六花の思想   作:風梨

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約5000字
本日4話目
最終話



決別と終幕

 

 

 

「──月くん。大丈夫ですか」

 

『キラ』捜査本部のメンバーは皆無事だった。

 ただ一人の欠員すらなく生き残っていた。

『L』は事前にこういう事態にも備えて日本円を降らせる準備を整えており、その隙に警察隊に紛して脱出していた。

 

 そしてようやく脱出した後。

『第二のキラ』である『奈南川零司』が己のすべての罪を『さくらTV』の前で大暴露し、焼身自殺。

 呆気に取られる『キラ』捜査本部のメンバーが正常な思考を取り戻す前に、全世界同時生中継と銘打った『キラ』──弥海砂の自殺が放映された。

 何を隠そう、誰よりもショックを受けたのは夜神月だった。

『キラ』である事は知っていた。

 けれど、恋人であり、夫でもある自分に何も言い残す事なく自殺した海砂に対して。

 そして何を考えていたのか、その『思想』を最期になってようやく理解出来た事で、途方もない喪失感を懐かざるを得なかった。

 

「……『竜崎』僕は……」

 

「何も言わなくて良いですよ。……月くんが『キラ』に繋がっていたであろう事はなんとなく察していました。けれど、『キラ』を止めようとする意思が本物であると感じていましたから。私もそこまで無能じゃありません」

 

「……はは、そうか。『竜崎』にはバレバレだったか……」

 

「……さすがに海砂さんが『キラ』であることまでは見抜けませんでしたが……、まぁそこはお互い様という事で」

 

「……ふふ、そうだな。そうだな『竜崎』……」

 

 非常に危険な状態だ。

『L』は夜神月を見てそう思う。

 決して一人にしてはいけない。

 今の夜神月は弥海砂の後を追いかねない危うさを感じる。

 5年間も行動を共にしてきた。

 探りあったこともあったが、誰よりも相性の良いパートナーでもあった。

 これから先『キラ』が再び出現する可能性は極めて高く、そのために夜神月の力はまだまだ必要。

 冷徹な判断ではあるが、『L』はそう思っていた。

 

 だが、もし心が折れてしまうか、あるいは弥海砂の思想に賛同してしまうようであれば、ここで切り捨てなければならない。

 そうはしたくないと、珍しく感情的に『L』は思った。

 虚空を見つめ始めた夜神月の姿は、もう見ていられない程に痛々しい。

 

「『竜崎』……しばらく一人にしてくれないか……。しばらく、しばらくでいい」

 

 息も絶え絶えに、夜神月がそう言うが、あまりにも危険すぎる。

 監視の手は緩められない。

 だが、今いる部屋は急遽用意した拠点であるために監視カメラや盗聴器などの設備が整って居ない。

 しかし、本人の意思を無視すればより危うくなることも考えられる。

 

 非常に判断に困る場面ではある。

 そんな迷いを滲ませる『L』に対して、夜神月が瞳を見つめて告げた。

 それは、力強い瞳だった。

 

「『竜崎』、僕はこんなところで終わったりしない。……ただ、一人で考えをまとめる時間が欲しいだけだ……頼む」

 

 そこまで言われてしまえば拒否は難しい。

 いざとなれば突入するべきか、とも思うが、夜神月であれば察するだろう。

 念押しする様に確認した。

 

「本当に大丈夫ですね。私には、まだ月くんの力が必要です。早まらないでください」

 

「ああ、大丈夫だよ『竜崎』」

 

 ここまで言えば、これ以上『L』に出来る事はない。

 渋々ではあるが、他のメンバーにも目配せして退出するように促した。

 

 そして。

 夜神月が部屋にたった一人となった。

 誰も盗聴などをしていないであろう事を確認し、たった一人にしか姿が見えていない、もう一人の人物が口を開いた。

 

「久しぶりだね、夜神月。いや、私がお前を一方的に知っているだけだが、その様子だともう海砂のことは知ったんだね」

 

 死神だった。

 白い骨張った身体の死神が、そこに立っていた。

 夜神月にしか見えないその死神が言葉を続ける。

 

「……予想外だった。止める事ができなかった。もし止められるのなら、私の命を捨ててでも止めたかった。……あの子はそれすら予期していたのかもしれないね。何せ私は5年間も一人の男に縛られていたから……。なのに最期に私の名前を呼ぶなんて、本当に卑怯な子だよ」

 

 最期に名前を呼んだ相手。

 そのキーワードさえあればこの死神の名前を推測する事は容易かった。

 

「……お前は、レムか」

 

「そうだ、私がレムだ。あの子に初めて憑いた死神であり、今や人間界にある最後のデスノートを持つ死神だ」

 

「デスノート……。あの黒いノートのことか。名前を書けば、人間が死ぬノート」

 

少し『きょとん』としながらレムが続けた。

 

