大魔王ゾーマになってしまった男の末路   作:黒雪ゆきは

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006 二人だけの秘密。

 ペローナとの出逢いによって色んなことが変わった。

 何より今まで曖昧だった現状の把握が完全にできたことが大きい。

 原作において、ペローナは確実に20代だったはず。

 つまり今は原作以前の世界だということだ。

 

 でも、分からないこともある。

 まったくと言っていいほど……『物語』が思い出せないんだ。

 主人公の『ルフィ』を始めとする登場人物の名前や色々な島の名前なんかの知識はある。

 俺があの奇妙な果実を『悪魔の実』だと分かったのもそのせいだ。

 

 知識だけならほぼ完璧なのに、どんな物語だったかは分からない。

 ルフィは一体どんな冒険をした? 

 ったく、一番肝心な部分だろうが。

 

 ……それさえ分かりゃできるだけ原作に関わることなく平穏に過ごせるのに。

 この世界には化け物がたくさんいるから、いくら大魔王ゾーマの力があるとはいえ慢心なんてできやしないんだ。

 警戒しすぎるくらいがちょうどいい。

 

 ただ……これは直感だがこのまま平和のまま過ごせる、なんてことはない気がする。

 根拠などない。

 ただの直感。

 

 なんだろうな、『大魔王ゾーマ』になった俺の宿命として、いつか必ず運命が狂いだす日が来る気がするんだ。

 上手く言い表せないが、正直確信に近い。 

 

 まあ、考えすぎても意味は無い。

 とりあえず今はペローナの今後について考えよう。

 はぁ……どうしようか。

 不安しかない。

 

 

 ++++++++++

 

 

 ペローナとの生活が始まり約1年の時が過ぎた。

 最初は俺にしか心を開いておらず、他の人間との関わりを極端に避けていた。

 でも今となっては、俺が日課としている街を見て回る散歩には付いてくるようになったんだ。

 

 これは大きな進歩だと思う。

 0と1の間にとてつもない差がある。

 ペローナは大きすぎるトラウマを抱えているにも関わらず、自ら一歩踏み出したんだ。

 俺は心から尊敬する。

 

 どれくらい時間がかかるかわからないが、このままいけばいつの日か必ずペローナはまた人を信じられるようになると思う。

 それまでは俺が支えてやればいい。

 

 ……ただ、未だに決断できずにいることがある。

 

 

 それは───俺の“正体”についてだ。

 

 

 ぶっちゃけ、個人的にはバラしてもいいんだ。

 その方がよりペローナも安心出来ると思う。

 同じ『化け物のような人間』であるとわかった方が、安心できるだろう。

 

 ただペローナはまだ子供で……ものすごく口が軽そうなのである。

 

 今は大丈夫でも、いつの日か他人と普通に関われるようになった時にバラされてしまうのではないかという不安。

 心配しすぎかもしれないが、人々のあまりにも大きくなってしまった信仰心にビビってるんだよ俺は。

 

 もしかしたら受け入れてくれるのかもしれないが、そうじゃないかもしれない。

 その不安が脳裏にこびりついて離れず、ペローナに正体を明かせず1年の時が流れたんだ。

 

 はぁ……どうしたもんか。

 

「ん? どうかしたのかゾーマさま? 悩みごとなら私が聞くぞ!」

 

 座り心地の悪い玉座に座りながら頭を悩ませていると、顔の周りをふわふわと浮かんでいるペローナが覗き込んできた。

 誰かいる時は俺の影に隠れていることが多く、『ホロホロの実』の能力を使うことなんて決してない。

 まだ、周りの人間から気味悪がられてきたというトラウマは払拭されていないのだ。

 

「なに、他愛ないことを考えていたに過ぎん」

 

「そうか。ふぁ〜、私はそろそろ寝ようかな。おやすみゾーマさま」

 

 そう言うと、ペローナはふわふわと奥の部屋へと消えていった。

 その後ろ姿を見送りながら、俺はやっぱり決断できずにいた。

 

 

 ───幸か不幸か、この悩みは今日限りとなる。

 

 

 ++++++++++

 

 

 ペローナは夢を見た。

 否、見ているという表現の方が正しい。

 

(……またここか)

 

 見慣れた教会の見慣れた部屋。

 様々な人間に無視され、気味悪がられてきた場所。

 ここには彼女のトラウマが詰まっている。

 なぜかはわからないが、ここが夢の世界だと完全に認識できるのだ。

 もうこの夢を何度見たか分からない。

 

