大魔王ゾーマになってしまった男の末路   作:黒雪ゆきは

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001 大魔王ゾーマになった日。

 ちょっとこれまでのことを振り返ってみようと思う。

 多分、これから話すことはとても信じられないだろう。

 俺だって本当に意味がわからない。

 それでも全てが紛うことなき事実だと約束する。

 

 さて、どこから話そうか。

 そうだな、やっぱりまずは俺が『転生』もしくは『転移』したであろうことからかな。

 あろう、なんて曖昧な表現をしたのは、この世界に来る前の自分自身のことが全くと言っていいほど思い出せないからだ。

 

 どんな世界だったかはぼんやりと覚えている。

 でも肝心の自分自身については綺麗さっぱりと忘れてしまったようなんだ。

 突然この世界に転移したのか、はたまた死んでこの世界に転生したのか。

 まあ今となってはどうでもいい事だ。

 考えるだけ無駄だから。

 

 はぁ……。

 

 それで、気づいたら俺はこの世界にいた。

 親もいなければ知り合いもいない。

 難易度がえげつなすぎるスタートだ。

 その瞬間、俺は神なんてものが存在しないことを確信した。

 それか、きっと俺は前世にとんでもない大罪でも犯したのだろう。

 じゃなきゃ納得できんわ、こんなキツすぎる人生。

 

 小さな村があるんだが、誰も助けてくれやしなかった。

 時々食べ物を分けてくれる人もいたけど、ほとんどは見て見ぬふり。

 まあ、それは仕方ないよな。

 お世辞にも裕福な村じゃないんだから。

 みんな自分の生活で精一杯なんだ。

 

 思考を放棄し、自分の不幸を全て他人のせいにできるほど俺が子供だったなら、もうちょい楽だったのかもしれないな。

 仕方ないことだと理解してしまっているからこそ、どうしようもないんだ。

 

 だから俺は大樹のうろを寝床にしながら、森の木の実を食べたり、村のゴミを漁ったりしながら生きた。

 幸いだったのが綺麗な川があったこと。

 そのおかげで水だけは困らずにすんだ。

 

 とはいえ、安定とはかけ離れた生活だ。

 食べ物にありつけない日々が続くなんてこともザラにあった。

 

 

 そうだな───“その日”も空腹で死にそうだったのを覚えている。

 

 

 確か激しい雨の日だった。

 腹が減りすぎて目眩がしていた。

 朦朧とした意識のなか、何か食べ物はないかと森をさまよっていたんだ。

 

 そして見つけた。

 

 奇妙な見た目をしたその果実を。

 

 

 ───『悪魔の実』

 

 

 そう、それは悪魔の実。

 何故かそうであると確信した。

 その名前が突然俺の頭の中に浮かんだんだ。

 カナヅチになるかわりに、人間離れした能力を手に入れることができる不思議な果実。

 

 だが、その時の俺にはぶっちゃけそんなことはどうでもよかった。

 

 食べ物ッ!! 

 

 そう、食べ物があるッ!! 

 

 空腹すぎてテンションもおかしかったと思う。

 後先なんて考えず、ほんの一瞬も迷わずに俺はそれを口にした。

 味は最悪の極み。

 ゴミとか漁っていた俺だけど、その果実はダントツで激マズだった。

 

 どんなものでも美味しく感じるくらいには空腹だったはずだけど、悪魔の実の味はそれを軽く凌駕したんだ。

 でも少しだけ空腹は満たされた。

 

 すると少しずつ冷静さを取り戻すわけだ。

 俺は自分が『悪魔の実』を食べたという事実を、その時ようやく理解した。

 そこで気になるのは一体なんの実を食べたのか。

 どんな能力を手に入れたのか、ということだ。

 

 結果から言うと、それはあまりにもすぐに分かった。

 

 青かったんだ。

 自分の手が。

 

 

 ……え? 

 

 

 マヌケな声が出た。

 慌ててもう一方の手を見る。

 当然のように青い。

 

 

 ……ん? 

 

 

 というか服も変わってる。

 見慣れたボロボロの衣服ではなく、なんか禍々しいローブになっていた。

 

 

 ……えぇぇぇぇッ!!! 

 

 

 気づけば俺は川に向かって走り出していた。

 明らかに異常事態だ。

 すぐにでも自分の見た目を確認したい。

 その一心で俺は走った。

 

 視点が異様に高い。

 いや、高すぎる。

 

 走りながら嫌な予感はどんどん大きくなっていく。

 

 そして……川に着いた俺は自分の姿を確認し、約5秒間思考停止した後、この島の隅から隅まで響き渡るほどの大声で叫んだ。

 

 

「大魔王ゾーマじゃねぇかァァァァァッ!!!!!」

 

 




お読みいただきありがとうございました。

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