それは征龍ハルドラスの再来とまで謳われた彼が、まだ16歳だった頃


後に光の戦士と呼ばれることになる冒険者が、たった7歳だった頃



二人は出会い、運命がまじり合う。

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まごころを君に

あれはいつだったろうか。

 

そう、あれは第七霊災よりもずっと前、神殿騎士団の初任務に失敗したときだった。

 

12歳で邪竜ニーズヘッグに家族と故郷を焼かれ復讐を決意し、たった一人で竜と渡り合えるという蒼の竜騎士になることを望んだ。

 

蒼の竜騎士になるためにはまず神殿騎士団に入らねばならず、成人するまでの長い4年間を、その代の蒼の竜騎士であった養父のもとで準備期間にあてた。

 

軍隊というものは、彼にとっては全く性に合わない団体行動を要するもので、だがそれでも復讐という目的のためならと受け入れた。

 

ただ生きていくため、金のためしかたなく神殿騎士団に入ることを選んだ同僚たちに苛立ちながら、ひたすら体や精神を酷使する訓練に耐えきり初めての任務に挑んだ。

 

成人するまでの長い4年間を養父のもと準備期間にあてたおり、弱小ながら邪竜の眷属を狩るという経験は彼の場合とっくにすませていたのだが、同僚たちはそうではなかった。

 

はじめて身近で見る邪竜の眷属たちの獣とはまた違う臭気、生温かいしめりけとともにのぞかせる鋭い牙、そして耳にまったく馴染みのない捕食者の不気味な声。

 

それらはただ生きていくため、金のためしかたなく神殿騎士団に入ることを選んだ彼らにとっては、恐怖でしかなかった。

 

一緒に参加した先輩騎士たちの静止も聞かず、目をつぶりながら突進していった数名の同僚はあえなく邪竜の眷属たちの餌食となった。

 

彼らの悲鳴、食いちぎられ地面に落ちる彼らの四肢、そして鉄のにおいとともに飛びちる血しぶき。

 

それらはただ生きていくため、金のためしかたなく神殿騎士団に入ることを選んだ彼らを心神喪失に陥らせるのには十分すぎる恐怖だった。

 

恐怖というものは伝染し、さらに恐怖を生むもので、パニックになって逃げる同僚に突き飛ばされた指揮官がまず死んだ。

 

指揮官の死によって経験者とはいえまだ若輩だった先輩騎士が一人、また一人と死に、隊列がどんどん乱れ頭のまわる邪竜の眷属につけ入れられ、全滅するのはあっという間だった。

 

 

「ここは・・・?」

 

 

気がついたら、木の天井を見上げていた。

 

 

「目がさめたかい、お若い竜騎士よ」

「竜騎士・・・?」

 

 

すぐそばにはテーブルセットがあり、そこに年老いたエレゼン男性とちいさなこどもが座っていた。

驚いたのはそのこどもの外見だ。

 

エスティニアンも見るのは初めてだったが、こどもはアウラ族だったのだ。

 

ふわふわしたしろい髪の横からは羽角がはえ、体のあちこちにはウロコがある。

こちらに釘づけになっている愛らしい緋色の瞳はまんまるに見開かれ、彼女のうしろではしろいしっぽが落ち着きなくぱたぱたと揺れていた。

 

 

「ほほほ、嬢ちゃんの姿に驚いたかい?イシュガルドじゃアウラ族は珍しいからの」

「なぜこんなところにアウラ族が・・・?」

「さあね、それはわしも知らんよ。あの子は近所の村に母親と住んでいたんじゃが、最近母親が死んでしまってね。わしが引き取った」

 

 

話しながら目で追っていると、こどもはひょいと椅子からとびおり、トコトコとどこかへ行ってしまった。

 

 

「さあて、どこから話そうかね。なにせ驚いたさ、嬢ちゃんに狩りの練習をさせていたら、急にどこからか邪竜の眷属の叫び声が聞こえてね。慌てて探したら、へたりこんでいるあの子のそばでこと切れた眷属と、上から槍を突き刺して乗っかったままのお前さんがいた」

 

 

かろうじて思い出した記憶では、撤退した先で死んだ弟と同じくらいのこどもが現れ、襲おうとした邪竜の眷属を反射的に・・・どうしたのかは、覚えていない。

 

