訳ありはどこにでもいる。簡単な話。   作:諸喰梟夜

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衝撃に備える姿勢もそろそろ慣れてきたことかと存じます。引き続きよろしくお願いします。
あと整理を諦めた文字数の暴力です。
回想シーンから始まっていることにもご注意ください。



28. " 泣いてもわめいても通行料 "【雪】

 

【雪】

 

『そもそもの話、彼はもともと高塔という名前じゃなかった。一度名前が変わってるんだよ。彼の出生名は、弥勒寺(みろくじ)幻人』

『弥勒寺…?』

『そう。そして彼の父の名は弥勒寺幻猷(げんゆう)。…過激派反魔法団体としても知られる宗教団体、《星人教》の現教祖だ。反魔法を唱える集団の長のもとに生まれた第一世代の魔法師……それが彼なんだよ』

 

 星人教…60年ほど前に興ったという新興宗教団体。教義の中に反魔法を含み、過激なテロ活動で世間に知られていました。ですが―――

『星人教は…20年以上前に、解体されたはずでは…?』

()()()()ね。残党はどうしたって出てくる。その中で再興に向け誰よりも積極的に動いていたのが、最高幹部の一人にして新たな教祖を名乗る弥勒寺幻猷だった。しかしそんな矢先に、彼が生まれてしまった…というわけさ』

 

 お兄様も私も、少しの間言葉を失っていました。…いえ、お兄様は口に手を当てて、何か考え込んでいる様子でしたが。

『それで、彼は他の家に引き取られた、と?』

『それが、"引き取られた"というような穏便な流れじゃなかったみたいでね…。彼が書類上、今の名前になったのは10歳の頃。養子として迎え入れたのは高塔哲裕(てつひろ)。当時現職の神奈川県庁職員だった』

『現役の県職員?』

『さすがと言うか、幻人くんの過去の戸籍はそれはもう巧妙に隠匿されていてねぇ、今回一番苦労したのはそこだったよ。で、この高塔哲裕は星人教の元信者だったようでね』

『脱会して彼を引き取った、ということですか?』

『うん、時系列からしてもどうやらそうらしい。彼…高塔哲裕自身に何があったかはわからないけど、少なくとも彼は幻人くんの味方に回った、ということみたいだ』

 

 なるほど…先生でも難航する調査となったのは、戸籍に関わる本職が隠蔽を行っていたから、でしたか。

『付け加えておくと当時、高塔哲裕の家には弟で外科医の高塔克裕(かつひろ)が同居していた。具体的にどのタイミングで発現したかまではわからないけど、今の治癒魔法の腕前には少なからず彼の影響があると見える』

『医療関係者が身近に…確かに、治癒魔法の使い手としてはこの上ない強みですね』

『そういうことだ、医学書に目を通したりしていたのかもしれない。

 

……けど、高塔哲裕・克裕兄弟はその翌年に殺害されている』

『…えっ?』

『…それは…』

『なんでも、マンションの一室が蜂の巣のようになっていたそうでね…周辺で魔法が使われた痕跡は一切なし。まあ十中八九、星人教が絡んでいると考えられている。幻人君はわずかな血痕だけ残してそれからしばらく行方不明……そして二年後、山道をさまよっていたところを深瀬家当主・深瀬(いづる)に保護され、現在に至る。…以上が彼の経歴だよ』

『…報告した、"キャスト・ジャミング避け"は』

『名残だろうね。行方不明になっていた…恐らくは星人教から逃げ回っていた頃の。見たところ彼の魔法力はかなり高い。特に、躊躇なくばらまけるほどの想子量。とてもじゃないが第一世代とは思えないほどだ。異様な反応速度とやらも、もしかすると何がしかの知覚系魔法かもしれないね』

『…そうですか』

 

❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 識が語った内容は、八雲先生が語ったものとおおむね同じ内容でした。戸籍の改竄辺りの話はさすがにありませんでしたが…しかしその代わり、先生も把握しきれなかったであろう、"星人教を追放され、高塔家に保護されるまで"が補われていました。

 …高塔哲裕氏が彼を(かくま)ったのは、治癒魔法で救われたから。しかし、魔法を使ったことから実の親に命を狙われ、親代わりになって保護してくれた人も突如失った。本人不在のまま繰り広げられたそんな身の上話に、ほのかも雫も、エリカまですっかり言葉を失って………話している識と平然としている螢以外、すっかり沈鬱な雰囲気になっていました。

