六花の思想   作:風梨

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約3000字



夜神月

 

 

「──『キラ』? なんだ、これ」

 

 月が『ソレ』に気がついたのは偶然ではなかった。

 

『黒いノート』を拾って、ゴスロリの女に返してから約5日後。

 本来なら死神リュークが降り立ったであろう時間帯に、勉強を終えて暇つぶしにネットサーフィンでもしてみれば散見するようになった情報。

 

『キラ』と呼ばれる存在に、夜神月が気がついたのも特別おかしな事ではなかった。

 

 世間には情報が蔓延していたために、ごく普通の必然的にその一部を目にしていた。

 ただし、『本来』の流れとは異なる経緯だった影響で、夜神月は『キラ』としてではなく『一般市民』として、その情報を見る結果となった。

 

「何々、『殺し屋』Killerを語源として、正義の裁きを下す存在のことを『キラ』と言い示す風潮が蔓延しており、世間を(にぎ)わせている。端を発したのは凶悪犯罪者が相次いで『心臓麻痺』で亡くなり続けている事件である。その事から『キラ』は人を殺す超能力者か、あるいは殺人を代行する組織であると推測されており、巷で話題となっている……。へぇ、今じゃそんなのが流行ってるのか」

 

 半ば失笑を浮かべて、適当に月は情報を漁ってみる。

 まずは凶悪犯罪者が本当に死んでいるのか。

 これはすぐに見つかった。

 ニュースになっていて、月もチラッと耳にしたことくらいはあった。

 下らないと意識していなかったが、ここ数日のことであると思う。

 

 次に探してみたのは、話の信憑性だ。

 もしこれが全世界に発信されてるなら、海外の反応はどうなっているだろうか。

 そう思い英語の記事なども適当に探してみれば、なんと海外の凶悪犯罪者も死に続けている事がわかった。

 

「……日本だけじゃなく、世界で起きてるのか。ローカルな話題かと思ってたけど、意外とグローバルな殺人鬼だな」

 

 だが、対象を凶悪殺人犯としているのは悪くない。

 言葉にはしないが、内心そう思う。

 

 相手が犯罪者であれ、殺人は悪だ。

 もしも学校の集会などで議題に上がれば、人間は表面上そう語るのが正しい。

 けれど、月自身こうも思っている。

 世の中は死んだ方がマシなクズで溢れかえってる、と。

 

 そんな考えを表に出すのはナンセンスだ。

 集団生活を送る人間という性質を踏まえて行動する以上、そこを踏み外すのは馬鹿だけだ。

 そして月は馬鹿ではない。

 

 けれど、表に出さないからと言って、内心までは変わらない。

 そしてそれは自分だけではないとも月は思っていた。

 

 その考えを裏付けるかのように、ネットで集める情報は次々に死んでいく凶悪犯罪者に対する擁護など見つける方が難しい程だった。

 

 当然だ。

 腹の中ではみんなそう考えてる。

 

 自身の考察の正しさを深めながら、月は引き続きネットの情報を探っていく。

 

「……驚いた。もうこんなサイトまで出来てるのか。『救世主キラ伝説』ぷっ、なんだそれ。馬鹿馬鹿しい」

 

 そう言いながらも月はネットに溢れかえっている他人の意見を、無感情に目を通していく。

 

 こういう馬鹿馬鹿しいのも、たまにはいいかもな。

 ストレス発散の一環として月は画面のスクロールを続ける。

 

 ある程度見終わって、自分の想像を超えるような意見はなさそうだ、と画面を閉じようとした時、ふとしたコメントが目についた。

 

「──『キラは何を考えて犯罪者を次々殺してるんだ? オレなら身近な奴を殺して金を奪うけどな。心臓麻痺なら証拠もくそもないし』……ふーん、良い目の付け所じゃないか。確かに、わざわざ他人を殺す価値は薄い。動機もないしね。法則性から見てシリアルキラーってわけでもなさそうだから。『キラ』は何を考えてこんなことを始めたんだ?」

 

 月が気になったのは、『金』云々の所ではなかった。

 

『キラ』が何を思い、何を決断し、こんな全世界に向けての大量殺人を始めたのか。

 

 その考察が『馬鹿馬鹿しい』とは思えない。

 むしろ非常に興味が惹かれた。

 

「……そうだな。仮に僕が『キラ』になる能力を得たとしたら……。なんて想像でもしてみようか」

 

 思考実験の一環として、あるいは犯罪者に対するプロファイルの一つとして月は思考を回した。

 

 能力は人の顔を見て念じるだけで殺せるとする。

 全世界で発生しているから、画像や動画越しにも可能とする。

 

 回数制限はない。

 無限に、いつでも、両手足が塞がっていても、目で見て念じさえすれば殺せると想定して思考実験を開始した。

 

 まず第一。

 そんな能力を手に入れたのなら、本当に可能であるか、実験するだろう。

 標的とするのは身近な人間ではない方が良い。

 無関係な人間。

 そして死んでも構わない人間。

 となれば、自分なら犯罪者を選ぶだろう。

 

