移動に支障が出るため、ヘッドギアは一時的に外した。
秋はデスクに片手をついて、シェリーの右側からディスプレイに映し出された棟の全体図を覗き込む。
クロノス棟は十六階建ての、一見何の変哲もない棟だ。
しかしフロアマップによると、七階から十五階にかけて円形の吹き抜けが作られている。棟全体を俯瞰して映しているこのマップ上だと、直方体の中に円筒が埋め込まれているように見えた。
「この赤い四角は何? 至るところにあるけど」
秋の質問に応じて、シェリーは十五階部分をクリックした。
画面が切り替わり、クリックしたフロアの平面図が大きく展開される。記載もより細かくなった。赤い四角の近くにある部屋に、「スタッフ用休憩室」と書かれているのまで読み取れる。
「爆弾の設置箇所よ。いざとなったら爆破して証拠隠滅するためにロックされた状態の爆弾が設置してあるから、その近辺では火器を取り扱わないようスタッフに通達されているの」
「爆弾と一緒に部下働かせてるの頭おかしすぎない?」
「あの方もアドニスには言われたくないと思うわよ」
シェリーが呆れたように言った。
一聞すると貶されているのかと思いかねない発言だったが、多分これは彼女なりの褒め言葉なのだろう。
あの方は頭がおかしい。しかしそれは「発想が非凡」と言い換えることもできる。
「確かに私の発想はあの方と別の意味で非凡だけどね……」
シェリーは物言いたげな目つきをした。
続いて、全てを諦めたような大きなため息を一つこぼす。
「それで、何を知りたいの?」
呆れ混じりの声で尋ねられ、秋は記憶を辿る。
『認識上の八周目』で萩原が爆死した時にいたのは、建物の中腹だった。クロノス棟は十五階建てだから、怪しいのは七階か八階だ。
「七階、八階に設置されているIoT機器は何かある?」
シェリーは棟の全体図に戻ると、八階の平面図を開いた。ざっと眺めてから、今度は七階の平面図を開く。
「目立った研究設備はないわね。ほぼ資料室みたいだし」
「些細なものでもいいよ。それこそIoT搭載のガス栓とケトルの組み合わせとか」
「それなら七階に職員用キッチンがある。研究員の待遇はアレウス棟と同じはずだから、設置されているガス栓と電気ケトルはIoT家電で間違いないわ。この個室にあるのと同じやつよ」
「……へぇ。ちょっとマウス借りてもいい?」
「ええ」
シェリーが椅子を引いてパソコン前にスペースを作った。
秋はディスプレイの前に立ち、順繰りにフロアマップを開いていく。
一階から七階をクリックすると長方形の平面図が、八階から十五階をクリックすると中央に丸い穴が空いた長方形の平面図が表示されていった。
どの階にも、「測定データ解析室」「動力供給室」「主実験ホール」「管制室」など、何のための部屋か分かるようで分からない名前の部屋がある。休憩室は七階と十五階にそれぞれ一つずつ。爆弾は一つのフロアに複数個設置されている。
最後の十六階には、吹き抜け用の穴がなかった。一階から七階と同じく長方形型の平面図だ。
そして爆弾が設置されていない唯一のフロアでもあった。食堂などの研究者向けの福利厚生施設が集まっているだけで、研究設備が置かれていない階だからかもしれない。
左上に表示された矢印をクリックして全体図へと戻る。
爆弾の配置箇所を俯瞰して眺めていると、とうとうシェリーが辟易とした声を出した。
「ところで、何を調べてるのかそろそろ教えてくれない? その爆弾のどれかが萩原さんの命を奪った原因とか?」
「いや、七階のフロアマップを見た時点で知りたかったことは全部分かったし、それ以降の行動は本筋と関係ないよ。ちょっとあの方がどんな感じで爆弾設置してるのかが気になっただけで」
「あのねぇ……。脱線する前にすることがあるでしょう」
「ごめんごめん」
謝ると、秋はもともと腰掛けていた椅子に向かう。
一から説明すると長くなる。このままの体勢で話し続けるのは無理だ。
秋が口で伝えるまでもなくシェリーは意図を汲み、自身のキャスター付きの椅子を引いて近づいてきた。
