とある神様が暇つぶしにと死んだ無惨の魂を不遇な令嬢の肉体に転生させただけのお話し。
最近、ピッコマなどで悪役令嬢や不遇な令嬢の話を沢山読んでしまった結果、生まれてしまった作品です。

とにかく、スカッとよりも無惨様の残酷さを全面的に押し出した作品なので、いいぞもっとやれ住民の方々以外は読まない方がよろしいかと。

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今書いている小説のストック作り中に感想と評価が欲しいという欲望と、悪役令嬢ものに外れなしということで短編小説書いちゃいました(笑)


鬼舞辻無惨様を不遇の令嬢に転生させたったwww

 時は大正時代、人知れず夜の闇の中で人と鬼との長き因縁を断ち切る最後の戦いが巻き起こっていた。

 

「おのれぇ! おのれぇ!! おのれぇぇぇぇ!!!」

 

 鬼殺隊の必死の猛攻で地上に引き留められ続け、ついに無惨は夜明けの陽射しに晒されて、鬼の体が焼け爛れて消滅していく。

 

 やがて残った力を全て炭治郎に継がせたのだが、生きている者達と死んでいった者達により、炭治郎は無惨からの呪縛を抜け出して、人へと戻っていった。

 

 そうして、何もかもを失った無惨は死の闇へと落ちて行き、その魂はとある存在の元へと辿り着いた。

 

「やあ、こんにちは。ボクの名前はゴッド、またの名をアルティメット神!」

 

(なんだこの胡散臭いアホは?)

 

 目の前に寝そべった態勢で浮遊するコイツは一体何者なのだろうか? 銀色の髪に、男か女か判断しづらい顔立ち、その声も男のようにも聞こえ女のようにも聞こえる。

 

「ん~? ボクが誰かって~、そんなことを気にする余裕があるんだ~、そんなみすぼらしい状態なのに~?」

 

 間延びした声でバカにしたように話すコイツに殺意を覚えるが、それは後回しにして今気になるのが、コイツは私の思考を読んだのか? 

 

 バカな!? 鬼の王であるこの私の思考を読むなど出来る筈がない。

 考えられるのは、今のこの場の状況と私の表情でカマをかけにきたといったところか。

 

 それともう一つ気になることを言っていたな。この私をみすぼらしい状態といった。

 本当ならば2,3回は嬲り殺しにして立場を分からせてやるものだが、奴は私の格好ではなく状態と言った。

 

 色々と気になる点はあるが、そもそもの話ここは一体どこなのだろうか? 

 私は鬼殺隊との戦いの末に、陽光に晒されて燃え尽きた筈だ。

 ならば、ここは死後の世界とやらか? そうすると、目の前にいるのはさしずめ閻魔か地獄の鬼といったところか。

 

「んもぉ、ボクは神様だって最初に説明したじゃん。聞いてなかったの?」

 

 コイツ又もや私の思考を……!? 今度のは流石に状況や表情で読み取れる範疇を超えている。

 

「貴様、よもや2度も私の思考を盗み読んだのか」

 

「うん、そうだよ」

 

 なんの悪びれもなく笑顔で答えるソイツの頸を切り裂いてやろうと腕を振るおうとしたが、体が一切動かなかった。……いや、動かすべき体が存在しなかったと言い換えた方が正しいだろう。

 

「まったく、現状の状況把握も出来てないってのに、ボクを殺そうとするなんて生意気でカワイイね♡」

 

 口元を隠して微笑みを浮かべるその姿に一種の既視感を覚える。

 

(ああそうだ。このヘラヘラと上っ面だけで笑みをこぼす態度といい、コイツは童磨にそっくりなのだ)

 

 有能故に目障りで癪に障っても無駄に殺せない。味方でありながら、敵並みに煙たい存在であった。

 間違いなく目の前のコイツは童磨とまったく似たタイプの者だ。

 

「本来ならば即刻貴様を縊り殺すところだが、いくつか貴様に問うべきことがある。ここはどこで私は今どういう状態なのか、さっさと答えるがいい」

 

「う~ん、この傍若無人っぷりといい、神様だって最初に説明したのに一切信じていない人間不信といい、本当に最高だね♪」

 

 目の前の自称神は私の質問に答えないどころか、薄っぺらい笑みを変えることなく不敬にも近づいてくる。

 

「まあ、教えてあげてもいいよ。ボクはとっても優しいからね」

 

「ちっ、鬱陶しい! 話すなら話すで私から離れて喋れ!」

 

「あっはっは、了解。とりあえず、君が死んだのはもう理解できてるよね。ここは君が思っている通り死後の世界と呼べるような場所だよ」

 

 やはり、ここは死後の世界だったか。ならばこの異様な空間も納得がいく。

 私が自分の今の状態を認識しようとしても一切の光の差さない暗闇にいるように何も見えず、さりとて目の前のコイツだけはハッキリと認識することが出来る。

 

「そして2つ目の質問だけどね、君は死んだんだ。だから肉体は存在せずに魂のみの状態になっている。つまるところ人魂になって浮かんでいるだけの状態ってわけさ」

 

(──―っ!? この私が人魂だと! くだらん!! 夏の怪談に使われる子供騙しのような存在にこの私が成り下がったというのか!?)