「…識…その、こうして人に話すには過激すぎないかしら」

「まあ残念だけど事実だし、遠慮も慈悲もないよ。ご本人の言葉を借りるなら『泣いてもわめいても通行料』だからね」

「…識あんたそれ言いたかっただけでしょ」

「そりゃそうよ声に出して読みたい日本語じゃんこんなの」

「そう…まあいいけど。とにかく、実家がまだ幻人を狙ってるってのが目下の問題として…あら」

「おっと時間切れかあ」

 

 ピピピ、という小さな音。そこで話を切った識は、ポケットから携帯端末を取り出してテーブルの中央に置きました。画面には着信の表示。その相手は…

「…深瀬」

「…衛くん?家の用事で休みって話じゃ」

「今からするのはその()()の話。…もしもーし聞こえる?」

『聞こえるよ。こっちの声は?』

「問題ないよー。今カフェにいるから音量控えめでね」

『カフェ…ってことは、やっぱり接触あったんだね。螢は?あと誰がいる?』

「この通りいるわよ。あとは…E組の千葉さんは予想外だったけど、おおむね想定してた通りのメンツね」

『千葉さんも来てるんだね、了解』

 

 画面越しに聞こえる穏やかな声。けれどその向こうからは、サイレンや怒鳴り声がたびたび聞こえていて…お兄様や雫、エリカは険しい表情を浮かべていました。ビデオではない音声のみの通話なので、向こうの様子は見えません。

「…ただ事ではない状況のようですが…?」

「じゃ単刀直入に…衛君、用件を聞いてもいい?」

 

『それはもちろん。…星人教の拠点の強制捜査が終わった。幹部はおおむね取り押さえたけど、教祖には逃げられた。以上』

 

「「「「「っ!?」」」」…識!?落ち着くって」

「そうだよ?まあ強制捜査の話自体は前からあったし日程も決まってたけど。…しっかしやっぱ完全に押さえるのは無理だったかぁ」

『そらそうよ。逃げ足だけが取り柄なのは前からじゃん』

 なんてことないように話す識。そしてそこへ、携帯端末の向こうから唐突に割り込んできた違う声…聞き覚えがありますが…

「お、幻人君!どうだった?」

「げんっ、え!?いるのそっちに!?」

「大丈夫なのか?捜査現場にいて」

 …やはり渦中の人物、高塔幻人その人。思わず叫んだほのかをなだめつつお兄様の質問にうなずくと、向こうからは笑い声が返ってきました。

『はっはー大丈夫大丈夫、もうこうまでなっちゃえば赤の他人と相場が決まってる』

『初耳やが?…まああとは大人の領分やから、未成年の我々はこれから帰りますよーっちゅう報告や』

 さらに割り込んできた声はもう一人。結界術を使っていた…月田庸介といいましたか。

「これで五人揃ったね…りょうかーい。誰か怪我したとかは?」

『こっち側は特に誰も』

「うむ!くるしゅうない」

『急にどの立場やねん』

『そんじゃまたねー』

「はいな~……とまあ、こういうわけで。これでしばらく…もしかしたら残党の悪あがき程度はあるかもだけど、しばらく私たちを本格的に狙ってくることはなくなった。だから大丈夫。ね」

 電話を切って笑顔を浮かべる識。隣で頬杖をつく螢もふぅ、と息をついて口許を緩めていますが…私たちは言葉を失っていました。

 識がすっかり冷めたコーヒーに手をつけた頃、沈黙を破ったのは雫でした。

 

「あなたたち…いったい何者なの?」

 雫?とほのかが小声で問いかけますが、雫は無表情で無言のまま。一方の識と螢は、数秒ほど呆気にとられた様子でしたが…螢からはあきれたように、識からは少し真面目な様子で返答がありました。

「…そんな大したものじゃないわよ」

「強いて言うなら~…"百家支流・深瀬と愉快な仲間たち"かなー。それ以上でも以下でもないよ」

「…そう」

「そんな固くなんないでよ雫ぅ~そりゃあ確かに今日はこんな一大イベントの日だったけどさぁ」

「失敗するかもとか思わなかったの?」

「おっと容赦ないねエリカ(お嬢)ちゃん…そこは大丈夫、そこは深瀬の人脈の見せ所。協力してくれるところはいっぱいある。だからほら肩の力抜いて??」

「接続詞が仕事してないわよ識……それじゃ、主目的は果たせたみたいだし私は帰るわ」

「「「「えっ!?」」」」

 