遊び中のすごろくが広げられたテーブルを挟んで向き合う形になると、秋は咳払いを一つしてから話し出す。
「萩原が『認識上の八周目』であの方の差金によって死んだことは伝えてあるけど、詳しい経緯は話したことなかったよね」
「ええ」
「一連の流れはこうだった。ループ終了地点が差し迫る組織壊滅作戦当日、作戦に参加していた萩原は爆弾解体のためにクロノス棟にいた。一方公安刑事に脅……説得された私は組織を見限って、このアレウス棟に研究データを盗みに入っていた」
「今脅されたって言いかけなかった?」
「言ってない言ってない。ともかく、華麗にデータを盗み終えた私は突然嫌な予感に襲われたんだよ」
あの時はなぜか「順調すぎる」と思った。
ここまで上手く行くわけがない、周囲の人が全員無事な状態で周の最後を迎えられるわけがないという強烈な確信に、突如として襲われた。
「だから私は事前に持たされていたインカムで萩原に連絡を取った。爆弾解体の状況を尋ねたら全て解体し終えていると即答されたものの、不安が拭いきれなかった私は会話を続けた」
シェリーが眉を顰める。
彼女の疑念は最もだ。
萩原は全ての爆弾を解体し終えていた。それなのに爆発は起こった。
「付け加えておくと、萩原の爆弾解体技術は確かだよ。解体し損ねた爆弾があった線はあり得ない。
会話を続けることにした私は、萩原が隠していた事実──私が認識している出会い以前に彼と知り合いだったこと──をピタリと言い当てる。いくら切れ者の萩原でも私の目は誤魔化せなかったわけだ。そう、あの時はまるでフィクションの探偵か名刑事のように天啓が降りたというか……」
「話を盛るパートは飛ばしてもらって構わないわ」
得意げな顔をしてペラペラ話していたら冷や水をかけられた。
秋は返事をする代わりに意味深に笑ってから、ワンテンポ置いて説明を再開する。
まともな返事をすることなくそのまま説明を進めることで、シェリーから不興を買うのと話を盛ってる事実を肯定するの、両方を避けるための小細工である。
「萩原は私に隠していた過去の出来事全てを教えると約束し、その瞬間彼がいたフロア全体が吹き飛んだ。建物の中腹のあたり、七階か八階での出来事だった」
シェリーはしれっと話を続けた秋に呆れたような目を向けていたが、内容が核心に至った瞬間表情をこわばらせた。
「爆弾は全て撤去されたか解体された後なのに、ワンフロアが丸々吹き飛ぶ大規模な爆発が起こった。それって……」
「あの方の仕業で間違いない。しかもやけにタイミングが良い。私も認識上の九周目終盤であの方の暗躍と彼がループ者である事実を知って、その結論に達した」
「なるほどね。一見不可能なはずの爆発にIoTが絡んでいるとアドニスが主張したいのは話の流れで分かったわ。でも前提条件は疑わないの?」
いよいよあの方が爆発を引き起こした手口の解説に入ろうとしたところで、シェリーが意を唱えた。
「前提条件?」
「萩原さんが解体に失敗していた可能性は疑わないわ。今となっては確かめようがないもの。『真実だと仮定する不確かな情報』のルールに則って、彼の証言を信じましょう。だけど、未発見の爆弾があった可能性は残っている。未発見の爆弾が、遠隔操作によって爆発させられたと考えれば筋が通る」
自説を変わらず支持するとしても、まずは彼女の主張を全て聞いてからにするべきだ。
秋は口を閉ざしたまま、目で続きを促した。
「例えば、あの方が事前にセキュリティマップを改竄していたとしたら。
アドニスがセキュリティマップを盗み出したのがいつなのか、私は知らない。もしかしたら、組織が各国捜査機関の動きにまったく気づいていないタイミングで事に及んでいたのかもしれない。
だけどどちらにせよ、ループ者であるあの方だけは組織壊滅作戦が決行されることを知っていた。そして『前の周』の知識を元に、クロノス棟のセキュリティマップが盗み出されると予測することも出来た。セキュリティマップを持ち出したのがいつであれ、彼がデータを改竄する余地はあった。