 

「おい! どうに「どうにかしてあげてもいいよ」……なに?」

 

 声を苛立たせてどうにかしろと言いかけたところを、遮るようにコイツは了承してきた。

 自分でどうにかしろと言い出しはしたが、言い切る前に即答されれば困惑も警戒もする。

 

「ん? どうしたどうした。ボクが君を人魂の状態から人へと戻してあげようって提案してあげたというのに?」

 

「……貴様、一体何が目的なんだ?」

 

「目的? う~ん、目的かぁ……。しいて言うならば娯楽と言ってもいいし、暇つぶしと定義してもいい。つまるところは、ボクが退屈で死にそうなくらいやることなかったから現世で面白い存在だった君の魂をここに連れてきた訳さ」

 

「……つまり、私がこんな状態なのは貴様が原因か!?」

 

 もし無惨に肉体があったのならば、顔の血管が全て浮かび上がる程に激怒した表情を浮かべていただろう。

 そんな無惨を宥めるように自称神様は言い訳を並べる。

 

「いやいや、死んだ者は皆すべからく魂のみの状態になって輪廻の輪に加わることになる。ボクは君がその輪に加わる前にここへ拾い上げただけさ」

 

「なら、貴様が何もしなければ私は自然と人魂から人へて転生してたというわけではないか」

 

 その言い訳を聞いて更に激怒した無惨はいっそ感情を感じさせない声で自称神様を非難する。

 

「確かにその通りかもしれない。でもね、君が人に転生できると本当に思ってるの?」

 

「なに?」

 

「この現世でどれだけの生き物が存在していると思うんだい? 人以外にも犬や猿や鳥もいる。もっと数がいるのは虫や魚といった生き物だ。さて、もう一度問うとしようか。君は本当に人間に転生し直すことが出来ると思ってるの?」

 

 丁寧な言葉ではあるが、その言葉の裏に小馬鹿にしたような感情が透けて見えており、無惨は無い唇を嚙み切るレベルに頭にきている。

 

「さて、ここからが君をここに呼んだ本題だ。君は異世界という存在を知っているかな?」

 

「異世界だと? 外の国ということか」

 

「う~ん、まあ、確かにあの異世界って外国と言っても過言ではないし不正解というわけでもないから、その認識で間違いないかな」

 

 首を傾げながら無惨の答えに当たらずも遠からずといった反応を見せる。

 どうやら、話の筋的にコイツは私をその異世界とやらに転生させるつもりのようだ。

 

「そうゆうこと。勿論、ちゃんと人間に転生させるよ」

 

 又もや思考を勝手に読んだか。もはやコイツには何も言うまい。

 コイツの言動を全て信じることは出来ないが、今の人魂となって文字通り手も足も出ない状態だ。

 

「いいだろう。貴様の望む通りに動いてやる。だが、一つだけ覚えておけ、もし私が気に入らないような()()に転生したらどうなるか……」

 

「ふふふ、さあどうだろうね? そこを君が気に入るかどうかは分かんないけど、とりあえずチャンスは上げた。精々ボクを楽しませてね」

 

 今までとは違う嗜虐的な笑みで無惨に手を振る自称神を睨みつけながら、無惨はゆっくりと抗いようのない眠気のようなものに襲われて意識を失ってしまった。

 

 ♦

 

 チュンチュン

 

 外から聞こえる鳥の鳴き声を目覚ましに、閉じた眼差しがゆっくりと開いていく。

 

「ここは? ──―っ!!?」

 

 目を覚ました無惨の顔に朝焼けの太陽の光が降り注ぐ。鬼であった自分にとって太陽の光は猛毒と大差が無いに等しい。

 ゆえに、反射的に自身にかけられていた布団を蹴飛ばして、陽の当たらない日陰に一瞬で移動する。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、……顔が焼け爛れていないだと?」

 

 自身の顔に触れると陽光で焼け爛れるどころか、火傷の跡1つすら残っていなかった。

 それと同時に、冷静になった頭の中に存在しない記憶が浮かび上がってくる。

 

「……そうか。私はこの娘に転生したということか」

 

 現在の状況と眠りに墜ちる前の記憶、そしてこの新たな肉体に元々あった記憶を重ね合わせることで見えてきた事実。

 それは、この()()()()()()にこの私『鬼舞辻無惨』の魂が憑依して乗り移ったということだ。

 

「ふむ、あの自称神とやらめ。どうやら本当に私を人間に転生させたというわけか……」

 

 ぐるりと部屋を見渡すと、この肉体にある記憶通りに家具が置かれている。

 かなり大きく造りも立派な部屋だが、置かれている家具はおよそ立派と呼ぶには少々苦しくボロボロではないが安物と表現されるようなレベルの物だった。

 それに、置いてあるのは汚れたテーブルと椅子に先程まで寝ていた少し大きめのベッド、後は等身大の姿見と小さなクローゼットが1つあるだけか。

 

 無惨は置かれている姿見に自身の姿を映させて、その容姿を確認してみる。

 

