インフィニット・ストラトス ――デイ・アフター・トゥモロー   作:水戸 湊

6 / 9
「スオニム出身で予知能力で回避特化……どっかで聞いたことある話ダナ」


バトル中心回。だから前後が雑とかいう言い訳。



天空試合

 

 

 帰りのショートホームルームの後、山田先生に声をかけられた。

 

「どうでした、IS学園初日は?」

 

「さすがにレベルが高いですね……」

 

 織村先生の授業ほどではないにしろ、慣れない英語の授業は軽い頭痛を覚えた。俺の顔にそれが出ていたのか、山田先生は軽く眉を下げる。

 

「明日から通常授業だけど、これから大丈夫かな?」

 

「どうにかやっていきますよ」

 

 軽く肩を上げ下げすると、せっかく回復した疲労がまた少し沸いて出てきたようだ。もう一度鏡花にマッサージでもしてもらったほうがいいかもしれない。

 

「今日は半日ですし、ゆっくり休んでください。昨日は強行軍でしたし、慣れない日本では気づかれも多いでしょう?」

 

「――といいたいところだけど」

 

 山田先生の気遣いあふれる優しい声が、横から飛んできた声にさえぎられる。二人の視線が移動した先に、仁王立ちする八千代がいた。男らしく胸を張って腕組みすると、ただでさえきつそうな胸元が強調されて、少し目のやり場に困る。

 

「アイリ、午後は予定入ってないんだろ? 少し私に付き合ってくれない?」

 

「何の用だ?」

 

「そう身構えなくてもいいよ。ただちょっと……転入生の実力ってやつを見せてほしいだけさ。別に都合が悪いならかまわないけど」

 

 そんなことはないだろう、と目で言っている。俺は軽く右耳に手をやり、そこにチェーンピアスの感触を得て、頷いた。

 

「受けてたつよ。相手は?」

 

「私でいい? 一応、これでもクラス内じゃ最優秀で通ってるんだけど。場所は第二アリーナを確保してる。使用時間は1時間。ISも一応学園のやつも借りる用意はしてるけど」

 

「ISは自前のがある。専用機だけど、それでいいか?」

 

 俺が言うと、八千代は笑みを深めた。弄り甲斐のありそうなネズミを見つけたネコのような顔だ。

 

「全力を出してもらうためには、そうでないとね。だからこそ私が相手さ。――日本代表候補生、専用機もちの矢剣八千代がね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八千代さんは稼働時間およそ450時間、わが1組のエースなのです」

 

 純白のISに包まれた俺の横に、鏡花が立っている。カタパルトでISとの接続を確かめる俺に、鏡花が言った。

 

「一学期に行われた学年別対抗トーナメントでは2位、学年末試験でも同じく2位。入学試験では学園創設以来たった5人しかいない、教官撃破のスコアを持つ方です」

 

 何も見ずにそういったデータを諳んじることができるのは、それだけ八千代の成績が飛びぬけているということか。IS学園の操縦者がどの程度のものかはわからないが、昨日の山田先生と同レベルの教官を倒したというのなら、油断はできない。

 

「苦戦必至だな。まあ、がんばるさ」

 

「アイリさんならば、大丈夫です」

 

「気休めはいいよ」

 

 俺が吐いた言葉に、鏡花は小首を傾けて意味深に笑う。

 

「気休めなどではないのです。私は信じておりますから」

 

 嘘の含有率が工業用洗浄水中の埃ほどにもなさそうな顔で言われると、どうにかなりそうで不思議だ。少しだけ肩の力を抜くことができた。鏡花に感謝を表すべく小さく唇をあげると、何倍もの笑みが帰ってくる。

 

「いって来る。帰ったら軽くマッサージでも頼むかな」

 

「いつでも歓迎するのです。部屋ならば、ベッドの上ででも」

 

「――考えておく」

 

 あながち悪くない、などと思うが、その瞬間にカウントダウンが開始される。射出の勢いに巻き込まれないよう、鏡花が二歩ほど引いた。俺は前を、暗いカタパルト内で唯一光あふれる外との通用口を見据える。

