本日1話目
「──『メロ』何度同じことを言わせるんですか、あなたの捜査は雑すぎる。私のフォローが遅ければこの5年の全てが無駄になっていた可能性がありました。いい加減に理解してもらえませんか」
「ああ? 結果としては最良だろうが。お前がチンタラやってんのがわりーんだよ、俺の後ろを付いてくるしか出来ねーんならフォローだけしてろよ。結果は俺が出す」
「バカなんですか? 私がフォローしなければ、その結果は得られなかったと言っているんです。私だって出来るなら最前線で動きたい。しかし、私が動くより早くあなたが動いているせいで後手後手に回らざるを得ない。捜査情報を共有しているんですから、無鉄砲なあなたの方が動きが早いのは当然でしょう。私も怒りますよ、もうフォローしませんよ」
「はっ! 口だけやろーが。お前が何言ったって『L』の足引っ張る真似はしないだろうが。つまり、俺がどんだけ動いたってお前はフォローするしかないんだよ。俺だってそのくらい理解した上で動いてる。助かってるぜ『ニア』」
「……ちょっと殴っていいですか」
「モヤシくんにゃ殴れねーよ」
ぎゃーぎゃーと言い争う二人を背後に見ながら、夜神月は冷や汗を流しながら、角砂糖タワーを作る『L』を見やる。
どこか間抜けな表情で一つずつ角砂糖を積み上げている姿は、とてもではないが世界最高峰の名探偵には見えない。
だが、結果は今までに出し続けているのだから、人は見た目ではわからないものだ。
ため息が出そうだが、あの二人を止められるのは『L』だけだ。
これまでの経験からそれが理解できる。
そして止めなければまた備品が壊れかねない事も理解していた。
資金も無限ではない。
それに、あの二人のせいで増え続ける壊された備品の片付けをするのはもう御免だった。
少し離れたところで資料の整理をしている南空ナオミと視線が合い、彼女が苦笑いしながら月に頼む様に、ごめんと手を合わせた。
どうやら僕がやるしかないらしい。
そう判断して、月は渋々ながら口を開いた。
「……『竜崎』あの二人をそろそろ止めてくれ、また備品が壊れる」
月のその言葉にも、『L』はマイペースに目の前の角砂糖タワーを嬉しげに見つめながら言い放った。
「……ああ、月くん。見てください。最高記録です。私も中々やるものでしょう?」
子供じみた得意げな表情に、いつもの事とは言え『がっくし』と気持ちが落ちるのを止められない。
しかし、デスノートを持たない夜神月は善性が極めて強い。
いつも適当とはいえ、ちゃんと褒めてあげていた。
さすが人間が出来ている、と言えるだろう。
「ああそうだなすごいよ『竜崎』。だから止めてくれ」
これもまたいつも通り『むすっ』とした表情でその言葉を受け取った『L』が『やれやれ』と言いたげに言葉を続けた。
「……言い方が少し気に入りませんが、いいでしょう。しょうがありませんね。『メロ』『ニア』。月くんからお話があるそうです、集まってください」
月くんからお話がある。
何故そうなった、と『L』に対して視線を向けるが、『L』はさらなる最高記録を求めて角砂糖を積み上げようとしていた。
「……おかしいな、僕は『竜崎』に止めてくれ、と言ったつもりだったんだが。わざとだろう?」
「はい、わざとです。そろそろ月くんにもあの二人を制御して頂かねばなりません。私が生き残るとも限りませんから」
「冗談でもそういうことを言うな。『竜崎』は僕の友達なんだからね」
「……月くん」
『ジーン』とした瞳で見つめ合う二人だった。
以前『L』と海砂は顔を合わせた事がある。
もちろん、『L』としてではなく『
なので『L』は海砂を知っているが、その発言内容が正しいとは限らなかった。
「海砂さんに、言動がロマンチスト臭いとか言われませんか」
「……『竜崎』殴っていいかな。──ちなみに海砂は喜んでくれるから問題ない」
「どんな理由であれ、一発は一発ですよ? ──で、あればよかったです。二人はお似合いですね」
