訳ありはどこにでもいる。簡単な話。   作:諸喰梟夜

30 / 33
やっとバスのくだり進められる感じになったので、"せめて章は作っときたくてですね"をこっちでも

2095/7/16(土)



九校戦編
30.夏の舞台を前にして【識】/【螢】


 

【識】7/16sat

 

「すご~い!おめでと~!」

「うぉ、え、あ、あぁ…うん…」

「コノハ、コノハ待って押しが強い、押しが」

 いつものメンバー、食堂にて。異性に詰め寄られて激しくうろたえるゆっきー君は見てて面白いとは思うけど、さすがに助け船を出さないほど薄情じゃない。躊躇なく歩み寄っていくコノハを後ろから抱きすくめて引き留めておいた。…密かに豊かな果実の感触を楽しんだのは、まあご愛嬌t

あ痛っ!?…何だいほたるん」

「バレてないとでも?」

「ナンノコトヤラー」

「まあまあ、それより本当におめでとう之晶」

「あー…ありがとう。まだいまいち実感湧かなくてな」

 

 照れくさそうに頭をかくゆっきー君。…いったい全体何がおめでたいのかというと、この我らが幻人君と衛君が頼るD組の級友ゆっきー君(枕詞が長い)…もとい聲元之晶君が、九校戦の出場選手に内定したことだ。選手内定の決め手となるのは7月に行われる定期試験の結果。お察しの通り彼は好成績を納めたわけだ。努力の人つよい。ちなみにD組からは女子がもう一人出るとか。

「競技は決まったの?」

「いや、まだだな」

「なるほど協議中」

「絶対それ言いたかったやつだろ」

「バレた?」

 ジト目で見てくる之晶君にてへっ☆と舌を出しておいた。はじめは我々女子を相手にするとノンストップ挙動不審に陥るレベルだったけど、近頃はだいぶ慣れてきた感じがあって…なんか、成長を見守る親の気分が早くもわかりつつある。けど私より先にほたるんに慣れてたのはなぜだろう。ちらりと見るとほたるんも視線を返してくる。

「日頃の行いよ」

「日頃の行いやな」

「心読むのやめてもらっていい?」

「分かりやすいのが悪い…まったく、同じ選手内定者のくせしてなんなのかしらこの差は」

「…えへ?」

 

 …そう、そしてほたるんの言う通り、この私こと古御堂識も選手内定をもらっているのだ。もともと想子の量と操作能力には恵まれてる感じの私だけど、それでも実技8位は頑張った方だと思う。…ただ、出場の方はいまいち気が進まないでいるけども。

「…事情はわかるわよ」

「…ありがと。まあやれるだけ頑張るけどさぁ。競技はこれだ~!ってのがあるし」

 

 

 ❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 

【螢】

 

「シ~キ~~!このこの~!」

「あっはっは~!全然効いてないぞ~!」

「…何を見せられてるの?あたしたちは」

「まあまあ…」

 抱きつくエイミィ、抱きつかれる識、背景になって見守るあたしたち。思わずこぼしたらほのかになだめられた。つい睨んでしまって、ほのかはびくっと肩を震わせている。…いや、だって端から見ても意味不明でしょこの状況。ここからどうしろと。

「いやーエイミィは比較的慎ましやかな方ではあるけどこれはこれでぁ痛ぁ!

 とりあえず本人を目の前にして平然とセクハラを口走る識はぶっ叩いておいた。幸いにもエイミィ本人はよく聞いてなかったみたいだけど雫が本気で引いてるから。やめろ。

 

 まあ絡み合いになってる理由はわかる。あたしたちはあたしたちで集まって勉強会をしていたこともあって、識の出場決定が発足式でお披露目な感じになったからだろう。…7月に行われた定期試験の総合結果。とりあえず深雪、ほのか、雫がトップに並んでいた。エイミィは…7位かそこらだったか。フルネーム長いから目立ちそうだけど、あたしはあまり気にしてなかったから厳密なところはわからない。

いつものメンツの中で選手内定を受けていた識は11位。実技8位だったのが大きかったらしい。之晶は理論10位の総合16位。衛がその下の17位。…聞くところによると、コノハとあたしはギリギリの21位、22位だったらしい。本当に衛はどこからこういう情報を貰ってくるのかしら。…にしても。

「幻人は予想通りのランク外…ね」

「予想通りって?」

「…"周囲がやる気満々だと冷める"って。ふざけてんのよあいつは」

「…手抜き…ってこと?この試験で??」

「理解できなくていいわよ。幻人のやる気がないのはいつものことだもの」

 

 はいはいどうどう。ポカンとした表情の雫をなだめておく。九校戦につながる今回の試験に並々ならぬ熱意を向けていたことは知ってるから。

「本気を見たこと…は…まあ、あるわよね…」

「そんな言いよどまなくていいわよ深雪。そうね…本気で望んでれば、氏名公表の対象にはなるでしょうね。まあ選手内定はなんとかして蹴るだろうけど」

「そんなに…」

 勉強会ではあれほど勉学のペースにラグがあるなんて感じさせない快進撃を見せていた幻人だけど、蓋を開けば139位(衛情報)。呆れてものも言えないのにも、もはや慣れつつあってやばい。

「地力は高いのよ、本人は自覚してないかもしれないけど。入試の方も、深瀬家から圧かけられてなかったら間違いなく二科だったと思うわ」

「圧かけられてたの…?」

「ウケるよね~」

「いやウケないけど…」

 