 矢剣八千代。事前情報では結構な難敵だ。だからといってどうできるわけじゃない。せいぜい、『アイリ』と『雪の女王』を信じることだけだ。

 カウントダウンの終了と同時、後方に押し付ける力を振り切り、『雪の女王』は戦場に飛び立った。対面、反対側のカタパルトから、ISを纏う八千代が現れる。PICによる管制制御で、二機は地面から数メートルのところに浮かび上がっている。下方、特殊シールドと強化ガラスに阻まれた観覧席に、何人かの生徒がいる。見覚えのある、1組の生徒たちだ。

 転入早々、ここであまり無様を見せるわけにはいきそうにない。

 

「みんなが見てるからね。気ィ張っていくよ」

 

「負ける気はあまりなくてな。こっちも全力を出したいところだ」

 

「そうしてもらわなくっちゃ困るねぇ……」

 

 くっくと楽しそうに笑う八千代だが、その目は猛禽のような鋭さで俺の機体を見据えている。まだ、仕掛けてくる雰囲気はない。言葉の応酬の最中にも、向きあった二機はゆっくりとした動きで相手の動向を探っている。

 

「それがアイリの専用機? 綺麗な機体だね」

 

「どうも。そちらは……」

 

「『イザナギ』。オノゴロ社製試作型ISだよ。純国産で後発どころか実験機だから、知らないのは無理ないね」

 

 八千代が言い、俺の顔の脇に現れた表示枠にいくつかの画像と文字でデータが表示される。ISに個別に登録される識別コードを読み取り、登録された情報を表示しているのだ。

 八千代を包むのは甲冑のような大型装甲版の集まりだ。特に両手と両肩を稼動範囲をやや狭めてまで包み込む、いくつもの装甲を組み合わせた装甲板は、戦国時代の大鎧を髣髴させる。腰には左右と後方を覆う重量感のあるスカート状の装甲板。そこから伸びる長い足はふくらはぎから先だけにカウリングが施されている。表示枠上のデータでは、大鎧に埋まるように大型のブースターが背中に配置されているようだ。

 山田先生の『R・リヴァイヴ・デゼル』や『雪の女王』は装甲を最低限に抑え稼動域と取り回しやすさを重視した軽量機なのに対し、中にただずむだけで押さえつけるような威圧感をにじませる八千代の『イザナギ』は防御力重視の重量機だ。かといってデータ上の加速力などは引けを取らない――それどころか、スペックデータを信じるのなら瞬間的な加速力ならば俺と戦ったときの高速巡航形態の『デゼル』を凌駕している。

 機体の色はつや消しの黒。ところどころに金のラインが引かれているため、地味という印象はまったくなく、日本的な静かな美しさと存在感が伝統工芸品のような気品があふれ出ている。

 右手に握るのは継ぎ目のない滑らかな金属でできた大刀。緩やかな流線型を描く長い刃が、アリーナにはいる日差しを鈍く跳ね返す。それを肩に担ぎ、八千代が唇を上げる。

 

「代表候補生で専用機もちってことは、それなりに出来るんだろ? 期待してるよ」

 

「精精がんばらせてもらうさ」

 

 俺の言葉に笑みが深まる。『雪の女王』の探知針が頭の横で薄い緑色の光を発した。

 

 そして、初撃が来たのは次の瞬間だった。

 

 空気が爆発したとしか思えないほどの瞬間的な加速で、『イザナギ』がこちらに突っ込んできたのだ。俺の強化された知覚でさえ、その動きを感知し見切るのは不可能だった。気づいたときには『イザナギ』の振り下ろした大刀は空間を切り裂き、そこから生まれた風が俺の前髪を揺らしている。背面翼に仕込まれた姿勢制御用のバーニアを全開、後方への緊急回避がなければ、正面から大上段の一撃を受けていた。それは意識したものではなく、『雪の女王』の予知を受けた身体が反射的にとった行動だった。

