなく、何かを助ける能力に特化している。故に支援という名前がつけられたのだからして。
そんな中、ワカバの支援は「汚染の浄化」である。これがあるから、俺や原作主人公ちゃんたちは戦えるわけで、だからこそ思うのだ。
ワカバが、アカネやイェスタのような癖のあるタイプではなく、非常に付き合いやすい善良な子であることが、コレほどまでも有り難いのだと――
プリギア界の大天使ワカバ・アオハル。
アカネのように人の裸体を見ようと服を剥いできたり、イェスタのように日常的に殺しにかかってこない、どこまでも善良で普通のいい子。
それが、俺を支援してくれるメイド少女だった。
⇛
「づ、おおおおおお!」
叫びながら、俺は必死にMONSTERへと拳を叩き込んでいた。
ツクヨミの汚染は最大まで引き上げられ、限界までもはや数秒の猶予もない。もしも、イェスタに腕をたたっ切られたのをアカネに修理してもらっていなければ、俺はここで死んでいただろう。
もちろん、ここでMONSTERを倒しきれなければ腕が治っていても俺は死ぬのだが!
「間に合えええええ!」
連打連打連打、必死に操縦桿を動かし続けながら、目の前のMONSTERが弱っていくのを確認する。残り二秒。間に合うか!? ええい賭けだ!
「汚染……十倍! フルパワーパンチだ、持っていけえええ!」
一瞬、ほんの一瞬だけ自身の汚染を強化する。残り二秒が、残り一秒と少しに変わるが構わない。その一秒でギリギリまで引き絞った拳は相手に叩き込める。
ズガァアアアアアアアアアアアアン!
凄まじい音がして、その直後にリミッターとして取り付けていた最大汚染時の機能停止装置が起動、ツクヨミは力を失ってその場に停止した。
これを無視して汚染を続けると、ツクヨミは俺ごと汚染によりMONSTERとならないよう自爆するのだが、今は問題ない。
――メインカメラすら見えなくなった状態で、俺は外の様子を確認することは出来ない。これで死んでいなければ、まず間違いなく敵は動き出してツクヨミをおもちゃにするだろう。
だが、動きはなかった。
数秒、沈黙で時間が流れ――俺は勝利を確信する。
途端。
「が、ああああああああああああああああああ!!」
俺は自分の首元まで侵食していた汚染の激痛によって、意識を失うことになるのだ。
――そして、数分後。
「――くん! ヒムくん!」
声がする。
それは――
「起きてヒムくん! ヒムくんってば!!」
「……ワカバ」
俺を、起こしてくれる少女の声だ。
心配そうなワカバの顔が、まず視界に入り込んだ。
「だい、じょうぶ。死んでない」
「死んでない“だけ”だよ、これじゃあ! またリミッターまで戦って、これじゃあいつ痛みでおかしくなっちゃうかわかんないよ……!」
「ごめん……」
正直、自分でも無茶をしている自覚は有る。
でもこの世界にやってきて、ツクヨミにのって戦う内に、俺はおかしくなってしまったらしい。後から思い返せば無茶もいいところな行動をためらうこと無く取るようになって、あまつさえそれを怖いとも思わないなんて。
どうか、している。
ただ、これには少しばかり心当たりがあった。ゲームの主人公ちゃんも同じだったからだ。ゲームの主人公ちゃんも、俺と同じようにロボットのコックピットで眠っていたのが、あるきっかけにより目覚めたという経緯でこの時代にやってきている。
俺は転生者だが、彼女の場合はコールドスリープによる時間遡行だ。
そして、その時に言われていた原因は――
「浄化だって! 絶対に全部浄化しきれるわけじゃないんだから! このままじゃ、いずれヒムくんは――!」
――汚染だ。
そう、ワカバは俺の汚染を取り除いてくれるが、すべての汚染を取り除けるわけではない。しつこくこびりついた汚れのように、汚染は浄化すればするほど、俺の奥に沈殿していく。
そして汚染には汚染された存在を凶暴化させる性質があるので、汚染が沈殿した俺は、こういった無茶に恐怖を感じないよう精神が変質してしまっているというわけだ。
「……大丈夫、まだ後三年は持つ」
「三年しか、もたないじゃん!」
――ワカバは俺の言葉に、そう否定する。実際、自分の寿命が後三年と言われて、普通は三年しかないと考えるだろう。
だが、俺は違った。
なぜならこの世界の未来を俺は知っている。
「……三年で、世界を救えばいい」
具体的に言えば、三年後にはゲーム本編が終了するのだ。そして、グランドエンドならば俺の汚染問題も解決する。
一発勝負でグランドエンドにたどり着かなければ行けないが、それでもどうせグランドエンド以外に人類の未来はない。
だったら、それに賭けて戦えばいい。
汚染によって怖いもの知らずになったからだろうか、俺はそう考えていた。
