漂流傭兵小噺~なんで右も左もケモ耳ばっかなんだ、いやそんなことよりまずはカネだ龍門幣だ!~   作:ラジオ・K

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 この回はUA3万突破記念と練習を兼ねたものです。
 また、コメント欄にあったとある方の推しキャラを登場させました(少しでコメンなさい)。

 これからも「漂流傭兵小噺」をよろしくお願いします!




デリヴァの日常(秘書編)

 カリカリカリ……

 カリカリカリ……

 

 薄っぺらくても、積もれば山となる。

 その小さな山が、たった今、消えた。

 

「よぉし、今度こそ書類も一段落したし一休み」

「ドクター、すまねぇがまだ束があるんだ。まだ休んじゃだめらしいぜ」

 

 俺はそう言いながら虚空より新たな書類を召喚。ドサッと無慈悲な音と共に執務室の机に置く。バイザー越しでもわかる。固まった、笑顔になりかけの顔。

 

「ある程度優先順位や種類別に前以て分けてあるから、少しは楽なはずだぜドクター?」

「うう……神よ、寝ているのですか……? そのセリフ、今日でもう6回目だよ? いつになったら終わるのさ仕事って」

 

 がっくりとうな垂れるドクター。その姿は悲しみに満ちていた。

 

「デリヴァくんが秘書をしてくれる時ってさ、いつもこんな感じだよね。小規模な書類が次々とベルトコンベヤーみたいに……まるでタワーディフェンスゲームみたいだよぉ、あと何ウェーブで終わるのさ!?」

「ドクター、嬉しいお知らせがあるぞ。あと書類の束は……3つほど。んで今の時刻は午後2時。頑張れば3時のおやつに間に合う――」

 

 そこまで言ったところで俄然、やる気を取り戻すドクター。凄まじい勢いで目と手が動きだし、小さな書類の山が飛ぶように消えていく。スイッチが入った彼女は基本的に恐ろしいほどの集中力を見せる。ぶっちゃけ俺が話しかけても答えることは滅多にない。

 というわけでそっと残り全ての書類を置き、後はただ見守るのみ。

 

 時計のカチ、コチ……カチコチ……という音と、カリカリカリ……という書類を片付ける無機質な音が執務室を支配する。

 幸いにも今日は来客予定がない。更にこの部屋にいる「もう一人」のお陰で、突然現れる乱入者もそういないだろう。彼女の誤解はまだまだ解けていないからな。こればっかりは時間をかけるしかないか。

 

 執務室に備え付けられているふかふかのソファー、そこで眠りこけている修道服が微かに身じろぎをした。そろそろ起きるかな?

 そのタイミングでドクターの「やたーっ!」という嬉しそうな声が響いた。時計を見ると、丁度3時である。

 

「これで安心しておやつを食べれる!」

 

 ウキウキとしたタイミングで冷蔵庫に向かうドクター。さて、俺もおこぼれに預るとしますかね。その時「ふぁ~」という欠伸がソファーから聞えた。

 

「あら、これは……紅茶の匂い。 丁度いいタイミングで起きれたようね!」

「おはよう、お嬢様?(スペクター?) (精神)の調子は……よさそうだな」

「ええ、おかげさまでこの通りよ」

「あっ、起きたんですねローレンティーナさん!」

「ごきげんよう、ドクター」

 

 お盆にティーカップやらお菓子屋らを載せてドクターがやってくる。頭脳労働後の楽しいお茶会の始まりだ。

 

 俺はスペクターの隣に、ドクターは反対側へと座り仲良くケーキをつつく。話題は日常的なあれこれから俺とスペクターの病状について移っていった。2人共ロドスの患者でもあるからな。ま、俺はどっちかというと実験サンプル的な扱いだが。

 

「そうですか、アビサルハンター達の『進化』は抑えられつつあると。よ、よかったです!」

 

 若干涙を貯めながら我が事のように喜ぶドクター。この分け隔てない優しさが男女問わずモテる理由でもある。

 