 『アイリ』の経験値に感謝する暇もなく、二撃目がくる。大刀を振り下ろしたエネルギーを殺さず、そのまま刃を返しての切り上げだ。背をそらして避けるが、鼻の先スレスレのところを刃が掠めていく。ならば、とカウンター狙いでそのまま縦の一回転で蹴り上げた足は、肘打ちをするように降ろされた八千代の左腕の装甲に弾かれた。

 俺は弾かれた勢いのまま、バーニアによる後方への加速で距離をとる。そこでようやく息をつくことができた。

 

「奇襲を読むなんてやるじゃない。その後の建て直しも流石」

 

「とんだ示現流だな――危なかった」

 

「アンタ、ホントに外国人?」

 

 第一手の失敗から、八千代はこちらの動きを探っているのか、軽口を叩いて仕掛けてこない。その間にも、『雪の女王』は戦場のありとあらゆるデータを分析・解析している。

 八千代の初撃は加速力任せの正面からの切込みだった。彼我の距離を一瞬でつめた加速力は驚嘆に値するもので、そのなかで正確に大刀を振り、二撃目までつなげた八千代の制御力も相応だ。

 取り回しの悪い大刀相手ならいっそ懐に飛び込むという手もあるが、それよりも距離をとった射撃戦で制圧すべきと判断。ゆえに、俺は『イザナギ』に対して背中を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げる気かい!?」

 

 八千代はそう言いつつ、当然とも思う。

 『イザナギ』は見るからにして近距離格闘戦機体。『雪の女王』はデータと獲物を見る限り遠距離狙撃戦を得意とする機体だ。レンジは圧倒的に向こうが上。距離をとるのはまともな操縦者なら当然の判断だ。

 だから、というように八千代も加速した。大気を割って突き進む先、風に混じって火薬の弾ける音を聞く。軽快な発砲音の連続は、アイリの乱射する短機銃のものだ。正面からの射撃を、八千代はろくによける素振りさえしなかった。肩をすぼめるようにした飛行姿勢はその身のほとんどが装甲に隠れるようになり、生半可な射撃など決定打にはなりえないからだ。銃弾と『イザナギ』の移動ベクトルは向かい合う形になるため多少威力は増しているが、短時間の射撃戦ならば問題ない。

 天を目指して上昇する、『イザナギ』の背面ブースターが淡いきらめきを放つ。

 次の瞬間、八千代はトップスピードまで加速した。

 本来ISには戦闘機のような大掛かりな飛行装置は必要がない。そんな無粋なものがなくともPICによる慣性制御で宙に浮くことができるからだ。あるのはせいぜい姿勢制御用に各部に仕組まれた小規模のバーニアくらいだ。加速用のスラスターを積んでいるとしても、軽量化のためにその規模は限られている。

 大刀『アメノオハバリ』を構え、一本の矢となり天空にあがる八千代。その視線は、先行して飛翔したアイリの『雪の女王』を捕らえている。

 『イザナギ』には、通常のISには不必要といえるような、高出力のブースターが積まれている。それは、ただ直線の加速のみに特化した、一撃離脱戦法のために搭載された『イザナギ』最大の武器だった。

 

「はあぁぁあぁ!」

 

 吐き出した怒号に追いつくほどの勢いを持って、八千代はアイリを背後から切りつける。慣性制御を持ってすら耳の痛くなるような超加速のなか、『アメノオハバリ』の刀身がきらめき、振られ、半円の軌跡を描く――しかし、その軌跡が銀に似た白の機体を捕らえはしなかった。一瞬よりもさらに短い時間を持って、二機のISが交差する。

 

「かわされて――背後を取られた!?」 

 

 こちらの加速に対し、アイリの取った行動は減速。八千代の目測をそらしつつ、音速に近い斬撃を潜り抜け、『イザナギ』の下を抜けるようにして位置関係を逆転したのだ。それだけではない。落下という形で高度を落としたアイリは、その胸に狙撃銃を抱き――否、半身で抱え込むように射撃体勢をとっている。PICによる慣性制御をかなり減らしているのか、落下に近い速度で髪を揺らして高度を落としながら、その瞳が狙撃銃の照準と重なる。

