20年もの月日を復讐に捧げてきた蒼の竜騎士は
この先一生『彼女』を手放すことのできない未来を悟った
光の戦士には、ほとほとイヤになる。
「ちょっと第一世界いってくる」
そう言って、かれこれ一月以上帰ってこない。
彼女の話から察するに、第一世界は罪喰いというやっかいな魔物に支配された世界らしい。
そのへんに転がっている魔物であれば、少々攻撃をくらったところで、ケガ程度ですむ。
しかしその罪喰いとやらは、攻撃をうけてしまったが最後、自分も罪喰いと化して自我を失ってしまうという。
魔物には人の常識や感情といったものが通じない分、予想外の攻撃をくらうことがどうしてもでてくる。
長年竜や魔物と対峙してきたエスティニアンでさえ、未知の魔物相手には攻撃をくらってしまう。
しかも第一世界という場所は、エスティニアンがどうやっても行けない場所なのだ。
行かせてしまったらそれっきり、今生の別れになってしまうかもしれない。
だというのに
「攻撃うけたらマズイなら、よけて倒す」
いや、それがうまくいかないからその第一世界の住人たちは罪喰いに滅ぼされようとしているのでは、と言っても
「ぜんぶよけて倒す」
などと全く聞く耳をもたず、何かに駆り立てられるようにさっさと行ってしまった。
おおかた第一世界が美しかったからとか、困った人達がたくさんいるからとか、アルフィノたち暁の仲間が向こうに召ばれてしまったからとか、理由はそのへんだろう。
「まったく、あいつは自分の命をなんだと思っている」
「第一世界を救わないと、第八霊災が起きて彼女は死んでしまうのだろう?」
「あいつは自分のために躍起になれるような奴じゃない」
「お前にこれだけ心配させてでも、やり遂げたい理由があったのだろう」
「なんだそれは」
「本人に聞け」
「は?」
光の戦士が第一世界から帰ってこないからこんなに参っているというのに、いったい何をとアイメリクに問おうとすると、まさしく今最も求めていたぬくもりが、エスティニアンを後ろから包み込んだ。
「ただいま、エスティニアン」
征龍ハルドラスの再来と評されるほどの自分が、背後からの気配に全く気づけなかったとか。
見るに見かねたアイメリクに引っ張りこまれて、酒を叩きつけられるほど荒んでいた心が、彼女の声やにおい、そして体温で一瞬で凪いでしまったとか。
────焦がれていた彼女に抱きしめられ、喜びと愛しさにもっていかれてしまったとか。
もろもろ、そのあたりのあらゆる感情が一気におしよせて、心のサーバーがダウンしてしまったのであろう。
真っ赤になってフリーズしているエスティニアンという、たいそう貴重でおもしろいものをうっかり真正面から食らってしまい、アイメイクはこみあげる笑いに耐えられなかった。
「アハハハハッ!・・・おかえり・・・っ、無事で、なにより・・・ふはははっ・・・!」
「うん、けっこう危なかったけど、今帰った。エスティニアン、顔見たい」
がっつり顔をつかまれありえない角度に向かされて、エスティニアンはやっとサーバーが復帰したようだ。
グキリと鳴る彼の首の悲鳴にふたたび崩れおちる親友から逃げるように、無言で光の戦士を抱きかかえる。
まだ顔が赤い。
「私を殺す気か・・・!鍵はあいているから・・・っ、壊すなよ・・・だめだ、涙がでてしまう・・・っ」
「いいかげん笑い止め!」
真っ赤になって怒鳴りながら、しかしちゃんと窓を壊さないように気づかい去っていく親友を、アイメリクは呼吸困難になりながら見送った。
「はー・・・やれやれ・・・っ、人間らしくなったものだ」
家族を殺された復讐に、20年を費やしてきたエスティニアン。
光の戦士と出会ってから色々な顔を見せてくれるようになった親友を想い、アイメリクは月明かりの中、そうだとっておきのワインをあけようと呼び鈴をかなでた。
最中に彼女の体をつぶさに確認してみたが、たしかに攻撃を受けたような傷はなかった。
罪喰いと戦って帰ってきたのだから、当然といえば当然だが、それでもエスティニアンは彼女の無事を確認せずにおれなかった。
おまけにどれだけ無体を働いても「エスティニアンだ、エスティニアンだ」とそれは満たされた顔をするので、ここ一月あまり荒れに荒れたエスティニアンの心はすっかりおさまってしまった。
互いの息が乱れるベッドの中で、光の戦士はもう一瞬の隙間もゆるさないとばかりに力いっぱい抱きついてくる。
いつもセックスの後は体力つきて寝てしまうというのに、今回は明け方ちかくまで愛し合っても、こうしてエスティニアンの腰がみしみしと音を立てている。
しずかなアフターセックスに満たされてくると、彼女がエスティニアンを振り切ってまで第一世界を救いに行った理由が気になった。
彼女は普段から、エスティニアンへの恋愛感情に対してとても素直で、なんなら分離不安をかかえる猫のごとく、トイレの中まで着いてこようとするありさまなのだ。
そんな彼女がエスティニアンの制止にもろくに耳をかさず、みずから長く離れることを選択した。
アイメイクの言ったとおり、何か深い理由があるのかもしれない。
「なんで第一世界を救うことに、あんなに躍起になってたんだ?」
「歴史どおりにいったら死んじゃうから、変えれるなら変えなきゃって思って」
「いや、いつも人のために平気で死ぬようなことしてきただろう」
「いつもは何とかなる気しかしないから、平気だった。でも・・・」
「今回は、本当にエスティニアンに会えなくなるんだって、怖くなったから」
エスティニアンは、もう何も言えなかった。
こんなにも自分への愛のために、命を無防備にできる彼女には、一生をかけても叶わないと思った。
「えすてぃにあん、くるしぃ」
「・・・もう1回挑まれたいか?」
「うっ・・・、今日はもう、おなかいっぱい」
きっと、いや確実に、この先ずっとこの女を手放そうなんて不可能なのだろう。
とんでもなく振り回されて、頭に血がのぼることが何度あっても、彼女への想いは深まり続けるのだろう。
「・・・まさか俺がこうなるとは、思ってなかった・・・」
「?」
恋とは、落ちるものなのだ。