漂流傭兵小噺~なんで右も左もケモ耳ばっかなんだ、いやそんなことよりまずはカネだ龍門幣だ!~   作:ラジオ・K

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 まさかの時のイベリア審問裁判(物理)、開廷!

 ところで、アークナイツ内ではイベリアの審問官に見習いなどという制度があるとはどこにも書かれていません(私の知る限り)。
 なので、完全にオリジナル設定です。設定を見落としてた!? とご乱心のドクター諸兄、ご安心を。
 勘の良いドクターはひょっとして本作の時系列が「いつ」なのか、悟ったかもしれませんね。


大ボス、見習い審問官・アイリーニ

 まずい、まずいぞ! この鳥を連想させるお嬢ちゃん、じゃなくてアイリーニ審問官()は俺の事を指名手配犯か何かだと勘違いしてやがる。

 何とかして誤解を解かないと、捕まってしまう! というか殺される! 

 

 彼女の細身の剣から繰り出される一撃は、まるで針のよう。

 一点を素早く、とても素早く、空気に穴を開けるように、突く!

 体感ではヒュン! という音と同じ速度で剣先が迫る。今のところ、どうにか回避し続けられているのだが……。

 

 それ以上に問題なのは俺は今──うぉっ! 危な! 危うく右目が持っていかれるところだった。串に刺した団子みたいに。

 

「ちょ、顔はダメだろ顔は! 俺には隻眼で悦に浸れるような妄想力はねぇんだ(中二病患者じゃねぇ)!」

「何をわけのわからない事を! それよりも、いつまで避けているつもりですか?

 

 そう、さっき言い損ねたことだが、俺は今丸腰でひたすらアイリーニの攻撃を避け続けている。というのも、彼女が所属するという審問官、どう考えても民間組織じゃないだろ。ってことは彼女を傷つけてみろ。地球でいうところの公務執行妨害とかいうやつで本当にしょっ引かれちまう。

 そんなことは御免だ。だからこうしてひたすら回避に徹して、相手の疲れを待つ! というか。

 

「アンタの剣裁き、中々の速さだと思うが、その代価として大分単調だな? おかげでほれ、この通り──スピードに慣れれば(かわ)せる」

ハァ! ──なんたる侮辱……いつまでもその幸運、続くと思わないことですね!」

 

 さらにスピードが上がり、激しくなる攻撃! だがその分アイリーニの負担も大きくなる。顔は赤くなり、そのきれいな髪や顎からは汗が(したた)る。

 俺はというとなるべく最小限の動きで、タイミングを読んで躱す。それだけではなく更に──今だ

 彼女のブロードソードを用いる剣裁きは突く、に特化したとものだ思われるが、突きの瞬間に剣先が止まってしまう。俺はそれをある()()()と共にそっと指先でもってあらぬ方向へ押す。

 意図せぬ力がほんの僅かに、剣を通してアイリーニに到達し、その体幹をずらす。ただでさえ疲労が蓄積している彼女にとって、体幹を攻撃しながら整えるのは非常に負担が重いはずだ。

 

 

 結果、どんどんアイリーニのスタミナは減り続け。息が誰が見ても荒くなり始めたころ、ようやく剣の異常に気づく。

 

「ハァ、ハァ……クソっ、どうして当たらないんですか! それになんでこんなに剣が()()──って何これ!?」

「ようやく気付いたか。もうお前のご自慢の剣は、なまくらだぜ?」

「こんなに粘液が……いつの間に!?」

 

 そう。俺は指先で剣を逸らす度、少しずつアヌーラの特性だと思われる、自在に出せる粘液を垂らしていたのだ。彼女の攻撃はほとんど「突き」だからな。垂らす機会などいくらでもあった。

 結果として彼女の剣は俺の粘液によりベトベトに。重みが増し、その刃は覆われ、蓄積した疲労を相まって、もう(ろく)に振れないだろう。

 彼女の灰色の瞳には屈辱の為か、怒りの涙を放出している。その腕はもう、上がらない。

 勝負あったな。俺の勝ちだ!! ……まぁ不戦勝みたいな気もするが。

 

 

 さてと、ここからアイリーニを説得させないと。俺が怪しいモンじゃなく単なる通りすがりの記憶喪失者であることを。取り巻きの役人どもが動く前に。

 

 何という完ぺきな計画! だと思っていたのだが。

 残念なことに、俺が与えた屈辱は想像以上だったようで。完全に頭に血が上がったのか、アイリーニは大声で役人に指示を出そうと──

 

 

「あの……少々よろしくて?」

 

 唐突に第三者の声が殺伐とした空間に割り込んできた。 

 

「先程からのやり取りを見ていましたが、審問官さんが彼を襲い始めたのは指名手配犯のスニーキー・バンデッドに似ているから、ですわよね?」

「べ、別に襲っていたわけではありません!」

 

 ンなわけあるか! と思わず心の中でツッコミをいれてしまう。口に出すと第2ラウンドが始まりそうだったので、どうにか堪えたが。

 

「ところで、これはあくまで(わたくし)の考えなのですが。彼は指名手配犯ではないと思うのです」

「その主張には何か根拠があるのでしょうね狩人(ハンター)さん?

「もちろんですわ。といっても簡単な話。そこのあなた、巻いてるバンダナを取ってくださる?」

「あ、ああ」

 

 言われるがまま、素直にバンダナとついでにゴーグルも取る。すると……アイリーニの顔は怒りの赤から「やらかした」という青に変わっていった。その速度たるやまるで信号機だ。中間の黄色はなかったが。

 

「あっ! ……くっ、私としたことが、何という簡単なミスを……!」

「彼はレプロバ(ハイエナ)ではなく、見てわかる通り(わたくし)と同じ、()()()()ですわ」

 

 こうして、この騒動は一件落着(?)し、誤解してしまったお詫びとして、また意図せずではあるが指名手配犯を倒したという実績により仮入国が認められたのだった。

 

 

 

 そして俺は今、助けてくれた女性とマルヴィエント内にある小さなカフェで向かい合っていた。淹れられたコーヒーによる香ばしい薫りが満ちる。マスター曰くボリバルのドッソレスにある「コーヒープレイン」という会社から調達したものだそう。旨そうだ。

 

「えっと、先程は助けてくれてありがとう。おかげで見知らぬ世界の土地を漂流するところだった」

「構いませんわ。こういった時はお互いに助け合いませんと。それに久しぶりに同族(アヌーラ)の方と出会えましたもの」

 

 青を基調とした(パーカー)に身を包む、ピンク色のおさげ髪の女性(ひと)はそう微笑む。

 

「自己紹介が遅れましたわね。改めてはじめまして、アズリウスと申しますわ」

「ああ、よろしく。俺は──」

 

 そう言いかけて、俺は口を(つぐ)む。本格的に旅を開始して以来、目をそらし続けていた問題が今、立ちふさがる! すなわち──

 名前、どうしよう




 作者
 「初めての対人戦、書いてみたけどどうかな、グレイディーア!」
 グレイディーア
 「凡才ですわね」
 作者
 「(´・ω・`)」

 というわけで、テラ世界初の対人戦でした。楽しんで行けたら幸いです。
 ところでアヌーラに男性っているんでしょうか。普通はいると思うのですが……誰か知っている人がいたら教えて欲しいです。

 ちなみにブロードソードは本来両手持ちらしいですが、立ち絵やイベントでの描写から片手持ちにしました。アイリーニ、強い。今後も出番がある予定です。

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