『けろっ』とした表情で言う『L』の姿に、少しばかり殺意が湧くのは、弥海砂が『キラ』であると知っている事とは無関係だと月は思う。
『プルプル』と拳を震わせる月に、『メロ』が恐る恐る話しかけた。
さすがの『メロ』もこの状態の月に八つ当たりされるのは避けたいらしい。
「……あーっと、夜神月。文句があるなら『ニア』に言えよ。俺は結果を出してる」
「認められませんね、私のフォローありきの結果なんて。それに、最初から私に任せていればメロ以上の成果を上げていました」
「ああん? 後からなんとでも言えるよなー、パズルを解くみたいに時間掛けまくれば満足か? もう5年も『第二のキラ』が野放しになってんだ。こいつの後に大本命の『キラ』まで控えてる。お前のやり方じゃ何十年経ったって捕まえられっこねーんだよ」
「バカなんです? その5年近く使った時間が無駄になると言っているんです。それに比べれば私の方法で探っていく方がメリットが大きい。あなたの行動はリスキーすぎるんですよ」
「リスク負わなきゃ成果なんて得られる訳ないだろうが。何回言わせんだよ」
「……話になりませんね。『L』いい加減に指揮権を私に下さい。これでは効率が悪すぎます」
「二人とも」
『L』がそれだけ言って、『メロ』の怒声で崩れた角砂糖タワーを悲しげに見つめて、再び積み上げながら続ける。
「『L』の後継者になりたいのなら、『第二のキラ』を捕まえてください。捕まえた方が次の『L』です。もちろん、私も協力しますし、私も月くんも捕まえるために動きます。捜査を妨害することも許しません。その上で私と月くんが認めるだけの成果を出してください」
角砂糖タワーを倒してしまった『メロ』が少し気まずげにしながら続けた。
「……わかったよ『L』」
続けて、『ニア』がため息を吐き、伸びてきた髪をくるくると弄りながら言う。
「仕方がありませんね。『メロ』次は私の指示に従ってもらいますからね。フォロー1回につき、私の1回に付き合ってください。それくらいならいいでしょう」
「……けっ、啀み合ってもしょうがねーか。……1回だけだぞ」
「安心してください。これまでの借りを返せだなんて言いませんよ。交互にフェアに行きましょう」
「ま、それならいいか」
また『わいわい』と騒ぎながら、けれど落ち着いた様子で意見交換を始めた二人を見つめて月は一息吐いた。
「ようやく、あの二人が協力関係を構築したみたいだね。これが望みかい『竜崎』」
「……はい。そんなにわかりやすかったですか?」
「僕と『竜崎』のタッグを超えるなんて、あの二人が組まなければ絶対に不可能だ」
堂々とそう述べる月の姿に、『ニヤリ』と笑いながら『L』も続ける。
「月くんのそういう自信家なところ、結構好きですよ。──あの二人なら私を超えてくれるでしょう。しかし、私と月くんのタッグを超えることは難しい。現状では、ですが」
「意外と僕らは相性が良いからね。けど、あの『メロ』の行動力。そして『ニア』の冷静沈着な対処。あれが組み合わされば脅威だな、僕らもウカウカなんてして居られないぞ『竜崎』」
「そうですね。私たちが足し算なら、あの二人は乗算です。乗りに乗ればきっと良い結果を出してくれるでしょう。まぁ私も負けるつもりはありませんけどね」
「負けず嫌いは相変わらずだな『竜崎』」
「そういう月くんこそ」
『L』も手を止めて、月と向き合いながら笑った。
そして一つの画面を出して指差した。
「見てください。ヨツバ役員の中で、この5年間の内に変化があった者。その一覧です。大小に関わらず念のためピックアップしていますが、注目すべきは順当に、成果を重ねているものです。通常よりも段違いに早い、とか、遅い、とかそういった人間がキラである可能性は低い」
「同意見だよ。何故ならキラはそこそこ優秀な人間だ。『キラ』の力を使わずとも成り上がれるくらいに。そんな人間が、個人のために『キラ』の力を使って成り上がるとは考えにくい。つまり、通常の昇進速度で昇っている者こそが最も怪しい」