 鏡に映った自分の姿は服は地味な色とデザインの物だが、夜空の如き黒髪に吸い込まれるかのような黒い瞳、血を塗ったかのような艶やかな唇。それらに反比例するかのように、その肌は一切の色を含まない白魚のようにきめ細かで可憐さを表していた。

 鏡に映る全てが妖艶で妖しく美しかった。魔性の女という言葉はまさにこの鏡に映る彼女の為に存在する言葉なのだろう。

 

醜女(しこめ)ではないのは僥倖(ぎょうこう)とだけ言っておくとするか……」

 

 鏡に映し出された自身の顔やスタイルに満足したのか、鏡から離れて無惨は陽光の差す窓へと近づいていく。

 先程の事で陽光は自身にとって何の影響を及ばさない無害なものだと理解は出来てはいるが、長年に渡り苦しめられ続けられものを素直に受け入れることができるだろうか? 

 

 ビクついた様子で恐る恐ると窓から部屋を差す光に手を伸ばす。そうして伸ばした手がやがて陽光に触れる。

 

「……温かい」

 

 その不意に出してしまった言葉に無惨はハッと口を押さえる。だが、その口には満面の笑みが零れ落ちていた。

 

「まさか、こんな形で太陽を克服できるとはな……」

 

 一歩足を踏み出して陽光の中に身を入れる。燦燦と輝く太陽を見上げると、これまで己を殺そうとしていた憎き太陽が今や自身の輝かしい未来を祝福しているかのようではないか。

 今にも笑いあげたくなる衝動を胸に圧しとどめながら、何百年ぶりの日光浴を楽しんでいると、バタン! と乱暴に部屋の扉を開けて入って来る者がいた。

 

「あら? もう起きてらっしゃたのですか」

 

 この部屋に入ってきたのは()()の専属メイドのキサラ。茶髪でそばかすのある平凡な顔立ちの女だ。

 キサラは冷たい目でこちらを一瞥だけすると、私が跳ね起きた際に滅茶苦茶になったベッドをちっ! と舌打ちして片付け始める。

 

 普段の私であれば誰に舌打ちをしたのか分からせるものだが、転生したばかりでこの肉体に引っ張られているのか、暴力にささくれ程度だが忌避間が存在している。

 それに、久しぶり……いや、前世でこれほどゆったりと太陽の光を浴びることなど鬼になる前ですらなかったことだから初めてと言うべきか。

 そんな貴重な日光浴の時間をたかだか下等なメイド如きに裂く気分ではなかった。

 

 だが、そんなことをメイドが知る訳もなく、一向に窓から動かずに立ち尽くしている私の後ろに立つと、無礼にも私の服の襟を掴んで動かそうとしてきた。

 

「……? ほら、私も忙しいんです。さっさと着替えてくれませんか」

 

 仕事を増やした上に窓の前から動こうとしない生意気な小娘にお仕置きとしてみっともなく尻餅でもつかせるつもりで引っ張ったというのに、倒れないどころか岩か柱でも引っ張ったかのようにびくともしないことに怪訝に感じたメイドだったが、気のせいかと深く考えることもせず、いつもの態度でぞんざいな扱いをみせる。

 

 もしこの光景をかつての無惨の部下である鬼たちが見たのならばきっと、愉快な自殺行為か頭がお花畑の途轍もない愚者だろうと驚愕しただろう。

 

「──―貴様は何様のつもりだ?」

 

「はぁ?」

 

「聞こえなかったのか? 貴様は何様のつもりだと聞いたのだ」

 

 普段の彼女(無惨が転生する前)ならば、反抗的な態度をみせるどころか、即座に謝って着替え始める筈だ。

 だというのに、今の彼女は首だけを後ろに向けて、まるで悪魔のように増悪で満ちた鋭い目つきでこちらを睨み上げている。

 

「──―っ!? な、なにくだらないこと聞いてんのよ。ほら、さっさと着替えて食事しなきゃ旦那様や奥様にまたお叱りを受けるわよ!!」

 

 震える声を必死に誤魔化しながら、無惨の質問には答えずに旦那様と奥様という転生する前のこの肉体の女が決して逆らえない存在を盾に会話を切り上げようとした。

 

 だが、無惨がその程度のことで丸め込まれる筈がなく、次の瞬間にメイドの頬にパシン! という鋭い乾いた音と共に痛みが走る。

 

「──―っ!??」

 

「ふむ、やはりこの肉体にまだ私の魂が馴染んでおらぬようだな」

 

 首を跳ね飛ばすつもりで腕を振るったつもりだったのだが、直前で腕の力が抜けてただのビンタへと成り下がってしまった。

 とはいえ、メイドの頬には真っ赤な手形がついており、薄っすらと皮が裂け血も滲んで出ていた。

 

「ひっ、きゃああぁぁぁぁ!! た、助けてぇぇぇ!!?」

 

 頬をぶたれたことで一時的に思考が停止していたメイドであったが、頬に走る痛みが意識を取り戻させて殴られたという事実を認識させる。

 そこから先は早かった。メイドは悲鳴を上げて即座に助けを求めて部屋から飛び出していった。

 

