訳ありはどこにでもいる。簡単な話。   作:諸喰梟夜

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どんどん亀更新になりつつある
2095/8/1(月)


31.夏の舞台の道すがら【識】

 

【識】

 

「それで、色々確認しておくために幻人君たちも前乗りしてるってこと?」

「そそ。とりあえず『待たせたな!』くらいは声かけとくつもり」

「いや声のかけ方」

「もっと何かあるでしょ…」

 さてさて、あっという間にやって来た8月1日。とはいっても今日は九校戦会場に出発する日で、大会自体は明後日からなわけだけど。

 ちなみに現在、本来出発しているはずの時間なんだけど生徒会長がおうちの用事で遅れるとかでバスは待機中。

 

「結局いつものメンバーなんだね」

「とは言っても、ほたるんと庸介君は大会運営の手伝いに入るし、あとは救護班だし…って感じだから、そう都合よく会えるかはわかんないけどね…あ、会長来た」

 窓の外、風紀委員長の渡辺先輩と司波君のもとへ駆け寄る生徒会長…七草先輩の姿。

 時計を見ると、乗り込んでからすでに一時間以上は経過していた。雑談してたらあっという間だったね。…おや、バスに乗ろうとした会長が戻って司波君に話しかけている。

「気に入られてるみたいだねぇお兄様…」

「どうかした?」

「いや?どうもしないよ?」

 不思議そうに訪ねてきた雫にはなんとなーく誤魔化しておいた。特に深雪はかなり本気で()()()()()()()てるから、見たらちょっと嫉妬とかしちゃうかも……あれ、なんか会長困惑させてるな。ウケる。

 

 

 さて、いよいよ走り出したバスの中。前方の上級生が何やらわいわいやってる一方で、…こちらはなんだか冷えきった空気になっていた。物理的に

「ありがとうほのか。でもごめんなさい、まだそんなに喉は渇いていないの。私はお兄様のように、この炎天下に、わざわざ、外に立たせられていた訳じゃないから

「あ、う、うん、そうね」

 ほのかが深雪に差し出したお茶を引っ込めつつ、慌てたように相づちを打った。…深雪が怖い。なんか会話に入ってこないなーとは思ったけど、どうやらお兄様の処遇にたいへんおこでいらっしゃるらしい。この日常風景にその読み聞かせスピードは普通に怖いです。

 と思いきや今度はうつむいて、普段よりワントーン低い声で何やらぶつぶつ呟き始めた。内容に目を瞑れば完全にホラー映画の音声ですありがとうございました。私の軽口も今ばかりは機能不全です。困った。とりあえず、隣のほのかがちょっと涙目なの気づいてあげて…

 

「でも深雪、そこがお兄さんの立派なところだと思うよ」

 そこで突然口を開いたのは雫。身を乗り出すように見せかけて自然と、違和感なくほのかと席替えすることも忘れずに。そして虚を衝かれたらしい深雪に雫はさらに(まく)し立てる…こら拝むな拝むな。

「バスの中で待ってても文句を言うような人は、たぶんここにはいない。でもお兄さんは『選手の乗車を確認する』っていう仕事を誠実に果たしたんだよ。確かに出欠確認なんてどうでもいい雑用だけど、そんなつまらない仕事でも手を抜かず、思いがけないトラブルでも当たり前のようにやり遂げるなんて、なかなかできることじゃない。深雪のお兄さんって、本当に素敵な人だね」

 立て板に水のごとくすらすらと出てくる褒め言葉。ちょっと見え隠れするトゲが気になるけど、これを平然と言える雫よ…。私ですら背中がむず痒いのに、正面からまともに食らって無事なのか?とほのかの背中をさすりつつ様子をうかがうと、当の深雪は数秒固まって目をぱちくりさせたあと、

「…そうね、本当にお兄様って、変なところでお人好しなんだから…」

 少し赤くなった頬に手を当てて微笑んだ。…あ、冷気も引いてきたな。危うく外に出たらフリーズドライになるところ…こら、ガッツポーズしない。

 

❁ ❁ ❁ ❁ ❁

 

