本日3話目
「──月。ねぇねぇ、あっちのお店にも寄っていい?」
「もちろん。海砂のためならいくらでも付き合うよ」
「あはは、月じゃなくてナイトって呼んじゃおうか? 私を守ってくれる騎士様だもんね」
「僕は構わないけど、せっかくなら僕の名前を呼んでほしいかな。ナイトだと僕の名前を呼んでもらってる気がしないからね」
「あは、それもそうだね。じゃあ、月。行こ?」
「お供しますよ、僕のお姫様」
「あはは、やめてやめて。本当に言われるとちょっと恥ずかしいから」
『くすくす』と楽しそうに笑う海砂の姿に、月は心から幸せだと思い微笑んだ。
もう海砂と付き合い始めて5年の月日が経っていた。
『第二のキラ』を追い詰めるために、色々な策を弄した。
その結果として、警察に対して圧力が掛かり、捜査本部は事実上の解体の憂目にもあったが、相沢、宇生田の両名は警察内部に残る事を選び、その他の、夜神総一郎、松田、模木。この三名と月を含める四名だけが警察を辞めてまで捜査本部に残った。
その後にアイバーとウエディという詐欺師と泥棒の二名が加わり、そして同じく圧力によって参加不可となっていた、元FBI捜査官レイ・ペンバー。そのフィアンセである南空ナオミなどなどが参加した。
そしてその数年後。
『L』の後継者を名乗る二名。
『ニア』と『メロ』も参加。
この数年で政治的圧力により事実上『キラ』対策から撤退したと思われていたアメリカから『キラ』専門の対策部隊まで参戦した。
これは『ニア』と『メロ』が『L』が指揮する『キラ』対策本部に参加するにあたって用意した手土産でもあった。
その結果としては捜査本部の結束は強まった。
『L』いや、『ワタリ』からの援助で参加者全員の今後の資金に関しても賄われており、そういった類の不安もない。
ただ皆が一丸となって『第二のキラ』逮捕に向かって動いていた。
世間では『L』は無能、『L』は何も出来ないと言われているが、その実必要な情報は確実に集積しており、世界各国にダミーとして用意されていた会社の皮も慎重に剥がし終えて、残るはヨツバグループ内に潜むであろう『第二のキラ』を特定するところまで話は進んでいた。
だが、それが非常に困難だった。
下手に気がつかれれば、5年も掛けて特定したのに逃げられかねない。
非常に慎重な捜査が求められた。
そんなこんなで、ひとまずの小休止を夜神月は取っていた。
あまりに忙しく、片手間で大学は卒業し終えたが、海砂とのデートの時間はあまり取れなかった。
というより、海砂も大人気モデル、女優として時代を先駆けており、時間に余裕がなかったとも言える。
だから、この日は久しぶりのデートだった。
もちろん、電話やメールでのやり取りは月がマメな性格という事もあって一切欠かさなかったが、実際に会うとなればその喜びもひとしおだ。
顔を見て声を聞いて、手を繋ぎながら楽しい時間を共有する。
デートの醍醐味を満喫していた。
「ねぇねぇ月。月は警察庁に行くって言ってたけど、今は違うんだよね?」
「ああ、うん。知り合いの企業に誘われちゃってね。給料も悪くないし、そっちで働いてるよ」
そういうことになっていた。
さすがに『キラ』の目の前で捜査状況を話すほど月は脳内お花畑ではない。
だから、『第二のキラ』を追っている事も海砂には隠している。
そのカバーストーリーとして用意しているのが、『ワタリ』の用意したダミー会社に勤めている、という事だ。知り合いや家族にはそう話すように、と指示され、それに従っていた。
ちなみに捜査本部に参加しているメンバーは皆がそういうことになっている。
さすがに世間体を考えて無職というのは如何なものかと苦言を呈した結果だった。
元々が『プー太郎』と言っても過言ではない『L』だ。
そこまで思考は至らなかったようで、しばらく虚空を眺めた後に、ああ、そういえばそうでしたね。と宣って決まった。
ともかく、これで月も海砂の彼氏としての面目が一応立った。
自信満々に無職、という事はさすがの月も、いや、プライドの高い月だからこそ憚られたが、幸いな事に既に対処済みだった。
海砂も特に疑問を持った様子もないようで、普段通りに明るく『ニコニコ』と笑っていた。
「さすが月だね〜。引く手数多じゃん。私の彼氏は優秀だね。──あ、そうだ。私ハリウッド映画に出演決まったから、もう日本に居られないんだ。ごめんね」
両手を合わせて、『ぺこり』と軽く頭を下げる仕草をしながらの唐突なその宣言に、月は驚きのあまり停止しそうな思考を必死で回転させて考えた。
ハリウッド? 映画?
つまり、アメリカ?
海砂が大人気であることは知っていた。
世界最高峰の非常に可愛らしいルックス。
ギャルなのに知的な発言というギャップ。
現実離れした雰囲気を持ち、どこか恐ろしいような、倒錯的な破滅感すら漂わせる存在感。
女優業で見せる圧倒的とも呼べる演技力。
巷では『天使』などとも呼ばれ始めた彼女のその発言に恐らく偽りはない。
そう認識して、月はようやく口を開くことができた。
ただ会えなくなるショックで少しばかり
「す、すごいじゃないか。いつから海外に渡るんだ?」
「割と近いうちだよ、撮影開始前に契約とかあるっぽいし。1ヶ月以内には渡るかなー」
1ヶ月。
その間は捜査に不参加でもいいだろうか。
そんな事を思うくらいには月は海砂のことが好きだった。
「……海砂。海外に渡っても、僕は君が好きだ」
言わねばならない。
ここで言っておかねば遠くへ行ってしまうような気がして、月は言葉を続けた。
「女優業を優先してくれて構わない。だから、形だけでもいい。僕と結婚してくれないか」
事がここに至って、恋愛頭脳戦などと言える余裕はない。
真剣な表情で告げた月に、海砂は柔らかく微笑んだ。
「……本当はね。結婚するつもりはなかったんだ」
それは本心のように聞こえた。
普段の海砂とは語り方の雰囲気が、どことなく違っていた。
「でも、形で残しておく事も大事だと思うから。いいよ、結婚しよ? ──弥海砂は、夜神月を一生愛します」
一生愛する。
その言葉の重さに。
夜神月は喜びのあまり気がつくことが出来なかった。
「ほ、本当に? いや、僕が聞いたんだから、そうなんだが、いや。ごめん、ちょっと嬉しすぎて動揺が収まらない……」
「月。愛してる」
「……海砂。僕も愛してる」
何てことはない、メインストリートの道中だった。
ただ場所なんてどうでも良かった。
気持ちさえあれば、例えどんな場所だろうとドラマの舞台としては十分。
物語の主人公にでもなったような幸せな心持ちで月はペアリングを購入した。
不滅の愛を誓い合うように、二人の薬指でダイヤモンドが『キラリ』と輝いた。