「……面倒なことになったな。とはいえ、今の私にとっては些末なことだ」

 

 去っていったメイドを追うこともなく、ビンタした際に手に付着した血をジッと見つめる。

 鬼であった頃であれば、匂いだけで涎の1つでも出ていたのだが、今はただ血生臭いという感想しか浮かばない。

 試しに舐めてみると鉄の味しかしなかった。これでこの肉体は完全に鬼ではなく人であると証明された。

 

 しかし、この肉体の強度は確かに鬼のものである。鬼殺隊の侍たちのように呼吸を使って身体能力を上昇させていないにも関わらず、生前と何ら変わらない強さがこの肉体にはある。

 それは無惨が転生する前の女、()()()()()()()()()()()()()()()の記憶にも無かったことだ。

 

 そろそろ、ちゃんとこの肉体の記憶を探ってみるとしよう。

 鬼の王であった無惨にとって、他者の記憶を探るというのは然程(さほど)難しくはない。

 

 この肉体の前の持ち主の名はティア・ラールング・ヒストリア、歳は18歳ほどの女だ。

 そして、ラーギンス公国と呼ばれる大国の公女……、見知らぬ地名に聞きなれぬ名前ではあるが、記憶を読めば理解はできる。

 

 公女とは言い換えれば大名の娘といったところだろう。そんな娘が何故使用人風情に下に見られているのか? 

 それは、自身の容姿に関連している。

 

 先程、鏡で確認した通り今の私の髪は黒髪だ。だが、この国は金髪や赤髪といった派手な色が主流だ。

 それは、この肉体の両親も例外ではなく、父親は金髪で母親も金髪であったのに対して、産まれてきたのは黒髪の女の子。

 更に運の悪いことに、母親はそれを弁明することもなく赤ん坊を産んだことで死亡してしまったのだ。

 

 父親は母親を愛していたというのに、周りの連中はコソコソと母親が裏で愛人を作ってその愛人の子を産んで死んだという噂を垂れ流す。

 深い愛情は反転し、深い憎しみとなった。だが、憎むべき対象は既にこの世を去ってしまっている。

 なら、その憎しみの矛先は何処に向かうのか? 簡単なことだ、産まれた赤ん坊へとその憎しみは向けられた。

 

 先に産まれた兄弟姉妹たちとは区別ではなく差別され、心に空いた穴を埋めるように新しい女と再婚し、その連れ子だった後に妹になる()()に私に注ぐ筈だった愛情を全て注がれた。

 

 こうして、産まれてから誰からも一切愛されることなく孤独の日々を送っていたティアは神様に毎日祈りを捧げて暮らしていた。

 

「なるほど、くだらん話だ」

 

 記憶を探ることを辞めた無惨は、これまで不遇だった女の人生をくだらんと一笑に付した。

 

 当然のことだ、その程度の不幸話など腐るほどに無惨は目にしてきたのだから。

 娼婦の間に出来た不細工な兄と美しい妹の話、父親が病に倒れ自身が助けようと盗みを働いた結果、自殺しその後に出来た新たな父親と妻になるはずの2人の死を嘆く男の話。

 そして、家に帰れば家族が殺され妹を鬼にされた炭売りの少年の話。

 

 他にも数えれば両手の指では足らないほどの不幸を知っている。

 

 ここには大きな部屋があり、食うに困らない飯があり、眠りたければ温かな毛布が存在している。

 たかが親に嫌われて使用人に馬鹿にされている? それだけで自分がこの世で一番不幸なのだと、自惚れるにも程がある。

 

 この肉体の女は知らないのだ。自我が狂いそうになるほどの空腹を、寒空のなか裸足のままボロボロの布切れ1枚で夜を過ごす貧しさを、自身が愛した者との死別を、その何もかもをこの肉体の女は知らない。

 

 可哀想? 哀れ? 不憫? くだらんくだらんくだらん。ああ、実に不快で愚かで反吐が出そうな人生だ。

 

 無惨は寝起きの地味なパジャマから、それほど変わらない部屋着へと着替えて部屋を出る。

 

 目指すは食堂だ。寝起きで腹が空いており、何か腹に入れなければ倒れてしまいそうな空腹感に襲われている。

 それに確認したいこともあった。この肉体は鬼ではなく人間だが、本当に人肉以外にも口にできるのだろうかということだ。

 

 スタスタと食堂へ向かって歩くと、途中で出くわすメイドたちがこちらをギョッ! した顔で見ると、脇目もふらずに反対方向へ走って去っていった。

 恐らく、先程逃げ出したメイドから事情でも聞いたのだろう。わざわざ捕まえて食堂へ案内させる理由もないので、そのまま無視して歩き続ける。

 そして、記憶にある食堂の扉の前に辿り着くと、何とも魅力的ないい匂いが漂ってくる。

 

「ふむ、鬼の頃であればなにも感じえなんだが、今の人間として嗅覚であれば存外に腹が減る良き匂いだ」

 