「そうですね、なので。この火口とかいう男は論外でしょう。この5年で段違いに昇進していますから、恐らくはミスリードですね」
「三堂はどうだ? この昇進速度なら十分疑う余地はある」
「悪くないですが、私が気になるのが奈南川ですね。凡庸ではない。なのに昇進速度は至って普通だ。まるで疑われることを避けようとしている様に、私には見えます。……ただ、その他にも葉鳥、尾々井、樹多、鷹橋、紙村。これらは十分に疑う余地がある。……唯一明らかにミスリードっぽいのは火口だけですね」
「ああ、恐らく相当嫌いなんだろうな」
「やっぱりそう思います? まぁこの経歴を見る限り気持ちは理解できますが。それなら火口に近いこの七名の中に『キラ』がいる可能性が高そうですね」
「同意見だ。そういえば『メロ』は何をやったんだ?」
「ああ、奈南川の自宅に盗聴器とカメラを仕掛けたんです。バレそうにはなりましたが、回収には成功しています」
「……随分危ない橋を渡ったな。一番『キラ』の可能性が高い相手じゃないか」
「まぁそうですね。ただ結果オーライと言ったところです。警備システムが強固すぎて、地下室までは入ることが出来なかったようですが。ウエディを使わなかったので。まぁ後で確認してみましょう。何か証拠になるものがあるかもしれません」
「……そうだな」
そして。
そのビデオを確認した際に、夜神月は声を出すことを必死に我慢した。
何故ならそこに、初めて見る死神の姿が映って居たから。
(白い骨張った格好……。蛇の様な瞳孔。間違いない、以前見たタイプとは違うが、死神だ。他のみんなには見えない様子だし、間違いない。奈南川が『キラ』。海砂に憑いていた死神とは別の死神? だが、死神が見える条件は『黒いノート』に触れた事がある、というものではないのか? 何故、以前見た黒い死神ではなく、新しい死神が見えているんだ? ……二度見えているなら幻覚という可能性は低い。……くそ、しばらく冷静に考える必要がある……。どんな可能性であれ見逃せない。これでこの場の誰よりも僕が『キラ』に近づける事になる。このメリットを活かすことを考えるんだ)
そんな月の様子に気がついた訳ではない。
月の感情操作、表情制御能力は完璧だった。
だからそれは、『L』の第六感とでも呼ぶべきものだったが『じっとり』とした視線を月に対して向けていた。
「月くん、何か発見はありましたか?」
「……そうだな。普通の生活をしているようにしか、僕には見えないな」
「やはりそうですか。何かキッカケになればと思いましたが、中々上手く行きませんね」
『L』は違和感を感じながらも、理論的な理由ではないためそれ以上の追求はしない。
月は冷静に可能性を模索した。
さすがのレムも、監視カメラの気配にまで気がつくことは出来なかった。
幸いにして、警戒度の高い奈南川は地下室以外でレムに話しかけることはなく、それも必要最低限の会話しか通常行わない。
そのため奈南川の不自然な音声が拾われることはなかった。
『L』は思考を続ける。
自らの勘は夜神月に注目すべきと言っている。
だが理論的ではない。
そして『L』個人として夜神月は『キラ』ではないと考えている。
夜神月が『キラ』であっても、『第二のキラ』であっても、この5年間で作り上げたプロファイルとは一致しないからだ。
それ故に勘が示した『キラ』との関連性に繋げられていなかった。
夜神月は『L』の質問に対して警戒度を最大にまで引き上げた。
元々ボロは出さなかったであろうが、これで絶対に夜神月からボロが出ることはない。
自らが完璧ではないと悟った月に油断はなく、冷静な頭脳は十全に稼働した。
何よりも好きな女性のために努力する夜神月は、『原作』以上の実力を発揮する事が可能だった。
夜神月の性質は善性に寄っている。
悪である自覚を持ちながら『キラ』として果断に行動して居た時は、思考力に途轍もない程大きな悪影響を及ぼして居た。
具体的には短気になっていた。