 とても馴染み深い悪夢だ。

 

 

 ───カサッ

 

 

「……ん? なんだ?」

 

 この夢は何度も見ている。

 なのに聞き慣れない音が聞こえた。

 思わず振り返ったが誰もいない。

 だが所詮は夢。

 この程度、気にする必要も無い。

 

 ペローナはドアノブに手をかけ、ガチャりと開けた。

 とても綺麗とは言えない、古く劣化した廊下を歩く。

 しばらく歩くと、シスターがいるのが見えた。

 そしてシスターと目が合った。

 

 

 ほんの僅かに───シスターの顔が引き攣る。

 

 

 きっと本人は気づいてないと思っているだろう。

 だが、不幸にもペローナにはそれが嫌でも分かってしまうのだ。

 

「あ、あらペローナ……ご飯ならすでに準備しているわ……」

 

「ありがとシスター」

 

 

 とはいえ───もう彼女は1人ではない。

 

 

 彼女の顔は曇らない。

 もうどうでもいいのだ。

 

 

『ゾーマさま以外はどうでもいい』

 

 

 自分と同じ化け物。

 1人じゃないと心から思わせてくれる存在。

 ゆえに、怖くない。

 どんなに気味悪がられようと、どんなに避けられようともう怖くないのだ。

 

 

『ゾーマさまさえいてくれればいい』

 

 

 彼女自身に自覚はないが、これは『依存』に近い感情。

 

 

 ゾーマとは、ずっと1人で生きてきた彼女がようやく見つけた居場所なのだ。

 この事実が彼女の心をどれほど光で照らしたことか。

 暗闇の世界で生きてきた者が決して見ることのないと思っていた光を見つけたのである。

 絶対にその光を失いたくないと思うことは、至極当然の感情だろう。

 

 ほぼ無表情でシスターの横を通りすぎるペローナ。

 それからしばらく歩けば、他の孤児のみんなと出会った。

 

「うわぁ〜! 幽霊女だ! 幽霊女が来たぞ〜! みんな逃げろ〜!」

 

 きゃははは、と笑いながら逃げていく。

 子供の純新無垢な悪意がペローナを襲った。

 だが、やはり彼女は動じない。

 

「テメェらなんか、こっちから願い下げだっての」

 

 うんざりする夢だ。

 でも、ここまで来たらもうすぐ夢から覚める。

 あと少しでまたゾーマさまに会える。

 

 そう思えばこんな嫌な夢でも───

 

 

 ────カサカサッ

 

 

「なんだ??」

 

 またあの音が聞こえた。

 この音はなんだ? 

 その答えだけが分からない。

 振り返ってみるもやはり誰もいない。

 

「一体何が───」

 

 

 ───ドサッ

 

 

 唐突に姿を現したそれは───存在するはずのない超巨大なゴキブリだった。

 

 

 ++++++++++

 

 

「ギャアアア〜〜〜〜〜〜!! ゴキブリ〜〜〜〜!! ゾーマさま〜〜〜〜!!」

 

 ペローナは飛び起きた。

 その勢いもあいまって意図せず幽体離脱してしまう。

 そしてあらゆる壁をすり抜けながら彼女はふわふわと飛ぶ。

 いち早くゾーマの元へと行くために。

 

「ゴキブリ嫌い〜〜〜!! 怖いよゾーマさま〜〜〜!! 助けて〜〜〜!! え〜〜〜〜〜ん!!」

 

 そう、彼女は完全にパニックとなっていた。

 馴染み深い悪夢かと思えば、最後にとんでもない化け物が登場したのだ。

 半狂乱となるのも仕方ないだろう。

 

 当然、この時の彼女の脳内に『ゾーマとの約束』などありはしない。

 

 寝室にだけは入ってはいけないという、とてもシンプルな約束だ。

 しかし、勢いそのままにペローナは壁をすり抜ける。

 そしてたどり着いてしまう。

 ゾーマの元へと。

 

「ゾーマさま〜〜〜〜!! 怖いのゾーマさ……え?」

 

 そこに居たのは大魔王ゾーマではない。

 普通の青年だった。

 ペローナとほぼ歳の変わらない普通の青年だ。

 

「……マジか。こんな感じでバレるんかい」

 

