▼七星剣の一人称に吃驚した ギャップ萌え
▼前作(https://syosetu.org/novel/285715/)(陸奥守、歌仙、審神者)で審神者の容姿を少々描写しましたが、そうですこの審神者は厩戸王子似です ただし彼の娘の馬屋古ほどには似ていない 王子をマイルドにした感じ 間人媛と王子の中間ぐらいみたいな……双子の姉の佐富王女とは双子だけどたぶん二卵性双生児です
pixivより転載
この本丸に来てしばらく経つ。着任早々大阪城の掘削部隊に組み込まれ、疲労がつく度に一口団子を放り込まれる。ひたすらその繰り返しの日々も、過ぎ去れば比較的穏やかだった。尤も直前の大侵寇によるダメージから政府が抜けきっていなかった。その上、ここの本丸の刀剣男士は怪奇対策部とやらに頻繁に駆り出されている。偏にその怪奇対策部も打撃を受けており人員が足りないためもあるだろう。
駆り出されているのは有力だからだ。ここの審神者に顕現された以上、おれも同じことになっている。瘴気への耐性がカンストしているのだ。
そして、そうなった所以を、おれは知っている。
「兄上」
その審神者は、時折おれを呼び間違う。
振り返ると、おれの目の色を見てはたと気付いて「申し訳ありません。また間違えてしまいました」と頭を下げる。上に立つ者なのだから軽々しく頭を下げるものではない、と思うのだがそれが彼女の良いところなのだと、おれは知っている。そして、間違える理由も。
――自分はあまりに、「あのお方」に似ている。
そして、「あのお方」に似た面差しをしている彼女のことも、おれはよく知っていた。
知っていたから、おれは言った。
「主」
「なんでしょうか、あに……七星剣」
辛うじておれを兄と呼ぶことを自制した彼女。その黒洞洞たる彼女の双眸を見つめた。
似ていた。彼女は「あのお方」の若い頃に似ていた。結い上げた豊かな黒髪も、気品のある風情も。正確に言えば少しばかり彼より優しげな面差しをしていたが――少しばかり思う。自分とは鏡合わせのようだと。
そう、まるで、きょうだいのように。
だから。――だから、おれは言った。微笑めていた、と思う。
「そこまでおれを兄と呼ぶのなら、いっそおれを兄と呼んでいいよう契約を結ぶか」
すると、彼女は顔を曇らせた。
そして、再び頭を下げる。
「……お気遣い感謝します。ですが、それは本当に申し訳ない。今後は本当に控えますので」
「まぁ、構わんがな」
そう言って、おれは笑った。
「お互い、『あのお方』に似ているのは否めない。……目くじらは立てないぞ」
そう言って、俺は踵を返す。白檀の香りが漂っていた。
憶えている。彼女は「あのお方」の異父妹だった。正確には末の異父妹で、双子の姉とはあまり似ていなかったから、今にして思えば二卵性双生児というものだったのだろう。
その彼女は、「あのお方」の足元によく纏わりついていた。「あのお方」は当初、特に懐いてくる下の異父妹を邪険にしていた。それでも、彼女はくっついて回っていたし、何なら斑鳩宮にまで単身遠乗りして訪ねてくることもあった。そうなるともう追い返せない。
――「あのお方」の態度が、彼女に対してわずかばかり軟化したのは、「あのお方」の妃のひとりであり、そして恐らく最愛の妻だった美郎女が彼女と親しくしていたからだと思う。
美郎女は白痴だった。言葉もうまく話せない美郎女に、彼女はにこにこと微笑みながら相対していた。言葉を交わしていた様子はなかった、と思う。それに対し、「あのお方」は言っていた。
「●●。お前は美郎女の言葉がわかるのか」
それに、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「お言葉はわかりませぬ。けれど、表情や仕草で仰りたいことはわかります。――そうですか、水菓子を食べたいと。調子麻呂、水菓子はありませぬか」
――それは、丁度「あのお方」がしていた、今でいう「精神感応」の類だろうと思う。
そのときから、「あのお方」は彼女に言った。「卜部をやるように」、と。
果たして彼女は卜部として――正確には夢見として過ごすようになり、双子の姉にも霊感のようなものが見出されたので彼女たちは2人で卜部となった。
そのときは知らなかった。「あのお方」ですら見通すことのできなかった未来だろう。
彼女があまりに夢見として優れ過ぎており――知ってはならぬ事実を知ってしまい、彼女の存在ごと歴史の闇に放り込まれるなど。
そして今、「あのお方」の元を離れた自分は、こうして彼女と再会した。封じられた祟り神の集合体、その末端にして端末と成り果てた彼女と。
おれは戸惑っている。
恐らく「あのお方」の影響を受けすぎた結果、容姿まで似てしまった自分。そして「あのお方」に似ていると言われた彼女。人は、自分たちを近親相姦と呼ぶだろう。
それでもかまわない、と思ってしまうのだ。
これは感傷で、罪悪感の発露で、贖罪だ。彼女を愛することで帳尻を合わせようとしている。
けれど、それ以上に――「あのお方」、「兄」の面影を一途に追う彼女が痛ましかった。
愛してやれれば、心の棘が抜けるだろうか。そして、おれに愛されることを彼女は望むだろうか。
おれは、この議題にしばし頭を悩ませることになるのだった。
了