訳ありはどこにでもいる。簡単な話。   作:諸喰梟夜

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とうとう日付的にいつなのかわからないこれが来たね



12.【識】残当というやつか

 

【識】

 

 あ、私たちヤバイことに首突っ込んでるんだ、と察したのはいつ頃だったろう。結構早かったかも。しかし楽しい!が勝ってたから目をそらしてきた。結局は私も、その場の空気に流されやすい性質(タチ)のようだ。………けど、

 

「あれ、でも今日剣道部は休みじゃないって教室で聞いたけど」

「そうなの!?怪しい!なんかピンと来た。ちょっと尾行(つけ)てみよっか」

 

 …これはそろそろ無視できないかもしれない。

 ひとまず状況の整理をしよう。あのあと私たちは、司波君に攻撃を仕掛ける襲撃者の撮影に成功し、その写真を使って生徒会に匿名で通報した。しかし待てど暮らせど音沙汰はなし。司波君の状況も何一つ変わってはいない。

 そして、そういえば魔法って写真に写らないよね…*1とかなんとか話してたら、くだんの剣道部主将・司甲先輩を発見したわけで。

 

「シキ?どったの?顔がひきつってるけど」

「いやあ、さすがに尾行はまずいんじゃないかと」

「大丈夫だよ、私たちなら!本当に危ないと思ったら逃げよ!」

「…まあ、そう…だよねぇ」

 三人は意気揚々と、しかし忍び足で尾行を開始。それを後ろから見ている私………言いにくいんだけどさ、私知ってるんだよね…。誰かと連絡を取りつつ、こそこそ隠れて陰から攻撃を仕掛けるの、見覚えがあるといえばある。…で、それが何を意味するのかも、大体の察しはつくんだよね。

 最初はそれっぽさがあるかなぁ…程度でしたが、今ではもう確信の域にあります。なんということでしょう。こんなビフォー&アフターは嫌だ。

 でも言ったところでこの三人は止まらない…どころか、さらに躍起になるだろうし…………しょうがないなぁ…

 

「招聘しますか……有識者」

 私は一通のメールを送信した。この面々に引き合わせるのは若干気が引けるけど、ここは彼を呼ぶのがたぶん手っ取り早い。ごめんね、でも私だって不安なものは不安だからさ。

 

「おーいシキ~」

「はいはい今行きますよーっと」

 …"逝"にならないことを祈りつつ、ね。

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

「やっぱりかぁ…」

 小声でそうつぶやいたのが答え。いやはや懸念した通りになってしまった。残当*2というやつか。

 

 我らが尾行のターゲット、司甲先輩はどんとん細い脇道へ入っていった。キャビネットで通学してるのはたまたまだけど私も見た。やはり帰路ではない、か。うーん…でも誘導されてる感が否めない。覗き込むと誰かと電話しているらしい。

 

「電話してる…?」

「シキ、あのスキル使える?」

「いや、やめた方がいい。向こうに思いっきりバレる」

 私のあの順風耳(仮)、欠点の筆頭として挙がるのが、相手の近くの空間に微量ながら想子(サイオン)光が発生してしまうこと。まあ日中なら太陽光に紛れてくれるけど、それでも極力相手がそんなの気に留めていられないような状況でしか使いたくない。こんな薄暗くて人気のない場所じゃなおさらバレバレだ。

 

「そっか…じゃあ仕方ないっ」

 エイミィはそう言うと脇道へ踏み込んだ。ほのかと雫もあとに続き、三人は物音をたてないよう慎重に近づいていく。わぁ~マジか~……まあここまで来てついていかない手もないけどさ…。

 …と、通話を終えたらしい司先輩が突然走り出すではないか。

 

「っ!?」

「気づかれた!?」

「わかんないけどとにかく追うよ!」

 いや気づかれたでしょさすがにこれは!言っても仕方ないけど!

 もう決定的に後戻りできなくなったと思いつつ私も走る……けど向こう速いなおい…!

 

「速い…っ!」

「…っ、あーもう、頑張るしかないなあっ!」

 渋々私はぐんっと前に躍り出た。「識!?」と驚いた声がしたけど、どうせとっくに学校の監視システムの外、加速系は私の十八番なんでね!

 しかしたぶん向こうも使っていたんだろう、たいして差は縮まらなかった。そうして角を曲がると―――司先輩の姿は消えていた。

 

「あれ!?いない…」

「撒かれちゃったか…はぁ……っ!?」

 息を整えていたら突然聞こえてきたエンジンのうなり。顔を上げると目の前には四台のバイクが立ちふさがっていた。

「なっ、何ですかあなたたちは!?」

そう叫んだほのかの隣で、私がつぶやいたのが冒頭の、というわけで。

 

「合図したら走るよ。CADのスイッチを」

 雫があくまでも淡々とそう告げる。ほのかと雫はお互い恐怖で身を寄せあっているように見えて、互いに互いのCADのスイッチを入れ合う格好だ。考えたね…私はさっき思いきってスイッチ入れちゃったからもう関係ないや。

 あちらさんは何やらしゃべっているけどガン無視して、「Go!」の合図で駆け出した。

 

 すぐさま「逃がすな!」とかなんとか叫んで追いかけてくる…勢いよく壁を駆け上がってみたけどしまったこれ援護できないじゃん何も考えてなかった。

「ただの女子高生だと思ってなめないでよね!」

 しかし、あやうく捕まりそうになっていたエイミィは魔法で相手を地面に伸していた。自衛的先制攻撃…やだなんて甘美な響き。私も欲しかったよその語彙力!

 そしてほのかの閃光魔法も決まって、追っ手の足が鈍くなる。あれ、逃げ切れちゃいそうだなこれ。……とか思っていた時期が私にもありました。

「くそ…化け物め!これでも食らえ!」

 何か切り札が、と思って軽く振り向いた途端、脳を直接揺さぶるようなノイズが響き渡った。

 

 

 

 

 

*1
あまりにも今更であった。

*2
残念だけど当然





・識
一歩引いて見れるタイプの自由人。しかし常識人かと言われると……少なくともあの五人の中ではだいぶ常識人度低い。先に言っておくが彼女はそこそこヤバイ。
CADは指輪型、得意分野は加速系。本当に危ないと思ったら逃げるのを援護しようと思ってたけどやらかした。
順風耳もどき(相変わらず名無し)の欠点のひとつが紹介されました。むやみやたらに使わない(少なくとも本人的には)、その大きな理由。

"大体の察し"……何らかの組織がいることには気づいてる。

・ほのしずエイミィ
少女探偵団(公式)。原作(優等生)とおおむね同じ
勇敢で機転も利くけど、だからって。

・尾行対象
原作と同じ。というかこちら側に関して言うことはない

・有識者
手近な一人を巻き添えにしてやって来る模様

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