 

「ひねりこみとは、味な真似……っ」

 

 八千代は奥歯をかむ。こちらの攻撃に対し、最低限の動きで最大限の回避を行い、さらに反撃にまでつなげられたのだ。優雅とすらいえる計算された行動だが、驚嘆している暇はない。『イザナギ』の加速はとまっていないが、音速を超える速度の弾丸に対し、直線の軌道でその追撃から逃れることはできない。かといって加速をとめればいい的だ。

 ならばせめて、と機体と身体をきしませながら、八千代は上半身をひねる。背負い込んだブースターの向きが変わり、『イザナギ』の加速のベクトルが変わった。

 同時、『雪の女王』から一発目の弾丸が放たれた。

 無理やりな軌道変更にISの慣性制御が追いつかず、全身を押しつぶすような圧力がかかり、視界が一瞬赤く染まりすらした。錐もみ状態で暴れる機体の中心、八千代の目だけは弾丸を直視していた。

 衝撃がくる。無茶な機動にいくつものアラームが転倒する中、ひときわ際立って発光するのは『被弾』の二文字。だが、致命傷ではない。回転する視界の中で、八千代は弾丸が肩部装甲に命中したことを確認した。直撃によるシールドエネルギーの減少は逃れられないが、もっとも装甲の厚い箇所ならば、ダメージは最低限ですみ、機体の制御にも影響はない。

 再度の射撃がくる。こちらの体制が立ち直りきっていないところを狙った、冷静な攻撃だ。

 ひどい頭痛を覚え、視界が揺れる、そんな状態だが、八千代は大刀を横に構える。火花が散り、虚空に消える。はじかれた弾丸は八千代の頬の横をすり抜ける。だが、ほっと息をつく暇はない。

 

「くうっ……!」

 

 『被弾』のアラーム。二発目に続いて、それもその影に隠れるような形で追従して放たれていた三発目が、構えた刃を避けて胸元に突き刺さる。

 ISの『絶対防御』が淡い光を放ち致命傷を防ぐが、横目で見たシールドエネルギーは弾丸の威力を如実に現していた。次のクリーン・ヒットは耐え切ることができないだろう。

 

「あっは、楽しくなってきたじゃない」

 

 八千代の両目が獰猛に輝き、大刀を握る手に力がこもる。

 

「――『タケミカヅチ』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空間に膨大な熱量が出現するのを感じた時、すでに身体は動き出していた。射撃姿勢をとき、各部の加速飛行用のスラスターはおろか、六枚の背面翼にある姿勢制御用のバーニアまでを全開にし、後方加速(バックブースト)を展開。

 背中を軋ませる急な移動の圧力の中で、雷の落ちる音に似た轟音がオーロラ色の巨大な光の柱とともに眼前を駆け抜けていくのを見て、背筋が凍った。

 『雪の女王』の計算では、瞬間的な熱量は通常のエネルギー兵器の十倍以上。アリーナに土ぼこりを纏う烈風を引き起こした巨大な着弾痕が、その威力をわかりやすく説明してくれている。

 頭上では、大刀を右に握った八千代が、左手に大型の長銃を構えていた。直前に聞こえた八千代の声が、量子隔離された武器をコールするものだとしたら、雷神の一撃の発生源はあれに相違ない。

 

「どういう威力だ、あれは」

 

 独り言に返答を投げるように、長銃に光が集約していく。反撃すべきか、避けるべきか。俺が選んだのは後者だ。相手のチャージ時間や射程距離を見極め、範囲外からの狙撃での撃破を狙うべき――『知識』と『経験』がそう告げている。