それにあの方には動機があるわ。クロノス棟に残されたデータを見れば、組織の研究とループの関連性に気付けてしまう。情報漏洩が起きないように折りを見て爆発を引き起こすため、あらかじめマップから爆弾の一部を消していてもおかしくない。実際、棟全体に爆弾を設置しているし、あの方が以前から爆発による証拠隠滅を視野に入れて動いていたのは明らかだわ。
わざわざIoTを持ち出さなくとも、この手口で爆発が引き起こされたと考えるべきじゃないの?」
「たしかに筋が通った主張だけど、あの方はセキュリティ情報を改竄してない。公安警察の捜査で爆発物は発見されなかったから、それは断言できる。あの状況じゃ、あの方が爆弾を使っていたなら公安が爆弾の破片を見つけてる。さらにあの方の思考に則って考えてみても、あの万年厨二病が爆弾確保のためにセキュリティ情報を改竄するとは思えない」
「アドニスの言動も似たようなものよ、一応言わせてもらうと」
息継ぎの間にシェリーがぼやいたが、秋は聞こえなかったふりをしてそのまま解説を続ける。
「なぜか。爆弾を残しておいたところで使い道がないからだ。
クロノス棟が制圧されてから時間が巻き戻るまでの間に、数日のタイムラグがある。その数日で、クロノス棟制圧に携わった捜査機関のどこかが爆発の原因を調べるのは想像に難くない。
捜査の結果棟の内部に残っていた爆弾が爆発の原因だと判明してしまったら、その爆弾がセキュリティマップに記載されていないこともすぐに突き止められる。何者かが事前にデータを改竄していたと発覚する。そうなったら警察組織はすぐ私に確認を取るだろうから、せっかく隠しておいた自身のループが私にバレるリスクが出てくる。
偶然公安が爆発物を発見できなかっただけであり、本当は爆弾を使っていた、という真相は考えられない」
これまでのあの方の行動を振り返ると、自身のループや組織の研究内容など、真相の核心に秋が気づく直接的な要因を着実に排除している。
未発見爆弾を使用するのは避けるはずだ。
「もう一つ付け加えるなら、自身のループがバレたらバレたで猪の牙で記憶を消せばいいや、と安直に考えていた線もあり得ない。あのタイミングで私があの方のループを知ったら、十五年前に戻ってすぐに姿を眩ませる選択をするかもしれないからね。組織相手に未成年が逃げおおせるのは難しいにしろ、膨大な手間とリスクがかかることに変わりはない。セキュリティマップ書き換え以外の方法を取るのが無難だ。
マップの内容は正確だった。だからクロノス棟にあった爆弾は全て解体されていた。そう考えていい」
シェリーの目から反論の色が消えた。こちらの主張に納得し、現時点で最も蓋然性が高いのは秋の仮説だと判断したらしい。
秋は背もたれにもたれかかるようにして胸を張ると、いよいよ本題に入る。
「全ての爆弾は無効化されていた。それなのに爆発は起こった。爆発の原因は何だったのか。──職員用キッチンにあるっていう、IoTのケトルとガス栓だよ。あの方はIoTテロの手口を利用した」
「IoTテロって?」
無駄に挟んでいる偉そうな一挙一動には触れず、真剣な声で即座に問われた。
秋もシェリーの態度にならって自画自賛を控え、さっさと解説に入る。
「これまでの周複数回で起こっていた大規模な爆破テロ事件。犯人はIoT家電への不正アクセスを利用して、遠方から大規模爆発を引き起こす。
例えば不正アクセスによってIoTに対応しているガス栓を緩めて部屋をガスで充満させ、同じくIoTに対応している電子ケトルに不正アクセスして負荷をかけまくる。負荷をかけられ続けた電気ケトルはやがて発火し、部屋は爆発する。これを応用してケトルの発火タイミングを調節すれば、ターゲットが問題の部屋に近づいたところで爆発を引き起こし、その余波で相手を殺すことが出来る」
「……確かにその手法を使えば捜査を混乱させられるでしょうね。いくら現場を調べても不審物は発見されず、見つかるのは電子ケトルの破片だけなんだもの。各国捜査機関が連携して調べたとしても、なかなか爆発の真相には至れない。そして『これまでの周複数回で起こっていた』ってことは、認識上の八周目ではIoTテロが起きなかった?」
