最低3回は死にかけた。
え?オレ生きてる?生きてるよね?
オレ個人が死にかけること3回、パーティが全滅しかけること2回。
魔獣の尻尾の薙ぎ払いで叩き飛ばされたときは本当に終わったと思った。
夫婦剣『葬送』『回帰』が頑丈だから、それで防いで衝撃を受け流したけど、そのまま数百メートルも吹っ飛ばされるとはね。流石に死んだと思ったよ。
生きてるのは運が良かっただけ。地面に激突する寸前、飛行魔術のタイミングを合わせることに成功して衝撃を和らげることが出来た。
運が良かったなんてレベルではない。何かの奇跡としか思えないくらいだ。
…そういや、衝突の直前にリズ先輩から貰った懐中時計が光った気がしたけど、気のせいかな?もしかして友達のオレを護ってくれたのかも…なんてね。
本当によく勝てたものだ。
パドロン君が突撃して注意を惹きつけている間に、少年漫画の如くキズナ君が土壇場で覚醒して雷魔術を発動。これによって、魔獣の体内にある機械が誤作動を起こす。
その隙に遊牧民の皆様の怒涛の総攻撃があって、魔獣は地面に倒れる。
そこにルネが漆黒の奔流を放ち、巨大な翼の根本を消滅させることに成功。防御にも使っていた翼がもがれ、しかも空に逃げることも出来なくなった。そして、尻尾による魔獣の最後の悪足掻きをオレが双剣で防ぎきる。
最後に、完全無防備となった魔獣の心臓部…ピスカの父が致命傷を与えた場所にピスカが弓矢を見事命中させて完全勝利となった。
そして、遊牧民たちはキズナ一行を英雄として認め、城塞都市との和平会談に応じることに。新首長となったピスカの祖父と、城塞都市領主であるパドロン君の父が安心して任せてくれと言っていたので、後のことは大丈夫だろう。
最悪、謎の展開で拗れてしまって戦争になってしまっても、オレの知った事ではない。勝手にやってろって感じだ。オレは帰るだけだ。
現在、一行は次なる目的地、「機械都市ミカニア」…そして隣り合うエルフの大森林「ンル・ヲ・リエス」へと向かっている。
本来はパドロン君が提案する行き先だったが、メモ知識を使ったオレが彼の出番を奪った。許せ、パドロン君。今日の昼食は大盛にしてあげるから。
おっと、そろそろ昼食の支度をせねばならない。ピスカはこれが初めてのオレの料理になる。気合を入れよう。
遊牧民たちの所で出された料理を見る限り猫人が猫舌ということは無いっぽい。そして、テトマの中にある冷蔵庫もどきには遊牧民の方々から頂いた極上のミルクが。そして、魔獣の肉もあるし、城塞都市で購入した大量の野菜もある。
であれば…よし。今日のメニューはグラタンだ!
「テトマ。窯の準備をお願いします。火力の調整は可能ですか?」
『無問題。当機は移動拠点として設計された。故に、調理設備に関する知識も一通り有している』
「素晴らしいですね。なら、窯の準備が終わったらオレが指示するように火力を調整してください」
『了解。………報告。前方に人が倒れている。2名が倒れており、1名は直立。対応は如何するか』
「…とりあえず、みんなに確認しましょう。…もっともキズナ君が見捨てる選択肢を取るとは思えませんが」
さて、どうやらパーティメンバーが揃う時が来たらしい。
グラタンの量を増やさなければならない。
◇◇◇
「いや~助かったっスよ!兄ちゃん追いかけて森飛び出したのは良かったっスけど、行き先も分からなかったっス!食料も持たずに飛び出したんで、途中で行き倒れちゃって!ホント参ったっス!あ、ティエラさん?おかわり貰えるっスか?」
このハイテンションでアホの子っぽいのは「パハル・ワヌ・ワウドゥ」*1。レアリティはSRだったかな?エルフの女戦士で金髪に白肌の美少女。年齢は36…だが、エルフは人間の約2倍の寿命があり、人間年齢だと18歳である。
盗まれたエルフの秘宝を探す使命の旅に出た兄、ヴァルトを追って森を飛び出したらしい。掟では一度森を出た者は二度と森へ踏み入ることは出来ないが、そんなの知った事かと飛び出したとのこと。
「まだまだありますからね、どんどん食べてください」
騒がしい少女だが、こういう妹キャラは嫌いじゃない。
兄属性が刺激されて甘やかしてしまいたくなる。
「まま、おかわり」
「ルネ、オレは貴女の母親ではありません。そして貴女はそろそろ食べ過ぎです。それ4杯目でしたよね?」
そして何故かオレのことを「ママ」などと呼び始めたワールドイーター…もといルネ。
まるで意味が分からない。オレはどう見ても頼れるお姉さんだっただろうに。
しかし、女教師っぽく導き手の演技もしたな。
これはあれか?小学生の時に担任の女教師を「お母さん」と呼んでしまう例の謎現象か?