 

「やつはでかい上に飛行型だった。なのに俺は・・・上から槍を刺していて、やつに乗っていただと・・・?」

「ああ、あの子から聞いた話じゃが、獲物を追いかけていたら突然襲ってきた邪竜の眷属を、お前さんが空から降ってきて一撃でしとめたそうじゃ。そんな技が使えるのは、竜騎士だけじゃ」

「俺は・・・竜騎士ではない」

 

 

竜騎士の頂点である蒼の竜騎士、養父アルベリクの技を見よう見まねでやってみたことはあったが、どんなに執念を重ねても成功しなかった。

 

竜騎士の技は体への負担が大きい。

 

素質のある者に幼い時分から竜騎士の訓練をさせて、みな竜騎士にたどりつく前に生涯歩くことさえできなくなったという歴史も、イシュガルドにはある。

 

竜騎士になって復讐を成し遂げたいのなら、今は体を作ることに専念しろと、アルベリクに説きふせられてからは一度も竜騎士の技を使ったことはない。

 

 

「そうなのかい、火事場のばか力でも出たのかのう?まあそのおかげであの子は助かり、お前さんも生きておる。お前さんはこのとおり、ボロボロじゃがな!」

「・・・・・!」

 

 

確かに、体を少しでも動かそうとすれば、体中からとんでもない痛みが脳天につきぬけた。

まだ成長途中の今、火事場のばか力とやらで竜騎士の技を邪竜の眷属相手にきめてしまったのなら、しばらくはこのベッドから動けないだろう。

 

 

「動けるようになるまで、ここにいるといい。お前さんはあの子の命の恩人じゃからな。わしはマーク・ブラウンじゃ、ここで猟師をしておる」

「すまんが、世話になる。エスティニアン・ヴァーリノ、神殿騎士団に所属している」

 

 

それから短い間だけ、エスティニアンは幼いアウラ族のこどもとマークと生活した。

 

マークはただの猟師というには、体さばきのいい動きをする男だった。

若い頃何をしていたのか聞いても、

 

 

名の知れた大海賊の一員だった

 

スパイ集団のリーダーだった

 

諜報のエキスパートを多く育てた名教官だった

 

 

などなど、いつも壮大なウソではぐらかされたので、そのうち聞かなくなった。

 

 

こどもの方はというと

 

 

「おおきくなったら、エスティニアンのお嫁さんになる!」

 

 

と、妙に懐かれた。

懐かれるようなマネをした覚えはないのだが。

 

 

「ほっほっほ!隅におけんのう色男!」

「育ての親なら少しは怒れ!昨日も知らないうちにベッドに潜り込んでたんだぞ!!」

 

 

そうなのだ、このこどもはなんというか、気配がないのか気づいたらそこにいる。

羊飼いの家に生まれて動物の気配には聡く、しかも歴史ある軍のあらゆる訓練で優秀な成績を叩き出しつづけているエスティニアンでも、どういうわけか彼女の気配には一度も気づけなかった。

 

嫁入り前の女が男のベッドに入るんじゃないと、いくら言っても朝になったら必ずエスティニアンの腹のあたりでまるくなっているのだ。

 

おまけに

 

 

「ウソだろう・・・?」

「エスティニアン、みた??」

 

 

最初は目をうたがった。

 

部屋の中から窓の遠くにある的のどまんなかに、矢を三本たたきこんだのだ。

ベッドに座るエスティニアンの目の前を、ものすごい音をたてて矢が通りすぎていき、窓の遠くで「カン!」という音がした。それも立て続けに。

 

 

弓だけではない。

 

 

「エスティニアン、かわかす」

「うわ!?なんだ!?」

 

 

せっせと世話をやいてくれて、気持ちよく髪を洗い終わったと思ったら、手からあたたかい風を出しはじめたのだ。

 

濡れた髪がどんどん乾いてなかなか気持ちよかったが、動揺のほうが大きすぎた。

 

 

「これは・・・魔法か?あたたかい風がでる魔法なんかきいたことないぞ・・・?」

「ほほほ!この子は昔から不思議な子でのう。誰も見たことも聞いたこともない魔法をつくっては、こうやって生活を快適にしてくれるのじゃよ」

「魔法をつくるだと・・・?そんな訳ないだろう」

「お水もつくれる」

 