 扉に手をかけて中へ入っていくと、そこには肉や魚に野菜と様々な料理がテーブルの上に並べられていた。

 そして、その周りを困惑気味な表情で囲むメイドたちが立っている。

 

 耳を傾ければひそひそと『あの話ってやっぱり本当じゃ』や『こんなことを旦那様や奥様が知れたら』と口を開いている。

 そんな中、私が料理の並べられているテーブルの席に着こうとした際、メイド長が横に立って若干顔を青くしながら訊ねてきた。

 

「お嬢様、ここには一体どのようなご用件で……?」

 

「飯を食いに来た」

 

 メイド長の質問に短く答えると、早速飯をいただこうとナイフとフォークを手に持った瞬間、パチン! とメイド長が私の手を叩いてナイフとフォークを叩き落とした。

 

「……何のつもりだ?」

 

「何のつもりではございません。ここにはお嬢様が食するべき物はありません。食事は後ほどお部屋にメイドがお持ちしますので、どうかこの場から去ってください」

 

 毅然とした態度でそう言ってのけたメイド長は、次の瞬間にその首を掴み上げられた。

 

「んなぁ……!??」

 

「気に食わんな。先のメイドに問うたように貴様らは何様のつもりだ? 地位が高いわけでもなければ、力も才もない只の凡人だ。それが何故私に対して上の態度でいられるのだ?」

 

「ぐっ……! がぁぁ……!?」

 

 ギリギリと首を絞めるける力が強まっていき、メイド長の口から泡が零れ始めてようやく周りのメイドたちも目の前の緊急事態に頭が追いつき、慌てて無惨からメイド長を引き剥がそうと駆けつける者、助けを呼ぼうと部屋を出ていく者と分かれた。

 

「ティアお嬢様! メイド長をお放しください」

 

「流石にこれは冗談ではすみません」

 

 2人の間に割って入り込もうとしても、万力の如き力にメイド長を引き剝がすことが出来ずに右往左往するメイドたち。

 

「冗談だと……? 貴様はこの状況になって未だにこれが冗談に見えるのか?」

 

「ひっ……!?」

 

 メイド長を助けに入ったメイドの1人が言い放った言葉に反応した無惨が目を見開いてそのメイドを見つめる。

 

「いいか、貴様どもの下らぬ発言の1つ1つがこの私を不快にさせる。私の許可なく口を開くな、物を言うな。不要な発言をすれば次は貴様の番になるのだぞ」

 

「──―っ!」

 

 その言葉が本気だと悟ったそのメイドは謝罪や弁明をすることなく、即座に自身の口を手でふさいだ。

 

「そうだ、それでいいのだ。私に手間を取らせぬ貴様はまだ見込みがある。この愚物と違ってな」

 

 無惨に首を掴まれたメイド長の顔は青色を通り超して紫色になりかかっている。

 このままでは、後数秒もすれば本当にメイド長は死ぬだろう。

 

 そんなとき、バタン! と食堂の扉が開いて1人の男が入り込んできた。

 

「ティア!! 貴様何をしているか!?」

 

 現れたのはこの肉体の兄であるスペン・ラールング・ヒストリアで、我が家の長男である。その後ろには先程この部屋から出ていったメイドたちの姿が確認出来る。

 

 スペンは目の前の状況がとても信じられなかった。あの大人しい厄介者の妹が恰幅の良いメイド長を片手で掴み上げているのだ。

 大の男でもあのメイド長を片手で掴み上げられる者などそうはいない。

 だが、いかに信じ難い光景だとしても、メイド長の顔色を見る限り、限界は近い。スペンは一刻も早くメイド長を助けんと腰にある剣を抜いて斬りかかる。

 

「ふむ、蠅も止まりそうな速度ではあるが、万が一という可能性もあるか……」

 

 流石の無惨も、今は鬼ではなく人間の体だ。斬り落とされた腕が元に戻る保障もないままに、マトモに剣を受ける気がなく、メイド長の首から手を放して斬撃を避ける。

 

「メイド長は無事か!?」

 

「──―っ、大丈夫です。意識はありませんが、辛うじて息をしております」

 

 スペンが放り投げられたメイド長の安否を確認せよとの声を上げると、先程無惨に睨み付けられたメイドが駆け寄ってメイド長の口に耳を当てて息をしているか確認をとって無事だと伝える。

 

 面倒なことになった。目の前に立つ男は仮ではあるが、今は私の親族だ。殺す忌避間も先程のメイド長以上だとこの肉体が叫んでいる。

 なによりも、今はとても空腹だ。すぐ目の前に食事があるというのに、なぜこれ以上待たされなければなるまい? 