ならば、やんわりと否定しておこう。そのうち収まるだろうしな。
そして恐らくだけど、食ってる傍から消滅させてるよね、この娘。必要最低限の栄養だけ吸収したら、後は全部消滅…修正しているのだろう。だから、程々の所で止めないといつまでも食べ続ける。
「申し訳ございません。こんなに美味しいご飯をご馳走して頂いて…感謝に堪えません」
それで、この青髪のエルフ…正確にはハーフエルフの女の子は「リエス・テーベ・ラモワティエ」。リズ先輩のいたユピテリア帝国の貴族の娘。
適正は「術」。魔法での攻撃と敵へのデバフや味方へのバフを得意とする。
お嬢様らしい丁寧な言葉と気品のある所作、凛とした立ち姿が特徴的だ。
「誠にかたじけないでござる。…っと名乗りが
アイエッ!?忍者!?忍者ナンデ!?
…っと冗談はさておき。忍者である。この茶髪のござる青年は正真正銘の忍者である。
もっとも、地球の日本由来の忍者ではない。どこかの世界で似たような存在が根付いており、それがカオスに取り込まれた結果だ。見た目は忍者そっくりでも、忍術ではなく魔術を使うし色々と異なっている。
名前は明らかに偽名っぽいが、これは本来の名前を剥奪された結果だ。「ナナシ・ゴンベエ」こそが今の彼の本名なのであり、それはずっと変わることは無い。
さて、特製グラタンで皆(ルネを除く)のお腹も膨れたことだし、詳しい話をするとしよう。
あ、ピスカは一口食べた瞬間、宇宙猫の顔になってた。勝ったな。
◇◇◇
落ち着いたところでリエスの話が始まる。
「実は、
そこで一度言葉を区切ると、幸せそうにお腹をさすりながら、うつらうつらと舟を漕いでいるパハルの方に目を向け。
「通りがかったパハルさんに助けて頂いたというわけです。ただ、魔獣から逃げている最中に食料の入った荷物を川に落としてしまっていて…2人して野垂れ死に掛けていた、というわけです。お恥ずかしい限りです…」
話を振られたパハルは、慌てたように目を擦りながら話に参加する。
「正直、森の外で生まれたエルフとか初めて聞いたっス。ウチじゃあ判断できかねる感じだったんで、難しいことは長老様たちに丸投げしちゃえば良いかな~って思ったっスよ。それで、とりあえず森に案内してた所っス。ま、ウチは森に入れないっスけどね!」
彼女曰く、兄を追って旅に出たものの手掛かりは無く。適当に旅を続けていると食料が尽きた。丁度その時、エルフの特徴的な長い耳を見かけて、その人物が魔獣に襲われていたので助けた、と。
そして、大森林を目指しているものの道行が分からないリエスの状況を聞いたパハルは、森への道案内を快諾。彼女は掟で入ることは出来ずとも、入口までは案内が出来る。
兄を探す旅は途中だが、手掛かりもないし、もしかしたら秘宝を見つけて一度戻っている可能性もある。第一、ここで見捨てるのは性分に合わない…ということだそうだ。
それで2人で森を目指すことになったが、途中で食料が尽きて倒れ伏す。
すると、そこにナナシが通り掛かる。すぐ近くに町や村は見当たらないし、抱えていくのも1人が限度。3人分の食料など持っている訳もなく、途方に暮れていた、とのことらしい。
「ちょうど僕たちも大森林の方を目指していたんだ。よかったら一緒に乗っていかない?その方が楽だと思うんだ」
当然、そんな話を聞いたキズナ君が放っておくはずもなく、3人もテトマに相乗りすることとなった。
むむむ。人数が増えたから料理を作るのが大変だぞ。困った。
新しい仲間が増え、一行は新たな冒険の旅路を急ぐ。
◇◆◇◆
「…この音、パハルか?何故アイツがここに?…後を付けるしかない、か」
物語は第2章へと進んでいく――
――その前に。楽しい夏…初めての夏イベが待っている。
この投稿は明日の分です。明日は投稿お休みします。感想待ってます!
話の流れが速くなっているのは仕様です。このままだと当小説のメイン「人気投票」にいつまでもたどり着けませんので。「手に汗握る熱いバトル展開」などは削って僅かにしていきます。ご理解いただけますと幸いです。