「…………三年、三年ってヒムくんはいっつもそう言うけど、本当に三年で全部が解決するの?」
「必ず、じゃない。努力は必要だけど」
「……ヒムくんって、時々未来が見えてるみたいな事言うよね」
「それは……」
……流石に、ずっと一緒にいるといっても過言ではないワカバに、俺の素性のすべてを隠し通すことは難しい。何度も誤魔化せば、こうやってワカバも時折何かを察したようなことを行ってくることもある。
だが、
「私を見つけてくれたときも……そうだった」
「ワカバは……どうしても俺に必要な存在だったんだ。今もこうして、俺が生きているのはワカバがいてこそだろ?」
実は、ワカバの浄化能力を発見したのは、俺だ。
そもそもの話、浄化能力というのは基本的に使い道が薄い。プリンセスもメイドも、汚染対策の衣装を着ているから早々汚染されることはないわけで。
それが壊れたら汚染は常にされてしまう関係上、浄化能力はとにかく使い勝手が悪いのだ。
が、ロボットに乗って汚染強化を使う上では絶対になくてはならない存在である。
正直、少しどうかと思う話だが、コレに関して俺は原作知識を利用させてもらった。ワカバに浄化能力があることを知っていた俺は、ワカバにそれを明かしてメイドとなることを頼んだのだ。
もちろん、それを事前に伝えた上で、ワカバの了承を得られなければ俺は諦めるつもりだった。
だからこうして――
「俺は、ワカバを利用してしまってる。ワカバは俺を恨んでもいい……本当なら、こんなことする必要はなかったんだから」
「……っ♡」
きちんとワカバにはそのことを伝えている。
ワカバは顔を伏せてしまった。やはり、彼女はいい子だ。ワカバを利用としようという都合のいい考えで近づいた俺の言うことを聞いていて、感じる不満を俺に見せないようにしてくれている。
「じゃあ、帰ろうか」
「……はいっ!」
そのまま、取り繕うような笑みを浮かべて俺の言葉に同意するワカバと共に、俺は“街”へと帰還するのだった。
⇛
ワカバ・アオハル。
ゲームにおいては主人公が最初に仲良くなった友人であり、メインヒロインと言っても過言ではない存在である。その性格は善良で、一癖も二癖もあるプリギアのキャラの中では、非常に“安全”なタイプである。
特にヒムの場合は、常日頃から裸体を見ようとしてくるマッドツンデレ博士や、出逢えば命の危険すらあるまだまともになっていない頃の狂人に追いかけられている事が多い。そんな彼にとってワカバの存在は一種の癒やしと言えた。
だが、同時にワカバは義理堅く、そして頑固なタイプだ。ヒムがこの世界にやってきて、何度も無茶をしてきたが彼女はそのたびにそのムチャを咎めている。
それは自分の能力を見出してくれた恩人への感謝と、その恩人が常日頃からワカバを“利用している”と言ってくることへ対しての、返答のようなものだ。
この世界の人間は――少なくとも、培養ポッドから生まれてくる人間は、その全てが特異な能力を有している。プリンセスはその能力を有さないが、厳密に言うとプリンセスギアを装着できる特性は、その特異な能力によるものだ。
つまり、この世界にはプリンセスギア適正という能力と、それを
ワカバがその代表的な例だった。プリンセスギアを装着できないにも関わらず能力が使えない。そういった少女は少ないながらも存在し、大抵の場合は苦しい立場に置かれることとなる。
だが、そういった少女は決して能力が使えないわけではない。自分がどういう能力なのかわからない、というだけだ。
未だこの特異な能力についてはわからないことが多く、すべてを分類できているわけではない。
そして、それを見つけ出したのがヒムだった。
――原作に置いて、この能力は主人公が汚染を使って死にかけた際、偶然発見された能力である。対してこの世界ではヒムが予め、まるで預言者のようにその能力を見出してしまった。
実は、この違いがヒムの想定もしていない事態を引き起こしているということを、彼はまだ知る由もなかった――
⇛
ワカバは、任務を終えると必ずある場所へと赴く。
そこはワカバが浄化を施し、常に汚染がない状態となった町外れのとあるエアトラックである。ヒムの世界で言うところの16tトラック、超大型のトラックである。
そのトラックのコンテナへと、ワカバは入り込む。鍵がかかっていたが、ワカバはその鍵を持っているので問題はない。どころか、このエアトラックの持ち主はワカバだった。
中は、暗く、そして静謐な空間である。
ぽつり、ぽつりと明かりが灯っていて、足元は見えるものの、全体はぼんやりとした明かりによってある程度照らされているだけ。
