訳ありはどこにでもいる。簡単な話。   作:諸喰梟夜

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32.【識】たぶんそれは褒め言葉になる

 

【識】

 

 さて。道中アクシデントを挟みつつ*1、やって参りました九校戦会場。えーとこのあとは昼食、それから各自解散して部屋に戻って、午後に懇親会なる行事があるらしい。

 予定を確認しつつ、ホテルのロビーに入ってあたりを見回す。声をかけてきたエリカには軽く手を振っておいた。そしてそちらに歩いていく司波兄弟を尻目に、私もお目当ての人物を見つけて駆け寄った。

 

「待たせたな!」

「待ってない」

「ツレナアイ!」

 ロビーの片隅。かけた言葉に返ってきたのは冷ややかな視線。うんまあ、ほたるんのことだからこうなるだろうとは思ってたけどね。その隣で奏さんがくすくす笑ってるからいいか。

「ふっふふ…っ、通常運転ね、識ったら」

「わざわざ探してまで来たの?」

「そりゃね~?始まっちゃったら気軽に会えなくなるし?」

「かたや出場選手、かたや救護班と諸々の手伝いだからね」

「ほたるんは具体的に何するんだっけ?」

「運営側の手伝いが主だけど…私は基本的には救護班に入り浸ってる感じになるかしら。庸介は力仕事に駆り出されてくるって言ってたから、別行動になりそう」

「別にほたるんもだいたいの力仕事はできると思うけどな~普段からあれだけパワフルでバイオレン待って待って待っ………あぅ

 おもむろに顔めがけて手が伸びてきて、目を瞑ったらデコピンを食らった。

「実際にさせてもらえるかは別問題ね…それにしても、聞いたわよ?事故があったって」

痛い…その様子だと全然心配してないな?」

「若干はしてたけど"待たせたな!"で吹っ飛んだわよ。大体あんたがくたばるのが想像できないわ」

「それ褒め言葉として受け取っても?」

「勝手にしなさい」

「わーい!痛い」

 

 識、と後ろから名前を呼ばれてて、デコピン二発目を食らった額を押さえつつ振り向くと、深雪とエリカ、それからメガネをかけた女子が一人いた。

「なぁに深雪…あれ、エリカと…はじめましてかな?」

「あ、はい。柴田美月です。えっと、深瀬先輩と…古御堂さんと宍倉さん、でしたっけ」

「そうそう、やっぱり二人から聞いてる感じ?」

「はい、エリカちゃんが面白い子だって」

「面白い子かぁ~」

 チラリとエリカを見たら…あ、ほたるんに話しかけてて聞いてなかったみたい。お互いに蚊帳の外。こういうことさらっと伝えちゃう辺り、美月ちゃんとても純粋らしい。じゃエリカも言われちゃうのはわかってたかな。

「…どうかしましたか?」

「んーん?なんでもない」

「あ、私呼ばれてるから先に行ってるわね」

「はーい」

 

 軽やかな足取りで立ち去っていく奏さんに手を振って見送る。…と、そこに見覚えのある男性が通りかかって、思わず呼び掛けた。

「お?田久保さん」

 当の人物…田久保さんはすぐに気づいたようで、「おや」とこちらを見た。彼は深瀬の親戚筋の一人で、言ってみれば渉外を担当してる人だ。当然私も会ったことがある。そして…

「おはよう識ちゃん。そっちは宍倉さんだね、こんにちは」

「ええ…こんにちは」

「やーまさかこんなところで会うなんて…と思ったけど、そのカッコってことは運営側かぁ」

「そうだね。人手はあった方がいいからって呼ばれたんだよ。今はちょっと忙しいから、またあとでね」

「ん、わかった。またあとで」

「…識、あの人は?」

 再び背中を見送る私に、深雪が問いかけてきた。見ればエリカも美月ちゃんもキョトンとしてる。そりゃそうか。

「『深瀬』ってさ、実はよろず屋として一般にも門戸を開いてはいるんだよ。そっちを任されてるのが田久保さん。来てるってことは、よろず屋はお休みかな」

「へぇ…そんなお家なんですね」

「変わった家だよねぇ~知ってるけど」

「あっはは、たぶんそれは褒め言葉になると思うよ。それじゃ、行こっか深雪。長話しちゃったし」

「ええ、私たちも荷物を整理しないと。じゃあ二人とも、どういう関係者なのか知らないけど、パーティーで会いましょう?」

 

 エリカたちに用がある男子が来たようなので、雑談はその辺で切り上げることにした。案の定「おいエリカ、自分の荷物くらい自分で持ちやがれ!」と声をかけている。E組仲間かな…私二科のことはよくわからないからなー。気軽に行けないし、庸介君も人脈広げるタイプじゃないし…

「およ?ほたるんこっち?」

「たまたまよ。…じゃあまた、会場のどこかで」

「ねー」

「ねーじゃない」

「またね、螢」

「…ん」

 エレベーターの前までは一緒に来たけど、ほたるんは背中を向けて横の廊下へ歩いていった。…深雪の名前呼びにはまだ慣れてないっぽい。そういうとこはかわいいと思うんだけどなぁ。

 

 

 

 

 

*1
あの騒ぎで30分ロスしたらしい。長いんだか短いんだかよくわからないけどスケジュール上は問題ないとのこと





・識
有言実行。車内で寝落ちしたので元気
実はこんな大理石の塊みたいな場所に来る機会は少なくてちょっとテンションが上がり気味。

・螢
安定の塩対応。
心配はない、信頼はある。

・深雪
言われてた通り螢がいたので話しかけに行った。

・エリカ
こんなところでも螢と再会。お互いコネで来たことはわかるけど多くは話さない。

・美月
ここに来て初登場。
E組メンツ全然出せてないね…接点が薄いから仕方ないけども。

・奏
久々の登場、衛のお姉ちゃん。
笑いの沸点は低いのでちゃんとウケる。

田久保(たくぼ)基之 (もとゆき)
オリ設定のオリキャラが増える…本文で説明してる通りの立ち位置。深瀬の血筋で一応魔法師ではある。

深瀬がとても特殊


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