「全ては隣のデリヴァが主に『夜』に、頑張ってくれるからよ。ねぇ?」

「言っとくが毎晩毎晩、クソ大変なんだからな」

「でも気持ちいいでしょ? しかも最大4……」

 

 おっと、それ以上はいけねぇ。俺はお嬢様(スペクター)の頭を軽くはたいて発言を中断させる。女の下ネタってわりとド直球だな……。いや、コイツの場合は元からか。

 そんなスペクターの失言にも特に目くじらを立てずにくすくすと笑うドクター。

 そうして優しい時間は過ぎていって。

 

「デリヴァくん、明日の予定は?」

「明日は午前にオペレーター採用面接が何件か入っているな。これがその資料だ」

「ありがと。あれ、この龍門からのヴイーヴル人女性というのは?」

「ああ、それはちと厄介な機密が絡んでるらしい。俺もよくわからんが、明日の秘書担当のチェン殿が説明・同席するってさ」

「そっか。うー、何かが起こる気がするよー」

「まぁドクターなら何とかなるでしょ」

 

 実際、目の前のドクターは単なる優しいお姉さんといった風だが戦場とか企業間の交渉だとか、そんな場面では一変するからな。

 俺も何度か見たことはあるが、いつもこれ同一人物? と思ってしまうほどだ。そんなわけで俺も含めてほぼ全てのオペレーターは彼女の事を信頼・信用している。

 たまーに重い奴もいるが。

 

 お茶会が終わり、暫くして。ドクターよりメモリーチップを受け取る。

 

「じゃぁ、これ。中は秘書の仕事、その引継ぎデータだから。チェンさんに渡しといてね」

「わかった。チェン殿は今訓練室だったっけ?」

「えーと、うん。そうだね、マウンテン君と模擬戦やっているよ」

「おうふ……星6オペレーター同士の模擬戦とは、命がいくつあっても足りんな」

「またまたぁ。きみはあの皆が恐れる『アビサルハンター』の1人なんだよ? もっと胸を張ってもいいと思うけどな~」

「恐れていられているのは残り3人衆でしょ」

 

 それに俺、オペレーターとしては星2だし。3倍の数に勝てるわけないでしょ。

 

「さてそれじゃぁ。オペレーター、デリヴァお先に失礼します!」

「はい、お疲れ様。今日はありがとう。またよろしくね!」

 

 俺は右手に義手を装着し、スペクターを連れて執務室を後にした。

 

 

 

 俺とスペクターはロドスの後方下部にある訓練室へ向かう。俺の左手にはスペクターの右手がしっかりと握られている。指を絡める、恋人つなぎとか言うやつ。

 

 ロドス中の噂となっている「付き合っているのか」という質問はちょいと難しい。だが少なくともプラトニックかどうかという点ならば、答えは「ノー」だ。

 

 理由は全く不明、というか現在調査中なのだが俺にはアビサルハンターらが抱えている様々な問題を「先送りにする」という体質? があるらしい。

 スカジやグレイディーアが将来なるであろう「怪物化」やスペクターの「狂気」などがそれだ。

 そしてその効果は俺が傍にいるだけでも効果が発揮される。まぁ最も効果的なのは彼女らが俺の体液を吸収すること。それ自体は毎晩やってる。

 

 ともかく、ケルシーから言い渡された基本的にスペクターが特別医療室から出る条件は2つ。俺が常に傍にいること。そして「何か」あった場合は責任を持って鎮圧すること。

 もちろん武器は携行してないがさっぱり油断できない。彼女らアビサルハンターらは素手で壁をブチ抜いたりするからな……。

 

 スペクター本人はそこまでこの処置に不満を持っているわけではないらしい。何度も握り方を変えてより密着しようとしたり、たまに顔を腕やら胸に擦り付けたりしてくる。

 しかしさっきから無言だ。ちとヤバいか?