「……なんだ、そこまで知ってるのか」

 

「いや、推測だよ。その様子を見る限り正解みたいだけどね」

 

 やられた、とレムは苦々しい顔を見せた。

 しかしそれは、レムにとって悪い事ではない。

 

「……やはりお前は頭が良い。海砂の最期の言葉を伝えるのに、相応しい」

 

 最期の言葉。

 もしあるのなら聞きたい。

 しかし、夜神月の頭脳はこんな時にも優秀だった。

 レムがそれを知るはずがない事を看破した。

 

「……待て。何故お前がそれを知っている? お前は『第二のキラ』に、奈南川に憑いていたはずだ」

 

「……そこまで知っているのか。やはりお前は油断ならない男だね、夜神月。シドウというまた別の死神が居てね。ああ、お前が最初に見た黒い死神はリュークで、その死神とはまた別だ。シドウから私に宛てた海砂の手紙を預かったんだ。お前に見せる事はできないが、読み上げてやる事は出来る。聞きたいか?」

 

 本当にそれが海砂の言葉なら、夜神月に聞かないという選択肢はない。

 ただただ頷き、肯定した。

 何も遺さず逝ってしまったと思っていたから、僅かに心が慰められるのを感じながら。

 

「……ああ、聞きたいさ」

 

「そうか、わかった。

 

──『月。これを聞いているという事は、レムと話しているんだね。先に逝ってしまってごめんなさい。でも、約束は破ってないよ。『弥海砂は夜神月を一生愛する』──ね? 私は死ぬまであなたの事を愛していた。嘘偽りなく、愛してたよ。でも、私は死ぬ必要があった。死ぬために、これまで生きてきた。だから、ごめんなさい。もしもその事を教えてしまえば、月なら私も想像していないような手段で止めにくると思ったから、話せなかった。月に最期のお願いがある。でも、これは聞いても、聞かなくても良い。せめてもの償いのつもりだから。

 

──本来ならあなたが『キラ』になる予定だった。この世界ではそれが運命だった。私がそれをねじ曲げた。だから、最期のお土産。レムからデスノートを受け取って、あなたが『キラ』になる道。『L』『ニア』『メロ』あなたの道を阻むすべての人間が、あなたのそばにいる筈。今なら、その他のキラ捜査本部の人間も一度に殺してしまう事ができる。これが、私が用意できるお土産。『L』『ニア』『メロ』の名前もレムが持ってる。それは私が教えた情報だから、月に伝えることもできる。

 

──きっと本来の夜神月なら、こんなお土産が弥海砂から(もたら)されたら、お目目を開いてびっくりするくらい、とんでもないお土産。でもね、私にはわかる。月はきっとこの道を選ばないって。

 

──私を追うんでしょう? 『キラ』を止めるんでしょう? 止めてみなよ、私は何度だって『キラ』として蘇る。夜神月。これは私──弥海砂からの最初で最期の挑戦。その続きだよ。受けてくれるよね』

 

──夜神月、返答は?」

 

 涙を流していた。

 知らず知らずのうちに流していた涙は尽きない。

 声を震わせながら、涙を流しながら、夜神月は告げた。

 

「君は、いつも僕の上を行く。僕が出すであろう結論も、既に出されてる。──受けるさ。死ぬまで『キラ』を追ってやる。君の思想が尽きるのが先か、僕らが『キラ』を捕まえ切るのが先か。勝負だ、海砂」

 

「いいだろう、夜神月。その挑戦を受けよう」

 

 海砂の代わりに、レムがそう鷹揚に頷いた。

 そして、ノートを横に翳した。

 

「お前に死神が見えるのは、最初に人間界に落ちたこのノートの所有権を、人間界にいる死神が持っているからだ。けれど、このノートは本来シドウの物。今から私はこのノートをシドウに返す。お前には見えて居ないだろうが、この場にはシドウがいる。──つまり、私と言葉を交わせるのはこれで最後という事だ。何か言い残す事はあるかい、夜神月」

 

 海砂の意思を継いだ死神。

 あまりにも強敵だ。

 海砂は神になる道ではなく、神を作り上げる道を選んだ。

 神を殺す道ではなく、神を生かす道を選んだ。

 

 (まさ)しく死神と化した、死神レムのその言葉に、夜神月は力強い笑みを浮かべた。

 

「……それなら言う事は、たった一つだけだよ。──また会おう、レム」

 

 夜神月が、死神レムと会うためには、『キラ』がこれから使うであろうノートに触れる必要がある。

 また会うという事は、必ずチェックメイトしてみせるという意思表示に他ならない。

 レムはそれを察して、思わず笑みを溢した。

 海砂に負けず劣らず純粋な夜神月の姿に、海砂の夫として相応しいと思いながら。

 しかし、手加減するつもりはない。

 ──何故ならレムは、海砂のことを愛しているから。

 

