本日3話目
「──皆さん。初めましての方も、そうでない方も。──私の名前は弥海砂。『キラ』です」
全世界同時生中継。
引退会見。
その名目で既に金と利権で籠絡しておいたアメリカのテレビ局から発信。
加えてYouTubeを用いて全世界同時配信を行なっていた。
こんなに注目度の高い中継を中断する訳がない利己的な人物を選んでいた。
場所は、アメリカセントラルパーク。
弥海砂の引退会見と銘打って用意された舞台だった。
通常はホテルなどで行う引退会見を、広場を借り切って行う。
それだけでも話題性としては十分であった上に、つい先日公開されたハリウッド映画主演女優の突然の電撃引退に業界は騒然とした。
アメリカ本土でも弥海砂人気は非常に高かった故に、詰めかけた民衆の数は数千人を超える規模となっていた。
その上で。
私は『キラ』であるという趣旨の発言。
ネイティブな英語で話されるその内容はその場にいる者たちが茫然自失としても何ら不思議のないものであった。
「証明は簡単です。アメリカ時間本日12:00丁度に、国際的な犯罪者。某国の指導者が、今までの行いに対して謝罪を表明して死亡しています。偉大なるアメリカ市民である皆様であれば、これだけでも十分な証拠になるかと思いますが、もう一つ。私の左右に立つ二人は、とあるマフィアの幹部です。この場には死ぬためだけに同行して頂きました。その尊い犠牲に感謝を。では、死んでください」
海砂は手元で神に祈る動作をして、既に死の前の行動として操られていた二人は事切れて『心臓麻痺』で死亡した。
場は一気に混乱すると思われた。
しかし、まるで何かに操られているかの様に、誰も騒ぎを起こさない。
「証拠としては十分かと思います。では、何故私がこの様な場を設けて『キラ』であることを明かしたのか。ご説明しましょう。──この世は腐っています。一部特権階級が飽食を貪り、片や某国では子供が餓死していく。心優しい者が食い物にされ、悪意ある者がのさばっている。犯罪者はその最たるものでしょう。婦女子暴行、強盗殺人、快楽殺人、薬物売人、人の人生を壊した者も、ましてや人を殺したとしても、死刑になるほどの凶悪犯など極僅かで、なおかつ更生の機会まで残されている」
語りながら信じられないと全身で表現する。
表現者、役者としての技量全てを使って訴えかける。
涙を浮かべて海砂は続けた。
「私の両親は強盗に、私の目の前で殺されました。しかし、証拠不十分として不起訴となりました。──故に殺しました。そして、私は『キラ』となった。同じ経験をされた方は少なからずいらっしゃる筈です。善良な市民を守れず、悪徳を是とする悪人が法に守られるという矛盾。私はそんな世界を変えたかった。せめて、凶悪な犯罪が少なくなるよう、悪人に裁きを下し続けました」
『キラ』となった経緯を民衆にわかりやすく伝えた。
騒ぐものは誰一人いない。
ただただ静かに海砂の言葉を聞くだけだった。
「──そしてこの力をとある男に、『奈南川零司』という日本人に分け与えました。──その結果は散々なものでした。元は善良であったであろう男は、『金』のために人を殺し始めました。しかし、志を同じくした者。私も殺すことは躊躇われ、長い年月を掛けてしまいました。そして、最悪の悲劇が起きました。世界的な名探偵『L』の所在を掴んだ彼が『キラ』に賛同する者たちをメディアを使って扇動し、『L』に襲いかかったのです」
『キラ』に賛同する者が死ぬとは思わなかった。
そう伝わる様に身振りを行った。
顔を覆い、嘆きを全身で表現した。
「──故に、私は彼を殺しました。その罪の全てを全国中継の中で暴露させた上で、火に焼かれて死ぬ様に、神へと祈りました。──神は願いを聞き届け、彼を殺しました。そして神は私に告げました。このような者に力を渡した私も同罪であると」
それが喜ばしい事であるように、海砂は透き通った笑みを見せた。
腕を組み、祈り、啓示を受ける信徒のように。
「しかし、神は寛容でした。死ぬ前に、神の代弁者となって皆様に神のお考えを知らしめる機会を下さったのです。私は死ぬでしょう、数分後に、私は死ぬでしょう。天から降りる雷によって、私は死ぬ。これはもう変えられぬ運命です。そして、私はその運命を受け入れます。その上で皆様にお伝えします。──神は皆様の中から新たな『キラ』を選びます。心が清く思想に賛同する者を選びます。──私がお伝えしたいことはただ二つ。『私の力を分けた者』のように、決してこの力を私利私欲に使ってはなりません。でなければ、神の裁きがあなたへと下るでしょう。──『私利私欲に使う者』に、力を分けてもなりません。私の様に、神の力によって裁かれるでしょう」
空は曇り始めていた。
先ほどまでの晴天がまるで嘘の様に分厚い雲が、海砂の上に作られていた。
季節は冬。
雪が降ってもおかしくない。
けれど、それはあまりにも不自然な降雪だった。
『チラチラ』と降る雪は、地面に触れるたびに、人に触れるたびに溶けて消えた。
「私の『思想』は消えません。私は死んでも『キラ』を心待ちにする方がいる限り、必ず蘇るでしょう。それは雪の様に。季節が巡る度に幾度も降り続くでしょう。天から、必ずや神の意思が降り注ぐでしょう。皆様が正しくその力を使える様に、私は願います。──レム、あとは任せます」
天使の如く、海砂は笑みを浮かべて。
──極大の雷に打たれて死亡した。
その姿は、雷に打たれたというのに外傷は一切なく。
眠る様に美しい姿であったという。
──弥海砂。
アメリカ時間12:20
セントラルパークにて引退会見中に『キラ』であることを明かし、微かな雪の降りしきる中、一切何の邪魔も入らずその思想の全てを語った上で、雷に打たれたショックで死亡。その遺体に損傷なし。
デスノートに狂いなし。
複数人を巻き込まない限り、人間界の法則から外れない限り、デスノートは書かれた死の状況を完璧に再現する。
それがたとえ、天候や複数人の運命に影響していようと、結果的に複数人が死なないのであれば、デスノートは関与しない。
デスノートの効力を最大限活用した結果であった。
それがたとえアメリカですら極めて珍しく、東沿岸でしか本来であれば確認されていない『雷雪』にも似た異常気象であっても、自然現象として不可能ではないのなら、デスノートは実行する。
何故なら、仮にも神のノートであるから。
神の如き力を発揮しても何ら不思議はなかった。
東堂あかね。
芸名:二階堂ミサ。
弥海砂の前世。
享年32歳。
圧倒的な演技力を持っていた。
犯罪者に対する非常に強い恨みを持っていた。
それ以上の情報は残されていない。