優等生、残るは11巻だけになったタイミングで
2nd seasonとか南海騒擾とかに売場を譲って近所の書店から消えちゃったよ\(^o^)/
2095/5/15(日)
【螢】
ピピピピ、という高い音で意識が浮上した。目覚まし時計に手を伸ばして音を止め、液晶に"5月15日(日) AM 8:28"と表示されているのを確認して、また布団をかぶった。
今日は休日、つまり休む日。と言うのなら目いっぱい体を休めるに限る。いつも通り、10時半くらいまで寝てしまおう………
「………る……ほ…る!……起きなさい、螢!」
「…うぅ……ん…?」
呼び掛ける声に身じろぎしたとたん、つかんでいた掛け布団が引っ張られ、ばさあっと剥ぎ取られた。眠い目を擦り、視線をさまよわせ、時計を見るとまだ"AM 8:44"。15分くらいしか寝られていなかった。掛け布団を畳んでいる母に思わず不満げな顔を向けてしまう。
「何…?」
「起きたわね?お友だち来てるわよ!」
「は…?」
寝起きのふらつく足取りで一階のリビングに下りると、インターホンモニターがまだ点いていて、玄関先の様子を映している。
「………っ!!?」
その光景に、眠気は一瞬で吹き飛んだ。慌てて玄関まで走り、魚眼レンズを覗いて確認するけどやっぱり同じ。と、レンズ越しに目が合った識が話しかけてきた。
「およ?ほたるん起きた~?」
「識…?聞いてないんだけどあたし?」
「ほたるんも一緒にお出掛けしよって電話かけたんだけどなぁ~…
「そこはあたしに直接かけなさいよ!!あと光井さんと北山さんはわかるけどなんで司波さんがいるの!?」
「まあそこはおいおいね☆」
「お……っ、相変わらず行動力だけカンストしやがって…!!ちょっと着替えてくるから待ってて!!」
「相変わらず頼んだら来てくれるほたるんやっさし~☆」
「うっさい!!!」
玄関扉に背を向け、玄関を破壊しない程度に最大限のスタートダッシュを切る。一体全体識は何を考えて、とか言ってる場合じゃない。大急ぎで洗面所に寄り道したのち、階段を駆け上がって自室に飛び込んだ。
❁ ❁ ❁ ❁ ❁
【雪】
ショーケースに見入るクラスメート二人の声を聞きながら、ちらりと隣の小柄な少女を見やりました。つい最近、先生や叔母様との間で話題に上ったばかりの人物。…宍倉螢。まさか、こんな早くに接することになるなんて。
今日のショッピングについて、ほのかと雫から提案されたのは金曜日のこと。その時B組にも顔を出してエイミィと識も誘っていたけれど、土曜の放課後になってエイミィから急用が入って来られない旨を伝えられたそう。
そうして当日の朝。集合場所に決めていた駅前で待っていると、雫、識、ほのかの順番でやって来ました。
「落ち着かな~い!」
メンバーが揃ったところでそう言ったのは識。膝に手をついて困ったように眉を下げています。
「どうしたの?識」
「だってぇー…いやまあエイミィのドタキャンは聞いてたけど、基本的にみんなと私ってエイミィ経由だし…」
「確かに…言われてみれば、エイミィだけいないのは初めてだね…」
「慣れてるメンツがいないと私は弱いんだゾ…」
落ち着かない!と声に出してしまうあたり、弱いとは言えない気がしますが?…などと思っていると、「…よし」と身を起こした識がどこかに電話を掛けました。
「あ、もしもし?…はい、識ちゃんです~。あのですね、ちょっと娘さんを借りに行きたいんですけど、大丈夫ですか?……あ、ありがとうございまーす!ではまたあとで!」
「えっ」
「識?」
通話を切ると、きょとんとしている私たちの方を向きます。とてもいい笑顔で。
「識…今、"借りに行く"って…」
「それじゃ、ちょっと寄り道としゃれ込みましょう☆」
住宅街の一角にある二階建ての家。ああもう!!と叫びながら奥に引っ込んでいった螢は、けれど思いのほか早く出てきました。服装も素朴ながらセンスの感じられる組み合わせ。
そして現在、先程とは打って変わって楽しげな識、相も変わらず不機嫌そうな螢、そしてほのか、雫、私の五人は、広いショッピングモールの中を散策している最中です。
「ふゎ………っと、はーやっべ急に眠気」
「はしたないわよ識」
「生理現象だから仕方ないんですぅー。ほたるんこそクレープ買い食いしてんじゃん」
「朝ごはん食べてないの……誰かさんが急に呼び出さなきゃ、昼前まで寝てるつもりだったんだから」
「そういえば識、螢のお母さんとも仲いいんだ」
「うん。"この子ってば誰に似たのか不器用だからいつもフォローありがとうね~"って」
「んああぁぁ!もうなんの公開処刑よこれ!?司波さんといいワケワカンナイのよ識の人脈!北山さんも「雫でいいってば」………っ」
…あら?雫がむすっとしてる。横からこっそり教えてくれたほのか曰く、「雫でいいって何度も言ってるのにずっとスルーされてる」とのこと。そんな雫を相手に、螢は明白にたじろいでいる様子。
「ほたるんて呼び方に関しては頑固なとこあるよね」
「……なんか…慣れなくて」
「かわいいかよ知ってた」
「これから慣れていけばいい。私もほのかも、もう螢って名前で呼んでるんだから。遠慮しなくていいよ」
「…わかった。…雫、ほのか」
「ついでに深雪も名前で呼んじゃう?お兄さんもいるらしいし」
「初対面だけど!?……でも、そうね…いいわ。深雪」
「!…ええ、よろしくね、螢!」
…識からの予想外のパスと、すんなり受け容れた螢に驚きはしましたが、結果的に距離が縮まったように思えました。…ほのかと雫がふらついたのは何でしょう?