 

 そう警戒しながら訓練室の扉を開ける。

 

 丁度模擬戦を終えたのか、チェンは後片付けをしているところであった。

 

「チェン殿、これが明日の秘書業務に関する各種データだ。受領を」

「む、デリヴァか。了解した。……確かに受け取った。本日の業務ご苦労だったな」

「ありがとうございます」

 

 これで本日の「表向きの」仕事は全て終了。やったぜ。

 

「ところで……先程から彼女(スペクター)、やけに静かだが。大丈夫か?」

「うーん、発作に規則性は中々見出せませんでしたからなんとも」

「そうか。もし事となったらいつでも呼んでくれ」

 

 素直に頭を下げる。いまんところ、スペクターに表情は無邪気さというか、純粋というか。そういったものが混ざっている感じだ。瞳を覗いてみるが、特に狂気の色は見られない。

 とはいえ念の為、早めに帰るべきだろうか。

 

 そんなタイミングでマウンテンが控えのシャワー室から出てくる。相変わらずの高身長、威圧感のある体躯だ。だが彼が非戦闘時においては穏やかな人物であるのは周知の事実である。

 

「おや、そこにいるのはデリヴァ殿とスペクター嬢ではありませんか。こんばんは」

「よう、アンソニー。こんばんは」

「…………御機嫌よう」

 

 お、スペクターが喋った。まだ持ちそうか。

 

「お体の調子は如何でしょうか? 私が見るに少し疲労の色があるようですが」

「ん、そうかな」

「ええ」

「そうか……なら今日は早めに「済ませて」寝るとしよう。ありがとな」

「お安い御用ですよ。となると本日の酒宴は参加できそうにない?」

「だな。すまんがまた今度で頼む」

 

 マウンテン改めてアンソニー・サイモンとはちょっとした出会い(脱獄作戦)の時に共闘して以来友好的な関係となっている。たまに飲みに行ったりな。

 なお、そこにドクターを引きずるブレイズが現れた場合、大宴会か修羅場のどちらかとなる。でもってニェンも現れたら、混沌の出来上がりだ。

 

 

 ともかく用事を終えた俺達はチェンとアンソニーに別れを告げ、晩飯を食いに食堂へと向かった。

 

 

 

 俺はジェイ特製の海鮮丼(大盛り)に魚団子スープと生牡蠣を2つ。スペクターはマッターホルン特製のCランチセット(おろしポン酢ハンバーグ)を頼んだ。

 で、食堂の端っこら辺にてちまちまと食べる。やはり海鮮を作らせたらジェイが一番だな。素材の味が生きている。故郷を思い出すぜ。違う世界だが。

 たまに懐よりワルファリン謹製の活力サプリ(亜鉛入り)を取り出し、かじりながら辺りを見渡す。

 

 比較的早い時間での晩飯だからか、元学生などの若い連中も数多くいるようだ。

 それぞれで固まって仲良く食べる各行動予備隊。

 おしゃれ談議に花を咲かせるウタゲやアンブリエル、ロープ。

 少し騒がしい方向に目を向けば。

 何かの教えを乞うシェーシャと眠そうに対応するドゥリン。

 占いの結果に議論を咲かせるギターノとクロワッサン、そしてパラス。

 

 ってパラスの奴、まーた酒を飲んでいやがる。足元には空瓶が3つも。こりゃぁ、来るな。と思ううちに医療部のフォリニックがアーツでも纏ってんのか、という勢いで飛んできた。始まる説教。のらりくらりと躱すパラス。茶化す周囲。

 

 そんな喧噪はアーミヤがドクターを連れてきたことでより一層、ボリュームアップをみせた。

 

 その喧噪は俺達2人には届かない。陸の祭りを見る海に住まう大魚のようだ。目に見えない海岸線というものを感じる。

 そこに深海より迫る影が1つ。

 

「あなたたち、ここにいたのね」

「お、スカジか。これから飯?」

「私はもうグラニと済ませたわ」

「確か2人は……あそうか一緒に巡回任務に就いていたんだっけ」

「どうしてあなたが知ってるのよ」

「今日の秘書は俺だからな。各オペレーターの任務や配置場所はある程度把握しているさ」

「そう」

 