 

 無惨はこの状況をどうにかするのを諦めて席へと着席する。先程メイド長に叩き落とされたナイフとフォークを再び手に取り、慣れないながらも2つの食器を使用して目の前に置かれた皿の上にある料理に手を付ける。

 

「なっ!? 貴様は……、一体どういう心境の変化だ愚妹よ!!」

 

「…………」

 

 こちらを無視して食事を始めた妹であるティアの首筋に剣を当てて今回の奇行の説明を求めるも、愚妹は黙々と食事を続けてこちらを見ようともしない。

 

「ぐっ、最後の弁明の機会なのだぞ!! いい加減、こちらを向いて話をせんか!」

 

「ほう、この魚も中々に良い味だ」

 

「っ! どこまで私を愚弄する気だぁ!!」

 

 剣を鞘に戻したスペンは一向にこちらを見ない妹に対して拳を振り上げた。そう、振り上げてしまったのだ。あの化け物に対して──―

 

「はぁ……、激情に駆られて手を上げるか」

 

 これまで一切の反応見せなかった無惨が自身に迫る拳を受け止める。

 このまま一気に掴んだ拳を握り潰してやろうかと力を籠めるも、肉体はそれを拒むかのように、精々骨を砕く程度の握力しか発揮しない。

 

「ぐがぁぁぁぁぁ!!」

 

 とはいえ、常人にとって骨を砕かれる痛みは想像を絶する苦痛である。

 既にスペンは涙目で叫び声しか上げられず、膝をついてその手を振りほどこうと躍起になっている。

 

「ふん、醜いな……」

 

 近くで叫ばれ続けられるのも不快に感じた無惨はその手を放してやり、せめて叫ぶなら遠くでやれといわんばかりに床に転がったスペンを壁際まで蹴り飛ばした。

 

 それを見ていたメイドたちは絶句した。スペンはこの家の長男である。忌み子であるティアが手を出して良い相手ではない。

 それをこうまで痛めつけたのだ。お家追放どころか、下手をすれば一生を牢獄に繋がれる。または、即刻処刑もあり得る暴挙だ。

 

 いや、下手をすればこの場をただ傍観していただけの自分たちにも飛び火が掛かるのではないか? 

 その考えに辿り着いたメイドたちは即座にスペンに駆け寄って治療を施して少しでも印象を良くしようと躍起になる。

 

 カチャリと食器を置く音が部屋に響いた。

 

 無惨が座っている場所を見れば置かれた料理の大半が喰らいつくされており、満足そうに口元を手元のナプキンで拭う無惨の姿があった。

 

「久方振りの人間の食事も悪いものではなかったな」

 

 そのまま席を立って食堂から出て行こうとしたとき、後ろから殺気が向けられた。

 

「──―っ!」

 

 先程まで座っていた椅子を振り向きざまに後ろに投げ飛ばすと、そこには怒りの形相をした剣で斬りかかる父親の姿があった。

 父の剣は飛んできた椅子を両断すると床に大きな傷を残すだけ結果にとどまった。

 

「貴様、一体何者だ?」

 

「──―図が高い、頭を垂れてつくばえ、平伏せよ」

 

 父親の高圧的なその態度に、無惨は同じく高圧的な態度で返す。

 

 目の前に立つこの男、今の私の父親であるラグン・ラールング・ヒストリア。

 王国最強の剣士の称号をかつては保有しており、歳をとったことにより剣を置くことになったが、今でも暇があれば庭先で剣を振るう姿が目撃されていた。

 

「ち、父上! お気を付けください。そいつはトンデモない力を持っております」

 

 メイドたちの治療を受けて多少痛みがマシになったのか、スペンは壁にもたれ掛かった態勢のまま父親へ忠告を送る。

 

「…………」

 

 そんな息子の忠告を耳にしながら、その眼は目の前に立つ無惨ことティアに集中していた。

 以前から奇妙な報告をメイドから受けていた。曰く、夜な夜な神の声を聞いて泣いていたという報告を。

 

 最初はこの辛い家庭環境についに心が壊れて幻聴でも聴こえるようになったのかと話半分に聞いていたが、目の前のコイツは神なんて神聖なものではない。悪魔か化け物の類の魔性の存在だ。

 

「こうなる前に、……いや、産まれた時に母親と共に殺しておくべきだったか」

 

「随分と心の無い言葉を吐くのだな。とはいえ、そんなものは今更の話か……」

 

 父親が娘に投げかけるような言葉ではないのだが、そんなことで無惨が動揺するはずもなく、記憶を探った時の過去の父親の態度から今更かと吐き捨てる。

 だが、精神は平気そうでも肉体は別だった。見れば無意識に手と足は震えており、抑え込もうとしても一切の制御が効かなかった。

 

「っち、忌々しいことだ」

 

「悪いが隙を突かせてもらうぞ」

 

 震えて動こうとしない無惨に向けて全力の剣を振るう。縦に横に斜めに、縦横無尽に振るわれる剣にはスペンと違って殺人への一切の忌避や遠慮が無かった。

 伊達に王国最強の剣士の称号を保有していた訳ではないということか。

 

 とはいえ、所詮はたかが人間の剣だ。

 鬼狩りの侍たちのように呼吸法を使用して身体能力を上げて戦っている訳ではなく、単純な剣技のみで挑んできている。

 

 その程度の実力であるのならば、例え体が上手く動かなくとも大した問題にはならない。

 

 鬼の身体能力であればこの程度の剣を避けるなというほうが難しいレベルだ。

 しかし、体は震えたままいっこうに攻撃に移ることが出来ない。

 