そしてそこには、数人の少女が座り込んでいた。
ワカバが入ってくるのを見ると、彼女たちは軽く頭を下げ、それから自身のしている行為へと戻る。彼女たちがしていることは、端的に言うと礼拝だった。
手を組んで、祈りを捧げている。没頭していると言ってもいい、彼女たちはこの場に置いて、敬虔な信徒であった。
ワカバもその場に座り込むと、少女たちと同じように祈りを捧げる。その姿はこの場にいるものの中で最も堂々と、そして美しい姿をしている。
少女たちの中には、そんなワカバの姿に敬意を抱いている者もいるようだ。
やがてワカバは顔をあげると立ち上がり、祈りを捧げる少女たちに呼びかけた。
「皆様、今日も素晴らしい祈りでした。皆様が今日も生き残り、明日を迎えられることもその信仰の賜でしょう」
――見れば、少女たちは涙を流していた。
ワカバは、顔を上げた少女たちの見上げる先にある“それ”へ、寄り添うように立っている。その光景は、彼女たちが抱く信仰の原初にあるものと一致するのだ。
「ですから――」
“それ”は写真だった。
「明日の未来をより良くするために、祈りましょう。我らが偉大なる主、ヒムくんへ――」
――そこには、この世界唯一の男性。
ヒムが、映っていた。
ワカバ・アオハルは頑固で、そして何より思い込みの激しい性格である。ヒムの無茶に対して、どれだけ大丈夫だと言っても心配をやめないように。
彼女のそれは美点だ、基本的には。ゲームにおいても、その頑固さと思い込みの激しさで、事態を何度も切り抜けてきた。
そして、それがおかしな行動へつながることもなかった。
だからヒムは可笑しいとも思わなかったのだ。だが、しかしそもそもそれは彼女がまっとうな人生を歩んできた場合の話である。
イェスタ・デイブレイクがいずれまともになるように。
人は経験で変わっていくものだ。そして、それはワカバにも言えるし――ヒムはいまいちその辺りを理解しきれていなかった。
ゲームの世界の住人だから、そういう型にはめて見てしまうというのもあるだろうが、単純にヒムは他人の機微に疎い。
ぶっちゃけ鈍かった。だからワカバの変質に気付かない。別にワカバが本気で隠しているわけでもないのに関わらず。
ワカバが、このエアトラックで宗教めいたことをしているのは、実は裏では結構有名だ。なにせそもそもこの宗教は信徒が多い。
だって、崇める対象はヒムであり――それを崇めるのは、ヒムに助けられたプリンセスやメイドだからだ。
ハッキリ言って、ヒムはこの世界で異質な存在である。
場合によっては排除される可能性も高い、冷静な人間は少なくともヒムを警戒するだろう。特に彼に助けられたこともなく、彼と直接交流をもたない少女は少なからず彼に対して警戒心を抱いている。
だが、彼に救われたものはどうか。彼はこれまで幾度となくプリンセスたちを救っている。それもすべて犠牲者を出さず、自分たちを守ろうとしてくれているのだ。
――そして、ヒムは男性である。この世界において唯一の。それはあまりにもヒムが特別すぎるということでもあり――ヒムが自分たちとは違う存在であると多くのプリンセスへ思わせるには十分すぎるものだ。
自分たちとは違う存在が、献身とも言える態度で自分たちを救ってくれる。それはすなわち――
――ヒムを神聖視するものが出てくる、ということを意味していた。
そして、
そして、その最たる存在が、ワカバ・アオハルである。
ヒムが彼女にしてしまったことをすれば、そうなるのも無理はない。突如として現れ、落ちこぼれのような扱いを受けていた自分に役割をくれた。
それだけでなく、三年後には世界は救われるという予言すら残す彼は、もはや人ではない。救世主――神の遣いか、神そのものにしか思えない。
「ああ、ヒムくん、ヒムくん、ヒムくん」
かくしてワカバは、再び祈りを捧げる。誰に聞こえるでもない、か細い声を漏らしながら。
「ヒムくんは私の神様です、ヒムくんこそが私達を救ってくれるのです。ヒムくんのお役に立つことが、私の幸せなのです」
――ワカバは、善良で普通のいい子。
そういう色眼鏡を見ているからこそ、ヒムは絶対に気が付かない。そして、ワカバも気が付かれるような行動をしない。
別に彼女は、ヒムを神にしたいわけでも、神としてもてはやしたいわけでもない。
だってすでに彼女にとってヒムは神なのだから。
「だから――」
結果として、一つのMONSTERがそこに誕生した。
「もっと多くの人がヒムくんで救われるよう、私、頑張るからね?」
ヒム教教祖、ワカバ・アオハルは。
――今日も、世界をヒムという存在に染め上げるべく、決意を固くするのだった。
危険度はワカバ>(絶対的な壁)>アカネ>イェスタです