六花の思想   作:風梨

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約3000字
本日2話目



デスノートの正しい使い方

 

 

 

「──なぁ死神。『キラ』は今何をしているんだ? もう5年以上だ。私が『キラ』として活動した期間の方がもう長い。『L』とのやりとりもいい加減もうウンザリだ。そろそろ教えてくれてもいいだろう?」

 

「……さぁね。私も知らない。言ったろ、死神はデスノートの行く末を見守るだけでしかない。それ以上のことは関知しないのさ。ましてや前の所持者のことなんて話すわけがないだろ」

 

「毎回それしか言わないな。……まぁいい。『L』が拠点としているビルは突き止めた。まさか『エラルド・コイル』『ドヌーヴ』『L』三大探偵の全てが『L』の別名だとは思わなかったが。それを教えてくれた事には感謝するよ、死神。後は信者共を使って扇動してやれば、面白いように踊ってくれるだろう。……『キラ』の思想に感謝だな。引き継いだだけで、この私が神の如き地位を手に入れることが出来た。その点に関しては『キラ』の思想に賛同しなくもない。バカとハサミは使い様だからな」

 

(……やはり、人間は醜い)

 

 レムは心底からそう思う。

 海砂なら、絶対にこんな真似をしなかっただろう。

『思想』に関しては頑なに教えてくれなかったが、少なくともコイツのように他人を陥れる類の想いではないはずだ。

 でなければ、あんなにも純粋さを維持できる筈がない。

 

 レムは海砂に惹かれていた。

 その今にも壊れてしまいそうな程の純粋さにこそ惹かれていた。

 

 どこまでも明るかった。

 どこまでも人の可能性を信じていた。

 どこまでも自己犠牲の精神を持っていた。

 どこまでも、純粋だった。

 

 計画を練り、実施して、スマートに物事を進めていた。

 誰のためでもなく、ただその『思想』のために。

 

 そうだ。

 海砂は自分の力だけで成り上がった。

 今ではもうハリウッド映画も撮影し終えて、後はもう放映を待つだけの状態だと言う。

 栄光は自らの実力で掴み、『思想』だけをデスノートで叶える。

 不幸になると噂が死神界にすらあるアイテムを用いて、それでもなお栄光を掴み切った姿はレムの中で鮮烈な存在感を放っていた。

 

 ……大人気モデルになることが、メディアに影響力を持つことが目標と、そう言っていたね。

 おめでとう、海砂。

 もうお前を知らない人間などこの人間界に居ないだろう。

 

 ふと気がついた。

 海砂の行動が、メディアの露出すると言う目的が、デスノートに関係していたとしたら? 

 その『思想』を叶えるために必要な事でしかなく、計画の一部だったとしたら? 

 そして夢を語っていた海砂の瞳が、まるで殉じるかの様だったことに。

 

 ようやく、ようやくレムは気がついた。

 

 だが、その気づきはあまりにも遅すぎた。

 

(……まさか、死ぬつもり、なのか? いや、そんなバカな。いくら海砂だって夜神月との関係もある。死ぬつもりはない筈だ……。何より海砂だって人間だ。死ぬ気で生きている筈がない……)

 

 愕然としながらも、レムは思考を回す。

 レムはバカではなかった。

 弥海砂という世界的に有名な人物が『キラ』であったと明かした際の影響力が途轍もなく大きいと推測できた。

 そして、今まで海砂から言われた様々な言葉が駆け巡った。

 

 死神の目を渡してはいけない……。

 これは弥海砂が『キラ』であると『第二のキラ』に教えないためだ。

 全世界に見られるのだから、そこからバレる恐れがある。

 

 レムが『第二のキラ』を殺してはいけない。

 これは恐らく、海砂が殺すつもりだからだ。

『金』のために能力を使ったものの末路を全世界に周知して、ロクなことにならないと警告する意味合いが強いとレムは考えている。

 そして、それは間違いないと思われる。

 

 警察関係者を殺しても良い。

 これは『L』などの視線を『第二のキラ』に向けさせ、『キラ』ではない事を確実視させるためだろう。

 

 最低5年間。

 捕まらずに裁きを続ける。

 これはメディアに露出し世界的な存在になるまでに必要な期間であったと思われる。

 たった5年で世界進出可能と推測するその頭脳はどうなっているのかと思うが、実際に達成しているのだから脱帽だ。

 

『L』を撹乱する策。

 顔と名前が必要。心臓麻痺以外でも殺せる。死の前の行動を操れる。

 それらをあえて開示して、その上で複数の企業に有利な死を作り出す。

『L』を殺すために居場所を突き止め、対応するための策。

 加えて全世界の警察機関に圧力を企業から掛けさせて、まともな捜査も出来ない状態にする。

 

 海砂はレムに語っていないが、これにより主要な捜査メンバーが『L』の下に集う事も計算しての策だった。

 つまり、『メロ』『ニア』なども一箇所に集めておくための策。

 

 夜神月に姿を見られてはならない。

 これは『第二のキラ』と特定されないために必要だった。

 

 纏めれば『第二のキラ』の役割は『時間稼ぎ』と『見せしめ』。

 デスノートを悪事に利用すればこうなる、と知らしめるための存在。

 

(……恐らく近いうちにコイツ。奈南川は海砂に殺される……。全ての準備が整っている。……まさかアメリカに居る事も計画の内?)