❁ ❁ ❁ ❁ ❁
精神干渉への適性を失い、第四研を去ったという"
『どうも私たちの世代では既に、宍倉は魔法師としてもう衰退寸前だったようで…私も深夜も全く面識はなかったわ』
『…それは、つまり』
『四葉との繋がりはないといってもいいほど希薄。調査の結果としても、彼女はこの事を知らないと見ていいでしょう』
「あたし、深雪とは初めて会った気がしないわ」
そう聞いていたので、帰り道で螢がつぶやいたその言葉に内心どきっとしました。私がその顔を見ると、螢も前の三人に向けていた視線をこちらに寄越してきます。
「螢…?」
「なんとなくよ、なんとなく。別に深く考えなくていいわよ」
それだけ言って正面に向き直った螢にこれといって変わった様子はなく、どうやら本当になんとなく思ったことを口にしただけのよう。安心できるような、できないような……と思っていると、ほのかの「あれ?」という声が聞こえました。
「ほのか?」
「ねえ…このあたりって、こんなに人通り少なかったっけ…?」
はっとして見わたすと、いつの間にか辺りは無人。混雑する大通りからひとつ奥に入った通りとはいえ、小洒落た店がいくつか立ち並んでいます。しかも今日は休日。…にもかかわらず、店から人が出てくる気配すらありません。
「一旦大通りに出る?」
「そうしよう」
識の提案に雫がすぐさま乗る形で、大通りに通じる道を目指します。…と、ほのかが肩を震わせていることに気がつきました。
「ほのか、大丈夫?」
「ぅ…お、思い出しちゃって」
「大丈夫、今は深雪がいるから。それに螢も」
「あたしもって何?」
「ほたるんてば頼られてるぅ」
「識はいっぺん黙って」
私がいるから大丈夫、と言われるのは嬉しいけれど複雑です…。
…それにしても……この異様な状況でほのかも雫も不安げにしているのに、あとの二人は妙に平然としているような……そう訝しんだとき、ガシャン!という音が響き渡りました。
「っ!?……カメラが」
音は斜め上から。近くの街灯についていたカメラが、横から強い衝撃を受けたように破片をまき散らしながら吹き飛ばされていました。一見して魔法の痕跡はなし。となれば、まさか…?
「識!」
「言われなくても!」
螢があげた叫び声に、識がきょろきょろと辺りを見渡し、別のカメラが壊れた瞬間に「あっち!」と遠くに見えるビルを指差しました。
「へ!?ちょっ、識?」
「スナイパーとはテンション上がるねぇ」
「上がらないよ!?ねえ待って!?」
「大丈夫大丈夫、ここで狙われてるのは」
識の姿がブレた、と思った次の瞬間には、識を後部座席に引きずり込んだ黒いワゴン車が走り去っていくところでした。
「…えっ」
「「識!?」」
あまりにも一瞬の出来事に思考が止まって、ほのかと雫の叫び声で我に返りました。…今、目の前で起きたのは明らかに誘拐。私と雫はとっさに追いかけようとして―――その手を螢に掴まれました。
「ちょ、ほた」
「大丈夫よ、あの程度」
彼女がそう言い終わるのと、視線の先で黒いワゴン車が突如スピンして横転するのがほぼ同時でした。
・螢
休日は全力でだらけるタイプだが、視覚情報で叩き起こされた。完全に問題児(識)に振り回されるしっかり者(螢)の図
それでいて仲間(識)には全幅の信頼を寄せる
四葉の遠縁。しかし本人はそのことを知らない。
衰退寸前の家に産まれた、かつてのような高い魔法力を持つ人間である
・深雪
螢と識の二人にすっかり精神的に揺さぶられまくっている。可哀想
あなたの心から笑顔は破壊力がすごいんですよ
・ほのか
破壊力に当てられてふらついた
不穏な気配に以前の一件を思い出してざわついたけどそのあとの急展開についていけない
・雫
破壊力に当てられてふらついた
クエスト『螢に名前で呼んでもらう』達成!…したと思ったら!?
螢を信頼してる理由は17話に
・識
行動力をはじめとして色々とおかしい。言ったでしょ?そこそこヤバイって
・エイミィ
伏線とかではないごく普通の急用
・宍倉翠
序盤に出た螢の母
・作者
たわいもないお出掛けを書けないことに定評がある
・『紫芝』
諸流の中で精神干渉の適性を突発的に失い、自発的に名を変えて第四研を去った家。(もろもろの時期的にこの設定が可能なのか不安ではある)…分家が名前を変えるスタイルは変わらず。ほとんどの家系は四葉との縁を残していて、大漢報復に同行し壊滅。縁が切れていた『宍倉』『月芝』の二家が残った。
なお、『月芝』は現代魔法からも離れてしまっているので出る予定はない。