漂流傭兵小噺~なんで右も左もケモ耳ばっかなんだ、いやそんなことよりまずはカネだ龍門幣だ!~   作:ラジオ・K

22 / 26
 一応補足を。
 作中の「花戦争」には元ネタがあります。
 それは15世紀ごろのアステカ帝国(簡単に言うとメキシコの辺りにあった国)に行われた儀式戦争のことです。
 割とサルゴンとかミノスに合う気がしたので採用しました。


トークタイムin温泉

 カコーン、というししおどしの音が、聞えた気がする。

 ……多分、幻聴だろう。

 ここは故郷の地(地球)ではないのだから――カコーン

 

 再び、湯気の中から聞こえる。どうも幻聴ではなさそうだな?

 俺はゆったりと自らをお湯の中に浸し、ノスタルジックな気分になる。時刻は夜。ここはアクロティ村にある祭祀(パラス)専用の小浴場だ。明後日の花戦争(ソチヤオヨテル)に備えて英気を養うため、特別に俺達一行に貸し出されたというわけだ。

 

 ふぅ、生き返るぜ。ここへ来るまでの間は基本的には車中泊だったし、数日だけやたらと髪の長い灯台の守り人見習いとかいう人物と廃墟で過ごしたこともあったが、当然のことだが湯につかるなんてことはできなかったしな。

 あの少女、アリアは元気にしているかな? ししおどしの音に耳を傾けながら回想していると。

 

「あの音が気になるか? デリヴァとやら。あれはパラスが極東に旅行に行った際の土産物だ。風情があるとかそんな理由で大層気に入ってな」

 

 今度の()は……幻聴ではなさそうだ。

 湯をかき分ける音と共に筋骨隆々、逞しい体と共に1人の男が反対側に座る。その頭には悪魔の如し角が側頭部より生えていた。確かサルカズ、という種族だったか。

 

「確かアンタ、パラスの護衛の――あれ、名前は?」

「名乗る名なんざ俺にはねぇよ」

「じゃぁなんて呼べばいい?」

「単にサルカズ傭兵でいい。この村にいるサルカズは俺だけだ」

「そ、そうか。で、護衛の仕事はいいのか?」

「今やってるだろ」

 

 サルカズ傭兵はこの状況にもかかわらず仮面を外していない。が、その目線はじっと俺に注がれているのがわかる。値踏みでもするかのように。浴場内に満ちる温水がさざ波を立て始める。

 

「なんだよ。祭祀の護衛サマは――俺の事を脅威だと思っているのか?」

「ああ、その通りだ」

 

 温かいはずの温度は、少し下がった。

 

「えーと、俺、何もしていないはずだが」

「そこが問題だ」

 

 目の前のサルカズ傭兵が一歩、二歩、湯気の中より出で来て、仁王立ち。俺を見下ろす。鍛えられた傷だらけの体とあちこちから生える()()()()()()がよく見える。威嚇するかのようだ。

 

「俺はこう見えても多くの死線を潜り抜けてきた」

「どう見てもそう見えるのだが?」

「どうして生き残れたのか、それはある種の勘を持つことだ。目の前の敵がどのくらいの力量を持つのか、というな」

「こうして出てきたってことは……あれ、でもさっき俺の事が脅威って……ああ、なるほど」

 

 これ、臨戦態勢ってやつか。えっまさかここで殺る気か? そう思った途端、彼は身を引いていく。

 

「自覚なさそうだから、教えようか迷うが。俺はさっきからお前の目を見ていた」

「大分一方通行な『見つめ合い』だな」

「そのアヌーラ独自の瞳、だけではないな? お前の瞳は()()()ある。そんな生物は初めてだ」

 

 こちらを向いたまま、背を向けずに浴場から出ていくサルカズ傭兵。

 

「変なことはするなよ? 俺とて一応はプロだ。勝てないとわかってたって一勝負する気概ぐらいはある」

 

 そう言い残して去っていった。一体何だったんだ……? まぁいい。もう少しゆっくりとしてから出るとしよう。それにしても明日の花戦争(ソチヤオヨテル)は名目上は祭りという事らしいので殺害はご法度らしい。となると銃とか生涯の友(ロケラン)は使えんよなぁ。刃がある得物もちと危険か……

 そんなことを考えていたら、再び湯気の中から声が聞こえる。

 

「ああ~やっぱりお湯はいいですねぇ。生き返ります」

「さぁさ、可憐な少女よ、共に1日の汗と泥を流し素晴らしき明日を迎えようではありませんか」

「ちょ、自分で洗えますから、放せ……というかどこ触っているんですか!」

 

 ふむ。女の声が3つ。つまり(かしま)しいというやつだ。

 

「ふぅ、やっぱりお湯はいいものですね、生き返ります。おや、デリヴァもいたんですね。長風呂する人ですか?」

「いや、普段はそうでもないぞ。まぁ久しぶりだからかなぁ湯に浸かるの」

「奇遇ですね、私もです」

 