「……ふふふ、良い答えだ夜神月。もっとも、私には海砂から授けられた策がある。容易に捕まえられるとは思わない事だ。──夜神月、お前のことは嫌いじゃない。けれど、私は海砂のことを愛している。まぁ私はメスなんだけどね。──勝負を始めよう。人間と死神の、無限にも続く戦いの始まりだ」

 

 その言葉を残し、レムの代わりにシドウという死神の姿が現れた。

 何かをモゴモゴと言おうとして、横から何か声を掛けられたであろう仕草をして、それでもシドウは口を開いた。

 

「あ──、お前は海砂の夫だったんだろ? なら、一応お前にも感謝しておく。海砂のおかげで俺はデスノートが返ってきたんだ。お前の奥さん優しかったぜ、チョコレートくれたんだ。美味かった。死際も美しかったしな。ってあいて!! ごめん、ごめんよレム、もう何も言わないって」

 

 そんな事を言い残して、シドウは壁を抜けて空に消えていった。

 

 デスノート。

 関わった人間が不幸になるノート。

 

 人間界に落ちた内の一つは死神界へと帰った。

 ジェラスの落としたノートは、レムの手によって新たな『キラ』の下へと渡るだろう。

 

 人間界の騒動が収まるのは、まだまだ先のことらしい。

 その事実に、夜神月は自信満々に笑みを浮かべた。

 弥海砂は死んだ。

 最も愛する者は『思想』というモノを遺して死んでいった。

 

 けれど、ずっと前から。

 『キラ』となった海砂を止める事が、夜神月の目的だった。

 

 ならば、弥海砂の『思想』に全力で抵抗しよう。

 尊敬できる人だった。

 尊い思想でもある。

 けれど。

 

 夜神月は、自らの行動が弥海砂を『悪』へと貶める事を理解しながらも笑った。

 最愛の人が遺した『思想』を止める事こそが、自分の使命だとでも言うかの様に。

 

 消えてしまった最愛の人の影を追いかける様に、夜神月は力強く足を踏み出した。

 

「海砂。知っているかい。最後に勝った者が正義だって事を」

 

 幾たび雪が降り続こうと、その度に雪を溶かそう。

『六花』を『六花』のままに。

 夢を夢のままにするために。

 

 夜神月は、手始めに心強い仲間たちを呼んだ。

 

「『L』!! 『ニア』!! 『メロ』!! 何をグズグズしているんだ、さっさと捜査本部を立て直すぞ!! 僕らが正義だ!!」

 

「……いや、あの、さすがに短時間でここまで元気になるのは想定外なんですが、何があったんですか月くん」

 

「塞ぎ込まれているよりはマシです。あのジメジメした雰囲気は私も好きではありませんでしたから。それなら今の無駄にうるさい方が良い」

 

「珍しく同意見だな。おい、夜神月。勝手に仕切ってんじゃねーよ、『第二のキラ』は結局誰も捕まえられなかったんだ。指揮権はまだ『L』にあるだろーが」

 

 天才たちはまた動き出す。

 レムはその名前の載った、ただの紙を食べてしまった。

 死神に消化器官はないが、食べる事は可能だから。

 

 そして。

 

「──魅上照(ミカミ・テル)。お前が新たな『キラ』だ」

 

「──おお、神よ。お選びいただき感謝の言葉しかありません……!!」

 

「『キラ』の遺した作戦と『思想』を伝える。お前に従う義務はないが、従わないなら私がお前を殺す」

 

「とんでもありません……!! すべて、神のお心のままに」

 

 新たな『キラ』が誕生して。

 世界は暗黒の時代へと突入した。

 

 しかし、絶望があるところに希望もまたあった。

夜神月(ヤガミ・ライト)

L.Lawliet (エル・ローライト)

Nate.River(ネイト・リバー)

Mihael.Keehl(ミハエル・ケール)

 

 原作において『キラ』『L』『ニア』『メロ』と呼ばれた天才たちが集う夢の様な探偵集団が残っていた。

 それは弥海砂がこの世界に残した、唯一の良心の呵責だったのかもしれないが、その本心はもうわからない。

 

 全てが彼女の計画通りであったのか。

 それとも、最期の最後で計画が破綻してしまったのか。

 

 ──彼女の最愛の人が、何よりの証明かもしれなかった。

 

 

 

『雪』

 

 それは夢のように溶けて消えていく。

 儚く美しい。

 けれど、とても寂しい。

 

 手で触れたその六つの花弁は、まるで幻のように消えてしまった。

 けれど、幾たびも。

 冬が来るたび降り(しき)る。

 

 形作られる氷の結晶は、『六花(りっか)』と呼ばれている。

 

 ──『六花の思想』

 

 ──『完』

 

 

 

 

 

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