「──じゃあ、君を殺して僕も死ぬ!!」
運命というものは存在するのかもしれない。
弥海砂は、目の前の、告白を断ると豹変したストーカー男を前にしながら冷静にそう考えていた。
夜神月から『デスノート』を奪った。
そのためには住んでいる場所から1時間程度の移動を行う必要があった。
自分の寿命がわからないから、場所が変わるという影響で、もしかしたら死因すら変わってしまうかもしれないと懸念していたが、どうやら杞憂に終わりそうだった。
恐らくはこの男が弥海砂を殺す事は避けられない事なのだろう。
でなければ、弥を襲わなかったこの男の運命が変わってしまうことになるから。
とはいえ、そんな事は今はどうでも良かった。
重要なのは、中身が弥海砂ではなくなってしまったとしても、ジェラスが助けてくれるかどうか。
ただそれだけである。
だから、本当になんとなく。
その方が生存率が上がりそうだから、というだけの理由で、弥は口を開いた。
「ジェラス。助けて」
その言葉を聞いたのか、あるいは何も言わなくとも結果は変わらなかったのか。
目の前で包丁を構える男が、手にしっかりと握っていた包丁を取りこぼし、フラフラと弥とは反対方向に歩いて行った。
その背中を弥は黙って見送った。
恐らく男はこのまま数分後に道端で死亡するだろう。
死神界から見下ろすジェラスが、『デスノート』に名前を書いたであろうから。
その死ぬであろう男の姿を見ても、弥は特に何も感じなかった。
ああ、死ぬんだ、と当たり前の事実をそのまま受け入れるだけだった。
ふと空を見上げる。
じっとりとした視線。
あるいは冷めた冷徹な視線。
そのどちらとも言えない爬虫類じみた眼差しと。
──こことは別の世界と、視線が重なった気がした。
弥海砂は微笑んだ。
「──降りて来なよ、レム」
全てを知る者として、弥海砂に躊躇する心はなかった。
無遠慮に、容赦無く。
前世で見て知っている世界を壊していく。
まるでそれは奏者の如く美しくタクトを振るっているようにも、魔王のように暴力的にも見えた。
答えが、バサリと地面に落ちる。
予期したように黒いノートだった。
弥海砂は一切の躊躇なくノートを拾い、そして途端に現れた目の前に立つ白い骨張った死神と、実際に目を合わせて微笑んだ。
「初めまして、死神レム。私の名前は弥海砂。私に『憑いて』来てくれる?」
死神よりもよっぽど超然とした雰囲気を醸し出す弥を前に、少しばかり怯んで沈黙しながらもレムは返答した。
「……初めまして、弥海砂。知っているようだけど、私の名前はレムだ。質問の答えだけれど、私が見守るのはお前じゃなく、ノートの行末だけだ。それでもいいなら憑いていってやるよ」
「もちろん、大歓迎だよ。よろしくね、レム」
「……ああ、よろしく。弥」
「ダメダメ。弥って呼ばないで。可愛くない。海砂って呼んで」
「……わかったよ、海砂。これでいいかい」
「うん、ばっちりだね。改めてよろしくね、レム」
「ああ、よろしく。海砂」
本来と同じデスノート所持者と死神。
だけれど、その関係性までは一緒では無い。
数奇な運命に翻弄されながらも、それでも海砂は妖艶に微笑んだ。
その美しい仮面で本心を覆い隠しながら。