 

 ゾッとするほどの戦慄が走った。

 有り得た。

 あの海砂ならば、これまでの行動全てが計画の内であったとしても何ら不思議がない。

 

(アメリカで何をするつもりなんだい、海砂。一体何を考えている……?)

 

 

 

 

 

「──リューク。この世で最も正しいデスノートの使い方って、何だと思う?」

 

 天気の良い1日だった。

 日本では『キラ』信者が『L』の拠点を襲っているというのに、平然とした調子で、海砂はビルの屋上。

 風の吹き荒ぶ中で柵に手を掛けながら問い掛けた。

 

 リュークは死神だ。

 風に影響など受けたりはしない。

 美しい金髪を風に靡かせる海砂とは違い、風の抵抗を全く受けない姿だというのに、焦った様子で考え始めた。

 

「え? えーっと何だろうな。デスノートなんだから、殺す使い方じゃないか?」

 

 惚けた様にリュークはそう言うが、本心だった。

 というより、そんな事を深く考えた事もないので、思っていた事をそのまま告げたにすぎない。

 海砂はリュークに回答に『くすくす』と笑った。

 まるで予想から外れない答えだったからこその笑い声だった。

 

「あはは、そうだよね。──今から教えてあげる。デスノートの正しい使い方。──シドウ」

 

 海砂は、この場にいる新しい死神の名前を呼んだ。

 つい数ヶ月前に降りてきた死神だった。

 

「ん? なんだ? デスノート返してくれるのか?」

 

「うん。返してあげる。リュークに会いにきてくれてありがとね。おかげで計画に支障が生まれなかった。まぁノートの所持者が誰か、なんて死神にもわからないんだから、レムの方に行く可能性はなかったけどね」

 

「う、うん? まぁそうだな。俺はノートさえ返ってくれば良いんだ」

 

「でも、チョコレート美味しかったでしょ? 来て良かったんじゃない?」

 

「あー、まぁそれは確かに。なら、海砂に会えて良かった、のかな?」

 

「そうそう、私じゃなきゃチョコレートなんて死神に上げないよ? だから、お礼を返してね、シドウ」

 

「え、ええ? そんなぁ、俺に返せる物なんて何もないぞ? デスノートはどこにあるかわからないし、そろそろ寿命もヤバイし……」

 

「大丈夫。今日、デスノートは返せるから。メッセンジャーになってくれたらそれでいいよ」

 

「めっせんじゃー? えーっと、まぁそれくらいならいっか」

 

「ありがとう。じゃあ、はい。このデスノートあげるね。──所有権はまだ渡さないけど。これを持ってレムに会いに行って、レムから今『第二のキラ』が使ってる『デスノート』と交換してもらってね。でも、レムが良いって言うまでダメ。それでメッセージなんだけど。この紙に書いてあるから渡してね。大事な物だから、絶対に渡す事。後々、今日の12時から開始される動画を見ててって伝えて。シドウもそれだけ見てから死神界に帰ったら良いと思うよ。きっと面白いから」

 

「う、うん? いっぱいあるなぁ……。あ、紙に書いてある。わかった、これ渡した後に話せばいっか。それでデスノートが返ってくるんなら、それでいいや」

 

「うん。じゃあ、お願いね。……もう『第二のキラ』は死んでるから、シドウのデスノートはレムのデスノートになってるよ。じゃあ、リューク。私がノートの切れ端に書いちゃってもいいんだけど。せっかくだからリュークのデスノートに、予定通り書いてもらって良い?」

 

 以前。

 5年前に告げられた思想。

 それを思い出して、リュークは『ポン』と両手を叩いた。

 

「……あー、正しい使い方って、そういうことか」

 

「そう。正しいデスノートの使い方っていうのはね。──『自分の名前を書く事』だよ」

 

 壮絶な笑みを浮かべながら、全てを計画通りに進めた弥海砂が、両手を広げて青空を仰いだ。

 

「──やっと死ねる」

 

 狂気に染まった思想を、最期に流布するために。

 

 

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