 ふうむ、イナムとは話が合いそうだ。

 続いてヘビーレインと名乗った女兵士と、パラスが入ってくる。目の前が一気に華やかになった。せっかくの風呂に野郎だけというのもな。

 

「おや、勇者殿もいらしたのですね。どうです、この場で一杯やりませんか?」

「ほう、酒風呂か。オツじゃないか、いいね。もらおう」

「どうぞ。リターニア産のロイヤル・リキュールです。元はガリアという国で生産されたもの。大変れあなものですよ」

「どれ……ほう、これは中々……」

「貴方もこの味がわかる方のようですね」

「あたりまえだ。このあじがわからんやつは、りせいがぬけたやつだけだろうよ」

 

 赤ら顔で何度もうなずくぱらす。

 ふうむ、かのじょとはきがあいそうだ。

 

「デリヴァと言いましたか?」

「そうだ。そういうお前は、へびーれいんとか言ったな?」

「さっきから堂々としてますが恥ずかしかったり気まずくはないんですか? デリヴァの出身がどこなのかはわかりませんが、こういった(混浴)文化はサルゴンとミノス、あとは極東のごく一部のみであると聞いたのですが」

 

 そうは言うものの、はずかしいのかみずからのからだを手で隠し、ぱらすのうしろへ隠れながらへびーれいんが問いかける。ふはは、いったいなにがはずかしかったりするというのだよくじょうではだかなのは当然ではないか。

 

 ……うん。

 よくじょうで、裸。おれは、おとこ。かのじょたちは、おんな。

 なるほどなるほど……は?

 

もしかしなくても、ここ、混浴?

 

 無言で頷くパラスとイナム。どこか呆れた(今気づいたのかという)目で見てくるヘビーレイン。彼女らの反応に酔いが一気に醒める。

 

「てかなんであんたらは平然としているんだよ」

「むしろどうして慌てるんだと思うの?」

「何言ってんだイナム。普通に考えて異性同士が裸の付き合いをするのは」

「ああ、確かに恥ずかしい部分もありますがこの辺りの文化では発情期にでもならない限りはそこまで問題にはしないんだよ」

 

 こういった水源(温泉)は限られているからね、とイナムは付け加えた。言われてみると他のメンツもそこまで大きく、というか全く騒いでいない。逆に騒ごうとする俺の方が恥ずかしいまである。

 それに――どうしてかほぼ裸の彼女らを見ても、「そういった」気分に全くならないんだよなぁ。特に枯れてしまった、とかいうことではないはずだが。釈然(しゃくぜん)としないものの、結局俺は彼女らと共に湯に浸かり続けるのだった。

 

 

 

 

 そして夜。

 俺達4人は同じ部屋、祭祀でもありこの村人らから女神と信仰の対象として見られているパラスの大部屋で寝泊まりをすることになった。

 俺は横目で少し離れた場所で酒瓶を抱えながら、上機嫌な様子で眠るパラスをそっと見る。頭に咲いている花が気持ちを代弁するかのように上機嫌に揺れていた。

 

 決戦は明後日か。とっとと決めて、早く()()を聞かないとな。

 俺は、昼の出来事を回想する。丁度俺がヘビーレインと共に帰ろうとしていた時の話だ。それを引き留めようとしがみつくパラスは、隣のヘビーレインには聞こえないぐらいの超小声で俺の耳元にこう伝えたのだ。

 

「私は、貴方の旅の目的地であるロドス・アイランドについての情報を持っています。もし私達に協力してくださるのなら、全てが終わった時にお伝えしましょう」

 

 と。その後、報酬の龍門幣(ろんめんへい)云々(うんぬん)の話となったのだ。もちろん龍門幣(ろんめんへい)も大事、超大事だが……この騒動に首を突っ込むことにした最大の理由が、これだ。

 

 その為にも、必ず花戦争(ソチヤオヨテル)に勝たないとな。そう決意しながら、俺の意識は沈んでいく。深海(うみ)に潜る魚の如く。

 

 

 

 

 




 お風呂回でした。難しかったです。
 男女混浴についてはサイドストーリー灯火序曲「星火燦燦」より開示された設定をを忠実に(重要)再現してみた結果です。
 話の内容はだいぶ独自解釈が入っていますが。

 第2部・上編はあと5話もしないうちに終わると思います。
 さぁ、早くロドスに合流するのだデリヴァ君。楽しい生活が待っているぞ!

 もしこの話を面白いと感じてくれたら、☆評価や感想を是非、よろしくお願いします!

番外編で見たいのはどんなシーン? 絡ませたいキャラいたらコメントで教えて

  • ロドスでの日常
  • 夜の飲み会とか
  • ちょっぴりえっちなシーン
  • 任務・戦闘シーン
  • アビサルであれば何でも

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。