それじゃあ続きを話すとしよう。
ぶっちゃけ今まで話したことは序章にすぎない。
ここからが本題だ。
自分の見た目が完全に『大魔王ゾーマ』になってしまった俺。
思わず『大魔王ゾーマじゃねぇかァァァァァッ!!!!!』と叫んでしまうのも仕方ない。
そして出た声も今までの聞き慣れたものじゃなかった。
なんというか、魔王っぽい感じの怖い声になってしまっている。
その事実が俺をより一層混乱させた。
もうパニックよ。
意味もなく川のそばを歩き回り、川を覗きこんで自分の顔を確認し、また歩き回る。
何をやってるかなんて説明できない。
そうせずにはいられなかったんだよその時は。
だが、めちゃくちゃ混乱している俺を更に混乱させる出来事が起きた。
───ズドーンッ!!!!
村の方から馬鹿でかい音が聞こえてきたんだ。
もう訳がわからない。
正直無視しようとも思った。
どうやって元の姿に戻ればいいのかも分からないし、誰にも見られるわけにもいかない。
だけど……村人の悲鳴だけは無視できなかった。
何か良くないことが起きている。
だからといって別に助けてやる義理なんてないし、なんなら俺が助けて欲しいくらいだ。
ほとんどの人間は俺のことを助けてくれなかったとはいえ、食べ物を分けてくれた優しい人間がいることも事実だ。
それでも自分の命が最優先であることは揺るぎない。
そんな優柔不断な俺が出した結論が……ちょっと様子だけ見てみよう、である。
++++++++++
「ギャハハハハッ!! 有り金は全部奪えッ!!」
「了解だぜお頭ァッ!!」
……うわー、海賊だー。
物陰に隠れながら村の様子を見てみれば、何気に初めて見るガチの海賊が村を襲っていた。
こんな化け物の姿をした俺だが、心は至って普通。
怖いものは怖い。
……いや、怖くはないな。
何故か不思議な程に怖くはない。
だから……できるなら助けて上げたい。
でもどうやって?
自分に何ができるのかまだ全く把握していないのだ。
どういう訳か恐怖心が麻痺しているが、実はあの海賊がめちゃくちゃ強い可能性だってある。
助けたいという気持ちはあるが、いざ行動に移そうとすると不安ばかりでてきてしまう。
分かりやすく言えば、ビビっていたんだその時の俺は。
でも状況は待ってくれやしなかった。
「きゃあっ!!」
「お頭ァー!! この娘は高く売れるぜェッ!! 連れて行こうッ!!」
「シルファッ!! おのれ海賊共ッ!! 黙ってりゃいい気になりやがって!!」
「おお? なんだやる気か?」
うわー、一触即発じゃん……。
女の子の1人が海賊に連れて行かれそうになった。
そのことがきっかけで海賊と村人の全面対決が始まりそうになっていたんだ。
「どのみちここで海賊共に食料を奪われちまったら冬は越せねェッ!! やってやろうぜッ!!」
「そうね、言う通りだわッ!! 戦うしかないのよッ!!」
「儂ぁ戦うぞッ!!」
「俺もだァッ!!!」
「あたしも戦うわッ!!!」
殺気立つ村人たち。
まともな武器なんてほとんどなく、大半の村人がトンカチや鍬を構えている。
だが、その程度で怖気付く海賊じゃない。
「ギャハハハハッ!! 威勢だけはいいなテメェらッ!!」
「調子に乗ってんじゃねぇぞ村人風情がよォッ!!!」
「やっちゃいやしょうぜお頭ッ!!!」
……最悪だ、一刻の猶予もない。
いつ殺し合いが始まってもおかしくない状況。
あぁぁぁ、クソったレッ!!
今日はなんだってんだッ!!
激マズ果実を食べて『大魔王ゾーマ』になってしまった挙句、そのタイミングで海賊が襲ってくるってどんな確率だよッ!!
でも、どうにかしたい。
どうすればいいんだチクショウッ!!
この時の俺は冷静じゃなかった。
とてもじゃないが冷静じゃなかったんだ。
だからあんな……馬鹿みたいな考えを思いついてしまったんだろうな。
ん、待てよ。
そういや俺の見た目って……大魔王ゾーマだよな。
ただ姿を現すだけで海賊はビビって逃げて行くんじゃね?
もっと効果的に、ガチで大魔王ゾーマのロールプレイしたらビビり散らかすんじゃね?
……と、考えた。
その時は本当に名案だと思った。
無駄な戦闘することなく海賊共を追い払えて、村の皆を守ることができる。
完璧だ、これより素晴らしい作戦は他にない。
馬鹿だよな。
でも色々なことが起こりすぎて冷静じゃなかったんだから許して欲しい。
「うぉぉぉぉッ!! 覚悟しろ海賊共ォォォォッ!!」
「海賊の怖さを思い知りやがれッ!!!」
もはや時間はなかった。
2秒後には殺し合いが始まってしまう。
だから俺も決断しなくちゃいけない。
ええいっ!! もうどうにでもなれ!!
そして俺は物陰からその姿を現し、第一声にこう言ったんだ。
「───誰だ。わしの眠りを妨げる者は」
海賊、村人。
全員がエネル顔になった。
お読みいただきありがとうございました。