こんなタイトルにしましたが、原作キャラ同士の恋愛要素はありません。
星や月の明かりはカーテンによって遮られており、スイートルームの中には蠱惑的な照明の光が満ちている。
ベッドの中には一組の男女がいる。二人とも生まれたままの姿で肌を寄せ合い、愛の言葉を囁き合っている。
「私、こんなに熱くなったのは生まれて初めて」
女はそうつぶやくと、男の胸板に手を当てた。鍛えられたそれは固く、触れていると心臓の鼓動が手に伝わって心地よい。
二人はつい数時間前に出会ったばかりだった。しかし恋という好奇心が女を行動させた。女は隣にいる男の名前も知らなかったが、それは大した問題ではなかった。これから少しずつ知っていけばいい。そう思って女は男に問いかけた。
「ねぇ、お仕事は何をしているの?」
男は何と答えたものか少し迷った様子で、しばし空中に視線を泳がせた後、「殺し屋」と答えた。
「おもしろいジョークね」
そう言って女は男の胸に顔をうずめると、また質問を投げかけた。
「また明日も会ってくれる?」
「ダメだ。お前のお父様が黙っちゃいないだろ」
「パパなんて平気よ。今ニューヨークに旅行に行っているの。大丈夫よ」
「……ニューヨークか……」
男の目つきが鋭く変わったことに気付かず、女はそのまま言葉を続けた。
「今度デートに行きましょ。一緒にサン・カルロ劇場にオペラを観に行きましょうよ」
「ダメだ」
「どうして?」
男の返答に不満げな女は顔をあげ、今度は男の顔を正面から見て質問した。
「オレはオメーが思っているような素敵な人間じゃあないからだ。オレには汚い顔がたくさんある。きっとオメーはオレのことが嫌いになるハズさ」
「嫌いになんてならないわ。あなたのどんな顔でも、全部愛しているわ」
そう言って女は目を閉じ、唇を突き出した。しかし待っていてもその唇に触れるものは何もなく、代わりに暗闇の中で声が聞こえた。
「こんな顔でも?」
「えっ?」
それはつい数分前まで聞いていた男の声ではなく、か細くしゃがれた、消え入りそうな声だった。
不審に思った女は目を開けた。そこにあったのは愛しい人の顔ではなく、深いしわが無数に刻まれた老人の顔だった。
「ヒィッ!」
恐怖に震える女は後ずさりし、ベッドから抜け出そうとする。しかし老人の骨ばった手が女の腕をがっしりと掴んだ。
直後、掴まれた女の腕に異変が起きた。肌の潤いは消え、腐った指は落ち、骨が砕けて腕がおかしな方向へ曲がった。
その異変はすぐに女の全身へと回り、体中が「朽ち」ていった。
「あ……あぁ……」
悲鳴をあげようとしたが、歯のなくなった口ではうまく発音できなかった。目の前の愛しの人の顔を見ようとしたが、抜けた髪が顔に張り付いてよく見えなかった。唯一機能していた耳が、最後に老人がつぶやいた言葉を聞き取った。
「ザ・グレイトフル・デッド」
枯れ木のように干からびた女はベッドの中へ沈んだ。老人はベッドを出ると、床で丸まっているジャケットの内ポケットから携帯電話を取り出して耳に当てた。脱ぎ散らかした衣類を片手で集めながら、どこかへ電話をかけた。
「リゾット。俺だ」
その声も顔もすでに老人のものではなく、もとの二十代ほどの若い男のものだった。
「ターゲットの居場所がわかった。ニューヨークだ。ソルベに頼んで飛行機を手配してくれ……あぁ娘か? 心配いらねぇよ、ついでに殺しておいた……わかってる。仕事は完璧に遂行する。チームの名にかけてな」
電話を切った男は服を着てスイートルームを出た。ベッドのほうを振り返ることは一度もなかった。