「え、えぇぇぇ!? ゾーマ……さま!?」

 

 

 この日───二人だけの秘密ができた。

 

 

 ++++++++++

 

 

 今年で俺も二十歳。

 なんとかこの化け物が蔓延る世界で生き残れている。

 島も順調に発展し、『街』は『都市』になった。

 城も完成してめちゃくちゃいい感じだ。

 

 ただ……完全に魔王の城とその城下町って感じなんだよなぁ……。

 

 なんでこんな禍々しい感じのデザインにしちゃったんだろう。

 黒を基調とした街並み。

 完全に魔族の世界って感じなんですけど。

 

 まあいいか。

 

 とりあえず、今は鍛錬に集中しよう。

 

 

 ───『サイコキャノン』

 

 

 収縮された闇の魔力が弾丸の如く打ち出され、海で大爆発を起こす。

 ふむ、まあまあだ。

 原作の世界が近づいていることに危機感を覚えた俺は、いつからか忘れたけど本格的に鍛錬するようになった。

 

 呪文は割とたくさん使えるようになった。

 

 覇気は……難しいね。

 

 具体的には武装色の覇気がまったくと言っていいほどできない。

 見聞色の覇気は、多分この第三の目のおかげもあるんだろうけど、割とすぐに扱えるようになった。

 

 そのおかげでひとつ出来るようになったことがある。

 

 それは───擬似的な空島化だ。

 

 どういうことかというと、俺の第三の目による千里眼と見聞色の覇気を組み合わせることで、ほぼ完全に犯罪をなくすことができたのだ。

 千里眼と見聞色の覇気によってこの島全域を見通し、犯罪者を見つければめちゃくちゃ加減した呪文によって攻撃する。

 そしてその場所に警備隊を送ればいい。

 

 はい、犯罪率ほぼ0の実現だわ。

 この事実は、またしてもこの島の発展を加速させた。

 ……最近はこの島の噂が広がり過ぎてちょっと怖い。

 原作のヤバい登場人物とか来ないか不安。

 

 覇気には得意不得意があるらしいけど、俺の場合は完全に見聞色の覇気に偏ってるんだろうな。 

 でもどんなに鍛錬しても武装色が全くできんのはなんなん? 

 まあ、俺には『闇の衣』があるから防御面は多分大丈夫だけど。

 

「ホロホロホロホロ! お前も飽きねぇなー、ゾーマ」

 

 ペローナの声が聴こえてきた。

 正体がバレた『あの日』以降、ペローナは俺のことを呼び捨てするようになった。

 せめて外では“様”をつけろって言ってるのに……もう諦めたけど。

 あと、今でもペローナは俺の傍を離れようとはしない。

 それどころか……なんかより一層懐かれてる気がする。

 

「チェリーパイ作ったぞ! 食うか?」

 

「あ……うむ、いただこう」

 

 今では普通に外に出られるようになったペローナ。

 でも未だに俺の側に居続けている。

 

 良くないと思うんだよなぁ……これだけは。

 

 世の中にはたくさんの幸せがある。

 ペローナは今まで辛い思いをしすぎたせいで視野が狭くなり、その幸せが俺の側にしかないと思っているんだ。

 まあ、俺は別にいいんだけどさ。

 ペローナのことを考えると、本当にこれがベストなのか分からない。

 

 一回だけ、かなり遠回しに俺の側を離れる気はないのか? と聞いたことがある。

 結果、ガチ泣きされた。

 それ以来この話題は出せずにいる。

 

「美味いか?」

 

「うむ」

 

「そうか! また作ってやるからな!」

 

「…………」

 

 

 こんな嬉しそうな顔されたら何も言えないって。

 

 

 ++++++++++

 

 

 波を切る豪快な水音と共にその船は進む。

 船上には奇怪な服装の男と、黒服姿の人間が数人。

 

「何としても『大魔王』をペットにしたいんだえ〜! わちしの“珍しい奴隷コレクション”に加えたいんだえ〜!」

 

 

 ───純粋なる悪意がゾーマの元へと向かっていた。

 




大魔王ゾーマの設定について。
ヒャド系以外にも色々な呪文を使える感じです。
具体的にはドルマ系やサイコキャノン、ジゴスパークなんかです。
ただ回復魔法はなしでいきます。
あと、大魔王ゾーマの指の数は四本です。
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