 あ、ちなみにケンカ中とかじゃないぞ。普段から俺とスカジの会話はこんな感じ。スカジにとって俺は普通にコミュニケーションが取れる数少ない相手なのだ。グラニの保証付き。彼女曰く「かなり照れてる中でよく頑張って会話している」とのこと。

 

「スペクターの様子は……大丈夫なの?」

「ん、多分大丈夫だ。楽しそうに食べていたし。いや、今は寝てるけど」

 

 Cランチセットを平らげ、俺の肩に顔を乗せ、静かに眠るスペクター。髪から微かに甘い潮の香りが漂い鼻腔を刺激する。

 むぅ。意識した途端に強制的に高ぶってくる本能。サプリの効果が発揮され始めたか。急がんと。

 

「俺達はもう引き上げようと思う。そっちは?」

「私もよ。清めたらそっちに行くけど、いい?」

「オーケーだ。そんじゃ、また後で」

 

 俺は席を立つ。

 

 

 

 薄暗い廊下を。ロドスで知る者はごく僅かであるこの廊下を。俺は進む。

 

「ウフ、ウフフフ…………アハハハ…………」

 

 隣は静かに発狂しつつあるスペクター。だがまだ大丈夫。その瞳は健全な赤だ。

 

 俺はロドスのオペレーター、デリヴァ。

 異世界より迷いし、記憶を失い、何の因果かアビサルハンターと成った隻腕のアヌーラだ。

 髪はついに全て白に染まり、肌の色素は抜けつつ、瞳は赤に染まりつつある。

 使うは分類不可の異能、計2種類。

 

 そんな俺の本当の任務、治療はここから始まる。

 深海のような闇が支配する夜にて。

 深海より満ちる脅威を、俺が鎮めるのだ。

 

 

 

 流れるシャワーの音。

 

「で、だ。いつも思うんだが」

「何?」

「どうしてパジャマ姿なんだ」

「だってこれから寝るんだから当然じゃない」

「かなり薄着だし、色々と危ないと思うんだが。それに俺が言えたことじゃないと思うけど、襲われたらどうするんだ、狼に」

「狼なら目の前にいるわ。だいぶ発情している、誰かさんが」

 

 スカジの視線は俺の顔より下、お腹より下に注がれている。どこ見ているんだコラ。真面目に指摘されると恥ずかしくてしょうがない。

 

「恥ずかしがることはないと思うわ。いつもやっていることだし」

「なんか複雑な気分だな……こう、恥じらいとか」

「今更何をいっているの。あんなに激しくする癖に」

 

 スカジの顔は桃色にうっすらと染まり、口元はやさしく、目は期待する輝きを放っている。何回か致したから、わかる。既に準備完了のご様子。

 人生とは不思議なもので、初対面ではガチの殺し合いをしたはずだが。どうしてこうなったんだ。

 

 シャワーの音が止まる。

 中から湯気を纏って、いや違う。湯気以外は何も纏わずスペクターが出てきた。

 

「本日も、どうか寵愛を……」

 

 いつもとは全く異なる顔で、声で、囁くスペクターに。

 俺の理性は瞬時に切れて、立ち上がり、駆け寄り、その悪い口を己の口で塞ぐ。

 もつれあいながら共にベッドに倒れ込み、その上よりそっとスカジが覆いかぶさってきて。

 

 夜が、儀式(任務)が、始まった。




 ちなみにスコアはスカジが「6」、スペクターが「7」です。

 最新話については数日中に投稿されると思います。

 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!

仮に「漂流傭兵小噺」のR18版を投稿するとして、一番最初のヒロインは誰がいいですか? IFルートも含みます。

  • グレイディーア
  • スペクター
  • スカジ
  • アビサルハンター達の4P(死んじゃう!)
  • アイリーニ
  • ドクター(もちろん女性)

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