◇◇◇
歌っている姿を誰かに見られる、というのは中々に恥ずかしい。
ましてや、地球や妹を想って泣いたりしていたのだ。泣き顔+歌である。恥ずかしいなんてものじゃない。
恥ずかしさを有耶無耶にするべく、オレはサボテンステーキを筆頭に、腕によりをかけたサボテン御前をふるまった――のだが、少女は顔を青くしてブルブルと震えるばかりで一向に食べようとはしない。
何故だろう。もしかして嫌いな食べ物だったか――そこまで考えて、ようやくサボテンに毒があったことを思い出す。
状況を整理すると、こうなる。夜の砂漠で独りで泣きながら歌っていた人外の美貌を有する女が、毒まみれの食事を差し出してくる。うん、めっちゃホラーだ。
慌てて毒抜きを済ませていることを伝え、安全性を示すように食べてみせる。そうすると少女は意を決したように一口、サボテンステーキを口に運んだ。
そこからは早かった。少女はガツガツと一心不乱に食べ進め――そうして、急にワンワンと声を出して泣いて、泣いて、泣き叫んで。最後に、糸が切れたようにして眠った。
それが栗毛の少女、ピエラとの出会いだった。
◇◇◇
こんな砂漠に、やせ細った幼い少女が独り。
何らかの事情があることは間違いなかったが、尋ねても少女は何も語らない。
それどころか、食事のお礼を拙い言葉で述べると、そのまま去って行こうとさえした。
それを引き留めて、行く当てがないのなら一緒に旅をしないかと――そんなことを口走ってしまったのは、何故だったのだろうか。
どれだけ記憶を漁っても、メモを見返しても、「ピエラ」という名前は引っかからない。つまり、実装されるキャラクターではないということ。現状は原作すら開始していない時系列であることを踏まえると、どれだけ恩を売ろうが会話を重ねようが人気投票の票集めには繋がらない。彼女を連れて歩くことにメリットは無いのだ。
一方、デメリットはいくらでもある。歩幅が小さいし、直ぐにスタミナ切れするから遅い。何の力も持たない少女は魔獣との戦闘時には足手纏いになる。食事も水も2人分用意せねばならない。
それでも見捨てられなかったのは、きっと。
心を押し殺して去っていこうとする少女の姿が、あの日の妹の姿に重なってしまったからなのかもしれない。合唱祭の冊子を握りしめていた宙音の姿に。
だから。
だからこそオレは――。
――「俺」らしくもない行動だな。あんな娘、捨て置けばいいものを。
「……心優しい精霊様のロールプレイですよ。人気投票で1位になるための」
――ほう? この誰の目も無い砂漠で?
「……………………」
――貴様にそんな余裕があるのか。
「決まっています。妹を救うためです」
――あの少女が妹か? この砂漠で為すべきことが有ったのではないのか?
「……………………」
――手段を選ばず進まねば、決して掴めぬ奇跡に縋ったのだろう。ならば、貴様に道草を食う余裕など無いはずだが?
――と。憎まれ役を買って出て、砂漠の過酷さに弱った「人間」の心を支えようとする。お星さまの不器用な優しさでした。まる。
――殺すぞ、精霊。
――ひえぇえええ。
「……ふふ。そうですね。そもそもオレは独りじゃなかった。分かりました、次に集落や街を見つけたら、そこで彼女とは別れます」
――それで良い。いつまでも面倒を見るわけにもいかぬ。生物は自分の力で生きていかねばならんのだ。
――ま、然るべき人や施設とかに預けられればベストですよね!
そんなことを話していれば、眠る必要のない夜は更けていった。
スースーと眠る少女は、時折なにかに魘されている。毎晩のことだ。何か過去のことを思い出しているのかもしれない。
……その事情をオレは詳しく知らないし、それを背負ってあげられるような余裕もない。
けれど。
けれど、せめて、これくらいは。
「――♪」
歌うのは子守歌。妹が幼い頃によく歌った歌。
「―――♪ ――――♪」
せめて別れの時までは。彼女に安らかな眠りあれと、そう願って。
もっとも、見渡す限り砂とサボテンしかない砂漠だ。次の街がいつ見つかるか見当もつかないけれど――
◇◇◇
――なんて考えていたのだけれど。
その2日後、街とは言えないまでも、そこそこの大きさの集落を見つけた。
小さいオアシスを囲うようにして成立している。水があるのだから、きっと食料もあることだろう。ここで信頼のできる人を探してみよう。ピエラを任せられる誰かを。
そうして、気ままな1人(精神は3人)旅を続けるのだ。
◇◇◇
――なんて考えていたのだけれど(2度目)。
「うぅ……薬を……」
「あぁ……あぁ……カクタケアルは……」
「売ってくれ……売ってくれ……」
まさか、薬物中毒者で溢れているなんて思わないじゃん??