 眉尻を下げる識の隣できっぱりと言って立ち上がった螢。私も思わず声が出てしまいとっさに口を押さえました。当の本人は立ち上がったその姿勢のままジト目を向けてきます。

「…何」

「い、いや…ほんとに帰っちゃうの?」

「…私のおうち自体は一般家庭だから。深瀬一派にいるのは私だけよ。この危なっかしい行動力お化けを放っておいたら何が起きるかわかったもんじゃないんだから」

 螢は拗ねた様子の識の背後に回ってその背中をばしばしと叩き、識は「痛っ、ちょ、痛いっ」とうめいています。…彼女が一般家庭とは言えない血筋であることをお兄様と私は知っていますが…本人はあずかり知らぬこと。もちろん口には出しません。

 

「…()()()()()()()()()、とでも思ったかしら」

「「「っ…」」」

 螢の言葉に思わず息を呑みました。それはまさしくあのとき…識の誘拐未遂に出くわしたあとで、雫がこぼした言葉。

「それはそう、違って当たり前よ。私たちにはこの通り深瀬一派っていう世界がある。…でも特別じゃない。深雪の生徒会とか、識の狩猟部とか、その辺とそう変わらないわ。なければ一緒、関係性はそう簡単に変わりはしないわよ。だから安心しなさい。識もね

「…ほたるん今日めっちゃ喋るじゃん」

「あんたが拗ねて機能不全だからよ、しゃんとしなさい!」

「痛ぁい!」

 再び二人の掛け合いが始まる一方で、もやもやしていた気持ちが霧散していくように私は感じました。

 

「だから背中痛いって…あーもう、すっかりほたるんにレスキューされちゃったや」

「やっぱり識に他人の説得なんて百年は早いわね」

「ねえ耳にも痛いじゃん…私はさ、みんなから真面目に心配されてるんだってわかって、それでなんとか安心してもらうために今回こう…みんなにサプラーイズ!したわけで…ね?」

「…さすがに荒療治が過ぎると思う」

「ん~~うん…まあ、発案は幻人君だし…」

「識はノリノリだった時点で同罪でしょう、反省しなさい」

「………"善処するわ"」

「喧嘩売ってる?」

「アッいや待ってごめんて…その、わざわざこんな集まってもらうほどとは思ってなかったし、そこはごめん。またこれまで通りに接してくれると嬉しいかな~なんて」

 

 どこか困ったような笑顔で冗談めかしたように話す識。…それに真っ先に口を開いたのは、

「…わかったよ」

「雫?」

「精一杯私たちを安心させようとしてることは。…けど、やっぱり放っておいて他人事にするなんてできないよ」

「んぇー…やっぱダメ?」

「ダメ。だから、せめて困ったときには頼るくらいはしてほしい」

「うー…あんまり巻き込みたく「わかったわ」…ちょ、ほたるん!?」

「ナマ言ってんじゃないわよ識、最善の妥協案でしょうが。関係修復したいならごちゃごちゃ言わずにこれくらい呑むべきよ」

 

 …螢の情け容赦ない物言いに私の思考も止まりかけましたが、識はテーブルに両ひじをついて頭を抱えました。

「そ…っかぁ……あんまりなことは押し付けられないからね?」

「もちろんそれはわかってる」

「…ほんと、雫にも敵わないや」

「見ての通り、こいつ押されると弱いからこれからはガンガン押していきなさいね」

「よ、余計なこと言うんじゃありませんッ!」

 ほのかや雫がふふっと笑い、いつのまにか場の雰囲気はすっかり穏やかなものに変わっていました。

 

 

 





・深雪
先にある程度は知ってたけど深瀬の用事には驚いた

・識
心配や警戒がまともに突き刺さって弱体化。バイオレンスほたるんのおかげで背中が痛い
すぐ螢といちゃつくけど百合は咲きません念の為

・螢
やはり名前ほど儚くも可愛くもない、本日のMVP
引き続き容赦はログアウト中。耳にも痛い
識に対しては常にアドバンテージがある強者

・雫
ガンガン斬り込んでいく今回のキーパーソン。

・ほのか
途中から完全に置いていかれるなどしていた

・達也
先にある程度は知ってたけど深瀬の用事には驚いた
あくまで付き添いを貫く感じで今回影は薄い

・エリカ
突然のお嬢ちゃん呼びで数秒フリーズするなどしていた

・幻人
旧姓:弥勒寺。こんな重たい身の上話を他人に任せるとかいう所業。俺たちにはできないことを平然とやってのける。そこにシビ(ry
なお、目からハイライトは消えているかもしれない。慈悲もなし

・衛・庸介
報告担当。お疲れっした~
なお今回の筋書きを考えたのは衛

・八雲先生
冒頭のみ登場。幻人君のことは大層気になるご様子

・作者
前後編にしなかったのはこのタイトルを使いたかったから。いやほんと声に出して読みたい日本語じゃんこんなの。
などと供述しており

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