 

そう言ってこどもは、手から出る水であっという間に桶をいっぱいにしてしまった。

 

 

「うそだろ!?」

「ほっほっほ!この子がいると水を汲みに行かなくてよくてのう」

「荷物いっぱいはいるカバンもつくった」

 

 

そういって、トコトコと持ってきたカバンの中から大きな鹿の死体を取り出した。

 

聞けば、先ほど狩りに出て仕留めてきたのだという。

 

 

今夜のおかずにしようとサクサク捌きはじめる彼女に、驚きすぎて自分の常識がおかしいのだろうかと、エスティニアンは頭を抱えた。

 

そうやって刺激あふれる毎日をすごし、エスティニアンの体は確実に回復していった。

 

 

「エスティニアン、もうすぐ帰っちゃう?」

「ああ、そうだな」

 

 

夜もふけ、こどもと二人で星を見上げていた。

明日か、おそくても明後日には、軍に戻れるだろう。

 

 

「大きくなったら、なりたいものとかあるのか?」

「エスティニアンのお嫁さん!」

「お前はブレない奴だな・・・それ以外でだ」

「うーん、わかんない」

 

 

この短い間見ていただけでも、彼女には類い稀な戦闘の才があるのは間違いなかった。

弓もそうだが、マークから双剣を習っている身のこなしも空おそろしく、槍もほんの少し彼女の前でふるっただけであっさりとマネできてしまった。

 

多くの人間が一つの得物を極めるのに一生かかるというのに、なんでも使いこなしてしまう。

 

魔法も独自に創造してしまえるどころか、使い方もとても柔軟だ。

 

今日の昼間など、背中から強烈な風を吹き出して一瞬で獲物への距離をつめていた。

 

かといって、軍のような集団行動を要するような場では、彼女の才は活かされないどころか失われかねない。

 

こどもの頃は天才で、大人になるにつれて凡人になっていくのは、余計な常識をすりこまれてしまう結果だということを、エスティニアンは知っていた。

 

 

「冒険者、なんてどうだ?」

「ぼうけんしゃ?」

「冒険者ギルドに登録して、いろんな人の依頼を受けるんだ」

「おつかい、だいすき!」

「そうだな、冒険者はどんなおつかいもこなす、おつかいのプロだ。何かを取ってきたり、誰かにものを届けたり、魔物を退治したりする」

「たのしそう!!」

 

 

彼女の胸にひびくものがあったのか、出会ってから一番キラキラした顔をする様子に、エスティニアンは笑みがこぼれた。

 

死んだ弟のアミニャンも、こうやってエスティニアンの話を素直に聞いては、青い瞳をキラキラさせる愛らしいこどもだった。

 

アミニャンと同じ年ごろの彼女には、自分のように暗い炎を燃やし得物をとるのではなく、明るい炎を燃やし才をみがくことを楽しみつづけてほしかった。

 

 

「ここからだと・・・そうだな、一番近い冒険者ギルドはグリダニアにある」

「グリダニア?」

「ああ、森の都といわれていてな。お前と同じアウラ族もたくさんいる」

「ほんと!?」

「ああ、イシュガルドの外にはアウラ族はたくさいるんだ」

 

 

イシュガルドにも冒険者ギルドはあるだろうが、彼女はアウラ族だ。

この国では、彼女の才が殺されてしまうか、彼女が自分のように暗い炎を燃やさなくてはならなくなる。

 

彼女には、こんな閉鎖的な国に縛られるのではなく、もっと広い世界に羽ばたく方が似合っている。

 

 

「冒険者になれるのは16歳からだ。16歳になったらグリダニアに行って、冒険者ギルドに名前を登録したら完了だ」

「なまえ・・・」

「そういばお前、名前がないんだったな」

 

 

マークは彼女のことをずっと「嬢ちゃん」と呼んでいた。

マークから少し聞いた話では、母親は彼女のことを愛せてはいなかったらしい。

 

そんな母親もつい最近死んでしまい、以前から彼女のことを気にかけていたマークが里親に名乗りでたそうだ。

 

 