 荒ぶる氷の乙女騒動*1のあと、なにやら男子勢が深雪にお近づきになろうと集まってきて、見かねた渡辺先輩により席替えが強行されるなどした。

「ねえいくら揺れが少ないとはいえ走行中のバスの中めちゃくちゃ動き回るじゃんみんな」

「あはは…みんな気持ちがアガってるんだと思うよ?私もだけどさ」

 ぼそりと呟くと、隣のエイミィが苦笑いを浮かべた。私は座席数の加減で深雪たちについていかなかったけど、どさくさに紛れてエイミィが隣の席を確保してきたのはさすがに笑った。

 通路を挟んで反対側の先輩に話しかけているエイミィを尻目に、何の気なしに窓の外を見る。…しかしここは高速道路上。いくらバスの窓は高い所にあるとはいえ、外を見ても銀色の防音壁。…どうしよう、退屈になってきた。周りのみんなには申し訳ないけど、やっぱりいまいち興が乗らなくて…

 

危ない!!

 突如として前方から響いた叫び声に振り向いたら、大勢が反対側の窓に視線を向けている。「パンクだ」「脱輪じゃ?」という声から察するに、対向車線で事故かな……そう思った次の瞬間、数人が悲鳴を上げた。

「…はっ?」

 …理由は、私の位置からでもはっきりと見えた。ガード壁を乗り越え、宙返りしながら飛んでくる事故車の姿が。

 

 

「…みんな、大丈夫?」

 急停止したバスの中、一番前の列から通路に顔を出した七草先輩の言葉に、ぽつぽつと肯定の返事が聞こえた。

「危なかったけれど、もう心配いらないわ。十文字くんと深雪さんの活躍で、大惨事は免れたみたい」

 七草先輩の言葉通り。火に包まれた事故車がバスに激突する大惨事は、深雪*2と十文字先輩*3の二人によって手際よく回避された。

 …いや、あいにく無事にとは言えなかったけど。パニックになった数人が事故車に向かって魔法を使おうとしたお陰で、一時車内は想子(サイオン)の嵐のような混沌になっていた。なんか一瞬で綺麗さっぱり消えてたけど。…妙にタイミングがよかった気もするなぁ…。

 

「それと…識でしょう?」

「えっ?」

 突然名前を呼ばれて身を起こすと、渦中の深雪がこっちを見て微笑んでいる。…まさか。

「急ブレーキの時に掛かった魔法。慣性でつんのめることがないように止めてくれたでしょう?」

「識!?」

「古御堂さん、あなただったの?」

「…立ち歩く人多いなと思って、考えてたんですけど…使うことになるとは思いませんでした」

 バ…バレてる~^^;!いやだって走行中にもかかわらず席替えまでしてるしちょっと心配だったんだよ!それで吹っ飛ばないためにはどんなのがいいかなって勝手に考えて、座標で定義する収束系がいいかなと思って。コスパ度外視で長時間は無理だし安全面もちょっと不安だったけど、結果的には大成功だった。そしてめちゃくちゃ疲れた。

 先輩方から称賛のコメントをもらったけれど、疲労と羞恥で顔を上げられなかった。スミマセンチョットムリデス……あぁでも、一応みんなに報告しとかなきゃな…。

 

 

 

 

 

*1
勝手に命名

*2
消火

*3
障壁展開





・識
実はいまいち興が乗らないまま出発当日を迎えた。
荒ぶる乙女に対してできることはありません。なぜなら自分も荒ぶる側なので。
自分を中軸に座標を作ればあとは自分次第だよなという発想。理論上可能だけどどうなんだろこれ。とりあえず張り切ったのでめっちゃ疲れた。うまく行ってよかったよほんとに。

・深雪
おおむね原作通り。
気づいてましたよ?それにしても規模が大きめなので疲れてるだろうなとは思ってた。

・雫
冷静じゃなかった。反省。
識が冷静なのは驚いたけど、考えてみれば当たり前だったね…

・ほのか
!?

・エイミィ
!?

・先輩方
誰の魔法かまでは把握できてなかったので驚いた。なにぶん当人は後ろの方に残ってたので。
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