シェリーが全てを確信した目つきで、肯定が返ってくると分かりきってる時の声で尋ねる。
少し話を聞いただけで、秋が長年かけてやっと気づいた真実に辿り着いてしまったらしい。
秋が短く「起きなかった」とだけ返すと、シェリーは納得げに呟いた。
「だからカモフラージュに最適だったわけね。その周では起こらなかった事件の手口を盗用することで、時間が巻き戻るまでの数日間のうちに爆発の原因を特定されるのを防いだ」
「そう。あの方はあからさまに爆弾を残したりはしなかっただけで、シェリーが指摘したセキュリティマップの改竄自体はしていた。一部のカメラやマイクの存在の隠蔽だ。捜査機関にセキュリティを全て無効化させたと思わせておいて、稼動している監視カメラを残しておけば、予想外の事態が起きてもリアルタイムで把握することが出来る」
先ほどシェリーが指摘した通り、ループ者であるあの方だけは組織壊滅作戦がいつ決行されるのかを知っている。これまで繰り返してきた経験によって、計画の段階で組織の主要な施設のセキュリティ情報が盗み出され、作戦当日は無効化されることも知っている。
だから、特に重要な研究を行っていた二つの研究所がどのような状況にあるか、遠方から確認する術を用意しておいた。病的な慎重さを持つあの方らしい。
爆弾の存在をマップから抹消したというシェリーの予測は間違っていたが、骨格は正しく捉えていたわけだ。
自身が提唱した説と同じ構造の話だから、飲み込みが早いのだろう。
シェリーはすぐに次の言葉を引き継いだ。
「そして、あの方は組織壊滅作戦当日、離れた位置から監視カメラ越しにクロノス棟とアレウス棟を監視していた。そしてアドニス達の会話を聞いた」
「慌てたと思うよ。せっかく猪の牙によって記憶を封じた私が、萩原に過去のことを教えてもらう約束を取り付けていたんだから。焦ったあの方は萩原を殺すことにした」
「だけどよっぽど上手くやらないと、組織壊滅のために集まった各国捜査機関によって手口を暴かれてしまう。何者かの介入によって萩原さんが死んだことや、棟内部にセキュリティマップから削除された監視ツールが残っていたことが露呈すれば、警察組織がアドニスに確認を取る。そこから足がついて、自分のループをアドニスに知られたら面倒な事態になる。よって爆弾を残しておかなかったのと同じ理屈が成立する」
正解だ。
秋はかつて散々鏡の前で練習した高慢ちきな笑顔を作ると、まとめに入った。
「あの方は、『巻き戻り』を迎える日まで各国捜査機関の目を欺くことが可能な手段を選択する必要があった。しかも萩原が私に過去の欠片でも話してしまうのを防ぐため、早急に彼の口を塞がなければならないという時間制約つきだ」
数日間とはいえ、組織壊滅のために集まった各国捜査機関の目を欺ける高度な手口。
そして、一瞬で思いついて実行できる内容。
これらの条件を満たす犯行方法としてあの方が選んだのはIoTテロ──もっと踏み込んだ表現をすれば、『認識上の八周目では起こらなかった犯罪手口の盗用』だった。
「ループ者が効率よく物事を進めようと思ったら、『以前の周』で他人が使った方法をパクるのが手っ取り早い。もっと未来で起こるはずのことだからまだ世に出ていなかったり、この周ではどうやら起きなそうだったりする高度な犯罪の手口をそのまま使う方が、自分で一からトリックを考えるよりも楽だ」
実際秋が提案した宮野明美の死亡偽装計画も、認識上の八周目でシェリーと怪盗キッドが共謀して行った、ベルツリー急行での死亡偽装に着想を得たものだ。
「だからあの方は『認識上の八周目』では起こらなかったIoTテロの手口を使った、と」
シェリーが締めくくる。
彼女の声がきっかけとなって、あの周の出来事が走馬灯のように脳裏を駆け抜けていった。
『認識上の八周目』の秋は、萩原、松田とともに、伊達航殺害犯である日下部誠を捕まえた。
そのため伊達航の殺害は未然に防がれ、ついでにその一年後に日下部が起こす予定だったIoTテロも防がれた。