 識がしれっと会話に入り込んできたところで、「そういえば」と深雪がこっちを向いた。

「そのD組の深瀬君も、内定を辞退したって聞いたのだけれど」

「え!辞退!?」

「あ~…」

 識と顔を見合わせると、うんうんとうなずいていた。…ほのかや雫、エイミィは驚いてるようだけど、私たちにとっては特に驚くことじゃない。だって、

「「衛君/あいつ運動能力が絶望的にないから」」

「そっ……いや、でもさ、ほら」

「そういうの関係ない競技もある。スピード・シューティングとか」

「おぉ、とっさに出せるあたりさすが九校戦マニア」

「思わず建前から言っちゃったわね…深瀬は毎年、大会運営側に噛んでるから。中でも衛は救護班のヘルプに行くのよ。幻人と、あとコノハも手伝いで一緒だって」

 

 衛と幻人が救護班で出動する、とは結構早い段階で聞いていた。先月末ごろ。そして治癒魔法を早くマスターしたいというコノハもついていくことが決まったのは先週のことだったりする。背丈は逆の師弟関係に頬が緩みそうになったりしたけど閑話休題。

「救護班?」

「そっか…そういえば運営側に深瀬って名前はあった。けど、学生のうちからそっちに回るのは、なんか意外」

「まああとはあいつが本番に弱いってのもあるけど…あの家は慣習的にそうしてるのよ。そもそも風紀委員やってる奏さんがどの競技にも出てないの、不思議だと思わなかった?」

 あ~…という声を今度は四人があげる側だった。蛇足ながら奏さんは総合5位と言っていたか。本当に頭も良くて強い、あたしの憧れだ。

「あとそのコネを借りて、あたしと庸介も会場来るからね」

「「「「……………え?」」」」

 

 四人が仲良くフリーズした。識はうつむいて口許を押さえて、笑いをこらえている様子。

「「「「えええええ!?」」」ちょ、それ本当!?」

「本当だけど…仮に嘘だとしても、こんなしょうもない嘘ついてどうするの」

「さすがほたるん、ネタバレに躊躇がない」

「?…別に隠すことでもないでしょう?」

「…そこはほら、サプライズの精神でさ…」

「…あんたのサプライズの精神がろくでもないから学習したってことにしておいて」

「クリティカルが過ぎるぞ貴様~!」

「…そういえば、競技は決まったの?」

 

 目を潤ませて肩をポカポカ叩いてくる識を押しのけたところで、エイミィがそう尋ねてきた。…いや、もちろん私にじゃなくて識にだけど。「んー?」と識が顔を上げる(もう涙目の痕跡はない。切り替えが早くて結構)。

「あれだよあれ…クラウド・ボール」

「クラウド・ボールって…螢とコノハが入ってる部の?」

「私選ばなかったやつ!え~おんなじ競技出ようよ~」

「や、だって私の十八番(オハコ)自己加速ぞ?動かなきゃ意味ないぞ??」

「あと識は中学から経験者で、実力はあるからね…正直、今の私でも勝てるかどうか」

「そんなに…?」

「そんなによ」

 驚いた様子の四人を横目に考える。現代魔法特訓の一貫としていろいろ魔法競技にも触れていた識だけど、クラウド・ボールは得意魔法のラインナップ的にとても相性がよかったらしく、私よりも圧倒的にうまくなっていった。あたしも引っ張られるように上達しはしたけど、なかなか追い越すことはできないでいる。…コノハは私より善戦できるだろうけど、どうなのかしら。

 

「こういうこと言っちゃうものアレだけど…なんで今は狩猟部なのシキ…?」

「新しいことがしたかったからでーす!^^それに動物大好きだし」

 びしっ!と手を挙げ、笑いながら振る識。エイミィは「そっかぁ」と笑って流していた。…雫はまだ納得しきれていない様子が窺えるけど。

「悩んでも無駄よ雫。識()は識()なんだから」

「ほたるん?なんか含みを感じたよ今??」

「…そうだね。識は識だよね」

「そうだね???」

 

 

 

 

 





・識
総合11位。出場するよ。けどいまいちやる気がない。理由についてはまたあとで。作者が不安になるレベルで安心と信頼の変態

・螢
総合22位。安心と信頼のツッコミ担当(ただしややバイオレンス)、出場はしないがコネで行く。こんなことサプライズ精神を使うまでもなくない?

・雫
総合3位。九校戦に並々ならぬ情熱を注ぐため、幻人や衛には驚いた

・エイミィ
公式の数字わからんけど総合一桁ではあると思う。部活仲間の思いがけない特技にびっくり。そういえば加速系が一番得意って言ってたね…。

・深雪
総合1位。辞退されたことを会長も渡辺先輩もあまり深刻に受け止めていない様子だったのはそういうことでしたか…。

・ほのか
総合2位。どうしても影が薄くなりがちで申し訳ない…

・之晶
総合16位。出場する。異性苦手はだいぶ克服できてきたけど押しが強いコノハは苦手

・衛
総合17位。でも家優先で出場はしない。むしろしても無理なのでこういう家でよかったと思ってる、本番に弱いタイプ。試験はなんとか大丈夫だったらしいが。

・幻人
総合139位。正真正銘やる気がない。ラグについては家庭の事情。

・琥ノ葉
総合21位。救護班に参加表明してOKもらえた。わーい

・庸介
総合55位。コネで来ますよ。実はまた別の目的もあったり。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。