 どこまで愚かな女なのだティア・ラールング・ヒストリアよ。兄には愚妹と称され、父親には殺しておけばと口にされてなおもこの私の足を引っ張るか。

 クソッ、あの自称神め! このような無知蒙昧で愚鈍な女の体に憑依させよって、いずれ貴様を殺して私がお前を虫けらにでも転生させてやる。

 

 ティア・ラールング・ヒストリアと自称神にイラつきながらも父親であるラグンの剣を避け続ける。

 

 既に食堂は悲惨な有り様で、壁や床の至る所に斬撃の傷痕が刻み込まれている。

 

 一方的に攻撃され続ける無惨はついに我慢の限界を迎えて、今も震える肉体に叱咤の声を上げる。

 

「おい! いい加減にしろ、無駄に私を苛立たせおって。何故(なにゆえ)に貴様は私に体を譲り渡した? 毎夜ベッドの上で願っていたのだろ、この現状から抜け出せるようにと、今の惨めな環境から脱却したいと。夢見ていたのか? 自分も普通の家族の一員になって幸せに暮らせると? 差別されることなく皆と一緒に笑い合える等と馬鹿な妄想からいい加減に覚めろ」

 

「貴様、一体何を?」

 

「貴様は黙っておけ! いいか、既に貴様は産まれた時点で呪われている。それは誰にも覆せない。だが、そこから自由を手に入れられることは出来ると私が保障する! 例え肉親であろうと叩き殺せる非情さこそが自由を手に入れる為に必要な物だ!!!」

 

「──―っ戯言を!! 魑魅魍魎の類め、大人しく地獄へとその忌み子と共に帰るがいい!!!!」

 

 これまで繰り出して来た剣技のなかでひときわ鋭く速い一撃を繰り出して来た。

 本当に自分の娘を一切の躊躇いなく殺すつもりなのだ。それをようやく理解した肉体(ティア)から震えが消えた。

 

「動く……!」

 

そして、刹那の速さで無惨はラグンへと抜き身の一撃を放つ。

 

「ぐふっ……!!?」

 

「まったく、手間を取らせよって!! だが、これで後戻りはできんぞティア・ラールング・ヒストリア!!!!」

 

 ラグンの放った最高の一撃を容易く躱した無惨は一撃の元にラグンの腹に風穴を開けて貫通させていた。

 もはやただの人間では助からない致命傷だろう。そのままゴミを捨てるように腕を振るって乱雑にラグンを放り捨てる。

 

 転生してから常に邪魔され続けられていた肉体をようやく味方につけて忌々しい目の前の人間を殺すことが出来た。

 

「くっくっく……」

 

 今の自分はきっと竈門禰豆子という太陽を克服した鬼の存在を知れた時と同じくらい喜びに震えているだろう。

 

「ぐっ……、貴様は……一体っ……何者なのだ?」

 

「ん? まだ生きていたのか。だが今の私は気分が良い。特別に教えてやろう。私は鬼の王『鬼舞辻無惨』やがてこの世界を支配する完璧な存在だ!」

 

 ニヒルな笑みで自身の正体を明かす。しかし、それを語った相手であるラグンは私の正体を聞いたと同時にその生涯を閉じていた。

 

「ふん、やはり人間は脆く儚い。腹に穴を開けられた程度で死んでしまう。そうは思わんかキサラよ!!!」

 

 後ろを振り向くと、扉の陰からコッソリとこちらを覗き見るあの無礼なメイドが立っていた。

 

「ひっ! あわわわぁぁ!!?」

 

「何処へ行くつもりだ?」

 

「あっ、私……死んだ……」

 

 いつの間にか回り込まれていた私は口から魂を出して真っ白になりました。

 

 ♦

 

 

 2人の戦いの行方がどうなったのかとスペン様に『貴様はあの愚妹の専属なのだから、このくらいはしてみせろ!』と命令された為に、渋々と戦場となっている食堂に来たのだが、そこで見たものは次元の違う戦いだった。

 斬撃の音と何かが壊れる音が頻繫に鳴り響き、残像すら目視するのが困難なスピードで動く両者に度肝を抜かれた私はその場でへたり込んでしまった。

 

 とはいえ、ティアお嬢様は何故か攻撃してはいないようで、どうやら一方的に旦那様が攻撃していることだけは2人の戦闘中の会話からなんとなくだが察することができた。

 

 このまま、あの化け物みたいになったお嬢様を旦那様が殺してくれれば先程の私の失態というか化け物お嬢様に働いた不敬な行動もチャラになるんじゃという思いで全力で心の中で応援させていただきました。

 

(旦那様頑張れぇ!! そんな化け物討ち取っちゃえ!!)

 

 だけど結果は旦那様の敗北で終わってしまい、今の私はあの化け物お嬢様に捕まっています。

 

「どうした? 何処かへ行くのだろ。この私を無視して……」

 

 お願いします神様! どうにかしてこの状況から救って下さい! 毎日お祈りとかお供え物を用意しますんで!! 