 地面に近い低空では、着弾時の爆風に巻き込まれかねない。高度を上げ、『イザナギ』から距離をとる。

 鼓膜を吹き飛ばすような轟音が足元を駆け抜けていく。八千代の第二射だ。攻撃自体はかわしているというのに、それの引き起こした余波だけで翼が空に押し上げられる。直撃ならば即座に戦闘不能、掠めただけでも大きくシールドエネルギーを持っていかれるのは目に見えている。貫通力と一点突破の攻撃力の狙撃銃に対し、相手の射撃はエネルギーの塊による面制圧じみた大振りな効果範囲の広さが売りのようだ。

 だが、ISという小型の高速戦闘兵器相手では、そのデカブツは長大に過ぎる。発射までのラグと反動の大きさを鑑みれば、かわす事は出来る。

 

「やるじゃない。初見で避けられたのは久しぶりだよ」

 

「当たったらただじゃ済まなさそうだからな……これだけ離れてりゃ、大振りな攻撃は当たらないさ」

 

「へぇ? 言うじゃない」

 

 なら、と八千代は大刀を量子空間へと分解し、長銃を両手で構える。ロックオンのアラーム。今まではあえて手動での射撃修正を行っていたようだ。俺は息を飲んだ。八千代は、次で決めるつもりだ。銃口に光が集約していく。その輝きは、エネルギー量は、今までのものよりもさらに大きい。

 『雪の女王』からの警告。想定される攻撃範囲を理解した瞬間、俺は自分にできることが一つしかないと悟る。ゆえに、行動に出た。

 通常は射撃補助のみに留めている火器管制システムを全開。『雪の女王』からの情報を相手の射撃体勢の観測のみに集約し処理効率を最大化。左目に望遠表示枠を設置。

 注視するのは、相手の長銃の銃口から銃身にかけてだ。

 警告を鳴らす表示枠がわずらわしい。射撃に必要な情報以外をすべて遮断。

 そうして全能力を射撃に費やした俺は、引き金を引く。

 空に巨大な光の柱が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談きついね、まったく!」

 

 八千代は歯を見せた獰猛な笑みで、身体を隠すように右手で大刀を呼び出し、斜めに構える。背筋を凍らせて額に冷や汗を浮かべつつ、その状況すらも楽しんでいた。

 左手は掲げた形で、処理速度を割かれつつも大口径プラズマ荷電粒子砲『タケミカヅチ』を指の先で隔離空間に転送する。内部エネルギーを使い切ったそれは最早ただの鉄の塊だからだ。

 最大出力で放たれた『タケミカヅチ』の一撃は、ロックオンをして発射直前まで精密な追尾を行えば、多少距離をとっていようと避けえない必殺の一射だった。それをアイリは、『さける』のではなく『そらす』という方法で対処した。銃身への正確な連続射撃で銃口の向きを変えたのだ。八千代の――ISの腕力も銃弾の威力に押され、銃を持った左腕は望まぬ方向へと上げさせられた。

 言葉で言えば一言ですむが、二秒とかからないフルチャージまでの間に、その判断を下し遂行できる操縦者など、八千代だって実際に目の前で実践されなければ一笑に付したに違いない。

 甲高い金属音の重なりとともに重層セラミックの刀身がゆれる。胸元と左のわき腹、へそに重なる部分への狙撃銃の連射だ。

 射撃による妨害は、ただ致命的な一撃を避けるだけではない。両手で『タケミカヅチ』を構えることにより、八千代の身はほとんどが装甲に隠れることになり、相手からの攻撃を寄せ付けない。銃口をそらしたのは、防御姿勢を崩すためでもある。

 だが、それは狙いすぎだ。八千代もさるもの、アイリの意図を一瞬で見抜き、予想される射撃コースを防ぐように刀身を盾にしたのだ。

 

「くぅっ……」

 

 幅の厚めの大刀といえど、八千代の身を覆うにはまったく足りない。直撃は一発、左脇。シールド・エネルギーに余裕はない。もとより遠距離戦で勝る相手に長期戦は不可能。ならば、次の一撃にすべてをかけるしかない。