『そうじゃそうじゃ、面倒を見た礼に、嬢ちゃんに名前をつけてやってくれんかの?』

『は!?育ての親はあんただろ!?』

『いやいや、じじいのセンスでは古くさい名前になりかねんからの』

『そんな責任重大なこと引き受けられるか!』

 

 

あの時はああは言ってしまったが、確かにあのじじいのセンスでは、これから有名になるだろう彼女の名前はろくなものにならない。

 

かと言って自分にそんないいセンスがあるのかと言えば全くないが、それでもあのじじいよりはマシだ。

 

・・・そのくらい、マークが候補にあげる名前は軒並みあかんやつばかりで、今日まで決まっていなかったのだ。

 

 

「・・・登録するまでに他にいい名前が見つかったら、そっちに変えろよ」

「エスティニアン、なまえつけてくれるの?」

「・・・マシロってどうだ?」

「マシロ?」

 

 

彼女の髪は、見事な白髪〈はくはつ〉だ。

全く他の色がそんざいしない混じり気のない白は、彼女を表すひびきにふさわしいのではと思った。

 

・・・マークに最初に話をふられた時からずっと、考えに考えてひそかに決めていた名前だということは、墓に入るまで誰にも言うつもりはないが。

 

 

「じいさんのファミリーネームはブラウンだったな。マシロ・ブラウンか」

 

 

なんだか色と色の妙なフルネームになってしまうが、母親の名前は誰も知らなかったそうだからしかたがないだろう。

 

・・・それもあって絶対にマシロと決めたことは、言うつもりはなかったのだが。

 

 

「エスティニアンのファミリーネームは?」

「は?俺の名前で登録するのか?」

「だってエスティニアン、帰っちゃうから。エスティニアンと同じなまえだったら、冒険者になったときエスティニアンに見つけてもらえるかもしれない」

 

 

才能あふれるマシロは、遠くない未来まちがいなく名をあげるだろう。

 

彼女がこのイシュガルドに再び戻ってくるまでに、蒼の竜騎士となって邪竜を討ち果たし、のびのびとおつかいを楽しめるようにしてやりたいと思った。

 

邪竜と相討ちになって死ぬ可能性も高いが、そうであっても自分と同じファミリーネームであれば、彼女がどれだけ美しく成長していたとしても、見届けてやれるだろう。

 

 

はじめて触れる彼女のしろい髪は、さらさらと心地がよかった。

 

 

「マシロ・ヴァーリノか、まあいいんじゃないか?」

「16さいになったら、冒険者ギルドにマシロ・ヴァーリノってかきにいく」

「本当に他にいい名前があったら、そっち登録しろよ?」

 

 

マシロがくすぐったそうに笑った次の日、エスティニアンはイシュガルドに戻った。

 

 

 

────16年後

 

 

「エスティニアン、お前結婚でもしていたのか!?それとも親戚か!?」

 

 

血相を変えて竜騎士団の部屋にとびこんできた親友に、苦戦しながら報告書をガリガリやっていた蒼の竜騎士は、不機嫌そのままに顔をあげた。

 

 

「俺が独身で身内もいないことは、お前も知っているだろう。アイメリク」

「だから驚いている!ウルダハで蛮神イフリートの、冒険者による初の単独討伐に成功したという報告があった」

「そりゃ大事件だな、だがそれと俺の身内がなぜ関係がある?」

「その冒険者がアウラ族の女性で、名をマシロ・ヴァーリノというんだ」

 

 

エスティニアンは思わずペンを落とした。

 

マシロ・ヴァーリノ

 

その名をずっと昔につけてやった、あのさらさらと心地いいしろい髪のこどもが、まさか単独での蛮神討伐なんて大ごとを成しとげるとは。

 

 

しかし他の誰ならともかく、あのマシロならやってのけるだろうと、エスティニアンは破顔した。

 

 

「・・・俺も、そろそろ本当にニーズヘッグを討たないとな」

「どうしたんだ?」

「いや、なんでもない」

 

 

次の日、エスティニアンは教皇庁から竜の目を盗み出し、皇都イシュガルドを離れた。

 

征龍ハルドラスの再来と謳われたエスティニアンは、その後光の戦士の再来と謳われるマシロとともに、1000年にわたる竜詩戦争を終結させることになるが、それはまた別の話。


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