 って、そういやお嬢様も神様の声が聞こえるって言い始めておかしなことを言い始めてこうなったから、もしかして貴方が……

 

「か、神様ですか?」

 

「──―っ!! この私が神だとぉ!!?」

 

「ひぃぃぃ! すみませんすみません。なんかさっき完璧な存在だって言ってたんでもしかしたらと思って口走っちゃいました!!!」

 

 神様発言が気に食わなかったのか、分かりやすい位にブチ切れている。

 このままでは殺されると思った私は必死に言い訳と謝罪を行う。

 

「……そうだな。私は完璧な存在だ。日光を克服し、鬼の力を持った類まれなる、まさに神と呼ばれるに相応しき存在なのだ!!」

 

「へぇ?」

 

「貴様もそう思うだろ、キサラ?」

 

「お、思います思います!! ティアお嬢様こそが神様に相応しい存在です!!」

 

 突然の豹変具合に素っ頓狂な声を出してしまったが、即座に答えなければ()という現状を忘れていないキサラは即座に無惨にとっての正解の言葉を口にする。

 

「ふっふっふ、随分と必死だな。それほどまでに生きたいか?」

 

「……勿論です!」

 

 どう答えるのが正解か迷ったが、下手なおべっかは身を滅ぼしかねんと判断した結果。素直に生きたいと己の意思を口にした。

 

「素直な答えだ。そうだ! 人間は誰だって生きたいものだ。他者の為に行う自己犠牲になんの価値がある! どうだ産屋敷よ、確かに貴様が言った想いの強さは強くこの私すら1度は打ち負かした! だが、結局私は今もこうして生きている。他者を信じ託せば不滅? 否、そうして私は裏切られた!!! もう一度だ、今度こそ私は永遠を手にして笑ってみせるぞ!!!!」

 

「??????」

 

 あ~はっはっはっは!!! と狂ったように笑い出す無惨に、困惑して言葉も出ないキサラはどうしていいか分からず固まってしまっている。

 

「さて、もうここに用はない。噂はすぐに広がるだろう。人間の体になった今となっては擬態や隠密といったものは難しい。だが、私には力がある。あの人の皮を被った化け物のような奴さえ現れなければ私は無敵なのだ!!」

 

 脳裏に浮かぶはかつて単騎で己を殺しかけた日輪の男の姿。この世界にあの男のような存在がいないとも限らない。

 騒ぎになる前にさっさとこの屋敷から逃げた方がいいだろう。

 

「さて、キサラよ。本来ならば私に無礼を働いた存在を生かす理由はない。だが、貴様に2つの選択肢をやろう。今まで通り私の専属メイドとしてこれからも私に付き従うか、ここで見たことを誰にも口外出来ぬように物言わぬ骸となるか。2つに1つだ」

 

「い、今まで通り。いえ、それ以上にお嬢様に付き従います」

 

「そうだ、それでいい。私の役に立つ存在は生かして置いてやる。だが、私の役に立ず邪魔をする存在は死に値すると肝に銘じておけ

 

「は、はい……」

 

「それでは私は旅に出るための荷物の用意と、この屋敷に居る人間どもの片付けを行うとする。……ありえないとは思うが、もし私の目から離れた隙に逃げ出そうとすれば」

 

 食堂の扉の一部を凄まじい握力で握りつぶすと、こちらをジッと見て後は言わなくとも分かるよなと言いたげな視線を送って部屋から出ていった。

 

 その後、屋敷のあちこちから人の悲鳴が聞こえてきたが、ここでモタモタしてあの化け物の出発を遅らせて機嫌を損なえば明日は我が身だ。

 必死に耳を塞いで自分の衣服の着替えと金目の物になりそうな手頃な宝石なんかをくすねて荷物を入れる鞄に詰め込むと、後ろで見てたのか言わんばかりのタイミングで化け物お嬢様が現れた。

 

「準備は整ったか? ならば行くぞ。既に目撃者となる人間は全て殺した」

 

 見れば着ている服が先程と違って豪華な装いの物になっている。恐らくは殺した際の返り血がベッタリとくっついたから着替えたのだろう。

 

「ひぃっ!?」

 

「そう怯えるな。ただの返り血で汚れているだけだ」

 

 屋敷の入り口に近づくにつれて壁や床が真っ赤に染まっており、さっきまで聞こえていた生きている人の悲鳴もいつの間にか消えていた。

 恐らく出口に向かって逃げ出した使用人やこの屋敷の家族をこの真っ赤な滲みへと変えたのだろう。

 

 胃液が逆流しそうになるのはこらえて、キサラは無惨の後ろを黙って付いてくる。

 そうして、大量殺人が起こった屋敷の門を抜け、無惨とキサラによる女2人だけの旅が今始まった。

 

「さぁ、ここから私の第二の人生が始まるのだ。何処かで見ているか神とやらよ。私は自由に生きてみせるぞ」

 

 雲一つない快晴の空を眺めながら、聞いているかどうか分からない(恐らく聞いている)神とやらに啖呵を切ってみせる。

 




結構殴り書きで書いたものですが、続きが気になるっていうか、書きたいっていう人は是非とも書いて下さい。

あと、ああいう世界に無惨様を入れたらラブコメじゃなくシリアルキラーが発生します。

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