だが、今の夜神月には精神的に余裕がある。
その精神的な余裕は思考力を増すという結果となって現在に影響を及ぼした。
その思考は真実に限りなく近い考察を可能とした。
つまり、夜神月が弥海砂に返した、死神が見えるキッカケとなった『黒いノート』を、現在奈南川が使っているという真実に辿り着いた。
それしかないという断定すら可能とした。
故意に渡したのか、渡さざるを得なかったのか。
その点に関しても月の考察は冴え渡った。
『第二のキラ』出現と弥海砂の行動を比較。
その結果として、自らと付き合った直後という真実に辿り着く。
つまり、『第二のキラ』出現は弥海砂の意思によるもの。
夜神月の思考はさらに回る。
『第二のキラ』の殺傷能力が『キラ』に劣ることは確認済みだ。
『第二のキラ』は顔に加えて名前もわからなければ殺す事ができない。
何故その差が生まれたのか。
夜神月の思考は冴え渡った。
逆に考えるんだ、と。
名前は必須なのではないか、と考えた。
何故なら夜神月は『黒いノート』の存在を知っている。
顔だけで『黒いノート』を使って殺す方法は残念ながら思いつかなかったが、ここに名前が関わってくれば容易に想像できる。
つまり、『黒いノート』に名前を書く事で殺す事ができる能力。
そして、『キラ』だけが持っている能力は顔を見る事で名前がわかる能力。
夜神月の思考力はさらに真実へと近づいていく。
何故顔だけで名前がわかる能力を奈南川が持って居ないのか。
可能性は3つある。
一つ。たった一人しか持つ事ができないなどの条件がある能力。
二つ。代償があり奈南川は了承しなかった。
三つ。弥海砂が止めている。
上記2つであれば脅威にも成らず、考察する価値がない。
だが最後の一つ。
弥海砂が止めているとするのなら、その理由はなんだ?
顔を見るだけで名前が見えるのなら、その能力を渡したくない理由は?
閃きが降りた。
その目は、『キラ』を見抜ける?
それならば弥海砂が止めている理由にもなる。
そして、そのパターンならば、弥海砂が『キラ』であることを奈南川は知らない事になる。
だがそれは、弥海砂が奈南川を知らない事とイコールではない。
何故ならあの弥海砂が無作為に『キラ』の能力を分けるとは考えにくい。
ある程度の目的意識を持って能力を分けた筈だ。
その理由はなんだ?
夜神月はじっくりと思考する。
5年間という期間で得た弥海砂の情報から、その思考を考察する。
底を見せない人だった。
そんなところも好きだった。
けれど、その思考の傾向くらいであれば夜神月の力を以ってすれば推測可能だった。
もし弥海砂が『キラ』であり、その思想を広めようとするのなら。
『キラ』であるという前提で思考を回す。
奈南川の行動を許容するだろうか。
じっくりと考えた上で出した結論。
それは『思想犯』として絶対に許容しないという答えだった。
しかし、現実として奈南川は生きて『第二のキラ』として活動している。
その理由は何故だ?
生かしている理由がわからない。
またもや夜神月は閃いた。
生かしているんじゃない、殺すべきタイミングを待っているんだ。
その思想を最も世間に対して影響させるタイミングで殺すために、生かしている。
最愛の人ではある。
しかし、その思考は常軌を逸している。
これまで奈南川に、『第二のキラ』に殺された無実の人々の数は途方もない数に上っている。
それすら許容して、思想犯として行動している海砂の行動に、夜神月は精神的なショックが隠せなかった。
一体、キミは何を狙っているんだ海砂。
あまりのショックに夜神月の思考はここで止まった。
もし止まっていなければ、弥海砂の思想を阻止する未来もあったかもしれない。
だが、それは叶わなかった未来だった。
夜神月が地獄のような結末を目の当たりにするまで、残り数ヶ月。
現在の季節は秋。
もう数ヶ月で冬が到来する。
それすらも弥海砂の計算通りに。
──ハリウッド映画のクランクアップを迎え、上映が開始されようとしていた。