 PICによる機動力では、重量機の『イザナギ』に勝ち目はない。加速力と取り回しに劣っていては、空中での射撃戦を制することなど出来ない。接近戦を挑む鍵はやはり超加速による一撃だが、見切られれば単調な攻撃、それもすでに二度も仕掛けた戦術をアイリほどの手練に決めなくてはならない。

 アイリは射撃体勢を解いてはいない。更なる必殺の一射が左足のカウリングを叩き、後がないことを知らせてくる。

 

「こ、のおおぉぉぉ!」

 

 防御姿勢からの移行すら完全に終わらぬまま、不安定な姿勢での突貫を、八千代は強行した。それで目標に対して直線を描き接近できたのは奇跡的だった。アイリの『雪の女王』が近づいてくる。

 しかし、それまでだった。

 無謀ともいえる、それゆえに迫力と圧力の塊のような攻撃を、アイリは完全に見切っていた。的確に装甲の薄い箇所を弾丸がえぐり、『雪の女王』へとたどり着く前にシールド・エネルギーを使い切らせたのだ。

 競技用エネルギーを切らせた『イザナギ』が、力を失って地面に落ちていく。八千代は各部のスラスターで姿勢制御を図り、しりもちをつくようにアリーナへと墜落する。

 落下痕の中心にISが倒れこんだ。

 八千代は大きくため息をついた。無念と満足、その半々の意をこめて。

 

「大丈夫か?」

 

 感傷に浸っていると、眼前に傷一つない白銀のISが降り立った。心配そうに眉を下げて腕を伸ばすアイリに、楽しそうに笑って返す。

 

「いやはや、無様をみせたね。まさか一発も当てられずに敗北とは」

 

「当たったら即死級の攻撃だったからな。こっちも必死だった」

 

 人形じみた感情の薄めな顔とぶっきらぼうの言葉遣いからはわからないが、アイリの息は軽く上がっていて、頬が赤く上気している。

 

「『イザナギ』は新興のオノゴロ社が実験機として開発した機体なんだ。武装も設計思想も新機軸を目指して開発した試作品なのさ。私は派手でいい機体だと思うけど――ちょいと疲れるのが玉に瑕だね」

 

 本心から出た言葉に、アイリの唇が薄くあがる。お互いが同時にISを待機状態に戻し、アリーナに降り立った。そして、手を伸ばすのも同時だ。

 

「完敗だよ。お手並み拝見っつーより胸を借りる形だったね」

 

「相性の差もあったけどな。近接格闘型と遠距離狙撃型が戦えば、後者が勝つのがセオリーだ」

 

「そういうのをひっくり返したいから、あんな愉快なブースターまで背負い込んでるんだけど……腕の差にはかなわないね」

 

「……あまり、持ち上げないでくれ」

 

 顔を背けたアイリの表情はわからないが、八千代はそれを恥ずかしがっているのだと思った。自分の胸ほどの背丈しかないアイリのそんな行動に軽く母性をくすぐられつつ、ごまかすように腰に手をやり話題を変える。

 

「ま、アンタの実力は見せてもらったよ。今後の参考にさせてもらうね」

 

「参考?」

 

「そのうちわかるよ。1組のホープとしてがんばってほしいからね」

 

 頭上に疑問符を浮かべるアイリを無視して、八千代は今日で一番楽しげに笑った。

 

 

 




おおよその操縦技術としては、射撃センスと状況判断ではアイリ、制御技術と近接戦闘では八千代といったところ。
『イザナギ』は常時オーバーブーストなACじみた機体なので、色々な意味でマトモな操縦者には使いこなせないとかいう話。一般生徒とかが乗ったらアリーナの端から端を越えて壁を突き抜けかねないトンデモ出力を制御しきっているだけで八千代は異常。
OBととっつきあればいい、なんて人はコジマ汚染されてます。

とりあえず主人公避けすぎだと思わなくもないけれど、当たったら死にます(ENつきます)し、多少はね?

あと、戦闘シーンがわかりにくいのは仕様です。視点がころころ変わって読みにくい、という指摘があったら考えます(直すとは言ってない)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。