『認識上の八周目』におけるあの方の視点で、IoTテロは「この周で起きなかった事件」だった。
だから数日間警察の目を欺く手段として選択された。
しかし、ここら辺の裏事情はシェリーに説明したところで意味がない。話を複雑にするだけで本筋に絡まない情報は伏せておいた方がいいだろう。
沈黙と表現するには短すぎる数秒間で、秋はそう結論づけた。
思考のために口をつぐんでいた時間はほんの僅かだったし、その間秋はいつもの如く無駄にキメ顔を作っていたから、他ごとを考えていたとシェリーに気づかれてはいないはずだ。
そもそも彼女は締めくくりの言葉を言ったあと考え込むように目を伏せているから、こちらに意識が向いていない。
秋の予測を証明するかのように、シェリーが目を伏せたままやや早口で疑問を口にし始めた。
「待って、だけど『いずれかの周で死んだループ者は記憶を継承できなくなる』という事実が判明したのは、あの方が認識上の九周目で萩原さんを誘拐して研究したからよ。認識上の八周目時点ではそのルールを知らないんだからその人を殺したところで……あ」
顔をあげたシェリーに口端だけで作った笑顔を見せてから、秋は彼女が今しがた思い至ったであろう反論を述べていく。
「そう。あの方は九周目が始まると同時に萩原を誘拐すると決めていた。次の周になって私が萩原に接触しようとしても、そのとき萩原は組織の研究所だ。あの方は再び巻き戻りが起こるまでの数日間を凌げればよかった」
萩原がループ者だと判明してすぐに彼を攫わなかったのは、周が終わるまで一年を切った時期だったからだろう。
せっかく萩原を誘拐して研究を始めても、一年も経たずに世界がリセットされるなら、『認識上の九周目』が始まると同時に誘拐して十五年間をフルで使った方が効率的だ。
もちろん、誘拐の時期を認識上の九周目開始直後に定めた要因は他にも色々あったはずだ。
元機動隊の体格のいい成人男性を誘拐するよりも十五歳の少年を誘拐するほうが容易い。
しかも、八周目の途中で動いたら萩原の失踪を訝しんだ秋が動き出す恐れがあるが、新たな周が始まるまで待てば、秋は全く手がかりを得られない。邪魔立てはされなくなる。
なんなら、お膳立てをしてやれば、唯一の邪魔者が現実逃避癖を発動して、自ら都合のいいカバーストーリーを用意することまで読んでいたかもしれない。
*
秋の駒が先にゴールマスに辿り着く。
一瞬の静寂の後、意味不明なスノードーム状の機械が七色に光りだす。
秋とシェリーはその様子を固唾を飲んで見守った。
いよいよレインボー双六の結果発表である。
認識上の八周目であの方が萩原を殺すために引き起こした爆発の手口が判明したからといって、事態が進展するわけでも状況が変わるわけでもない。
話が終わると会話中に立ち込めていた緊迫感は霧散し、どちらともなくすごろくで遊んでいた時と同じ環境を整えた。
すごろく中断前に弾き飛ばした駒は拾われ、秋の頭には再びヘッドギアがつけられる。中断していた測定は再開されて、その間暇だからレインボー双六で遊び直す運びとなった。
秋が駒を弾き飛ばしたせいで元の位置が分からなくなり、初めからやり直す羽目になるというアクシデントはあったが、無事測定が終わる前に結果発表を迎えることが出来た。
二人とも前科ポイントが大量についていて、稼いだ金は底をついている。これらの要素がどう結果に反映されるのかは不明だ。
ルーレットを回して駒を進めている時はひたすら無心でルーレットボタンを押していただけだったが、ここまで来るとやけに緊張してしまう。
やがて発光が終わった。
ルーレットから、機械的な合成音声が響く。
『結果は……』
アナウンスが一拍間をおく。
部屋は緊張で痛いほど静まり返っていた。
脳波測定機だけがウィンウィン言っている。
『全員生きてるので同率です。生きてればいくらでもやり直せる。死んだらおしまいですからね』
秋は心の底から「時間と労力を無駄にしたな」と思った。
子供向けなのを踏まえると妥当なのかもしれないが、クソみたいないい話風で終わった。