 チラリとテレビを見て、点灯した。

 画面にはちょうどニュース番組が流れており、犯罪者の顔と名前が映し出されていた。

 

 情報を得るならテレビが手っ取り早いだろう。

 ニュース番組を見て、目についた犯罪者をとりあえず念じてみるだろうか。

 ……いや、すぐに結果が反映されない。

 理想的なのは生中継。

 次点で後日情報が開示されるニュース番組になるだろう。

 

 殺人が可能であると確認が出来た場合。

 仮にであるが、生中継で殺人能力が確認できたなら、次は恐らく実際にこの目で見る事を望むだろう。

 テレビ画面上、しかもたった一度の殺人では能力があると断言は難しい。

 

 自分から探しにいくか、どうか。

 そこまでは不明だが、目視で確認できる範囲で何者かを殺害する。

 ……恐らくこの際は殺害の基準を大きく下げる。

 結果の確認の方が重要であるし、何よりも居なくなって誰も困らないようなクズであれば、何処にでもいる。

 犯罪者でなくとも、殺害するには十分な理由になる。

 

 最低で二名。

 殺害に成功すれば能力が本物だと認める。

 

 ……なら次は、罪悪感だろうな。

 

 月は冷静に自己分析する。

 

 人の命だ。

 軽いはずがない。

 

 その罪悪感を、どんな理由で乗り越えるか。

 

 そこに『キラ』が『キラ』となり得る理由が隠されている。

 月は正確に考察を続ける。

 

 ……僕ならどうする? やめるか? 精神力が保つか? 

 いや、僕ならやる。

 精神や命を犠牲にしてでも、使命感を持ってやり遂げようとするだろう。

 こんな事ができる奴が、僕の他にいるはずがない。

 そう思うところまで冷静に分析した。

 

 僕にしか出来ない。

 だからやる。

 世の中を変えてやる。

 

 その理論は月の中で強い説得力を持った。

 

 

「……なるほど。『キラ』はたぶん、僕と似たような思考回路の持ち主。『裕福な子供』ってところか。自分のためだけに使っていないのは、それだけスレてないから。だから、たぶん大人じゃない。大人ならこんな騒動を起こすよりも、もっと自分のために使う。世間に対する自己顕示欲だけで『キラ』の裁きを実行に移したと考えるには、メリットと比較してリスクがあまりに高すぎる。……いや、そうとも限らないか。もしも裁けない犯罪者に苦しんだ経験がある大人なら、『キラ』となり得る可能性は十分に残ってる。……うん、そうだ。プロファイルの基本は間違った情報だけを排除する事。……こんな可能性にすぐ気がつけないなんて、僕もまだまだだな」

 

 ある程度の思考実験を終えた。

 そう判断して、月は話しながら、考えながら書き殴っていたペンを止めた。

 

「……面白い。もし『キラ』が『超能力』で人を殺してるのだとしたら、お前はどんなビジョンを描いて犯罪者殺しを始めたんだ? 世間がこうなる事も、当然予期していただろう。それでもなお、実行しようとするその理由の源泉はどこにある?」

 

 

 椅子に座りながら、月は腕を組んで目を瞑って考える。

 

 正義を代行する姿勢。

 自分を隠そうともしない姿勢。

 世間に『キラ』のイメージを浸透させようとしている? 

 捕まらない自信も感じる。

 

「……退屈だ、なんて言ってられなくなったな」

 

 目を開いた月は、その瞳の奥を『キラキラ』と輝かせながら力強く笑った。

 

「ここまでの大事件。きっと警察も動くだろう。そんなにすぐ捕まるとも思えない。これはもしかすれば、僕のライバルに相応しい相手かもしれない」

 

 月の夢は警察官だ。

 父親の跡を継いで、警視庁に入るつもりだった。

 だが、海外に出てFBIやICPOなどに参加して『キラ』を追うのもいいかもしれない。

 

「『キラ』。お前は僕が見つける。そして、死刑台に……」

 

 月はそこで言葉を止めた。

 あることに気がついたからだったが、そこから先は言葉にするか非常に迷う。

 それでも、月は口にした。

 

「……もし僕の予想通りなら『キラ』の理想は正しい。それを本当に邪魔していいものだろうか……?」

 

 月の脳裏に閃いたのは、普通であれば考え付かないような、異端の考えだった。

 魔が差したと言えるかもしれない。

 

「……僕が『キラ』を支える?」

 

 確かに、月なら出来てしまう。

『キラ』を追う振りをしながら、その実は『キラ』の味方。

 もしも自分が『キラ』だったのなら諸手を挙げて歓迎したい立場の味方だ。

 

「ぷっ、いやいや。相手は殺人鬼だ。殺されるに決まってるか」

 

 馬鹿馬鹿しい、と笑いながら月はその考えを否定した。

 けれど、もしかしたら、そんな道もあるかもしれない。

 月が内心どう思っていようと、一度思いついた考えが消えて無くなる訳ではない。

 まるで小さなシコリのように、月の心の奥底に、その思想は残った。

 

 それが発芽するのか、それとも風化して消えるのか。

 

 それはまだ、誰にもわからない事だった。

 

 

 

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